RISE!~男装少女の異世界成り上がり譚~

た~にゃん

文字の大きさ
上 下
203 / 205
建国~対列強~編

202 絶ちきり、慈しめ

しおりを挟む
キャンキャンと煩い老害貴族を黙らせ、容赦なく馬車――いつか私も乗せられた護送用の罠付き馬車。お貴族様のために、中身だけはせいぜい豪奢に作らせてもらった――に放り込んで。ノエルにも傀儡術が効かないゴリマッチョを付けたところで、私のところにルドラ王女がやってきた。
「サイラス殿、貴殿の望みはわかった。傀儡の王にでも何にでもなろう。だが一つ、叶えてはくれないか」
私の顔色を窺いつつ、彼女が視線を投げたのは、ペレアス貴族を押しこんだ護送馬車だ。
「我がルドラは、アイツらに蹂躙され、既に多くを失った。我が家族も――兄を殺されたのだ。このままでは私も、故国も納得はできぬ。どうか、この手で志を遂げさせてはくれないか」
兄、と明かしたとき、彼女のそれまで張りつめていた表情がぐにゃりと激情に歪んだ。彼女もまた、耐えがたい憎しみを胸に燻らせているのだ。かつての私と同じように。
せめて、仇をうたせてくれ。その願いは、痛いほどにわかるよ。
「貴殿は、既にペレアスの頂だと私は言ったよ」
彼女の潤んだ瞳を見上げて、私は言った。
「貴殿は国王だ。国王は臣民を愛し、慈しむものだよ。……断ち切るんだ」
「ッ」
ヒュッと息を呑む音が聞こえた。君なら、生粋の王族たる君なら、わかっているよね?トップになる意味を。

その瞬間から、仇敵は護るべき民になるのだと。

憎しみ、恨み……そりゃあたくさんあるだろう。忘れろとまでは言わないよ。ただね、武器を捨てるのは、勝者にしかできないことなんだ。因縁を断ち切るのも、また。
「そんなっ…!それでは納得できない!私も!我が民も!!」
赤毛を振り乱し、ルドラ王女は叫んだ。慟哭のような、声だった。
「私は…そんな、できた人間ではない」
弱々しく吐かれた呟き。うんうん、わかる…って言ってあげたいけど。でもね、私も貴女の暴挙を許したわけじゃないから。落とし前は、つけてもらうよ。
「ああ。国が安定するまで、我がモルゲン・ウィリスは全力で支援しよう」
棒読みになったのは許してね。エレインを荒らされた怒り――その感情だけは、どうしようもできないから。その代わり、有言実行はする。
「仇を…それだけでいい。貴殿は、アレらから権力を取りあげるのだろう?政の中枢から遠ざけるのだろう?なぜ…なぜダメなんだ!」
悲鳴のような叫びを叩きつけてきた女の胸ぐらを私は掴みあげた。
「甘ったれるな!!」
女の子を泣かせるな?それで非難できるのは、野郎だけだ。あいにく私の中身は『女』だからね。容赦しないさ。
「アンタが終わらせなくて誰が終わらせるんだ!!見たんだろう?戦で荒れる祖国を!家族を失ったんだろう?死んだ人間は!クソ貴族の首を飛ばしたって!戻ってこねぇんだ!!復讐に!意味なんかねぇんだよ!!」
興奮に朱に染まった頬を、一筋、二筋と透明な雫が伝う。
「アンタがやるべきことは!修復だ!!悲劇を繰り返さねぇことだ!!わかれ!!上に立ったらなぁ、イヤなヤツとでも付き合わなきゃ、折り合いつけなきゃ、平和なんて手に入らねぇんだよ!!私と違って!アンタは生粋の王族だろ!血税喰って!ここにいるんだろ!責任果たせぇ!!!」
力尽きて王女を放すと、彼女はガクリと膝をついて肩を震わせた。
「アッ…アアアアッ!!」
慟哭が、晴れ渡った春の空に消えていった。

◆◆◆

首脳陣を捉えられたペレアスは、ロクな抵抗もできないまま、サイラス率いる部隊を王宮に招き入れた。そして、その場で国王は降ろされ、新たに女王が即位した。新王朝の誕生である。その際、ペレアスはモルゲン・ウィリス王国と下記のような協定を結んだ。

一、新女王に、モルゲン・ウィリスでの国際会議の議席を与える

一、ペレアスは、防衛専用を条件に、モルゲン・ウィリスと年一万フロリンにて傭兵契約を結ぶ

一、ペレアスは、南部諸領をライオネル・フォン・ペレアスに割譲し、独立を認める

一、モルゲン・ウィリスは、ペレアスの女王の後見を引き受け、街道の整備及び治安向上の目的でのあらゆる支援をおこなう

旧政権の中枢にいた者達は皆その地位を降ろされ、多くの領地では領主が別の者に入れ替わった。その際、今までミドルネームにあった『フォン』は消え失せ、代わりに『ゾーン』に置き換えられた。女王の故郷、ルドラの慣習に従い、『女王は国の母、そして臣民はその子である』という意味をこめて。

「ルドラにそんな慣習あったのか?」
聞いたことないんだが、と首を傾げるアルに、ウィリスに戻った私は淡く笑んだ。
「大丈夫。ちゃんと『創って』おいたから」
いつの間にか、季節は夏へと移行していた。
新女王は今、領地を一つ一つ視察してまわっている。目的は『知る』こと。地道な融和策だけど、ぜひとも効果を出し、一刻も早く安定した治政を実現しなければならない。
王都から――女王の留守を預かるネイサンをはじめとしたかつての騎士学校の仲間たちからの報告の手紙の文字がぼやける。最近、眠気がすごいんだ…。
「サアラ…?」
「ん…」
風通しのよい部屋のカウチに並んで座るアルの肩に、寄りかかって目を閉じた。風がふわりとカーテンを膨らませて、ゆっくりと落ちてくる。
「少しだけ…」
相変わらず忙しいけど、ここ数日は穏やかな日々が続いている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

処理中です...