190 / 205
建国~対列強~編
189 サイラスVSアルフレッド【後編】
しおりを挟む
逆鱗を噛み千切って、駆け寄ってきたレダの手に吐き出した。観覧席へと駆けてゆく背を見送って、第一ミッション達成だと束の間安堵したアルフレッドの頬に、強烈な右フックがめり込んだ。
「ぐはっ?!」
驚愕に目を見開いたアルフレッドの目に、目に涙を浮かべたサアラの顔がちら見えて、すぐに視界いっぱいの地面に切り替わった。
グーパンで吹っ飛ばされた。サアラに。
ゆらりと立ち上がるサアラ。気のせいだろうか。さきほどまでより、殺気が増し増しになっているような…
逆鱗は竜の弱点であり、触れられると竜は激怒する。
地に転がったアルフレッドに、サアラが飛びかかり馬乗りになると、情け容赦など一切ない拳骨の雨を降らせてきた。涙目で。
「なっ?!グフッ!サアラ?!」
結界で防御しつつ、なんで涙なんか…、と口にしたら、泣きそうな顔のサアラの口許が震え……
……エッチ。
……え?
そんなことしてないぞ?!
なに?逆鱗囓り取ったから?どういう判定だよそれっ?!
非力な女の子にポカポカされる――とはわけが違う。一発一発が重い。何せ腕を結界で守っているのにも関わらず、肩まで衝撃でビリビリするのだ。このままフルボッコはマズい。下手したら痴漢(もしくは変態)の濡れ衣着せられたまま死ぬ。理不尽だ!
「くっ!」
片腕はさっきへし折られかけて力が入らない。足首掴んでひっくり返すのは厳しいな。振り抜かれた拳をまだ動く利き腕で掴み、勢いと己の腹筋を利用して…
ゴッ!
渾身の頭突きに、双方額を押さえて悶絶する。何とか馬乗りポジからは脱却した。しかし、立ち直ったのは二人ほぼ同時。殺気だって飛びかかってきたサアラと取っ組みあいの大格闘になる。
「うおおおっ!!」
苛ついたのか、叫び声を上げて襲いかかってくるサアラ。一撃一撃は強烈だが、冷静さを欠いている。攻撃を見切りやすく、片腕が使えず背にも傷のあるアルフレッドでも、何とか対応できる……のだが。
泣きながら殴りかかってくる恋人と戦うのは、どうしてもやりにくい。
と。
サアラが、ハッとしたように顔をあげた。視線の先には、皇帝のいる玉座――
隔離魔法が消えた!?
サアラが腰をあげる。
(すまない、サアラ…!)
よそ見をした彼女の身体を横に蹴り飛ばした。華奢な身体が吹き飛ぶ。すかさず、駆けた。
「《砂嵐》」
視界を砂で埋め、皇帝の手にしていた淡い鈍色に光る魔石を奪い取るや、剣の柄で叩き割った。
◆◆◆
「う…ん…」
脇腹に鈍い痛みがある。目を開けると、砂が吹き荒れていた。
あれ?私は…なんで…?
ややもすると、次々に記憶が蘇ってくる。奇妙な遺跡に誘い込まれて、皇帝に奴隷紋を入れられて。命令に従って、アルと戦って……
うん。アル、大好き♡超絶かっこいい。
……ほへ?
私はまだ混乱しているらしい。ふと見た己の胸に奴隷紋はない。跡形もなく消えていた。アル素敵♡……ん?なんか変。
「殺せ!」
耳が何者かの声を拾う。この声…皇帝?!次いで、少し離れたところで…
「キャーッ!」
オフィーリア!?彼女の悲鳴が不自然に途切れ…椅子が倒れる音に混じり、重さのあるモノが落ちた僅かな音を耳が拾う。
「…皇帝、」
記憶はより鮮明に。あの野郎…よくも!
奴隷紋の縛りは消えた。練兵場の一角、魔力が一気に膨張した。
◆◆◆
立ちこめる砂煙に視界を奪われた中、突如現れた膨大な魔力。
誰がどこにいるのか、つぶさにわかる。狙うのは、ただ一人――
「《風よ…》」
今頃視界を取り戻そうとしたって遅い!人任せが仇になったな!
「ガウウッ!!」
目に映ったのは、詠唱の途中で驚愕に目を開きかけた、皇帝。それを、
バクリ
巨大な竜が、大きな口で丸ごと呑み込んだ。
◆◆◆
「《風よ》!」
誰かの詠唱で、砂嵐が晴れる。時間にして、砂嵐が発生してから数十秒ほどだろうか。
「ひ…ひいぃ!?」
ああ、びっくりした?至近距離に竜を見たフルプレートメイルの兵士――皇帝の護衛兵が、奇声をあげて尻餅をついた。こないだティナに約一メートルの棒切れを当てて測ってもらったところ、竜化した私の体長は約十七メートル。恐竜サイズだ。人間なんか軽くひと飲みにできる。そこへ、突撃してくる気配が。
「オオアアアッ!!」
長剣がまっすぐ私の眼を狙う――ディルク、長年メドラウドに潜み皇帝に私たちの情報を流し続けた『裏切り者』。隔離魔法という絶対防御が消えて、オフィーリアを始末し、ワケの分かんないバケモノ(※私)を斃そうとする行動は理に適っている。眼を狙うのも悪くない。有効打になるだろうね。当たれば、だけど。
カン!と渇いた金属音が響く。当然、回避しましたとも。眼以外は硬い鱗に覆われた身体だ。剣なんか刺さらない。攻撃が通らず目を見開くディルク。その彼を、私は尻尾で容赦なくはじきとばした。骨が折れる感触がしたから……助からないだろう。
観覧席は大混乱だ。何せ、突如練兵場のど真ん中に十五メートル越えの巨大な竜が現れたのだから。そして、その竜がつい先ほど、屈強な騎士を尻尾で彼方へ吹っ飛ばしたところだ。皆、先を争うように逃げ出した。
「なぁ、」
そこへ。綺麗な短刀を手にしたまま、もう一人の『裏切り者』――フリッツが歩いてきた。
「ぐはっ?!」
驚愕に目を見開いたアルフレッドの目に、目に涙を浮かべたサアラの顔がちら見えて、すぐに視界いっぱいの地面に切り替わった。
グーパンで吹っ飛ばされた。サアラに。
ゆらりと立ち上がるサアラ。気のせいだろうか。さきほどまでより、殺気が増し増しになっているような…
逆鱗は竜の弱点であり、触れられると竜は激怒する。
地に転がったアルフレッドに、サアラが飛びかかり馬乗りになると、情け容赦など一切ない拳骨の雨を降らせてきた。涙目で。
「なっ?!グフッ!サアラ?!」
結界で防御しつつ、なんで涙なんか…、と口にしたら、泣きそうな顔のサアラの口許が震え……
……エッチ。
……え?
そんなことしてないぞ?!
なに?逆鱗囓り取ったから?どういう判定だよそれっ?!
非力な女の子にポカポカされる――とはわけが違う。一発一発が重い。何せ腕を結界で守っているのにも関わらず、肩まで衝撃でビリビリするのだ。このままフルボッコはマズい。下手したら痴漢(もしくは変態)の濡れ衣着せられたまま死ぬ。理不尽だ!
「くっ!」
片腕はさっきへし折られかけて力が入らない。足首掴んでひっくり返すのは厳しいな。振り抜かれた拳をまだ動く利き腕で掴み、勢いと己の腹筋を利用して…
ゴッ!
渾身の頭突きに、双方額を押さえて悶絶する。何とか馬乗りポジからは脱却した。しかし、立ち直ったのは二人ほぼ同時。殺気だって飛びかかってきたサアラと取っ組みあいの大格闘になる。
「うおおおっ!!」
苛ついたのか、叫び声を上げて襲いかかってくるサアラ。一撃一撃は強烈だが、冷静さを欠いている。攻撃を見切りやすく、片腕が使えず背にも傷のあるアルフレッドでも、何とか対応できる……のだが。
泣きながら殴りかかってくる恋人と戦うのは、どうしてもやりにくい。
と。
サアラが、ハッとしたように顔をあげた。視線の先には、皇帝のいる玉座――
隔離魔法が消えた!?
サアラが腰をあげる。
(すまない、サアラ…!)
よそ見をした彼女の身体を横に蹴り飛ばした。華奢な身体が吹き飛ぶ。すかさず、駆けた。
「《砂嵐》」
視界を砂で埋め、皇帝の手にしていた淡い鈍色に光る魔石を奪い取るや、剣の柄で叩き割った。
◆◆◆
「う…ん…」
脇腹に鈍い痛みがある。目を開けると、砂が吹き荒れていた。
あれ?私は…なんで…?
ややもすると、次々に記憶が蘇ってくる。奇妙な遺跡に誘い込まれて、皇帝に奴隷紋を入れられて。命令に従って、アルと戦って……
うん。アル、大好き♡超絶かっこいい。
……ほへ?
私はまだ混乱しているらしい。ふと見た己の胸に奴隷紋はない。跡形もなく消えていた。アル素敵♡……ん?なんか変。
「殺せ!」
耳が何者かの声を拾う。この声…皇帝?!次いで、少し離れたところで…
「キャーッ!」
オフィーリア!?彼女の悲鳴が不自然に途切れ…椅子が倒れる音に混じり、重さのあるモノが落ちた僅かな音を耳が拾う。
「…皇帝、」
記憶はより鮮明に。あの野郎…よくも!
奴隷紋の縛りは消えた。練兵場の一角、魔力が一気に膨張した。
◆◆◆
立ちこめる砂煙に視界を奪われた中、突如現れた膨大な魔力。
誰がどこにいるのか、つぶさにわかる。狙うのは、ただ一人――
「《風よ…》」
今頃視界を取り戻そうとしたって遅い!人任せが仇になったな!
「ガウウッ!!」
目に映ったのは、詠唱の途中で驚愕に目を開きかけた、皇帝。それを、
バクリ
巨大な竜が、大きな口で丸ごと呑み込んだ。
◆◆◆
「《風よ》!」
誰かの詠唱で、砂嵐が晴れる。時間にして、砂嵐が発生してから数十秒ほどだろうか。
「ひ…ひいぃ!?」
ああ、びっくりした?至近距離に竜を見たフルプレートメイルの兵士――皇帝の護衛兵が、奇声をあげて尻餅をついた。こないだティナに約一メートルの棒切れを当てて測ってもらったところ、竜化した私の体長は約十七メートル。恐竜サイズだ。人間なんか軽くひと飲みにできる。そこへ、突撃してくる気配が。
「オオアアアッ!!」
長剣がまっすぐ私の眼を狙う――ディルク、長年メドラウドに潜み皇帝に私たちの情報を流し続けた『裏切り者』。隔離魔法という絶対防御が消えて、オフィーリアを始末し、ワケの分かんないバケモノ(※私)を斃そうとする行動は理に適っている。眼を狙うのも悪くない。有効打になるだろうね。当たれば、だけど。
カン!と渇いた金属音が響く。当然、回避しましたとも。眼以外は硬い鱗に覆われた身体だ。剣なんか刺さらない。攻撃が通らず目を見開くディルク。その彼を、私は尻尾で容赦なくはじきとばした。骨が折れる感触がしたから……助からないだろう。
観覧席は大混乱だ。何せ、突如練兵場のど真ん中に十五メートル越えの巨大な竜が現れたのだから。そして、その竜がつい先ほど、屈強な騎士を尻尾で彼方へ吹っ飛ばしたところだ。皆、先を争うように逃げ出した。
「なぁ、」
そこへ。綺麗な短刀を手にしたまま、もう一人の『裏切り者』――フリッツが歩いてきた。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。


悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる