RISE!~男装少女の異世界成り上がり譚~

た~にゃん

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建国~対列強~編

173 そうだ、魔物にバイトさせよう

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ウハウハでウィリスに帰って来た頃には、すっかり冬になっていた。あちこち寄り道したからね。おかげで儲けさせてもらいました!
というわけで、残務処理もほどほどに、私は再び魔の森のダンジョンから魔王様に会いに行った。
ちなみに、再び訪れたダンジョン、魔物が増えていた。といっても、ゴブリンが二匹になっただけなんだけどね。
「おまえがリストラで絶望をばら撒いたことを、魔王様が実績と認めて下さったんだぞブー。這いつくばって感謝するんだぞブヒッ」
…だそうだ。

「来たか、邪竜の娘!まずは褒めてつかわす!大量リストラによる絶望を齎したそうだな!ダンジョンのランクを一つ上げてやったぞ。フハハハッ!」
魔王様はご機嫌だった。手許を見ると、果実水の瓶がある。食べ物に釣られたって、はっきり言えばいいのに…。
そんな内心はおくびにも出さないで、私はニタリと笑ってみせた。
「で?新ダンジョンの方はどうよ?」
まだあそこがダンジョンとわかった奴は多くない。つまり、グワルフはともかく何にもお知らせしていないペレアス側からは、砦を死守しようと屈強なお客さんが入ったんじゃないかなーっと。
「おうおう、来ているとも!アマストレが狂喜しておった」
…ダンジョンは早くもアマストレ様のSM劇場と化しているようだ。最終的には脱がされてポイ……
「阿鼻叫喚の嵐よ!フハハハッ!!」
……現場を見たいとは思わない。むしろ、関わりたくない。

気分を切り替えよう。

「でさ、お願いがあるんだけど」
「む?」
「対価払うから、夜目が利いて人間をエサにする奴じゃなくて馭者ができる魔物、派遣してくれない?」
海路が遮断状態な今、陸路での対グワルフ貿易はカネになる。運送業に参入してガバガバ儲けてやるぜ!
「ずいぶんと注文が多いな…。まあよかろう!」
魔王様はすこぶる機嫌がいいらしい。二つ返事で引き受けてくれた。いやね、毎回私やエヴァが同行するわけにもいかないから、代打を魔物にやってもらおうと考えたのだ。陸路輸送となると、日中堂々と商品を満載した馬車を連ねて走るのは、襲ってくれと言っているようなものだ。さらに、通行するルートの大半は、ペレアス国内。ビーンスプラウト侯爵のような連中に、何されるかわからない。よって当面の間、移動は深夜限定且つ灯りをつけずに行いたい。なら、人間より魔物の方が向いている。魔王様側としても、定期収入があったほうがいいでしょ?

あ。もちろん、当初の約束通り魔界の塩湖から塩ももらいました!うふふ…。これはきっと外交の大きなカードになるよね!

◆◆◆

「ここと、この辺りに家を買って拠点にしよう。田舎だし、商会の名前で買収すれば、ペレアス側はウチだと気づかないだろ?な?サイラス君」
イライジャさん、すっかりやる気になっている。地図を見ながら、サイクロプスがいるダンジョン付近に家を買う許可を求めてきた。その辺りはお任せするよ。
と。
「サイラスー!なんか魔の森からまたなんか来たぞーっ!」
リチャードが呼びにきた。
「ジャレッドのおっちゃんがビビっちゃってさ…」
「ん?」
外に出てみたところ…

ニャ、ニャ、ニャ、ニャ、ニャ~ン♪

「あれは…」
早速、魔王様はお願いを聞いてくれたらしい。
「さすが!魔王様ヒ…いや、仕事が早いっ!」
…ここは、褒めておこう。

ニャ、ニャ、ニャ、ニャ、ニャ~ン♪

森の入口にお行儀良く整列した魔物――ワイルドキャットファイター、五十匹。二足歩行の鎧を着こんだ魔猫が、魔界から派遣されてきた。ロシナンテ傭兵団が、それをめっちゃ遠くから恐々と眺めている。え?トラウマ?

◆◆◆

サイラスたちがウハウハ気分に酔いしれている頃、ペレアス国内では――
「ウハハハハッ!弱小国めが、手も足も出まい!」
ビーンスプラウト侯爵が高笑いをしていた。さすが古参派の重鎮。どこぞの魔王様より年季の入った高笑いだ。上手。
「じきに干上がるでしょうな。我らを敵に回すとは愚かな連中じゃ」
ラップドッグ伯爵も同意した。
「ルドラとの戦況はいかに?」
ウィリスから戻した精鋭部隊は、ルドラ戦線に投入した。
「はっ!終始こちらが優勢とのこと!降伏も近いかと」
「我が属国に下ればよいものを。毎度毎度みみっちく抗いよって…。まあ良い」
ビーンスプラウト侯爵は口元を歪めた。ルドラはビーツから、貴族階級を満足させる白い甘味料――砂糖を製糖している。これは、ペレアス国民を大いに満足させる戦利品であり、且つ茶に混ぜて与えれば、食費を抑えつつ鉱夫を働かせることができる。戦で奴隷も多く手に入る。
産出量が下がり気味の南部の銀山へ送りこめば、タダ同然で収益が上がるだろう。無論、それもこの戦を提案したビーンスプラウト侯爵の手柄になる。ニミュエを押しのけて、己が古参派筆頭になる日も近いだろうと、侯爵はほくそ笑んだ。
そこへ。
「申し上げます!たった今報せがございました!ライオネル様が、南部の銀山を教会に売却したとのことです!」
「なんだと?!」
一拍遅れて、侯爵は事態の深刻さを理解した。
「あの!馬鹿者めがっ!!」
怒りに任せて、壁にかかっていた戦乙女の絵画を引きずり下ろした。絵を守っていた額が大理石の床に叩きつけられ、留め金が吹き飛んだ。
「おのれ…ライオネル…」
顔を真っ赤にした侯爵は、ブツブツと恨み言を吐くしかなかった。
そんな侯爵に、さらに追い討ちをかける報せが舞いこむ。
「侯爵閣下ァ!!」
血相を変えた部下が、震える声で言ったのは。
「イヴァンジェリン王太女殿下が…お亡くなりになったとのことです…!」
「!!」
さすがの侯爵も、一瞬頭が真っ白になった。部下は報告を続けた。
「王太女殿下は…ペトラの砦を御覧になりたいと秋にウィリスをお発ちになりました。しかし…砦を御覧になられた後、急に体調を崩され、そのまま…」
「ペトラの砦だと?!」
そこは、つい最近まで王妃派貴族の所領だったが、王妃派瓦解に伴い、他ならぬビーンスプラウト侯爵がその管理を請け負った地である。そこで、王太女殿下が亡くなった。その責任は、領主たるビーンスプラウト侯爵にある。例えそれが病死でもだ。今度こそ、ビーンスプラウト侯爵は頭が真っ白になった。貴族人生オワタ…
「な、それは…ご病気だったのか?」
藁にも縋る思いで、侯爵は部下に尋ねた。
「急病…とのことにございます」
「~!!」
確かにイヴァンジェリン王太女殿下は、身体が弱かった。足が悪く、幼少期に大病も患っていた。病死は自然だ。恐らく風邪をこじらせたとかだ。
「何か…何か…ないのか…」
さらにそこへ。
「侯爵閣下に急報!!ペトラの砦が崩落しましたぁ!!」
「ぐあっ!」
これ以上のショックは無かった。ビーンスプラウト侯爵は、ショックのあまり口から泡を吹いて昏倒した。


後日談である。
「死ぬタイミングは有効に使わなきゃねぇ」
ウィリスでエヴァがニヤニヤして言った。
それもあって、彼女はグワルフ行きについてきたのだ。ビーンスプラウト一派に一撃を入れるために。もちろん、流した情報は大ウソであるが。
「早すぎなかった?本当によかったの?」
遠慮がちに問いかけるサイラスに。
「これにて悪役退場!サイラスく~ん、結婚してぇ~」
エヴァは喜色満面に抱きついた。
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