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建国~対列強~編

165 ごたごた

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「サイラス!早速だが我が南部に金を融通してくれ。戦で銀山の働き手が減って、民を養う金が不足しているのだ!イヴァンジェリンよ!そなたは俺を支持すると言ったな。つまりは臣下だ。俺の下で働いてもらうぞ!」
開口一番、金を寄こせ……しかも自領の内情までペラペラと…。さすがバカ王子と言うべきか。頭痛がしてきた。
「何を勘違いしているのかな?」
さり気なくエヴァを背に庇い、私は無表情にライオネルを見上げた。
「私はアンタを助けるとは、ひと言も言っていない。すべて王女殿下を不本意な未来から守るためにやったことだ。アンタは、そのお釣りで王太子に戻るチャンスを得られた。そこから先は自力で頑張ってもらいたいね」
エヴァを南部に?行かせるわけないでしょ。友達を毒殺の前科がある兄の元へやる?有り得ないね。
「しかし俺を支持すると…」
面食らうライオネル。はぁ…おめでたい脳ミソしてるね、コイツは。
「議席に座る資格を聞いていなかったのかな?『王族もしくは且つ将軍経験のある男子に限る』…アンタ限定じゃない。あくまでも王女殿下とアンタを比べたら、アンタの方が条件に当てはまると言っただけだ。私は王女殿下の考えは支持するとは言ったけど、アンタを支持すると言った覚えこれっぽっちもないんだがね」
むしろ危機感を持って欲しい。王族と限定していないことに。自分の身分が保障されるのは、古参派貴族が『代わり』を担ぎ出して来るまでだ。ライオネルには、ほんの少しの猶予しかないのだ。
エヴァの王太女立太は、兄の陣営についたと表明したことで、御輿には使えないと印象づけた。後は…頃合いを見計らって、エヴァには病気になってもらう。兄に近づいて毒殺されたことにしてもいいね。彼女にとってペレアス王女の身分は、もう不要なものだから。新しい名前と身分で、ウィリスで生きる――それが昨夜確認したエヴァ自身の意思だから。
「サイラス!貴様!俺を謀ったのか!」
そーやってすぐキレる。ダメだコイツ。
「アンタの認識が甘いだけだろ」
第一、ライオネルは『ロイ』を殺害してあの汚いクソ野郎悪魔『ロザリー』を彼の亡骸に宿らせたのだ。これで助けてもらえるとか、どんだけ脳ミソお花畑なんだよ。
「なんで!なんでだ!なんでこんな何もない辺境が栄えて、銀山のある南部は困窮する!なんで!」
挙げ句、セヴランたち各国の目もある会議室の入口で大声で喚く。あまりにもお粗末な王子様だ。
「なんで?そんなの自分で考えろ」
南部が困窮する?そりゃアンタが何もしないからだ。言っとくけど、私たちはここまでウィリスを発展させるのに、苦労の連続だった。失敗しまくって、泣きを見て、足掻いて足掻いてようやく手に入れた発展なんだ。簡単に手に入ると思うなよ?
「考えても、わかんないんだよ!」
泣き喚くライオネル。
「じゃ、勉強しろ」
全うに帝王学なり経営学なり修めれば、歴史を紐解けば。あるいは知識ある誰かと対等に話し合える知識を身につければ、知恵を借りられる。努力もなしに、得られるものなんか何もないんだよ。まあ、努力しても失敗するし、報われないことも多々あるけどね。
「兄、残念だけど今の貴方に、助ける価値を見出せないの。兄を助けてウィリスにも何らかのメリットがあるなら私たちも…」
「メリットだ?!なら銀だ!銀を融通する!」
エヴァが皆まで言い終わらないうちに言葉を被せるライオネル…。エヴァが額に手を当てた。
「兄…、その銀山、採掘始まって何年経つか知ってる?」
「なに?」
虚を突かれたライオネルにエヴァは嘆息した。
「四十五年だよ。意味、わかる?」
なっがいな~。それ、既に枯渇してんじゃない?
「反乱が起こる前…もう十年くらいは前にね、私、鉱山の採掘報告書を見たんだけど。見事なまでにキリのいい数字だったよ。虚偽の数字だって一目でわかった」
「虚偽…?」
呆然とするライオネル。
「後は兄が自分で考えて」
エヴァがライオネルに背を向け、ポソッと「ゼロじゃないけどね」と私にだけ聞こえるように呟いた。ああ、枯渇はしてないんだ。この国、しょっちゅう戦争やってたし、慢性的な働き手不足だったんだろう。だから四十五年なんて長い間採掘ができていた。そういうことかな。
静かになったライオネルを置いて、私たちはさっさと会議室を後にした。バカ王子と遊んでいる暇はない。

ライオネルは私たちにフラれた腹いせか、私が女だと言いふらしてまわった。
「まったく相手にされていなかったな」
セヴランがニヤニヤして教えてくれた。逆に私が男という認識が強化されたらしい。さすがバカ王子…。信用されてないって恐いねー(棒読み)。
ライオネルはその後早々に、ノエルと『ロザリー』に引き摺られるようにして南部へ帰っていった。
同じ頃、エヴァに痴漢した脂ギッシュ司祭様もウィリスから出ていった。聖鳥フレスベルクが魔物に喰われた(実際は公爵令嬢に喰われたんだけど)責任を問われて、本部に送還されたらしい。ウィリスの教会には、別のちゃんとした司祭様が派遣されてきた。めでたしめでたし。

◆◆◆

王子会談の翌日。私宛に大量の荷物が贈られてきた。送り主は、メドラウド公ノーマンさん。
「なんじゃこりゃあっ?!」
私室を埋める長櫃に、私は悲鳴をあげた。長櫃の中身は…

ドレス、ドレス、ドレス、ドレス…

そして…

ベビードレス。

「……。」
添えられていたカードには、『すぐ必要になると思うよ』との直筆メッセージ。おいっ!
「アル!」
モルゲンの宿で寛いでいた元凶に、私は掴みかかって、
「ふおぅ?!」
秒で押さえこまれた。うぐぅ…やっぱ格闘技だとアルに全然敵わない。
「…ノーマンさんにチクったでしょ」
組み敷かれたまま半眼でアルを睨むと、「ん?」とアルは首を傾げた。その顔…確信犯だな!
「部屋がドレスで埋まったんだからぁ!あと、ベビードレスとかどういうつもり?!」
長櫃開けたらどういう仕組みか、ドレスが膨らんで溢れ出た。圧縮機能付きか?!部屋の惨状を見たオフィーリアにしこたま怒られ、山のようなベビードレスを見た父さんからは「返してきなさい!」って怒鳴られた。…理不尽だ。
「なっ?!ちょ…アル!」
首筋に顔を埋めてくるアルの頭を引っつかむ。そういう目的で来たんじゃないからっ!
「ああ…ベッドに行くか?」
「そーゆー問題じゃな…ふにゃあ?!」
セクハラだよ!アルフレッドさん!
「この後も仕事か?」
「いや…予定は入れてないけど…?」
「ん」
いや、「ん」って何だよ、「ん」って!ちょ…!どこ触ってんですかアルフレッドさん?!
……。
……。
濃厚に愛された後、解放された。アルに逢うのは危険だ。しばらく控えよう。
文明が中世並みのこの世界に、便利な避妊具などあるはずもない。中絶は死ぬ確率の方が高いし、出産だって医療水準の低さ故に命懸けなのだ。それに…前世の『私』の友人は、悪阻で水も飲めなくなって入院したんだよね…。妊娠なんかできないよ。今、動けなくなるわけにはいかないんだ。
ドレスはオフィーリアに、宝飾品はエヴァにあげよう。ベビードレスは…
「嫌だっ!こんっっなフリフリヒラヒラな人間の服なんか着れるかぁ!ブッヒー!!」
「やっぱ着ぐるみはテッパンだよねぇ」
ほ~ら、この牛柄のフード付きなんか牛魔王らしくて…
「いや~ん♡カワイイッ♡♡」
「ブヒヒッ…陰険だぞ邪竜の娘ブゥ…」
カルビ君にあげた。

◆◆◆

「フッ…ハハハハハ!」
新たな報告を読んで、つい笑ってしまった。やはりアレは面白いことをしでかす。

別荘への途上。パチパチと温かな音を響かせる暖炉の前で、皇帝は新たな報告書を読んでいた。
報告書曰く、また王子会談なるものを開いたという。あのメドラウド公子息をどう考えているのか知らないが、ギルドや教会の代表者も交えての会議だという。そこで決めたことがまた笑える。


議席に着く代表者を、王族もしくはそれに相当する身分且つ将軍経験のあるに限る


「貴様は男ではなかろう!」
それどころか、人間でさえないと言うではないか。魔物が魔物封印のための会議を開き、尚かつ議席に座る資格を男限定にすると抜かす。実に滑稽だ。滑稽が過ぎていっそ清々しささえ覚える。
「しかし、」
笑いを堪え、皇帝は目を細めた。
「あのどうしようもないライオネルを支持する、か。これは、貴様自身の首を絞めることになるぞ?」
貴族…それも由緒正しき老害どもほど『血筋』至上主義。一度捨てた駒は拾わない。
ペレアス王女とやらは、随分甘い考えの持ち主のようだ。議決で却って包囲が狭まったのではないか?『王配』ほど、美味い汁が吸える役職などない。新参国と手を組んだところで、王族の軛から逃れられるとは思えぬ。
「貴様が王女の肩を持つ、となると…」

国はいよいよまとまりが危うくなる。

懐から出したのは、一冊の薄っぺらな本だ。『貴族の品格』などと銘打ってある。こんな毒物が蔓延し、内腑から壊死が始まった国だ。後継問題がトドメにならねばよいがな。
帝国側としては、海域の警備を強化した方がよいだろう。中央が衰えれば、台頭するのは有無を言わせぬ『力』だ。
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