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建国~対列強~編
161 再会
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「ロイ…様?」
笑い転げる少年を、アナベルは呆然と見つめていた。だって…だって彼は…
「?!伏せろ!!ア…」
迸った紅。アナベルを狂ったライオネルから庇って、彼は――
亡くなった…はず。
もう、この世にいないはず、なのに…。
笑うのをやめ、無表情に戻った『ロイ』と対峙して。アナベルは何を言っていいかわからず、両の手をキュッと握った。
「血塗れですよ?」
「え…?」
らしくもなくニヤリと笑って指摘され、アナベルは目を瞬いた。
「ロイ…様?」
声は間違いなく『ロイ』だ。でも…何かが違う。彼はこんな笑い方をしない。
「残念ながら、かの少年は既に消滅しました。レディ?」
「え…」
消滅……消滅って何?
「改めまして。私は『ロザリー』。しがない悪魔でございます」
胸に手を添え、恭しく腰を折る『ロイ』の姿をした、悪魔。だが、
「ぐっ…フッ…!」
お辞儀は具合が悪かったのか、膝をつき咳き込む……『ロザリー』。
「なっ?!大丈夫…です??」
駆け寄ってきたアナベルに背を擦られて、『ロザリー』は忸怩たる思いを噛みしめた。脇腹に怪我をしているだけで、貴族の礼もできないとはっ…!絶望に突き落としてやるつもりが、完全にしくじった。逆に気遣われている。
「鳥鍋をしますから、食べていって下さいな。きっと力がつきますわ」
……。
……。
十分後。
グツグツグツグツ…
四人は何故か一緒に、湯気をたてる鳥鍋を囲んでいた。ラムソンとフンギが食欲をそそる香りを漂わせている。
「熱いですから、気をつけて食べて下さいな」
「…どうも」
柔らかそうなお肉と具材をよそった器をじっと見つめる。
…なんでこうなった?!
「フェリックス、成長期の貴方はお肉をたくさん食べなさい。ラムソン残しちゃだめよ?」
「「いただきまーす」」
…家族団欒?あ、キャンプファイヤーかな?
「ぐぐぅ…アンタ!明らかに嫌がらせでしょ?!」
ノエルが自分の器――山盛りのラムソンと骨で溢れそう――を示してアナベルを睨みつけた。
「あら嫌がらせだなんて。コラーゲンを選り分けて差し上げましたの。ラムソンには若返り効果がありますのよ?優しさですわ」
「アタシの肌、老化してカッサカサだって言いたいのね?!」
元気いっぱいに陰湿な応酬をする女子たち。フェリックスは、『ロザリー』を一瞥してひと言。
「食べたら?冷めるよ?」
はっきり言おう。怖がられるどころか、気味悪がられてすらいない。『ロザリー』は遠い目をした。
「最近の若い子は…」
思わずジジ臭いひと言が零れ落ちる。
「まあ!」
…ギクッ
「箸が進んでおられないわ。よろしければ私が冷まして…」
いや、アーンとか悪魔のプライドが許さない。そんなの悪魔じゃない。断じて。
「いえ。お気遣いは結構ですよ、レディ」
格好をつけて断り、『ロザリー』は桜色の鳥肉をパクリと口に入れた。
モグモグモグ…ゴックン。
……。
……。
「ぐっ!がはっ!」
『ロザリー』はすっかり忘れていた。この鳥肉は、聖鳥フレスベルグのものであると。
聖鳥フレスベルグは、美食の成れの果てでも聖鳥は聖鳥である。生まれてから毎日教会で祝福を授けられ、聖職者とふれあい、極めつけに水は聖水を与えられていた。当然、それらのありがた~い効能は、フレスベルグの体内に蓄積していたのであって…
『ロザリー』は、食中りを起こした。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁ!!」
全身を刺し貫く痛みは、並の食中毒とはワケが違う。悪魔だもの。聖魔法とか聖水は猛毒である。七転八倒の苦しみを味わう『ロザリー』。
「貴女、バカなの?」
ノエルは、オロオロするアナベルを半眼で睨んだ。かく言うノエルも、悪魔に聖鳥の鳥鍋食べさせていいのかとか、まるで考えていなかったのだが。
「ど…どうしましょう!?」
「喉に指突っ込んで吐かせれば?」
所詮アナベルは公爵令嬢だ。男の口に指突っ込んで吐かせるなんて汚い芸当、できるわけないわ!、とノエルはせせら笑った。安定の性格の悪さである。しかし…
「そ…そうね!『ロザリー』様、覚悟っ」
「え゛…」
言うが早いか、アナベルは転げ回る『ロザリー』に馬乗りになり、両足で暴れる身体(※成人男性)をがっちり押さえ、容赦なく喉に指を突っ込んだ。
「!!!」
「アナベル様!仰向けだとブツが喉に詰まります!」
「ハッ!そうね!」
「ゴフッ!」
フェリックスの指摘で、『ロザリー』を脚でうつ伏せにひっくり返すアナベル。手荒っ!
「さあ!吐いておしまいなさいっ!」
「…吐いてる人に馬乗りになるのはやめて?」
画的に、女王様が少年に陰惨な苛めを働いている図である。珍しく、ノエルの口からまともな諫言が零れ出た。
◆◆◆
「私は…既に人間では…ないのですよ…レディ」
「ええ…」
「貴女の慕う少年は…もう、冥府へ旅立ったの、です…」
「ええ…」
「私はレディの…嫌い、なっ…」
「ご無理をなさらないで…」
「ラ…イオネ、ル王太子の…手、先……レディ…の、敵、なの…で、す…」
「わかっていますわ…」
魔の森――
男女二人が、珍妙なメロドラマをやっている。ベイリン姉弟は、食事を終えて一足先に獣道を引き返していった。
『ロザリー』は、懸命にアナベルを絶望させようと頑張っているのだが、頑張れば頑張るほどにドツボにハマる悲しい結果となっていた。だってアナベル、さっきから倒れた『ロザリー』に寄り添い手を握って、「大丈夫よ」とか「頑張って♡」って顔をしてる。
「魔王様…成績の、悪い、配下で…申し訳ございません…」
…『ロザリー』は疲弊していた。
「もう十分頑張っていらっしゃるわ」
…人間に仕事の愚痴言って慰められてる。
「魔王様…私は…降格でしょう、か…」
…減給かもしれない。いや、クビかな…
「貴方は真面目にお仕事をなさっていますわ!私は信じております」
嗚呼…人間っていいな。
そんな時思考を最後に、『ロザリー』の意識は暗転した。
◆◆◆
真っ暗な空間。ポツンと浮かぶ棺。
気がつくと『ロザリー』はそこにいた。肉体は眠っている。怪我に聖鳥肉の食中毒……当分回復しないだろうな。
と。
「おい、」
ドスの効いた声に、『ロザリー』は驚愕した。
「…マスター、お目覚めで」
「随分いい思いをしていたな?」
「ぐぅ…」
肉体と同じ姿の少年に胸倉掴んでぶら下げられて、ロザリーは呻き声をあげた。
「しかし…マスターは表に出ない契約で…」
そう。マスター――『ロイ』は心臓と引き換えに『アナベルを守れ』と『ロザリー』に命じた。『ロザリー』はそれさえ守れば『ロイ』の身体を好きに使って構わない――はずだ。
「そんな契約は…サイラスの言葉を借りれば『特約』はしていない。よって認めないぞ」
「マスター、しかし…」
言い縋る悪魔を、『ロイ』は睥睨した。
「しかし何だ?おまえもしや、このまま寝こけてて大丈夫だとは思っていないだろうな?」
「ぐ…」
痛いところを突かれて、『ロザリー』は口を噤んだ。安全な人里で寝ているのならともかく、肉体が倒れているのは『魔の森』だ。魔物…それも肉食の魔物や獣がいないとは限らない。
「間抜けが。アナベル様があの細腕でおまえをウィリスまで運んで下さるとでも思っているのか?」
「…細腕?」
『ロザリー』の記憶にある限り、食中りに苦しむ自分を、アナベルはかなり強い力で押さえつけた。
…運べるんじゃないかな?
「あ゛?」
…突っ込むのはやめておいた。
「しかし…動けないのは『表』が私でもマスターでも変わらないのではないのですか?」
意地悪な問いに悪魔の使役者は。
「舐めるな…例え食中りでも、俺なら戦える」
…気のせいだろうか。決めゼリフなのに哀愁が漂っていると思えるのは。
「…御意、マスター」
『ロザリー』はツッコミを封殺することに決めた。
◆◆◆
その頃。ベイリン姉弟は、獣道を無言で歩いていた。
「アンタはモルゲンの飼い犬に甘んじてるの?」
沈黙を破ったのはノエル。ノエルとしては、魔物を操る便利な弟は、この機にぜひ取り戻しておきたい。得意の傀儡術を発動させようとするが…
「わっ!」
またしても勝手に結界が発動し、透明な壁に弾かれたフェリックスが尻もちをついた。
「……。」
なにすんだよ?、と言わんばかりに睨まれた。
(まあ!生意気になったこと!)
「臆病で何もできないアンタが、モルゲンで何になれるというのかしら。平民落ちで餓死がいいところじゃなくて?」
ニヤリと笑い、弟に脅しをかける。
「私の力になるなら将来は保障できるわよ?私、ライオネル王太子殿下と好い仲なのよ?」
今回はポシャったけど、聖女になる目論見は潰えていない。聖鳥フレスベルグは、さっき食べた一羽だけではないのだ。教会にはまだ飼われている……はず。
「ねぇ…お姉様についていらっしゃい」
弟がバカでないなら、ここで姉の手を取るだろう。ノエルは確信していた。
「姉上。ご存じないのですか?ライオネルは王太子ではなくなりました。妹君のイヴァンジェリン殿下が立太されるとか」
だから、弟から齎された情報にノエルの顔面はフリーズした。王太子で、なくなった?
「姉上…大丈夫ですか?」
パタパタと手を振られて、ハッと我にかえる。
「そ…そんな、そんなことあるはずないわよっ!」
叫ぶやいなやノエルは駆けだした。わかっている…幼いフェリックスに自分を騙すそうな嘘はつけない――先ほどの情報は真実なのだと。
(急いでライオネルのところへ行かなきゃ!悠長になんかしていられないわ!)
「あ!そっちは違う道で、」
弟の制止は聞こえない。
笑い転げる少年を、アナベルは呆然と見つめていた。だって…だって彼は…
「?!伏せろ!!ア…」
迸った紅。アナベルを狂ったライオネルから庇って、彼は――
亡くなった…はず。
もう、この世にいないはず、なのに…。
笑うのをやめ、無表情に戻った『ロイ』と対峙して。アナベルは何を言っていいかわからず、両の手をキュッと握った。
「血塗れですよ?」
「え…?」
らしくもなくニヤリと笑って指摘され、アナベルは目を瞬いた。
「ロイ…様?」
声は間違いなく『ロイ』だ。でも…何かが違う。彼はこんな笑い方をしない。
「残念ながら、かの少年は既に消滅しました。レディ?」
「え…」
消滅……消滅って何?
「改めまして。私は『ロザリー』。しがない悪魔でございます」
胸に手を添え、恭しく腰を折る『ロイ』の姿をした、悪魔。だが、
「ぐっ…フッ…!」
お辞儀は具合が悪かったのか、膝をつき咳き込む……『ロザリー』。
「なっ?!大丈夫…です??」
駆け寄ってきたアナベルに背を擦られて、『ロザリー』は忸怩たる思いを噛みしめた。脇腹に怪我をしているだけで、貴族の礼もできないとはっ…!絶望に突き落としてやるつもりが、完全にしくじった。逆に気遣われている。
「鳥鍋をしますから、食べていって下さいな。きっと力がつきますわ」
……。
……。
十分後。
グツグツグツグツ…
四人は何故か一緒に、湯気をたてる鳥鍋を囲んでいた。ラムソンとフンギが食欲をそそる香りを漂わせている。
「熱いですから、気をつけて食べて下さいな」
「…どうも」
柔らかそうなお肉と具材をよそった器をじっと見つめる。
…なんでこうなった?!
「フェリックス、成長期の貴方はお肉をたくさん食べなさい。ラムソン残しちゃだめよ?」
「「いただきまーす」」
…家族団欒?あ、キャンプファイヤーかな?
「ぐぐぅ…アンタ!明らかに嫌がらせでしょ?!」
ノエルが自分の器――山盛りのラムソンと骨で溢れそう――を示してアナベルを睨みつけた。
「あら嫌がらせだなんて。コラーゲンを選り分けて差し上げましたの。ラムソンには若返り効果がありますのよ?優しさですわ」
「アタシの肌、老化してカッサカサだって言いたいのね?!」
元気いっぱいに陰湿な応酬をする女子たち。フェリックスは、『ロザリー』を一瞥してひと言。
「食べたら?冷めるよ?」
はっきり言おう。怖がられるどころか、気味悪がられてすらいない。『ロザリー』は遠い目をした。
「最近の若い子は…」
思わずジジ臭いひと言が零れ落ちる。
「まあ!」
…ギクッ
「箸が進んでおられないわ。よろしければ私が冷まして…」
いや、アーンとか悪魔のプライドが許さない。そんなの悪魔じゃない。断じて。
「いえ。お気遣いは結構ですよ、レディ」
格好をつけて断り、『ロザリー』は桜色の鳥肉をパクリと口に入れた。
モグモグモグ…ゴックン。
……。
……。
「ぐっ!がはっ!」
『ロザリー』はすっかり忘れていた。この鳥肉は、聖鳥フレスベルグのものであると。
聖鳥フレスベルグは、美食の成れの果てでも聖鳥は聖鳥である。生まれてから毎日教会で祝福を授けられ、聖職者とふれあい、極めつけに水は聖水を与えられていた。当然、それらのありがた~い効能は、フレスベルグの体内に蓄積していたのであって…
『ロザリー』は、食中りを起こした。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁ!!」
全身を刺し貫く痛みは、並の食中毒とはワケが違う。悪魔だもの。聖魔法とか聖水は猛毒である。七転八倒の苦しみを味わう『ロザリー』。
「貴女、バカなの?」
ノエルは、オロオロするアナベルを半眼で睨んだ。かく言うノエルも、悪魔に聖鳥の鳥鍋食べさせていいのかとか、まるで考えていなかったのだが。
「ど…どうしましょう!?」
「喉に指突っ込んで吐かせれば?」
所詮アナベルは公爵令嬢だ。男の口に指突っ込んで吐かせるなんて汚い芸当、できるわけないわ!、とノエルはせせら笑った。安定の性格の悪さである。しかし…
「そ…そうね!『ロザリー』様、覚悟っ」
「え゛…」
言うが早いか、アナベルは転げ回る『ロザリー』に馬乗りになり、両足で暴れる身体(※成人男性)をがっちり押さえ、容赦なく喉に指を突っ込んだ。
「!!!」
「アナベル様!仰向けだとブツが喉に詰まります!」
「ハッ!そうね!」
「ゴフッ!」
フェリックスの指摘で、『ロザリー』を脚でうつ伏せにひっくり返すアナベル。手荒っ!
「さあ!吐いておしまいなさいっ!」
「…吐いてる人に馬乗りになるのはやめて?」
画的に、女王様が少年に陰惨な苛めを働いている図である。珍しく、ノエルの口からまともな諫言が零れ出た。
◆◆◆
「私は…既に人間では…ないのですよ…レディ」
「ええ…」
「貴女の慕う少年は…もう、冥府へ旅立ったの、です…」
「ええ…」
「私はレディの…嫌い、なっ…」
「ご無理をなさらないで…」
「ラ…イオネ、ル王太子の…手、先……レディ…の、敵、なの…で、す…」
「わかっていますわ…」
魔の森――
男女二人が、珍妙なメロドラマをやっている。ベイリン姉弟は、食事を終えて一足先に獣道を引き返していった。
『ロザリー』は、懸命にアナベルを絶望させようと頑張っているのだが、頑張れば頑張るほどにドツボにハマる悲しい結果となっていた。だってアナベル、さっきから倒れた『ロザリー』に寄り添い手を握って、「大丈夫よ」とか「頑張って♡」って顔をしてる。
「魔王様…成績の、悪い、配下で…申し訳ございません…」
…『ロザリー』は疲弊していた。
「もう十分頑張っていらっしゃるわ」
…人間に仕事の愚痴言って慰められてる。
「魔王様…私は…降格でしょう、か…」
…減給かもしれない。いや、クビかな…
「貴方は真面目にお仕事をなさっていますわ!私は信じております」
嗚呼…人間っていいな。
そんな時思考を最後に、『ロザリー』の意識は暗転した。
◆◆◆
真っ暗な空間。ポツンと浮かぶ棺。
気がつくと『ロザリー』はそこにいた。肉体は眠っている。怪我に聖鳥肉の食中毒……当分回復しないだろうな。
と。
「おい、」
ドスの効いた声に、『ロザリー』は驚愕した。
「…マスター、お目覚めで」
「随分いい思いをしていたな?」
「ぐぅ…」
肉体と同じ姿の少年に胸倉掴んでぶら下げられて、ロザリーは呻き声をあげた。
「しかし…マスターは表に出ない契約で…」
そう。マスター――『ロイ』は心臓と引き換えに『アナベルを守れ』と『ロザリー』に命じた。『ロザリー』はそれさえ守れば『ロイ』の身体を好きに使って構わない――はずだ。
「そんな契約は…サイラスの言葉を借りれば『特約』はしていない。よって認めないぞ」
「マスター、しかし…」
言い縋る悪魔を、『ロイ』は睥睨した。
「しかし何だ?おまえもしや、このまま寝こけてて大丈夫だとは思っていないだろうな?」
「ぐ…」
痛いところを突かれて、『ロザリー』は口を噤んだ。安全な人里で寝ているのならともかく、肉体が倒れているのは『魔の森』だ。魔物…それも肉食の魔物や獣がいないとは限らない。
「間抜けが。アナベル様があの細腕でおまえをウィリスまで運んで下さるとでも思っているのか?」
「…細腕?」
『ロザリー』の記憶にある限り、食中りに苦しむ自分を、アナベルはかなり強い力で押さえつけた。
…運べるんじゃないかな?
「あ゛?」
…突っ込むのはやめておいた。
「しかし…動けないのは『表』が私でもマスターでも変わらないのではないのですか?」
意地悪な問いに悪魔の使役者は。
「舐めるな…例え食中りでも、俺なら戦える」
…気のせいだろうか。決めゼリフなのに哀愁が漂っていると思えるのは。
「…御意、マスター」
『ロザリー』はツッコミを封殺することに決めた。
◆◆◆
その頃。ベイリン姉弟は、獣道を無言で歩いていた。
「アンタはモルゲンの飼い犬に甘んじてるの?」
沈黙を破ったのはノエル。ノエルとしては、魔物を操る便利な弟は、この機にぜひ取り戻しておきたい。得意の傀儡術を発動させようとするが…
「わっ!」
またしても勝手に結界が発動し、透明な壁に弾かれたフェリックスが尻もちをついた。
「……。」
なにすんだよ?、と言わんばかりに睨まれた。
(まあ!生意気になったこと!)
「臆病で何もできないアンタが、モルゲンで何になれるというのかしら。平民落ちで餓死がいいところじゃなくて?」
ニヤリと笑い、弟に脅しをかける。
「私の力になるなら将来は保障できるわよ?私、ライオネル王太子殿下と好い仲なのよ?」
今回はポシャったけど、聖女になる目論見は潰えていない。聖鳥フレスベルグは、さっき食べた一羽だけではないのだ。教会にはまだ飼われている……はず。
「ねぇ…お姉様についていらっしゃい」
弟がバカでないなら、ここで姉の手を取るだろう。ノエルは確信していた。
「姉上。ご存じないのですか?ライオネルは王太子ではなくなりました。妹君のイヴァンジェリン殿下が立太されるとか」
だから、弟から齎された情報にノエルの顔面はフリーズした。王太子で、なくなった?
「姉上…大丈夫ですか?」
パタパタと手を振られて、ハッと我にかえる。
「そ…そんな、そんなことあるはずないわよっ!」
叫ぶやいなやノエルは駆けだした。わかっている…幼いフェリックスに自分を騙すそうな嘘はつけない――先ほどの情報は真実なのだと。
(急いでライオネルのところへ行かなきゃ!悠長になんかしていられないわ!)
「あ!そっちは違う道で、」
弟の制止は聞こえない。
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