RISE!~男装少女の異世界成り上がり譚~

た~にゃん

文字の大きさ
上 下
156 / 205
建国~対列強~編

155 辺境なのに

しおりを挟む
ライオネルは一人、ウィリスを眺めていた。
「なぜだ…」
ポツリと呟いた。
目の前では今、投石機から二発目が放たれ、女王の住まいたる建物をぶち破ったところだが、そんなことはどうでもよかった。投石機の横でサムズアップする恋人の姿も目に入らない。ライオネルを打ちのめしたのは、何よりも『ウィリス』であった。

辺境のはずなのに。
銀山という『金のなる木』もないのに。
なぜ、己の治める南部と違ってこの『何もないはずの辺境』は、これほどまでに活気づいているのだろう。

ウィリスの背後にはひんやりとした冷気を纏う不気味な森。先日、火竜という厄災級の魔物が出たばかりの森だ。そんな恐ろしい地に隣り合いながらも、なぜここまでウィリスは発展したのだろう。

一部が崩落した女王の住まいの前の広場は、様々な人や荷馬車が行き交っているが、馬車の通る『どうろ』と人の歩く『ほどう』がそれぞれ敷いてあるせいか、人と馬車がごちゃ混ぜに行き交う王都のメインストリートよりもむしろ整然としている。取り巻く建物は皆、頑丈な石造り。その向こうにある、装飾のない無骨で大きな平屋建ての建物は、植物紙の『こうじょう』だという。出入りする人間に、男性以上に女性が多いことにライオネルは驚愕した。
そして、ウィリスの中心部から堀を渡れば、商館が軒を連ねる賑やかな区域に辿り着く。庶民の口にするような食材から宝飾店まで揃わない物はないだろう、業種の幅広さ。物を売るだけではない。『ゆうびんや』という、手紙の配達を請け負う店や、女たちが各家庭の洗濯物を請け負うという店までもあった。
無論、その区域の道も、『どうろ』と『ほどう』とに厳格に仕切られている。驚いたのは、大きな交差路には朱の大旗を持った役人が立っていて、猛スピードで走る馬車の接近を告げたり、時には馬車を止めて歩行者を渡らせていたりするのだ。よって、ここもまた行き交う人や馬車が滞ることなく、スムーズに流れていた。
しかし、発展して何もかも密集しているのかと思いきや、ウィリスではどこでも、少し進めば不思議な庭に行きあたる。サイラス曰く『こうえん』という庭らしい。火事や災害時の避難所になるという。ライオネルが見た時は、足下も覚束無い小さな子供たちがはしゃぎまわって遊んでいたり、腰の曲がった老人が据えつけられたベンチで寛いでいた。
一見、それがなんだ?と思ってしまうモノだが、確かに辺境は活気に溢れていて。ライオネルはわけがわからなかった。

◆◆◆

その頃。
「邪竜の娘!あとオマケの人間!スケジュールが押しているんだぞブヒ!歩くんだぞブー!」
カルビ君の魔法で、私とアルは魔界――それも魔王城に来ていた。訳もわからないまま、私はドレスに着替えさせられ、アルはそのまま…。赤絨毯の回廊をカルビ君にグイグイ押されて歩かされている。
「ねぇ。私たち、なんで魔界に?」
尋ねたけどカルビ君は答えずに、
「ほら、もう皆様待ってるんだぞブブッ!」
グイッと両開きのどっしりした扉の前に私達を押し出した。ギギィ…と扉が開く。
「魔王様謁見の間だぞ、ブゥ」
カルビ君が胸を張った。
「…なぁ。魔王様とやらは、ここのトップなんだよな?俺たちみたいな馬の骨を会わせて大丈夫なのか?」
アルが眉間を揉む。…アル、光魔法使いだもんね。
「魔王様はお忙しいのだ人間。遥か遠くにご尊顔を拝めるだけでありがたいと思えブー」
「謁見の間ってそんなに広いか??」
首をかしげるアルを、カルビはグイと押した。
「ゴチャゴチャ言ってないで入れ!ブヒッ」
押しこまれた部屋は、やけに天井の高い広い円形の部屋だった。例えて言うなら、バチカン宮殿のドームっぽい…。ただ…
「……人、多くね?」
大企業の営業所並に人(?)が多くて、出入りが激しい。熱気がムンムンする。私達の横を、くたびれたスーツを着たいかにも平社員ですといった体のオッサン(但し、頭に角がある)が、山盛りの書類を載せた箱を抱えて追い抜いていった。…アレだ。エアコンの効きが悪い昭和の事務所を彷彿とさせる…
「あっちだぞ。ブヒ」
カルビ君が示す先には…

『歓迎★サイラス・ウィリス様』
『Welcome!魔界』
『LOVE♡邪竜』

人垣の向こうで、頭に角を生やしたカラフルな人達がプラカードを掲げてニコニコしていた。
「……。」
「……。」
何コレ。海外の空港か?
「ほら、待たせてるんだぞブブッ」
カルビ君が背中をグイグイ押してくる。ちっちゃいのに力強いなぁ。あれよあれよという間に、プラカードの人達の前まで押し出された。すると…
「ようこそ魔界!」
「ぐっ?!」
プラカードの人の後ろから、デーモン(?)みたいなマッチョマンが進み出て、アルの頭をアイアンクロー…じゃなかった、ガシッと押さえつけ、ハワイのお花レイならぬ髑髏のネックレスを力づくで首にかけた。豪快。次いで、同じモノを私にも…
「うわあっ!?」
そんなん要らないよ!ギョッと目を剥く私に、
「頭蓋骨は重いもんね!じゃあこっちで!」
軽いノリの全身黒タイツなおにーさんが、別のレイをシャランと私の首にかけた。
「尾椎骨…ざっくり言うと、お尻の骨で作ったレイだよ~」
「…お返しします」
ヤダよ。人骨レイなんか。既に頭蓋骨レイをかけられたアルは、目が死んでる。
「そっかぁ~。邪竜ちゃんは小柄だもんね~。おーい!骨粗鬆症のレイ持ってきてぇ~!」
「要らないよっ!」
そういう配慮も要らないから!つーか人骨でレイなんか作るなよっ!
…ウィリスに帰りたい。

◆◆◆

ウィリス。
ノエルは地団駄を踏んで悔しがっていた。ついさっきまでは投石機でサイラスを狙い撃つというイベントに狂喜乱舞していたのだが、その場でペレアス王妃がパァになって投獄されたことを聞いたのだ。人生の楽しみを一つ失ったノエルの怒りは大きかった。
しかも、だ。
ノエルの知らないところで王子会談が開かれてしまい、ペレアス、グワルフ、メドラウド間で不戦条約が結ばれてしまったのだ!大いに不服だが、国家権力が絡んで結ばれてしまった条約を、小娘一人が覆せるはずもない。
「もうもうもうっ!!ライオネル様のバカっ!!」
しかも、ここにきて自慢の《傀儡術》が一向に使えない。要人を操ってやろうにもなぜか結界が張られるだけだ。解せぬ…。
「フニャアァ~!!」
ノエルは奇声をあげた。
広場では投石機の片づけが終わり、今は数人の兵士が広場にせっせと穴を掘っている。
「ギッギッ」
…気のせいかな。頭がちょっと重い。きっと
ウィリスが平和なせいだ。長閑な時間――広場では穴掘りが終わり、大きな樽がロープて吊られて、穴に降ろされている。
地団駄を踏んで奇声をあげ、汗をかいたせいか、頭が痒い。ますますイライラする。
「ガウゥゥ…」
呻ったら、頭をカシカシされた。アレか、こちらに来てから持てなし役の村人が張りついていたから、ノエルの不快感を察してくれたのだろうか。
「もうちょっと右、」
「ギ?」
「そう、そこよ」
「ギー♪」
うん。気持ちよくなった。できた持てなし役だ。少し機嫌を直したノエルの少し前を、聖鳥フレスベルグの鳥籠が通過していく。よほど重いのか、運搬役が大汗をかいている。教会で崇められている聖鳥フレスベルグは、人間顔負けの美食を一日三食プラス信者さんからの餌付けもされているため、原形が想像つかないほどに肥っているのだ。
「デブい聖鳥よね」
「ギィ(訳:だよね)」
眺めていると、おデブな聖鳥がよたよたと鳥籠から出てきた。お散歩の時間である。白銀の大きな翼を羽ばたかせ、地上二メートルくらいの高度をフラフラしながら飛んでいく。そろそろダイエットしないと…。
「フン。たかだか光魔法を使う魔鳥じゃないの。不細工だこと。聖なる象徴?笑わせないでよ。美食の成れの果てでしょ!」
「ギッギー!(訳:だよねぇ!)」
同じ光魔法を使う魔物でも、キラーシルクワーム(蛾)とフレスベルグ(鳥)では、扱いの差が酷すぎる。キラーシルクワームの使い魔は激しく同意した。
「脳ミソもトロくさそうね。きっと阿呆よ、聖鳥」
「ギッ!(訳:間違いないっ!)」
美味しいモノばっかり食べて、いつか病気になるに違いない。オマエの未来はフォアグラだっ!
「ん?阿呆なら手懐けやすいかしら?」
「ギッギギー?(訳:エンゲル係数ヤバくね?)」
「聖鳥フレスベルグを思うがままに操れれば…あら!それって聖女にならないかしら!」
「ギ?ギー?(訳:聖女?投獄されたいの?)」
「フェリックスさえいればできるわっ!あの子は魔物を操るもの!フフッ…神のお告げとか何とか言ったら王子会談の条約なんか反故にできるじゃない!なんて名案なのっ!」
聖女になるわっ!、ノエルは嬉しさのあまり、きゅるんきゅるんと身体を捻ってぶりっ子ポーズをし…
「ギギッ?!(訳:落ちるッ)」
「へぷっ!?」
顔を粉っぽいモノが掠めた――ワッサワッサと鱗粉をまき散らしながら目の前を飛ぶ……蛾。
「キャアアアアア!!!」
ノエルの絶叫が青い空にこだました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

処理中です...