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建国~黎明~編
143 討伐隊の困惑
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一方、ペレアス王国王都では。
モルゲン行きを渋っていたライオネルをようやく説き伏せ、邪竜討伐隊がようやく王都を出発した。ペレアス主力部隊と正教会の僧兵に、なんと霊験あらたかだという聖鳥フレスベルグも連れている。白銀の羽の美しい聖鳥は、巨大な籠に入れられ、さらにその鳥籠が豪奢な輿に乗っての移動である。物珍しさに見物人が押しかけ、討伐隊はしばしば歩みを停めては、群がる見物人を追い払わねばならなかった。しかも、総司令官を務めるライオネルのやる気が芳しくない。何かと言い訳をしては足を止め、進軍は遅れに遅れ、ようやく敵地モルゲン・ウィリス王国との国境――旧ベイリン支配域バレン領に到達したときには、春の盛りを過ぎていた。
しかしようやく敵地だ。兵士達はようやく退屈な行軍から解放されると思い、意気揚々と武器を掲げ鬨の声を上げた………のだが。
「申し上げます!バレン領主より救援を求める使者が参りました!」
「何?救援だと?」
なんで敵がいきなり救援など求めてくるのだ?
「ハッ!モルゲン・ウィリスの圧政に耐えかね、王国側に復帰したいと…」
「何?!」
なんとまさかの寝返りである。いきなり出鼻を挫かれた討伐隊は、バレン領主に招かれるまま領内に入り、領民総出の迎えを受けたのだが…
バレン領の春は降灰の季節だ。
歓迎されたのはいいが、降灰は大変に軍を困らせた。まず、水が飲めない。そして食べ物にも避けきれなかったのか黒い物が混じっており、腹を壊す者が続出。さらに降り続ける灰で自慢の鎧が汚れるばかりか、灰は目に入れば痛いし、吸いこめば咳が止まらない。
「見ての通り、我が領は不毛の地にございますのに、モルゲンに重税を課されて難儀しておりました。民は困窮し、除灰もままならぬ有様でして…」
安い酒を勧めながら、バレン領主が機嫌よく喋る。…なんか雲行きが怪しい。
「王太子殿下がいらしたのも、聖鳥様がいらしたのも神の采配に違いありません。どうか民をこの降灰からお救い下さい」
そんな縋ってこられても困る。どっちかというと、さっさとこの最悪な土地から抜け出したい。
「せめて民のためにご祈祷を」
大司祭に聖鳥まで連れた正教会が、額づく大勢の領民の願いを無視することは………できなかった。渋々厭々、灰で汚れて寂れた教会で特別祈祷を行ってお茶を濁す間、討伐隊の兵士達は領民たっての願いで除灰を手伝わされた。当然、士気は急降下した。
とんだ足止め。最悪である。
「まず、バレン領を寝返らせる。出鼻を挫くついでに、歓待と見せかけて削ってやろうぜ」
とは、サイラスの言。
重税云々は大嘘であり、困窮したフリをして灰で散々困らせ、面倒事を押しつけ引き留める。討伐隊――教会も一緒に民の解放とか銘打っているがために、不毛の土地の民の願いを無碍にはできまいと予想しての仕掛けである。さらに…
「殿下のお考えに、我ら感服いたしました。ぜひ助太刀をさせていただきたく」
援軍という、余計なお荷物をプレゼントする。もちろん精鋭とかではない。襤褸を纏った追い剥ぎとも見紛う痩せた領民集団だ。移動手段は徒歩。行軍のスピードがガタ落ちである。しかも、援軍ということは、この追い剥ぎ擬きの集団にも糧食を分け与えねばならない。バレン領主からも物資を提供するが、「不毛の土地の精一杯」という理由で大変貧相な内容である。つまり、まったく有り難くない援軍。そして、彼らはあろうことか神を讃える聖詩篇を合唱しながらついてくる。
「追い払うに追い払えないし、こんなの連れて略奪なんかしてごらん?非難囂々間違いなしだ。よって奴らは略奪での補給ができない。まあ、飢えた兵士が発狂してもマズいから、領民の善意を装って要所要所で支援はしてやるけどな」
なんて、サイラスが嗤っていたことを、討伐隊は知らない。散々引き留められて、ようやく悪夢のような土地を出立したものの、後ろの聖歌集団が鬱陶しくてならない。バレン領を出た時、討伐隊の半数以上の目は死んでいた。
その後も、「さあ敵地だ!」と意気込んだものの、略奪しようとした村から領民が進んで食べ物を捧げに来たり、街に招かれ程々に歓迎されたりで、はたまた絶妙なタイミングで魔物やウサギカチューシャつけた変なアンデッドに襲撃されたり…。
結局、人間相手にまともな戦闘をすることなく、討伐隊は目的地であるウィリスに到着してしまった。
討伐隊は、当たり前のようにウィリスに招き入れられた。しかも、完成したばかりの兵舎まで提供されたのだ。もはや『戦』という雰囲気ではない。
そして…。
ライオネルとノエルを、討伐対象たるサイラス・ウィリス自らが迎えに出た。
「遠方よりようこそ我が国へ。邪竜討伐依頼を受けていただき、感謝する」
「「「「……は?」」」」
いや、邪竜討伐依頼って何だよ?そんなもの出した覚えがないぞ。ライオネルもノエルも、大司祭に聖鳥までもポカンとした。そんな彼らをよそに、サイラスは続けた。
「邪竜は魔の森に巣くう強力な魔物です。各地に討伐依頼を出していたのですが、精鋭と名高いペレアス王国兵が味方なら心強い。小国ゆえささやかではありますが、歓迎の宴を開きますので、ぜひお楽しみ下さい」
そして、ライオネルたちはあれよあれよという間に、モルゲン市街の高級宿に押しこまれた。
◆◆◆
一方その頃、ライオネルたちに少し遅れてペレアス王宮から地味な箱馬車が一台、ひっそりと出発した。
「いよいよだわ。邪竜を倒せば、隠しキャラが出てくる。絶対、お願いを聞いてもらうんだから!」
馬車の中は、地味な外観が信じられないほど豪華に整えられていた。広い車内でゆったりと脚を伸ばして寝転ぶのは、この国の『聖女』と名高い王妃その人であった。
『光の聖女』続編――。
ライオネルルートをクリアすると、黒いローブを纏った怪しげな男が登場する。ハッピーエンドのエピローグの最中、その男が邪竜を倒したヒロインに話しかける。
「面白い女だ。おまえ、俺に鞍替えしないか?」
〈選択して下さい〉
【1】無視する
【2】「…え?」
クリアした後のこの分岐点で【2】を選択すると、その男のローブが風で捲れあがり、秀麗な顔が露わになる。
隠しキャラ――魔王ルシアン。
彼は自分に気があるとみるや禁術『時戻しの魔法』を発動する。
「リセットするのよ!そして今度こそ『本編』をハッピーエンドにするんだから!」
長閑な街道に、弾んだ声が誰にも聞かれることなく消えていった。
モルゲン行きを渋っていたライオネルをようやく説き伏せ、邪竜討伐隊がようやく王都を出発した。ペレアス主力部隊と正教会の僧兵に、なんと霊験あらたかだという聖鳥フレスベルグも連れている。白銀の羽の美しい聖鳥は、巨大な籠に入れられ、さらにその鳥籠が豪奢な輿に乗っての移動である。物珍しさに見物人が押しかけ、討伐隊はしばしば歩みを停めては、群がる見物人を追い払わねばならなかった。しかも、総司令官を務めるライオネルのやる気が芳しくない。何かと言い訳をしては足を止め、進軍は遅れに遅れ、ようやく敵地モルゲン・ウィリス王国との国境――旧ベイリン支配域バレン領に到達したときには、春の盛りを過ぎていた。
しかしようやく敵地だ。兵士達はようやく退屈な行軍から解放されると思い、意気揚々と武器を掲げ鬨の声を上げた………のだが。
「申し上げます!バレン領主より救援を求める使者が参りました!」
「何?救援だと?」
なんで敵がいきなり救援など求めてくるのだ?
「ハッ!モルゲン・ウィリスの圧政に耐えかね、王国側に復帰したいと…」
「何?!」
なんとまさかの寝返りである。いきなり出鼻を挫かれた討伐隊は、バレン領主に招かれるまま領内に入り、領民総出の迎えを受けたのだが…
バレン領の春は降灰の季節だ。
歓迎されたのはいいが、降灰は大変に軍を困らせた。まず、水が飲めない。そして食べ物にも避けきれなかったのか黒い物が混じっており、腹を壊す者が続出。さらに降り続ける灰で自慢の鎧が汚れるばかりか、灰は目に入れば痛いし、吸いこめば咳が止まらない。
「見ての通り、我が領は不毛の地にございますのに、モルゲンに重税を課されて難儀しておりました。民は困窮し、除灰もままならぬ有様でして…」
安い酒を勧めながら、バレン領主が機嫌よく喋る。…なんか雲行きが怪しい。
「王太子殿下がいらしたのも、聖鳥様がいらしたのも神の采配に違いありません。どうか民をこの降灰からお救い下さい」
そんな縋ってこられても困る。どっちかというと、さっさとこの最悪な土地から抜け出したい。
「せめて民のためにご祈祷を」
大司祭に聖鳥まで連れた正教会が、額づく大勢の領民の願いを無視することは………できなかった。渋々厭々、灰で汚れて寂れた教会で特別祈祷を行ってお茶を濁す間、討伐隊の兵士達は領民たっての願いで除灰を手伝わされた。当然、士気は急降下した。
とんだ足止め。最悪である。
「まず、バレン領を寝返らせる。出鼻を挫くついでに、歓待と見せかけて削ってやろうぜ」
とは、サイラスの言。
重税云々は大嘘であり、困窮したフリをして灰で散々困らせ、面倒事を押しつけ引き留める。討伐隊――教会も一緒に民の解放とか銘打っているがために、不毛の土地の民の願いを無碍にはできまいと予想しての仕掛けである。さらに…
「殿下のお考えに、我ら感服いたしました。ぜひ助太刀をさせていただきたく」
援軍という、余計なお荷物をプレゼントする。もちろん精鋭とかではない。襤褸を纏った追い剥ぎとも見紛う痩せた領民集団だ。移動手段は徒歩。行軍のスピードがガタ落ちである。しかも、援軍ということは、この追い剥ぎ擬きの集団にも糧食を分け与えねばならない。バレン領主からも物資を提供するが、「不毛の土地の精一杯」という理由で大変貧相な内容である。つまり、まったく有り難くない援軍。そして、彼らはあろうことか神を讃える聖詩篇を合唱しながらついてくる。
「追い払うに追い払えないし、こんなの連れて略奪なんかしてごらん?非難囂々間違いなしだ。よって奴らは略奪での補給ができない。まあ、飢えた兵士が発狂してもマズいから、領民の善意を装って要所要所で支援はしてやるけどな」
なんて、サイラスが嗤っていたことを、討伐隊は知らない。散々引き留められて、ようやく悪夢のような土地を出立したものの、後ろの聖歌集団が鬱陶しくてならない。バレン領を出た時、討伐隊の半数以上の目は死んでいた。
その後も、「さあ敵地だ!」と意気込んだものの、略奪しようとした村から領民が進んで食べ物を捧げに来たり、街に招かれ程々に歓迎されたりで、はたまた絶妙なタイミングで魔物やウサギカチューシャつけた変なアンデッドに襲撃されたり…。
結局、人間相手にまともな戦闘をすることなく、討伐隊は目的地であるウィリスに到着してしまった。
討伐隊は、当たり前のようにウィリスに招き入れられた。しかも、完成したばかりの兵舎まで提供されたのだ。もはや『戦』という雰囲気ではない。
そして…。
ライオネルとノエルを、討伐対象たるサイラス・ウィリス自らが迎えに出た。
「遠方よりようこそ我が国へ。邪竜討伐依頼を受けていただき、感謝する」
「「「「……は?」」」」
いや、邪竜討伐依頼って何だよ?そんなもの出した覚えがないぞ。ライオネルもノエルも、大司祭に聖鳥までもポカンとした。そんな彼らをよそに、サイラスは続けた。
「邪竜は魔の森に巣くう強力な魔物です。各地に討伐依頼を出していたのですが、精鋭と名高いペレアス王国兵が味方なら心強い。小国ゆえささやかではありますが、歓迎の宴を開きますので、ぜひお楽しみ下さい」
そして、ライオネルたちはあれよあれよという間に、モルゲン市街の高級宿に押しこまれた。
◆◆◆
一方その頃、ライオネルたちに少し遅れてペレアス王宮から地味な箱馬車が一台、ひっそりと出発した。
「いよいよだわ。邪竜を倒せば、隠しキャラが出てくる。絶対、お願いを聞いてもらうんだから!」
馬車の中は、地味な外観が信じられないほど豪華に整えられていた。広い車内でゆったりと脚を伸ばして寝転ぶのは、この国の『聖女』と名高い王妃その人であった。
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ライオネルルートをクリアすると、黒いローブを纏った怪しげな男が登場する。ハッピーエンドのエピローグの最中、その男が邪竜を倒したヒロインに話しかける。
「面白い女だ。おまえ、俺に鞍替えしないか?」
〈選択して下さい〉
【1】無視する
【2】「…え?」
クリアした後のこの分岐点で【2】を選択すると、その男のローブが風で捲れあがり、秀麗な顔が露わになる。
隠しキャラ――魔王ルシアン。
彼は自分に気があるとみるや禁術『時戻しの魔法』を発動する。
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