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少年期編
32 エルフのお姉さん
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神々しいばかりに美しいお姉さんは、エルフでした。お姉さん曰く、自分を連れてきた奴隷商人は先ほどの騒ぎで逃げてしまい、この際だから路銀を稼いで故郷に帰りたいのだとか。
「でも私、お金持ちのお嬢様じゃないよ?」
これ、ある種のコスプレだし。中身は貧乏ド田舎村の代官の息子だしね。残念ながら、遠くに運んだ挙げ句お給金なんて出せる余裕は今ウチにはないし。
「イライジャさんに雇ってもらえば?」
私の横で鼻を伸ばしっぱなしのオッサンを指し示すと、エルフのお姉さんは嫌そうに眉をひそめた。
「商人はちょっと…」
そっか。売られたんだもんね。そりゃ嫌か。でも困ったな~
「ね?だから貴女のところなら…」
そう言ってお姉さんは、チラリとティナのいる辺りを目線だけで見て、
「あの子がいる場所は、私にとっても居心地がいいの。」
素早く私の耳元に囁いた。え?!ティナが視えるの?!にこにこするエルフのお姉さんは、それ以上は何も言わない。むう。
「すっごい辺鄙なド田舎で、しかも貧乏だよ?路銀どころじゃないよ?」
それどころかたぶん、食うや食わずの日もあるよ?
「いいの、いいの!」
……いいんかい。半眼になる私に、エルフのお姉さんはうっそりと微笑んで、再び顔を寄せてきた。
「そ・れ・にぃ…私ならあの竜に乗った彼氏とぉ、もっと仲良くする方法も教えてあげられるわよ?」
意味ありげに私の左耳のイヤリングに触れてそんなことをのたまった。なにそれ。幼気な少女にアルを誑かす方法でも教えようとでもいうのですか。
「残念だけど、俺、男だよ?」
ロリエッタ侯爵たちには聞こえないように声を潜めて教えてあげた。すると、エルフのお姉さんは驚いたように目を見開いた後、おかしそうにクスクスと笑った。
「あらあら。男の子、なのね?彼氏とは前途多難ねぇ。私はエルフリーデよ。よ、ろ、し、く、ね?」
男の子、とわざとらしく強調するあたり、この人も私の本当の性別を見破っているのかよ。地味にヘコむな~。というか、何がどうあってもついてくるんだね。
こうして、エルフリーデさんはゴリ押しで旅の仲間に加わった。
◆◆◆
あんな化け物を見たというのに、イライジャさんは翌日にはケロリとして、またエレインに来ようなどと言っていた。どうやら、どさくさに紛れてロリエッタ侯爵含む数羽のカモと仲良くなることができたらしい。それに、エルフリーデさん――通称フリーデさんが旅の仲間に加わったしね。あれ以来、イライジャさんの鼻の下は伸びっぱなしだ。
「御者台にいらっしゃいませんか?ほら、上等な敷物もありますよぉ!」
「美味い酒が手に入ったんです。いかがです?私と一緒に…」
「この髪留め!貴女の金の御髪によく映える!お礼はハグでも口づけでも!」
……よくやるね。毎回フリーデさんの手のひらで転がされて、美味しいところだけ持っていかれているけど、イライジャさん、懲りない。
エレインの後は、また行商しながらモルゲンに帰る予定だ。なんだかんだあって、長閑な街道にはちらほらと春を告げる花々が咲き始めている。ウィリスに帰る頃には、春爛漫だろうか。
◆◆◆
オークション会場の廃墟に、その男は佇んでいた。建物を取り壊すことになったため、男――アーロンの周りを雇われた作業員たちが忙しく動き回っている。
「アレの正体に心当たりでも?」
アーロンに壮年の男性が話しかけた。靴まで隠れるほどの丈の長いローブを纏ったその男――宮廷魔術師のヴァンサンは、探るようにアーロンを見つめた。
「いいえ、」
アーロンはゆるゆるとヴァンサンに顔を向けた。なんの感情も読めない鉄壁の無表情。しかし、長年の付きあいから、アーロンの機嫌が悪くはないと察したヴァンサンは、薄い唇に仄かな笑みを浮かべた。まあ、いい。いずれアーロンの隠し事は明らかになるだろう。
「何か他に収穫でも?」
「エルフの間諜が、騒ぎに乗じて我が国に紛れこみました」
ヴァンサンの問いに、アーロンはため息一つを吐いて、あらかじめ用意していた情報を与えた。
「手引きした男は私が始末しましたが。トカゲの尻尾切りでしたね。エルフの檻はもぬけの空でした」
「グワルフですか」
「恐らく」
期待するようにヴァンサンはアーロンを見た。この男は野心家だが、国を盗る意志はない。国を生かしたまま、甘い汁を吸う――それがこの男、アーロン・フォン・ベイリンの理想とするところ。そのことをヴァンサンよく知っており、故にこの男がそれを脅かすモノ――敵国グワルフへの用心のためなら多少の労は厭わないということもまたよく知っている。つまり、グワルフの間諜が侵入したとあれば、命じずとも積極的にその行方を追い、彼らの企みを暴くだろう。
「エルフを買った者たちはリストアップしてありますが…相手はプロの間諜です。捕まえられるかどうかは貴方様の腕次第でしょう。」
エルフの名前と特徴を仔細に記したリストを受け取って、ヴァンサンはうっそりと笑った。ヴァンサンの腕次第、と言いながら、アーロンは既に数人の行き先を掴んでいるらしい。リストには走り書きで貴族の名前や地名が書き込まれていた。
「貴方の有能ぶりは賞賛に値します。私も期待を裏切らないよう精進するとしましょう。………それで?」
この男のことだ。情報はそれだけではあるまい。
「帝国の狗が探りを入れてきましたよ。」
つまらなそうに嘆息して、アーロンが答えた。
「縁談はまとまりましたかな?」
「さあ…あのご子息殿が成人されねば、なんとも?」
話をはぐらかしたアーロンにこれ以上聞いても無駄だろう。港を欲しがっているアーロンにとって、同じ湾を共有するアルスィルの貴族との縁は、喉から手が出るほど欲しいだろうとは、容易に想像がつく。しかし、安易に頷くのは賢くない。中央へもバランスよく媚びを売らねば、たちまち搾取される側になってしまうのだから。そんなところだろう。受け取ったリストを畳んで懐にしまい、ヴァンサンはアーロンに期待を込めた笑みを向けた。
「貴方には今後も期待していますよ?」
「それは、ありがたきお言葉」
アーロンも微かな笑みで応えた。目の前にいる宮廷魔術師は機嫌が良さそうだった。秀麗な面差しに、恍惚とした笑みが浮かぶ。
「ああ…実に美しい夜でした。かの詩人は地上が香しき萼ならば、唯一の月は雌蕊、光り輝く数多の星は雄蕊だと詠いました。あの夜も、人は皆孤独で、この部屋は悪魔で充ちていました。実に…魔道は暗澹として残虐、しかしてなんと美しく甘美なのか。そうは思いませんか?」
問いかけに、アーロンはただ微笑みのみを返した。彼を見送り、声が届かなくなったところで。
「サイラス……どこかで聞いたことのある名前ですねぇ」
口元に笑みをのせ、アーロンは独りごちた。
◆◆◆
「彼氏が乗っていたのはねぇ、飛竜っていうの。火竜とかと違って、小型で大人しい性格だから家畜化されてるわぁ。向こうでは割とポピュラーな乗り物よ」
荷馬車の中で、フリーデさんは勝手にそんなことを教えてくれる。
「ち~な~み~にぃ、火竜っていうのは伝説級の魔物でねぇ、こぉ~~んなに大っきくて、炎のブレスは小さな街一つくらいなら、一発で炭にしちゃうの!怖いでしょ?でも大丈夫!ここからず~~っと南にある国境近くの山脈に封印されているから、火竜が暴れることはないわ~。あっ、そうそう!彼氏はアルスィル帝国の貴族でもメドラウド公爵様ンチのお子様でぇ~」
「ふう~ん。じゃ、ますます縁がないな」
片やド田舎の貧乏代官の息子、片や隣国の公爵令息。そんないいとこのお子様がなんでウィリスの森をうろついていたのか知らないけどとりあえず。雲の上の人だね!人生交わらない!
「ンもう!ロマンがない子ねぇ。隣の領の男の子でしょ?魔除けのイヤリングまでプレゼントされちゃってぇ~」
このこの~、と楽しそうに私を小突いてくるフリーデさんの後から…
「サイラス君……別に人それぞれだけどさ。男色はそれなりに生きづらいよ?人生の先輩として、それだけ教えておくよ」
聖職者が教え諭すような口調で、イライジャさんが言った。
「違うよ?」
誰が男色だ。そーゆー関係じゃないから!
「あたしは応援してるわよぉ~」
「しなくていいから!」
「いやだぁ、照れちゃってぇ~。あ、その魔除けのイヤリングってとっても貴重品なのよぉ~?魔石に特別な呪印を刻んであってぇ~、そのイヤリングを付けている者をあらゆる魔法から守ってくれるの!精神魔法まではね返すモノはそうは手に入らないのよ?ムフフフフ……坊やもなかなかやるわねぇ~」
グフフ、と美貌が台無しな笑みを浮かべ、フリーデさんはニヤニヤした。フン。でも、こちとら中身はアラサーなんだよ。アルなんて私からしたらお子様だもん、坊やだもんねー!!
え?アラサーのおばさん?……そ、そう言われるとなんか悲しくなるぅ…。
おふざけはこの辺にして。
「何が目的なの?フリーデさん、この国の人じゃないよね?」
エルフリーデ、という名前は外国の名前だ。なんとなくだけど、それくらいは察せられるよ。
「森に何の用?」
ウィリス村代官の息子として、湖の契約者として、これだけは確認しなければ。良からぬことを考えているなら、ダライアスに突き出すからね。私が声音を変えたのをどうとらえたのか、フリーデさんはフフッと感情の読めない笑みを浮かべた。
「そんな怖い顔しなくても大丈夫よぉ。今のところ、帝国に喧嘩を売るつもりはな・い・か・ら♡」
隠していることを話す気はないらしい。
「森に争いをもたらすなら…俺は容赦しないよ。覚えておいて」
王国兵みたいに森を刺激すれば、私の大切な家族が、村が喰われるから。「まあ、怖~い」とおどけるフリーデさんだけど、私は本気だよ。あの夜まざまざと見せつけられたから。私はもう、平和な国の日本人じゃないんだ。
「でも私、お金持ちのお嬢様じゃないよ?」
これ、ある種のコスプレだし。中身は貧乏ド田舎村の代官の息子だしね。残念ながら、遠くに運んだ挙げ句お給金なんて出せる余裕は今ウチにはないし。
「イライジャさんに雇ってもらえば?」
私の横で鼻を伸ばしっぱなしのオッサンを指し示すと、エルフのお姉さんは嫌そうに眉をひそめた。
「商人はちょっと…」
そっか。売られたんだもんね。そりゃ嫌か。でも困ったな~
「ね?だから貴女のところなら…」
そう言ってお姉さんは、チラリとティナのいる辺りを目線だけで見て、
「あの子がいる場所は、私にとっても居心地がいいの。」
素早く私の耳元に囁いた。え?!ティナが視えるの?!にこにこするエルフのお姉さんは、それ以上は何も言わない。むう。
「すっごい辺鄙なド田舎で、しかも貧乏だよ?路銀どころじゃないよ?」
それどころかたぶん、食うや食わずの日もあるよ?
「いいの、いいの!」
……いいんかい。半眼になる私に、エルフのお姉さんはうっそりと微笑んで、再び顔を寄せてきた。
「そ・れ・にぃ…私ならあの竜に乗った彼氏とぉ、もっと仲良くする方法も教えてあげられるわよ?」
意味ありげに私の左耳のイヤリングに触れてそんなことをのたまった。なにそれ。幼気な少女にアルを誑かす方法でも教えようとでもいうのですか。
「残念だけど、俺、男だよ?」
ロリエッタ侯爵たちには聞こえないように声を潜めて教えてあげた。すると、エルフのお姉さんは驚いたように目を見開いた後、おかしそうにクスクスと笑った。
「あらあら。男の子、なのね?彼氏とは前途多難ねぇ。私はエルフリーデよ。よ、ろ、し、く、ね?」
男の子、とわざとらしく強調するあたり、この人も私の本当の性別を見破っているのかよ。地味にヘコむな~。というか、何がどうあってもついてくるんだね。
こうして、エルフリーデさんはゴリ押しで旅の仲間に加わった。
◆◆◆
あんな化け物を見たというのに、イライジャさんは翌日にはケロリとして、またエレインに来ようなどと言っていた。どうやら、どさくさに紛れてロリエッタ侯爵含む数羽のカモと仲良くなることができたらしい。それに、エルフリーデさん――通称フリーデさんが旅の仲間に加わったしね。あれ以来、イライジャさんの鼻の下は伸びっぱなしだ。
「御者台にいらっしゃいませんか?ほら、上等な敷物もありますよぉ!」
「美味い酒が手に入ったんです。いかがです?私と一緒に…」
「この髪留め!貴女の金の御髪によく映える!お礼はハグでも口づけでも!」
……よくやるね。毎回フリーデさんの手のひらで転がされて、美味しいところだけ持っていかれているけど、イライジャさん、懲りない。
エレインの後は、また行商しながらモルゲンに帰る予定だ。なんだかんだあって、長閑な街道にはちらほらと春を告げる花々が咲き始めている。ウィリスに帰る頃には、春爛漫だろうか。
◆◆◆
オークション会場の廃墟に、その男は佇んでいた。建物を取り壊すことになったため、男――アーロンの周りを雇われた作業員たちが忙しく動き回っている。
「アレの正体に心当たりでも?」
アーロンに壮年の男性が話しかけた。靴まで隠れるほどの丈の長いローブを纏ったその男――宮廷魔術師のヴァンサンは、探るようにアーロンを見つめた。
「いいえ、」
アーロンはゆるゆるとヴァンサンに顔を向けた。なんの感情も読めない鉄壁の無表情。しかし、長年の付きあいから、アーロンの機嫌が悪くはないと察したヴァンサンは、薄い唇に仄かな笑みを浮かべた。まあ、いい。いずれアーロンの隠し事は明らかになるだろう。
「何か他に収穫でも?」
「エルフの間諜が、騒ぎに乗じて我が国に紛れこみました」
ヴァンサンの問いに、アーロンはため息一つを吐いて、あらかじめ用意していた情報を与えた。
「手引きした男は私が始末しましたが。トカゲの尻尾切りでしたね。エルフの檻はもぬけの空でした」
「グワルフですか」
「恐らく」
期待するようにヴァンサンはアーロンを見た。この男は野心家だが、国を盗る意志はない。国を生かしたまま、甘い汁を吸う――それがこの男、アーロン・フォン・ベイリンの理想とするところ。そのことをヴァンサンよく知っており、故にこの男がそれを脅かすモノ――敵国グワルフへの用心のためなら多少の労は厭わないということもまたよく知っている。つまり、グワルフの間諜が侵入したとあれば、命じずとも積極的にその行方を追い、彼らの企みを暴くだろう。
「エルフを買った者たちはリストアップしてありますが…相手はプロの間諜です。捕まえられるかどうかは貴方様の腕次第でしょう。」
エルフの名前と特徴を仔細に記したリストを受け取って、ヴァンサンはうっそりと笑った。ヴァンサンの腕次第、と言いながら、アーロンは既に数人の行き先を掴んでいるらしい。リストには走り書きで貴族の名前や地名が書き込まれていた。
「貴方の有能ぶりは賞賛に値します。私も期待を裏切らないよう精進するとしましょう。………それで?」
この男のことだ。情報はそれだけではあるまい。
「帝国の狗が探りを入れてきましたよ。」
つまらなそうに嘆息して、アーロンが答えた。
「縁談はまとまりましたかな?」
「さあ…あのご子息殿が成人されねば、なんとも?」
話をはぐらかしたアーロンにこれ以上聞いても無駄だろう。港を欲しがっているアーロンにとって、同じ湾を共有するアルスィルの貴族との縁は、喉から手が出るほど欲しいだろうとは、容易に想像がつく。しかし、安易に頷くのは賢くない。中央へもバランスよく媚びを売らねば、たちまち搾取される側になってしまうのだから。そんなところだろう。受け取ったリストを畳んで懐にしまい、ヴァンサンはアーロンに期待を込めた笑みを向けた。
「貴方には今後も期待していますよ?」
「それは、ありがたきお言葉」
アーロンも微かな笑みで応えた。目の前にいる宮廷魔術師は機嫌が良さそうだった。秀麗な面差しに、恍惚とした笑みが浮かぶ。
「ああ…実に美しい夜でした。かの詩人は地上が香しき萼ならば、唯一の月は雌蕊、光り輝く数多の星は雄蕊だと詠いました。あの夜も、人は皆孤独で、この部屋は悪魔で充ちていました。実に…魔道は暗澹として残虐、しかしてなんと美しく甘美なのか。そうは思いませんか?」
問いかけに、アーロンはただ微笑みのみを返した。彼を見送り、声が届かなくなったところで。
「サイラス……どこかで聞いたことのある名前ですねぇ」
口元に笑みをのせ、アーロンは独りごちた。
◆◆◆
「彼氏が乗っていたのはねぇ、飛竜っていうの。火竜とかと違って、小型で大人しい性格だから家畜化されてるわぁ。向こうでは割とポピュラーな乗り物よ」
荷馬車の中で、フリーデさんは勝手にそんなことを教えてくれる。
「ち~な~み~にぃ、火竜っていうのは伝説級の魔物でねぇ、こぉ~~んなに大っきくて、炎のブレスは小さな街一つくらいなら、一発で炭にしちゃうの!怖いでしょ?でも大丈夫!ここからず~~っと南にある国境近くの山脈に封印されているから、火竜が暴れることはないわ~。あっ、そうそう!彼氏はアルスィル帝国の貴族でもメドラウド公爵様ンチのお子様でぇ~」
「ふう~ん。じゃ、ますます縁がないな」
片やド田舎の貧乏代官の息子、片や隣国の公爵令息。そんないいとこのお子様がなんでウィリスの森をうろついていたのか知らないけどとりあえず。雲の上の人だね!人生交わらない!
「ンもう!ロマンがない子ねぇ。隣の領の男の子でしょ?魔除けのイヤリングまでプレゼントされちゃってぇ~」
このこの~、と楽しそうに私を小突いてくるフリーデさんの後から…
「サイラス君……別に人それぞれだけどさ。男色はそれなりに生きづらいよ?人生の先輩として、それだけ教えておくよ」
聖職者が教え諭すような口調で、イライジャさんが言った。
「違うよ?」
誰が男色だ。そーゆー関係じゃないから!
「あたしは応援してるわよぉ~」
「しなくていいから!」
「いやだぁ、照れちゃってぇ~。あ、その魔除けのイヤリングってとっても貴重品なのよぉ~?魔石に特別な呪印を刻んであってぇ~、そのイヤリングを付けている者をあらゆる魔法から守ってくれるの!精神魔法まではね返すモノはそうは手に入らないのよ?ムフフフフ……坊やもなかなかやるわねぇ~」
グフフ、と美貌が台無しな笑みを浮かべ、フリーデさんはニヤニヤした。フン。でも、こちとら中身はアラサーなんだよ。アルなんて私からしたらお子様だもん、坊やだもんねー!!
え?アラサーのおばさん?……そ、そう言われるとなんか悲しくなるぅ…。
おふざけはこの辺にして。
「何が目的なの?フリーデさん、この国の人じゃないよね?」
エルフリーデ、という名前は外国の名前だ。なんとなくだけど、それくらいは察せられるよ。
「森に何の用?」
ウィリス村代官の息子として、湖の契約者として、これだけは確認しなければ。良からぬことを考えているなら、ダライアスに突き出すからね。私が声音を変えたのをどうとらえたのか、フリーデさんはフフッと感情の読めない笑みを浮かべた。
「そんな怖い顔しなくても大丈夫よぉ。今のところ、帝国に喧嘩を売るつもりはな・い・か・ら♡」
隠していることを話す気はないらしい。
「森に争いをもたらすなら…俺は容赦しないよ。覚えておいて」
王国兵みたいに森を刺激すれば、私の大切な家族が、村が喰われるから。「まあ、怖~い」とおどけるフリーデさんだけど、私は本気だよ。あの夜まざまざと見せつけられたから。私はもう、平和な国の日本人じゃないんだ。
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