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幼少期編
07 紙を作ろう
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「フッ!フッ!フッ!」
今やっていること。それは紙作り。
腐り花を釣る時に使った繊維質の小枝を、シェリルとメリッサおばさんを拝み倒して蒸して皮を剥いで、乾燥させ、水に晒して、大鍋を借りて灰と一緒にグツグツ煮て柔らかくする――村のおばさんたちに白い目で見られながらの作業だった。そしてまたそれを丁寧に洗って灰を落とし、そこら辺にあった石でひたすら叩いている。叩解という作業だ。
腐り花にやられてから、森へ行くことを禁じられた。リベンジしに一人でこっそり森に入ったのを運悪く樵のテオに見つかった、というのもある。賄賂に釣り上げた腐り花を差し出したが、通用しなかった。もちろん釣り上げた腐り花はすべて没収。
もうっ。せっかくこの村を豊かにしようと思ったのにぃ~。言っておくけど、乱獲はしてないからね?ダドリーに聞いて、一株でも残しとけば群生が復活することは確認済みだ。取り尽くしてはいない。
腐り花を採りに行ったことについては、義両親から滔々と説教をされた。なんでも、アレが生えていることによって、森の獣どもが適度に殺されるため、群生は温存せねばならないのだという。乱獲して腐り花の数が減ると、その分増えてしまった獣どもが、食べ物を求めて村の畑を荒らす。あのキモ花は、村にとって必要なモノなのだ。そこは理解した。
でもさ、それならキモ花を栽培して家畜(?)化しちゃえば問題なくね?聞いてみたけど、アイザックたちはそんなことを考えたこともないらしい。弱っちくて阿呆なキモ花だけど、危険物は危険物。栽培しようとか思わなかったんだろうな。まあ、コレについては攻略した私が追々調べてみるとしよう。森に出禁になったくらいで、アレをお金に換えることを諦める私ではない。
腐り花のことは置いておいて。まずはできることから始めようと考えた。そこで目をつけたのが、腐り花を釣る時に使った繊維質の木。この木は、森の入り口にもたくさん生えている。しかも繁茂力旺盛。だから、今度はそれをお金に換えようと思ったわけね。紙って繊維質の植物だったら何でだって作れるし。別に楮や三椏じゃなくてもいいんだよ。もっと言えば襤褸布でだって作れるのだ。コットンペーパーって聞いたことないかな?
「フッ!フッ!フッ!」
…ハァ。さすがにキッツいわ。叩解は、植物の繊維をほぐす作業だ。繊維を叩きに叩いて綿みたいな状態にする。たぶん紙作りで一番しんどい作業。私が叩きはじめて、だいぶ原形が崩れてきたけど、まだまだ綿というにはほど遠い。
ちなみに、昔のヨーロッパでは水車とかの動力を使ってこの作業をやっていた。現代日本ではビーターっていう金属の刃がぐるぐる回る機械にお任せ。もちろん、ウィリス村にそんな便利なモノがあるはずもなく。オール手動、人力だ。
「まだそれで遊んでいるの?よく飽きないわね、サイラスは。」
私の手元をのぞきこんだシェリルが、呆れた眼差しを寄越した。仲良くなってわかったけど、シェリルんちは代々が糸紡ぎだったらしい。過去形なのは、それがシェリルの婆さんの代で途絶えているからだ。理由は知らない。そんなシェリルは、今も私の隣でせっせと縫い物をしている。年下のお守りをしながらお手伝い、という画だ。
「これは遊んでいるんじゃない。紙を作ってるんだ。」
「……はあ。」
困った子を見るように眉をハの字にするシェリル。まあ、この子たちからしたら未知のモノを作ってるのだから、今の作業に理解が得られるなんて思っていない。止められないだけマシってものだ。
「まあ見てろって。」
こう言うしかない。
そしてまた、地味な作業を続ける。これ、ずっと続けてたら腕が筋肉ムキムキになるんじゃないかな…。五歳児がいきなりマッチョメンになるとは思えないけど……女子としてはちょっと複雑な気分。腹筋割れてて腕もムキムキな幼児。ビミョーだ。まあ…まだ女らしい体型になるには軽くあと十年はかかるだろうし、今気にすることでもないか。
「フッ!フッ!フッ!」
無心に作業を続けてたら、今度はリチャードがやってきた。
国民皆学な日本と違って、異世界の貧乏ウィリス村に学校なんてないし、子供は勉強するものって考えがそもそもない。みんな等しくチビ、ガキンチョ。勉強の代わりに、生活に必要な技術や知恵をお手伝いを通じて学ぶ。強いて言えばそれがこっちでいう『勉強』かな。
ちなみにリチャードは、狩人の息子だ。ダドリーもそう。
「何やってんの?おまえ。」
金髪を揺らし、興味津々で私の手元をのぞきこむリチャード――この子は脳筋だ。よし、手伝わせよう。私はこう答えた。
「鍛えてるんだ。腕を。」
目を輝かせるリチャード。釣れた。チョロいね!隣からシェリルが、残念なものを見る目を向けてくるが、気にしない。
「筋肉のためだ。やるか?」
「やる!」
いそいそと石を探しにいくリチャード。そして、阿呆な子供二人がひたすら植物を叩く図ができあがった。
紙――和紙を作るには、この叩きのめして繊維がほぐれて綿状になったものを、水とネリという粘剤と混ぜて、そこからいよいよ紙漉きの工程に入る。その先は想像がつくだろう。なんで詳しいか?『私』が小学生の頃、夏休みの自由研究で紙作りに挑戦したからである。手近にあった材料と道具――祖父ちゃんの盆栽を犠牲にし(代償:拳骨とおやつ抜き)母さん愛用の巻き簀を拝借(→魔改造して元に戻せなくなり特大の雷を落とされた)――で頑張って、宿題は満点をもらった。ちなみに、材料が悪かったのか、紙の出来はイマイチだった。けど、苦労しただけあって、転生しても製造工程の細かいところまで覚えているのだ。人生、何が幸いするかわからないね。
そして労働力が二倍になった結果、私はなんとか小枝の繊維を綿状にすることができた。井戸から水を汲み、盥に移して例の綿状にした植物繊維を加え、ここで和紙ならネリという粘剤を加える。前世ではトロロアオイという植物が原料だが、ダドリーに聞いた限り、そんな植物はないとのこと。つまり村では手に入らない。
粘剤は、ざっくり説明すると、水に粘り気を与えることで水中に繊維を均等に分散させ、漉き船(今回は盥)の底に沈殿しにくくし、また粘り気は漉き簀から水分が滴り落ちるスピードを緩やかにする――つまり紙漉きのあの揺り動かす時間(揺り動かして繊維同士をよく絡ませるんだね)を作ってくれるから、強靱な紙ができあがる。和紙の簡単に破れないあの強さは、このネリのおかげなのだ。
けど、別に粘剤がなくても紙は作れる。繊維を絡ませるんじゃなく、くっつける。接着剤代わりになる澱粉とかがあればいい。今回はとりあえずソレでいく。澱粉――糊は、村で手に入る植物の根っこを原料にしたものだ。シェリルに頼んで糊液を少し分けて貰っている。それも盥に入れて混ぜ混ぜして、テオを拝み倒して五つくらい作ってもらった、底を細かい網目にした木枠に流し込み、自然に脱水するのを待つ――溜め漉きである。流し漉きはネリがない内はできない。ネリの代用品はそのうち探すとして……ある程度脱水できたら枠から外して、くっつかないように間に襤褸布……は分けてくれなかったので、大きな葉っぱを挟んで重ね、重石を乗せてプレスして水気を絞る。とりあえず集められるだけの石をのっけてひと晩放置した。で、翌朝、慎重に一枚一枚剥がして、平らな板……はなかったので葉っぱの上に広げて天日に干して、ようやく試作第一号の紙が完成した。
うわぁ。達・成・感!!
努力の結晶である。よくやった!私!
……とはいえ、いきなり上手くいくはずはなく。まず、あんっっだけ叩きまくったのに十分ではなかったらしく、なんかボコボコしているし、細かい不純物も入っている。チリ入りも味わいがあっていいけど、それ以前の問題だね~これは。やっぱり叩くための平らな台が欲しい。乾燥に葉っぱを使ったせいか、平らな面になっていないし、はっきり言ってうねうねと歪んでいる。丹念に表皮を剥いだ甲斐あって、色が白に近いのはよかったけど、強度はまちまちだ。軽く折り曲げようとしただけで、崩れるように破れる失敗作もあるし、実用レベルにはほど遠い。試し書きもやってみたいけど、紙を使わない村にインクがあるとは思えない。ともかく、まだまだ改善の余地ありだ。めげずに再挑戦するとしよう!
初挑戦以来、空き時間のほとんどを紙作りに費やし、試行錯誤を繰り返した結果、なんとか紙っぽいものが作れるようになった。一応、折り曲げても崩れないし、厚さもほぼ均等。穴があく失敗も減った。
いや~、長い道のりだったよ。何せ道具類――材料の配合率を変えようにも計量カップすらない――をイチから作らなければいけなかったので、大変苦労した。五歳児の不器用さと無力さを舐めてはいけない。紙作りに初挑戦したのが夏で、道具らしき道具が揃った時点で冬の初め。そこから手が悴むのも構わず紙作りに明け暮れ、気づいたら冬が終わろうとしていた。
紙作りの道具は、竹みたいな中が空洞で節のある木をテオに頼んで切ってもらい、ヤスリでちまちま削って形を整え、内側に目盛りを刻んだだけの計量カップを自作。平らな板はおばさんたちに頼みこんで使い古しのまな板を譲ってもらった。
一番傷みやすい漉き簀(網)は、幸運なことに一度も壊れていない。アレがポシャってたらヤバかった。何せあれは前世でもベテランの職人さんが茅とかを絹糸で編んで作っていたのだ。素人、それも五歳児に再現できるわけがない。作ってくれたテオに感謝である。
困ったのは、配合量とかの実験結果を記録できないこと。木の枝で地面に書いたメモ(※日本語)はすぐに消えちゃうし。それ以前に雨や雪なんか降ればパアだ。筆記用具がないと、全部頭で覚えとかなきゃいけない。紙とインクは偉大だと痛感したね。
出来上がった紙は、今のところメリッサおばさんが乾燥させた薬草を包むのに使っている。木枠が葉書サイズだし、インクないし。包み紙以外の使い道がないのだ。まあ、売り出すのはもうちょっとマシなものができてからにするつもりだけど。
厳寒の森でも、小さくて地味な雑草花ならちょこちょこと咲いている。それをいくつか摘んだ。ついでに形と色の違う雑草の葉も。素朴な野の花を押し花にして漉きこもうと思うのだ。気晴らしに。一応、こんなんだけど女子だもの。可愛いものにはそれなりに興味がある。
今やっていること。それは紙作り。
腐り花を釣る時に使った繊維質の小枝を、シェリルとメリッサおばさんを拝み倒して蒸して皮を剥いで、乾燥させ、水に晒して、大鍋を借りて灰と一緒にグツグツ煮て柔らかくする――村のおばさんたちに白い目で見られながらの作業だった。そしてまたそれを丁寧に洗って灰を落とし、そこら辺にあった石でひたすら叩いている。叩解という作業だ。
腐り花にやられてから、森へ行くことを禁じられた。リベンジしに一人でこっそり森に入ったのを運悪く樵のテオに見つかった、というのもある。賄賂に釣り上げた腐り花を差し出したが、通用しなかった。もちろん釣り上げた腐り花はすべて没収。
もうっ。せっかくこの村を豊かにしようと思ったのにぃ~。言っておくけど、乱獲はしてないからね?ダドリーに聞いて、一株でも残しとけば群生が復活することは確認済みだ。取り尽くしてはいない。
腐り花を採りに行ったことについては、義両親から滔々と説教をされた。なんでも、アレが生えていることによって、森の獣どもが適度に殺されるため、群生は温存せねばならないのだという。乱獲して腐り花の数が減ると、その分増えてしまった獣どもが、食べ物を求めて村の畑を荒らす。あのキモ花は、村にとって必要なモノなのだ。そこは理解した。
でもさ、それならキモ花を栽培して家畜(?)化しちゃえば問題なくね?聞いてみたけど、アイザックたちはそんなことを考えたこともないらしい。弱っちくて阿呆なキモ花だけど、危険物は危険物。栽培しようとか思わなかったんだろうな。まあ、コレについては攻略した私が追々調べてみるとしよう。森に出禁になったくらいで、アレをお金に換えることを諦める私ではない。
腐り花のことは置いておいて。まずはできることから始めようと考えた。そこで目をつけたのが、腐り花を釣る時に使った繊維質の木。この木は、森の入り口にもたくさん生えている。しかも繁茂力旺盛。だから、今度はそれをお金に換えようと思ったわけね。紙って繊維質の植物だったら何でだって作れるし。別に楮や三椏じゃなくてもいいんだよ。もっと言えば襤褸布でだって作れるのだ。コットンペーパーって聞いたことないかな?
「フッ!フッ!フッ!」
…ハァ。さすがにキッツいわ。叩解は、植物の繊維をほぐす作業だ。繊維を叩きに叩いて綿みたいな状態にする。たぶん紙作りで一番しんどい作業。私が叩きはじめて、だいぶ原形が崩れてきたけど、まだまだ綿というにはほど遠い。
ちなみに、昔のヨーロッパでは水車とかの動力を使ってこの作業をやっていた。現代日本ではビーターっていう金属の刃がぐるぐる回る機械にお任せ。もちろん、ウィリス村にそんな便利なモノがあるはずもなく。オール手動、人力だ。
「まだそれで遊んでいるの?よく飽きないわね、サイラスは。」
私の手元をのぞきこんだシェリルが、呆れた眼差しを寄越した。仲良くなってわかったけど、シェリルんちは代々が糸紡ぎだったらしい。過去形なのは、それがシェリルの婆さんの代で途絶えているからだ。理由は知らない。そんなシェリルは、今も私の隣でせっせと縫い物をしている。年下のお守りをしながらお手伝い、という画だ。
「これは遊んでいるんじゃない。紙を作ってるんだ。」
「……はあ。」
困った子を見るように眉をハの字にするシェリル。まあ、この子たちからしたら未知のモノを作ってるのだから、今の作業に理解が得られるなんて思っていない。止められないだけマシってものだ。
「まあ見てろって。」
こう言うしかない。
そしてまた、地味な作業を続ける。これ、ずっと続けてたら腕が筋肉ムキムキになるんじゃないかな…。五歳児がいきなりマッチョメンになるとは思えないけど……女子としてはちょっと複雑な気分。腹筋割れてて腕もムキムキな幼児。ビミョーだ。まあ…まだ女らしい体型になるには軽くあと十年はかかるだろうし、今気にすることでもないか。
「フッ!フッ!フッ!」
無心に作業を続けてたら、今度はリチャードがやってきた。
国民皆学な日本と違って、異世界の貧乏ウィリス村に学校なんてないし、子供は勉強するものって考えがそもそもない。みんな等しくチビ、ガキンチョ。勉強の代わりに、生活に必要な技術や知恵をお手伝いを通じて学ぶ。強いて言えばそれがこっちでいう『勉強』かな。
ちなみにリチャードは、狩人の息子だ。ダドリーもそう。
「何やってんの?おまえ。」
金髪を揺らし、興味津々で私の手元をのぞきこむリチャード――この子は脳筋だ。よし、手伝わせよう。私はこう答えた。
「鍛えてるんだ。腕を。」
目を輝かせるリチャード。釣れた。チョロいね!隣からシェリルが、残念なものを見る目を向けてくるが、気にしない。
「筋肉のためだ。やるか?」
「やる!」
いそいそと石を探しにいくリチャード。そして、阿呆な子供二人がひたすら植物を叩く図ができあがった。
紙――和紙を作るには、この叩きのめして繊維がほぐれて綿状になったものを、水とネリという粘剤と混ぜて、そこからいよいよ紙漉きの工程に入る。その先は想像がつくだろう。なんで詳しいか?『私』が小学生の頃、夏休みの自由研究で紙作りに挑戦したからである。手近にあった材料と道具――祖父ちゃんの盆栽を犠牲にし(代償:拳骨とおやつ抜き)母さん愛用の巻き簀を拝借(→魔改造して元に戻せなくなり特大の雷を落とされた)――で頑張って、宿題は満点をもらった。ちなみに、材料が悪かったのか、紙の出来はイマイチだった。けど、苦労しただけあって、転生しても製造工程の細かいところまで覚えているのだ。人生、何が幸いするかわからないね。
そして労働力が二倍になった結果、私はなんとか小枝の繊維を綿状にすることができた。井戸から水を汲み、盥に移して例の綿状にした植物繊維を加え、ここで和紙ならネリという粘剤を加える。前世ではトロロアオイという植物が原料だが、ダドリーに聞いた限り、そんな植物はないとのこと。つまり村では手に入らない。
粘剤は、ざっくり説明すると、水に粘り気を与えることで水中に繊維を均等に分散させ、漉き船(今回は盥)の底に沈殿しにくくし、また粘り気は漉き簀から水分が滴り落ちるスピードを緩やかにする――つまり紙漉きのあの揺り動かす時間(揺り動かして繊維同士をよく絡ませるんだね)を作ってくれるから、強靱な紙ができあがる。和紙の簡単に破れないあの強さは、このネリのおかげなのだ。
けど、別に粘剤がなくても紙は作れる。繊維を絡ませるんじゃなく、くっつける。接着剤代わりになる澱粉とかがあればいい。今回はとりあえずソレでいく。澱粉――糊は、村で手に入る植物の根っこを原料にしたものだ。シェリルに頼んで糊液を少し分けて貰っている。それも盥に入れて混ぜ混ぜして、テオを拝み倒して五つくらい作ってもらった、底を細かい網目にした木枠に流し込み、自然に脱水するのを待つ――溜め漉きである。流し漉きはネリがない内はできない。ネリの代用品はそのうち探すとして……ある程度脱水できたら枠から外して、くっつかないように間に襤褸布……は分けてくれなかったので、大きな葉っぱを挟んで重ね、重石を乗せてプレスして水気を絞る。とりあえず集められるだけの石をのっけてひと晩放置した。で、翌朝、慎重に一枚一枚剥がして、平らな板……はなかったので葉っぱの上に広げて天日に干して、ようやく試作第一号の紙が完成した。
うわぁ。達・成・感!!
努力の結晶である。よくやった!私!
……とはいえ、いきなり上手くいくはずはなく。まず、あんっっだけ叩きまくったのに十分ではなかったらしく、なんかボコボコしているし、細かい不純物も入っている。チリ入りも味わいがあっていいけど、それ以前の問題だね~これは。やっぱり叩くための平らな台が欲しい。乾燥に葉っぱを使ったせいか、平らな面になっていないし、はっきり言ってうねうねと歪んでいる。丹念に表皮を剥いだ甲斐あって、色が白に近いのはよかったけど、強度はまちまちだ。軽く折り曲げようとしただけで、崩れるように破れる失敗作もあるし、実用レベルにはほど遠い。試し書きもやってみたいけど、紙を使わない村にインクがあるとは思えない。ともかく、まだまだ改善の余地ありだ。めげずに再挑戦するとしよう!
初挑戦以来、空き時間のほとんどを紙作りに費やし、試行錯誤を繰り返した結果、なんとか紙っぽいものが作れるようになった。一応、折り曲げても崩れないし、厚さもほぼ均等。穴があく失敗も減った。
いや~、長い道のりだったよ。何せ道具類――材料の配合率を変えようにも計量カップすらない――をイチから作らなければいけなかったので、大変苦労した。五歳児の不器用さと無力さを舐めてはいけない。紙作りに初挑戦したのが夏で、道具らしき道具が揃った時点で冬の初め。そこから手が悴むのも構わず紙作りに明け暮れ、気づいたら冬が終わろうとしていた。
紙作りの道具は、竹みたいな中が空洞で節のある木をテオに頼んで切ってもらい、ヤスリでちまちま削って形を整え、内側に目盛りを刻んだだけの計量カップを自作。平らな板はおばさんたちに頼みこんで使い古しのまな板を譲ってもらった。
一番傷みやすい漉き簀(網)は、幸運なことに一度も壊れていない。アレがポシャってたらヤバかった。何せあれは前世でもベテランの職人さんが茅とかを絹糸で編んで作っていたのだ。素人、それも五歳児に再現できるわけがない。作ってくれたテオに感謝である。
困ったのは、配合量とかの実験結果を記録できないこと。木の枝で地面に書いたメモ(※日本語)はすぐに消えちゃうし。それ以前に雨や雪なんか降ればパアだ。筆記用具がないと、全部頭で覚えとかなきゃいけない。紙とインクは偉大だと痛感したね。
出来上がった紙は、今のところメリッサおばさんが乾燥させた薬草を包むのに使っている。木枠が葉書サイズだし、インクないし。包み紙以外の使い道がないのだ。まあ、売り出すのはもうちょっとマシなものができてからにするつもりだけど。
厳寒の森でも、小さくて地味な雑草花ならちょこちょこと咲いている。それをいくつか摘んだ。ついでに形と色の違う雑草の葉も。素朴な野の花を押し花にして漉きこもうと思うのだ。気晴らしに。一応、こんなんだけど女子だもの。可愛いものにはそれなりに興味がある。
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