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幼少期編
05 新入りの子供◇ダドリー目線◇
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始まりは、シェリルの相談だった。なんでも婆さんの具合が悪いという。年寄りだから、ちょっとした風邪も長引くのだ。それが心配らしい。
「とっても苦しそうな咳をするの。ねえダドリー、シロトリコケって森に行けばあるの?」
シロトリコケは薬草。婆さん曰く、咳に効くらしい。薬草摘みの時期になったら手に入るだろう、と婆さんは言っているのだが、シェリルはそれまで待つのが不安だという。ここ数日、婆さんは風邪が悪化して起き上がれなくなったからだ。それで、村の子供たちにシロトリコケの備蓄がないか聞いてまわっているらしい。皆から無いと言われて泣きそうなシェリルに、協力しないなんて薄情はできなかった。
信頼できる仲間、リチャードに声をかけ、ダドリーは大人の目を盗んで森へシロトリコケを採りに行く計画を立てた。途中、サイラスが茶々を入れてきたが、無視して人の目の少ない早朝、計画を実行した。
朝早く起きられないと踏んでいたサイラスがついてきたが、構わず森に入った。薬草摘みの場所は、森の入り口近くだし、危ない道を通るわけでもない。騒がずついてくるだけなら、無害だと判断した。今思えば、説得してでも家に帰すべきだったよな…
広場に到着して、湖の縁は足場が悪いからついてくるなと言えば、サイラスは不服そうな顔をしたものの、文句も言わず従った。もっとゴネると思ったのに意外だった。念のため獣寄せを渡して使い方を教えると、なんでかダドリーの分はあるのかと聞いてきた。まあ、自分たちの方が森のことは知っているし、リチャードが張りきって親父さんの短剣をくすねてきてある。ダドリー自身も催涙効果のある粉を携帯している上、獣からの逃げ方も知っている。獣寄せがなくともどうってことないのだが、いちいちそれを説明するのも面倒で黙っていると、なぜかサイラスは「バレたら自分のせいにしろ」と言った。胸張って。
……変なヤツだ。しかも、バレたときの言い訳ってのがいやに説得力があって…一瞬、「おまえいくつだよ?」と思ってしまった。まあ、気にしないでおこうと、ダドリーはリチャードたちの後を追った。
◆◆◆
「……ないね。」
「もう少し探すか?」
結局、目当てのシロトリコケは見つからなかった。なんとなくだけど、時期が早かったんだと思う。薬草摘みの季節は秋に入る前だし。春先の今生えていないのも当然かもしれない。
「戻ろう。つきあわせて、ごめん。」
シェリルが項垂れた。その肩をリチャードがたたく。
「なんだよ。気にするな。」
引き際は大切だ。村の掟を破ったら、親にも迷惑がかかる。皆が起きる時間までに戻らなければ。それに…勝手についてきたサイラスをいつまでも放置ってワケにもいかないしな。年下のお守りは年長の者の役目だ。
広場に戻ってくると、サイラスの姿が消えていた。慌てて辺りを見回すと……いた。茂みに隠れるようにしゃがみこんでいる。
…………糞か?
いや、ズボン履いてるし、糞じゃないな。女みたいなしゃがみ方して……ああそっちか?まあ、まだチビだしな、アイツ。立ってできないんだろう。待っててやるかと後ろの二人に声をかけようとしたら、サイラスが急に立ち上がった。そしてピンクの何かが目の前を横切って…
「うわっ!」
「キャーッ」
「げっ!?」
その正体を確かめた途端、俺たちは腰を抜かしそうになった。揺れるピンクの人面花、もとい腐り花。グラートンのような大きな獣も蔓を絡めて絞め殺し、腐らせて自らの栄養にしてしまうことからそう呼ばれている、魔草。そう、植物の魔物だ。そんな化け物を釣り上げて得意そうにしているサイラス。おまえ、絶対わかってないだろう!そいつは危険だ!
けど、俺たちが注意したときには遅かった。細い蔓が何本もサイラスの両足に絡まり、あっという間に地に倒されるサイラス。ワケがわからず暴れるサイラスの身体に次々と細い蔓が襲いかかり、絞めあげる。
腐り花の恐ろしいところは、複数の株が連携して獲物を捕らえるところだ。個々では弱くとも、数株が連携してグラートンのような大型魔獣でも倒してしまう。なりは小さくても、コイツらの絞める力は強い。大人でも素手では振りほどけないから、森でピンク色の群生を見つけたら近づかないのが鉄則なのだ。
「クソッ!リチャード!」
斬れ!と叫ぶと既に短剣を抜いたリチャードが巻きつく蔓をぶった斬る。
「うおおお!喰らえぇキモ花どもぉお!」
サイラスから注意を逸らすため、腐り花本体も斬りつけ、絡まれないよう短剣を振り回すリチャードの後ろで、ダドリーはシェリルと共にサイラスの足を引っ張って群生地から遠ざける。夢中で助けたが、突然のことに狼狽えて手間取り、ようやく助けたサイラスの肌は死人のように青白く、既に意識はなかった。
「リチャード!戻れ!」
シュルシュルと不気味に揺れる蔓をふりきり、離脱してきたリチャードにベソをかくシェリルを頼み、ダドリーは意識のないサイラスを担いで走りだした。
転げるように走って森から出たダドリーたちは、一目散にアイザックの家に駆け込んだ。
「メリッサおばさん!メリッサおばさん!」
ドンドンと扉を叩き、村で唯一の薬師の名を大声で呼び、何事かと出てきたメリッサ――ふくふくと肥った中年女性を見るや、糸が切れたようにわあわあ泣く三人。
「朝っぱらから騒がしいね…え?!サイラス?!」
ダドリーの背には青い顔でぐったりしたサイラス。その手は、例の腐り花5匹を釣った小枝を握りしめたままだった。
「とっても苦しそうな咳をするの。ねえダドリー、シロトリコケって森に行けばあるの?」
シロトリコケは薬草。婆さん曰く、咳に効くらしい。薬草摘みの時期になったら手に入るだろう、と婆さんは言っているのだが、シェリルはそれまで待つのが不安だという。ここ数日、婆さんは風邪が悪化して起き上がれなくなったからだ。それで、村の子供たちにシロトリコケの備蓄がないか聞いてまわっているらしい。皆から無いと言われて泣きそうなシェリルに、協力しないなんて薄情はできなかった。
信頼できる仲間、リチャードに声をかけ、ダドリーは大人の目を盗んで森へシロトリコケを採りに行く計画を立てた。途中、サイラスが茶々を入れてきたが、無視して人の目の少ない早朝、計画を実行した。
朝早く起きられないと踏んでいたサイラスがついてきたが、構わず森に入った。薬草摘みの場所は、森の入り口近くだし、危ない道を通るわけでもない。騒がずついてくるだけなら、無害だと判断した。今思えば、説得してでも家に帰すべきだったよな…
広場に到着して、湖の縁は足場が悪いからついてくるなと言えば、サイラスは不服そうな顔をしたものの、文句も言わず従った。もっとゴネると思ったのに意外だった。念のため獣寄せを渡して使い方を教えると、なんでかダドリーの分はあるのかと聞いてきた。まあ、自分たちの方が森のことは知っているし、リチャードが張りきって親父さんの短剣をくすねてきてある。ダドリー自身も催涙効果のある粉を携帯している上、獣からの逃げ方も知っている。獣寄せがなくともどうってことないのだが、いちいちそれを説明するのも面倒で黙っていると、なぜかサイラスは「バレたら自分のせいにしろ」と言った。胸張って。
……変なヤツだ。しかも、バレたときの言い訳ってのがいやに説得力があって…一瞬、「おまえいくつだよ?」と思ってしまった。まあ、気にしないでおこうと、ダドリーはリチャードたちの後を追った。
◆◆◆
「……ないね。」
「もう少し探すか?」
結局、目当てのシロトリコケは見つからなかった。なんとなくだけど、時期が早かったんだと思う。薬草摘みの季節は秋に入る前だし。春先の今生えていないのも当然かもしれない。
「戻ろう。つきあわせて、ごめん。」
シェリルが項垂れた。その肩をリチャードがたたく。
「なんだよ。気にするな。」
引き際は大切だ。村の掟を破ったら、親にも迷惑がかかる。皆が起きる時間までに戻らなければ。それに…勝手についてきたサイラスをいつまでも放置ってワケにもいかないしな。年下のお守りは年長の者の役目だ。
広場に戻ってくると、サイラスの姿が消えていた。慌てて辺りを見回すと……いた。茂みに隠れるようにしゃがみこんでいる。
…………糞か?
いや、ズボン履いてるし、糞じゃないな。女みたいなしゃがみ方して……ああそっちか?まあ、まだチビだしな、アイツ。立ってできないんだろう。待っててやるかと後ろの二人に声をかけようとしたら、サイラスが急に立ち上がった。そしてピンクの何かが目の前を横切って…
「うわっ!」
「キャーッ」
「げっ!?」
その正体を確かめた途端、俺たちは腰を抜かしそうになった。揺れるピンクの人面花、もとい腐り花。グラートンのような大きな獣も蔓を絡めて絞め殺し、腐らせて自らの栄養にしてしまうことからそう呼ばれている、魔草。そう、植物の魔物だ。そんな化け物を釣り上げて得意そうにしているサイラス。おまえ、絶対わかってないだろう!そいつは危険だ!
けど、俺たちが注意したときには遅かった。細い蔓が何本もサイラスの両足に絡まり、あっという間に地に倒されるサイラス。ワケがわからず暴れるサイラスの身体に次々と細い蔓が襲いかかり、絞めあげる。
腐り花の恐ろしいところは、複数の株が連携して獲物を捕らえるところだ。個々では弱くとも、数株が連携してグラートンのような大型魔獣でも倒してしまう。なりは小さくても、コイツらの絞める力は強い。大人でも素手では振りほどけないから、森でピンク色の群生を見つけたら近づかないのが鉄則なのだ。
「クソッ!リチャード!」
斬れ!と叫ぶと既に短剣を抜いたリチャードが巻きつく蔓をぶった斬る。
「うおおお!喰らえぇキモ花どもぉお!」
サイラスから注意を逸らすため、腐り花本体も斬りつけ、絡まれないよう短剣を振り回すリチャードの後ろで、ダドリーはシェリルと共にサイラスの足を引っ張って群生地から遠ざける。夢中で助けたが、突然のことに狼狽えて手間取り、ようやく助けたサイラスの肌は死人のように青白く、既に意識はなかった。
「リチャード!戻れ!」
シュルシュルと不気味に揺れる蔓をふりきり、離脱してきたリチャードにベソをかくシェリルを頼み、ダドリーは意識のないサイラスを担いで走りだした。
転げるように走って森から出たダドリーたちは、一目散にアイザックの家に駆け込んだ。
「メリッサおばさん!メリッサおばさん!」
ドンドンと扉を叩き、村で唯一の薬師の名を大声で呼び、何事かと出てきたメリッサ――ふくふくと肥った中年女性を見るや、糸が切れたようにわあわあ泣く三人。
「朝っぱらから騒がしいね…え?!サイラス?!」
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