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CHAPTER.4 旧態依然な灰緑(キュウタイイゼンナハイミドリ)【天体衝突3ヶ月前(冬)】
§ 4ー3 12月16日 変わらぬ音
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--神奈川県・某大学キャンパス内--
1限の臨床心理学概論の講義が終わり、2限は先週から引き続き休講だったので、颯太は学科の友人たちと別れて軽音楽部の部室に向かっていた。
大学キャンパス内もパンドラの接近による影響が出ていた。学生食堂は食材の供給不足と価格の高騰により閉鎖され、地方から上京していた学生の多くは故郷に戻り、講義もレポート提出や休講が増えていた。
師走の冷たい空気が、閑散としたキャンパスをより淋しげに映すために色を奪っていた。
鮮やかさが衰えた景色の中、鼓膜が微かに震える。進行方向から流れてくるメロディ。
このギターのサウンドを出せる人は1人しか知らない。オサムさんだ。そのサウンドが映えるように寄り添うドラム音。ルミ先輩が叩いているものだ。そこに遅ればせながら流れてくる歌声。3バカと揶揄されるが、息と調子の合った3人の自己主張100パーセントの声は、ギターとドラムに負けない異様な存在感を放っている。合わせる気なんて更々ないのに、それを聞いた者の鼓膜のもっと奥を揺さぶる。これがオサムさんが率いるバンド『アソパソマソ』の音楽である。
色が褪せた景色を、音が補填していく。感情を色づける。颯太はリュックの左肩紐を右手で握り、足早に部室に向かった。
…………
第2次ルードヴィヒ作戦が先日、失敗に終わったことが報道された。天体望遠鏡で撮影された黒き魔女パンドラの闇がただ深くなり、その衝突軌道に変化もなかった。
この結果の社会への副作用は見えないところで広がっていた。ネガティブなニュースがTVやネット・SNSで常に溢れ、それに伴うウェルテル効果により精神障害を発症する人が加速度的に増え、敏感な心の十代・二十代の自殺者が深刻な社会問題になっていた。
それ以外の人々も、感情的になりやすくなることが多くなっていた。少し気に食わないことがあると声高に怒鳴り暴力を振るったり、欲求から窃盗や性犯罪も増加し、抑圧を発散するための迷惑行為やいじめ、中には放火なども増えた。
治安の悪化は顕著であった。現実感のない未来への不安が、理性という本能への抑止を弱体化させていたのである。
…………
気づくと小走りになっていた颯太が、軽音楽部の部室のある部活棟の3Fに着くと、部室の外に久弥とてっちゃんが座り込んでいた。
「颯太~♪ おつかれぇ~」
変わらぬ笑顔の久弥と、寡黙に手だけで挨拶を済ますてっちゃん。「おーッス、おつかれ」といつもの調子で言葉を返す。
オサムさんたちの演奏を邪魔しない様に部室の外のひんやりとした廊下に、2人の横に座る。
「やっぱり、ライブやりたいよな~」
久弥は呟く。おれも同じことを思っていた。てっちゃんもゆっくり深く2度頷く。
「落ち着いたら、絶対またやろうぜ。黒い翼は折れてないから!」
厨二病コメントに2人は笑顔になる。颯太も笑う。この笑顔が3人の約束への了承だった。
そこからしばらく、3人の近況報告をして過ごした。
久弥は動画投稿を熱心に行なっていて、黒い翼以外に【〇〇をやってみた!】【▲▲を歌ってみた!】などのよくある動画投稿を楽しんでいた。餃子を作る動画で、焦げた皮がフライパンにくっついて中身の具が剥き出しになってしまったのに、天真爛漫に笑ってたのが印象的だった。
てっちゃんは、ちょくちょくプロデビューした舞衣の憂さ晴らしに付き合わされてるとのことだ。少し前に、手の皮が剥けるまでパッティングセンターでバットを振り続ける舞衣に付き合わされたらしい。舞衣とてっちゃんは中学の頃からの付き合いで、家も近い。無口なてっちゃんに舞衣への恋愛感情がないのかとお酒を呑んだ勢いで聞いてみたことがあったが、何も言わずに帰ってしまった。舞衣に聞くと「テツとはそういうのじゃないよ。お節介ないい奴で、私がそれに甘えてるだけなんだよ」と言葉で説明するのが難しい関係のようだ。
2人とも今後も高地に避難せずに、今の場所に留まるとのことだった。「ホントにパンドラをバックにライブしちゃおっか♪」と久弥が言ってくれた言葉が妙に嬉しかった。
…………
話に盛り上がっていると、部室のドアが急に開いた。いつの間にか演奏が終わっており、ドアからはTシャツを汗びっしょりにしたオサムさんが出てきた。
「なんだお前ら、来てたなら入ってこいよー」
額から汗を流しながら、オサムさんはニコッと笑う。ちょっと水買ってくるわ、とオサムさんが去っていったドアから部室に入ると、ルミ先輩と3バカが息も絶え絶えに倒れ込んでいた。
「ハァ……ハァ……あのバカ、3時間も、ハァハァ、ぶっ通しで、演奏しやがって……」
ルミ先輩がなんとか声を出すが、3バカの御三方は3人ともうつ伏せに真っ直ぐに寝そべり『川』の字を作っていた。
「「「……ジー……ザス……」」」
ガラガラに掠れてても声が揃っているのはさすがだ。彼らがうつ伏せになっているのは、憔悴してイケてない顔を見せたくないからとのことだ。
……10分後。
冷蔵庫にしまってあったルミ先輩特性のハチミツレモンティーをがぶ飲みして、ようやく息も整い椅子に座れるぐらいには4人とも回復していた。
「まだ腕に力が入らないよ。あの野郎……、急に人を呼び出したと思ったら『練習するぞー』って……」
疲労困憊で口悪いが、その口元はどこか楽しそうだ。
「ホントにお気の毒さまです。でも、久しぶりに先輩たちの演奏聞きましたけど、流石ですね。聞き入っちゃいましたよ」
「そっか、ありがとう。練習があまりできてなかったから腕が落ちたかな。でも、久しぶりに思いっきりドラム叩いてスッキリしたよ」
やっぱりこの人も音楽が心から好きなんだと実感させられる。心が少し疼く。
「で、お前たちはこの先、どうするんだ?」
これからの話。誰と話しても必ずこの話題になる。自分でも決めていないことを何度も聞かれると、さすがに辟易する。そんな心情を慮ったのか久弥が答える。
「俺とてっちゃんは残りますよー。颯太はまだ決めてないみたいですけど」
「そっか……。じゃぁ、次もこうやって会えるか分からないな……」
別れが増えた。それが日常になりつつある。電話やインターネットで間接的なコミュニケーションで繋がることはできる。だが、震わせた空気が相手を震わせ、当たった光の反射で像を結び、触れた私の温もりが貴方に伝わる。そんな当たり前のことが断たれる。それが今の当たり前になってきていたのである。
颯太はルミ先輩の声に内包された寂しさに反抗的になった。
「また会えますよ、先輩。また学祭の時みたいにライブ、やりましょうよ!」
一瞬目を丸くした先輩は、目元を柔らかくした。
…………
話を聞くと、ルミ先輩も3バカの御三方も、どうやら今の場所に留まる意向のようだ。
ルミ先輩は都心が実家で、移り住むアテがないとのことだ。いよいよとなったら、その時には避難すると言っていた。
3バカは「どうせ終わるなら美しく終わろうじゃないか~!」とミュージカルのような小芝居で格好つけていた。避難どころか南国の小島にでも行きそうだ。「そうですねー」と適当に相槌を返す。
どうなるか分からない先の未来でも、この場所にまた集まれるかもしれない淡い期待に、颯太は気持ちのモヤが少し晴れた気がした。
そんなとき、また急に部室のドアが開く。汗だくだった先程とうって変わって、さっぱりした顔をしたオサムさんだ。よく見れば、着ている服も変わっている。
「フゥー、スッキリしたー」
伸ばしっぱなしの長髪がしっとりしている。いつものように、勝手に運動部のシャワーを浴びてきたのだろう。部室の椅子に座り、手にしたミネラルウォーターをグビグビと飲み干す。
「あれ、お前らは演奏しないの?」
「ヴォーカルがいないッスからね」
黒い翼を代表して久弥が答える。「あー、そうだったなぁー」と視線をゆっくり上に向けた後、流し目でこちらに視線を送る。
「そんなの別に関係ないだろ? 弾きたくなったら弾けばいいんだよ。型にこだわるなんてつまんないぞ」
オサムさんが言うことはまったくなのだ。ただ、舞衣がいない黒い翼は、飛んでいく先を見失って羽ばたけなくなっていたのだ。それは久弥もてっちゃんも同じだろう。2人から練習を催促する連絡もなければ、こちらから連絡することもなかったのだから。
引き攣った顔で「そ、そうですよね」となんとか返す。それをオサムさんは察したのか「まぁ、お前らなら、音楽が必要になったら自然とその手に楽器を握るさ」と含み笑いで優しく気遣ってくれた。
…………
オサムさんのギターのサウンド。初めて聞いたのは高校2年のときだった。好きだったビジュアル系バンドのライブに前座として出てきた、今では伝説的なバンドグループ『Made In Earth』。そのギタリストだったオサムさんのギターは圧倒的な存在感を放っていた。退廃的な自由で繊細な音。衝撃と嫉妬にかられた。
その後、幾度と足を運んでそのギターサウンドを耳にする度に、『豪徳寺理』という人となりに強い興味を抱くようになった。その人が大学生で、自分の生きたい心理学が学べる大学に在籍していることを知ったときに自分の進路は自然と決まった。
必死に受験勉強に明け暮れ、なんとか合格して迎えた入学式。式の後に待ちきれずに足を運んだ『豪徳寺理』がいる軽音楽部の部室。そのドアに手をかけたときの胸の高鳴り。ドアを開けて目に入ったギターを持って佇むオサムさんが見せた笑み。
今と同じ笑みを浮かべていた。そのときの気持ちを忘れていたのかもしれない。
でも、そもそも何故、音楽に興味を持ったのか……。
このときの自分にはまだ思い出せずにいた。
1限の臨床心理学概論の講義が終わり、2限は先週から引き続き休講だったので、颯太は学科の友人たちと別れて軽音楽部の部室に向かっていた。
大学キャンパス内もパンドラの接近による影響が出ていた。学生食堂は食材の供給不足と価格の高騰により閉鎖され、地方から上京していた学生の多くは故郷に戻り、講義もレポート提出や休講が増えていた。
師走の冷たい空気が、閑散としたキャンパスをより淋しげに映すために色を奪っていた。
鮮やかさが衰えた景色の中、鼓膜が微かに震える。進行方向から流れてくるメロディ。
このギターのサウンドを出せる人は1人しか知らない。オサムさんだ。そのサウンドが映えるように寄り添うドラム音。ルミ先輩が叩いているものだ。そこに遅ればせながら流れてくる歌声。3バカと揶揄されるが、息と調子の合った3人の自己主張100パーセントの声は、ギターとドラムに負けない異様な存在感を放っている。合わせる気なんて更々ないのに、それを聞いた者の鼓膜のもっと奥を揺さぶる。これがオサムさんが率いるバンド『アソパソマソ』の音楽である。
色が褪せた景色を、音が補填していく。感情を色づける。颯太はリュックの左肩紐を右手で握り、足早に部室に向かった。
…………
第2次ルードヴィヒ作戦が先日、失敗に終わったことが報道された。天体望遠鏡で撮影された黒き魔女パンドラの闇がただ深くなり、その衝突軌道に変化もなかった。
この結果の社会への副作用は見えないところで広がっていた。ネガティブなニュースがTVやネット・SNSで常に溢れ、それに伴うウェルテル効果により精神障害を発症する人が加速度的に増え、敏感な心の十代・二十代の自殺者が深刻な社会問題になっていた。
それ以外の人々も、感情的になりやすくなることが多くなっていた。少し気に食わないことがあると声高に怒鳴り暴力を振るったり、欲求から窃盗や性犯罪も増加し、抑圧を発散するための迷惑行為やいじめ、中には放火なども増えた。
治安の悪化は顕著であった。現実感のない未来への不安が、理性という本能への抑止を弱体化させていたのである。
…………
気づくと小走りになっていた颯太が、軽音楽部の部室のある部活棟の3Fに着くと、部室の外に久弥とてっちゃんが座り込んでいた。
「颯太~♪ おつかれぇ~」
変わらぬ笑顔の久弥と、寡黙に手だけで挨拶を済ますてっちゃん。「おーッス、おつかれ」といつもの調子で言葉を返す。
オサムさんたちの演奏を邪魔しない様に部室の外のひんやりとした廊下に、2人の横に座る。
「やっぱり、ライブやりたいよな~」
久弥は呟く。おれも同じことを思っていた。てっちゃんもゆっくり深く2度頷く。
「落ち着いたら、絶対またやろうぜ。黒い翼は折れてないから!」
厨二病コメントに2人は笑顔になる。颯太も笑う。この笑顔が3人の約束への了承だった。
そこからしばらく、3人の近況報告をして過ごした。
久弥は動画投稿を熱心に行なっていて、黒い翼以外に【〇〇をやってみた!】【▲▲を歌ってみた!】などのよくある動画投稿を楽しんでいた。餃子を作る動画で、焦げた皮がフライパンにくっついて中身の具が剥き出しになってしまったのに、天真爛漫に笑ってたのが印象的だった。
てっちゃんは、ちょくちょくプロデビューした舞衣の憂さ晴らしに付き合わされてるとのことだ。少し前に、手の皮が剥けるまでパッティングセンターでバットを振り続ける舞衣に付き合わされたらしい。舞衣とてっちゃんは中学の頃からの付き合いで、家も近い。無口なてっちゃんに舞衣への恋愛感情がないのかとお酒を呑んだ勢いで聞いてみたことがあったが、何も言わずに帰ってしまった。舞衣に聞くと「テツとはそういうのじゃないよ。お節介ないい奴で、私がそれに甘えてるだけなんだよ」と言葉で説明するのが難しい関係のようだ。
2人とも今後も高地に避難せずに、今の場所に留まるとのことだった。「ホントにパンドラをバックにライブしちゃおっか♪」と久弥が言ってくれた言葉が妙に嬉しかった。
…………
話に盛り上がっていると、部室のドアが急に開いた。いつの間にか演奏が終わっており、ドアからはTシャツを汗びっしょりにしたオサムさんが出てきた。
「なんだお前ら、来てたなら入ってこいよー」
額から汗を流しながら、オサムさんはニコッと笑う。ちょっと水買ってくるわ、とオサムさんが去っていったドアから部室に入ると、ルミ先輩と3バカが息も絶え絶えに倒れ込んでいた。
「ハァ……ハァ……あのバカ、3時間も、ハァハァ、ぶっ通しで、演奏しやがって……」
ルミ先輩がなんとか声を出すが、3バカの御三方は3人ともうつ伏せに真っ直ぐに寝そべり『川』の字を作っていた。
「「「……ジー……ザス……」」」
ガラガラに掠れてても声が揃っているのはさすがだ。彼らがうつ伏せになっているのは、憔悴してイケてない顔を見せたくないからとのことだ。
……10分後。
冷蔵庫にしまってあったルミ先輩特性のハチミツレモンティーをがぶ飲みして、ようやく息も整い椅子に座れるぐらいには4人とも回復していた。
「まだ腕に力が入らないよ。あの野郎……、急に人を呼び出したと思ったら『練習するぞー』って……」
疲労困憊で口悪いが、その口元はどこか楽しそうだ。
「ホントにお気の毒さまです。でも、久しぶりに先輩たちの演奏聞きましたけど、流石ですね。聞き入っちゃいましたよ」
「そっか、ありがとう。練習があまりできてなかったから腕が落ちたかな。でも、久しぶりに思いっきりドラム叩いてスッキリしたよ」
やっぱりこの人も音楽が心から好きなんだと実感させられる。心が少し疼く。
「で、お前たちはこの先、どうするんだ?」
これからの話。誰と話しても必ずこの話題になる。自分でも決めていないことを何度も聞かれると、さすがに辟易する。そんな心情を慮ったのか久弥が答える。
「俺とてっちゃんは残りますよー。颯太はまだ決めてないみたいですけど」
「そっか……。じゃぁ、次もこうやって会えるか分からないな……」
別れが増えた。それが日常になりつつある。電話やインターネットで間接的なコミュニケーションで繋がることはできる。だが、震わせた空気が相手を震わせ、当たった光の反射で像を結び、触れた私の温もりが貴方に伝わる。そんな当たり前のことが断たれる。それが今の当たり前になってきていたのである。
颯太はルミ先輩の声に内包された寂しさに反抗的になった。
「また会えますよ、先輩。また学祭の時みたいにライブ、やりましょうよ!」
一瞬目を丸くした先輩は、目元を柔らかくした。
…………
話を聞くと、ルミ先輩も3バカの御三方も、どうやら今の場所に留まる意向のようだ。
ルミ先輩は都心が実家で、移り住むアテがないとのことだ。いよいよとなったら、その時には避難すると言っていた。
3バカは「どうせ終わるなら美しく終わろうじゃないか~!」とミュージカルのような小芝居で格好つけていた。避難どころか南国の小島にでも行きそうだ。「そうですねー」と適当に相槌を返す。
どうなるか分からない先の未来でも、この場所にまた集まれるかもしれない淡い期待に、颯太は気持ちのモヤが少し晴れた気がした。
そんなとき、また急に部室のドアが開く。汗だくだった先程とうって変わって、さっぱりした顔をしたオサムさんだ。よく見れば、着ている服も変わっている。
「フゥー、スッキリしたー」
伸ばしっぱなしの長髪がしっとりしている。いつものように、勝手に運動部のシャワーを浴びてきたのだろう。部室の椅子に座り、手にしたミネラルウォーターをグビグビと飲み干す。
「あれ、お前らは演奏しないの?」
「ヴォーカルがいないッスからね」
黒い翼を代表して久弥が答える。「あー、そうだったなぁー」と視線をゆっくり上に向けた後、流し目でこちらに視線を送る。
「そんなの別に関係ないだろ? 弾きたくなったら弾けばいいんだよ。型にこだわるなんてつまんないぞ」
オサムさんが言うことはまったくなのだ。ただ、舞衣がいない黒い翼は、飛んでいく先を見失って羽ばたけなくなっていたのだ。それは久弥もてっちゃんも同じだろう。2人から練習を催促する連絡もなければ、こちらから連絡することもなかったのだから。
引き攣った顔で「そ、そうですよね」となんとか返す。それをオサムさんは察したのか「まぁ、お前らなら、音楽が必要になったら自然とその手に楽器を握るさ」と含み笑いで優しく気遣ってくれた。
…………
オサムさんのギターのサウンド。初めて聞いたのは高校2年のときだった。好きだったビジュアル系バンドのライブに前座として出てきた、今では伝説的なバンドグループ『Made In Earth』。そのギタリストだったオサムさんのギターは圧倒的な存在感を放っていた。退廃的な自由で繊細な音。衝撃と嫉妬にかられた。
その後、幾度と足を運んでそのギターサウンドを耳にする度に、『豪徳寺理』という人となりに強い興味を抱くようになった。その人が大学生で、自分の生きたい心理学が学べる大学に在籍していることを知ったときに自分の進路は自然と決まった。
必死に受験勉強に明け暮れ、なんとか合格して迎えた入学式。式の後に待ちきれずに足を運んだ『豪徳寺理』がいる軽音楽部の部室。そのドアに手をかけたときの胸の高鳴り。ドアを開けて目に入ったギターを持って佇むオサムさんが見せた笑み。
今と同じ笑みを浮かべていた。そのときの気持ちを忘れていたのかもしれない。
でも、そもそも何故、音楽に興味を持ったのか……。
このときの自分にはまだ思い出せずにいた。
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