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4章、無法侵入する帝国編

84、戦士の名の下に

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 乱れ飛ぶ熱波と衝撃

 蒼く洗練された脚撃が黒いスーツを焼き焦がし、

 紅く獰猛な拳の連打が白いコートに叩き込まれる。

 燃え盛る右の拳を受け流し回転蹴りを入れれば、

 俊速の蹴りの嵐を正面から吹き飛ばした。

 この戦いが始まってから半刻が立つ。それでもなお拮抗する死闘。

 形勢的にはすでにエルフ側が勝っている。ランのえげつない神法乱れ地獄によるものだ。

 しかし、この勝負で勇馬が破れてしまえばこれもまた逆転される可能性がある。

 勇馬はそれを理解している。だが、

「ところでなのですが・・・なぜ剣は使わないのでしょうか?」
「ああ?」

 戦いの途中にもかかわらず息を乱さず、質問をしてくるゼストに勇馬は殺気とともに蹴りを入れた。

 それを受け流すゼストはさらに問いかける。

「いえ、貴方の本気は剣を使った戦いのようですので・・・私を舐めていらっしゃるのでしょうか?」

 そして、「ふざけるなよ、若造」と付け加えながら手を勇馬に向け炎の獅子を作り出す。

 咄嗟に避ける勇馬。しかしコートの端が焦げる。・・・最近このコートボロボロにすぐになるんですが・・・。

 だがタダでやられる勇馬ではない。

 手に激しいスパークを生み出し、勇馬は技のトリガーを引いた。

「“雷砲”」
「ーー!!?」

【雷撃攻撃】と【属性攻撃放出】、その合わせ技。

 それは万物を焦がし吹き飛ばす蒼雷の柱へと昇華する。

 空を切る雷閃、あっという間にゼストを捉える。

 しかしゼストは腕を前に組み爆撃を起こす。その爆風によって雷撃が緩和され、後ろへと逃げる。

 だが黒スーツの一部が雷撃によって剥げたのか赤い血が乾き、こびりついている肌が露出していた。

 すこし顔を険しくしたゼストを勇馬は不敵な笑みとともに、

「ただ、あんたが本気出すまでは俺も体術で行こうって思っただけだけど?」
「・・・気づいておられましたか」

 ゼストはころりと笑顔を浮かべる。しかしいつものような安心感はなく、無機質な不気味さを感じさせた。

「私自身、年と言いますか・・・本気を出すと身体がもたないのですよ」
「でもこのままじゃあ俺が勝つぜ?」
「ええ、ですので・・・」

 一拍を開け、ゼストは身体に炎を纏わせる。

「・・・この勝負、私の最後といたしましょう!!」

 そして、肌が、髪が、目が、内臓が、全て燃え盛った。

 自殺、ではない。

 

 自身の性質を。

 己の限界を。

「“炎獅子人降臨アグナムート”!!!」

 やがて不形態だった炎は人型へと至る。

 ただただ人の形をした紅い炎。

「さて・・・君も抜くがいい」
「言われずとも」

 勇馬はアイテムボックスから銀の剣を取り出し、ゼストであったものに剣尖を向けた。

 次の瞬間、爆音が鳴り響く。

 フレアすらも推進力に変えた拳の一撃は見事に勇馬の頭に入る。

 そして、二度目の爆音。

 今度は拳に集中砲火され、勇馬を骨の髄から吹き飛ばした。

「ーーーッ!!?」

 あまりの一瞬の出来事に思考がついていかない。

 しかしその一瞬の間にも爆炎が勇馬を捉える。

 右腕の関節、みぞおち、両脚、耳、さらには心臓まで猛烈な連打の豪雨。

 エルフの全員が青く顔を染めた。

 しかし、蒼い刃が拳を斬った。

「!!?」

 その殺気からか、驚愕からかゼストは後ろに飛ぶ。

 しかし、そのまま、追撃する。

 蒼い剣閃の嵐が紅の花弁を空中に踊らせる。

 太刀打ちしようにもそのきっかけから完全に相殺される。

 爆炎を放とうとも幻のようにどこかへと消え去った。

 踊るような剣戟

 この時、初めてゼストは思った。

 なんと美しい剣なのか、と。

 そして担ぐように勇馬が構えをとる。

 距離は目前。

 不意を打つなら今しかない。

 だが無理を強いた身体は動いてくれなかった。

 ああ、終わるのか

 そして、黒の髪が荒ぶらせ放たれる一撃。

 最後は・・・いい時を過ごせたものだ。

「“断王”」

 そしてそのすぐあとに金属の壊れる音が聞こえたが最後、全てがシャットアウトを起こした。

 享年78

 この日、彼の壮絶な人生は幕を閉じた。

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 勇馬は鎮火した炎の中の魔石を取りながらため息をついた。

 今回、正直油断しすぎていた。

 まあ、それでも勝てたは勝てたのだが・・・【鱗装】が無ければ負けていたと思う。

 だが、苦戦しただけの収穫もある。

 俺の戦い方は基本的に技を中心としたスタイル。柔よく剛を制すだ。

 そして一方のゼストは見た目に反して力押しのスタイル。剛よく柔を潰す・・・そんな感じ、かな?

 なので今までの技メインスタイルから力押しの戦い方も学べたのだ。有難や、有難や。剣が壊れたのはその代償だと考えればいいでしょ。

 さてと・・・それではお楽しみターイム!!!

 今回はどんなスキルが手に入れられるかな!!?

 ・・・ちなみに前回のリィとかいうやつのは・・・忘れよう。手に入ったスキルが一切なかったなんてことは忘れよう。

「ではいただきまぁ『ユーマァアアア!!!』グフゥ!!??」

 食べようとした横からまさかのリシャーナさんの乱入。勇馬の横っ腹に突撃してきた。

 魔石を食おうとしてそれに気づかず・・・結果、彼女の頭が勇馬のみぞおちをダイレクトアタックする。

 流石の勇馬さんも油断している時にやられれば・・・

「・・・痛いぃ」
「って、ユーマ!!?大丈夫かい!?医者ぁあああああ!!!!??」

 ゼストに執拗に攻撃された箇所がいきなり痛み出した。それとともにとんでもない疲労感が溢れ出した。

 それに対して驚き慌てるリシャーナ。

「・・・姫、こんなもののために医者など・・・グハァアア」
「君は君で寝てなきゃダメだ!!!」

 意地でも立って、勇馬に悪口を吐くヒスリアさん。ちなみに以前同様、彼は傷だらけである。

 そして当然倒れるヒスリア。

 さらに慌てるリシャーナ。

 とりあえず、

『あれー?もう、敵いないのぉー?』
「もうアンタが殲滅したんだよ!!?」

 ランさんはまだ体力があるようだった。
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