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4章、無法侵入する帝国編

80、エルフの決意

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「ってことがあったから俺は遅くなりました。材料も途中で落としました。申し訳ありませんでした」
「そう反省しながら魔石を食べてる君はおかしいんじゃないかな?っていうかその魔石まさか・・・」
「気にすんな」
「気にするに決まっているだろう!!この馬鹿者が!!あと姫さま!!やはりこんなやつは利用するだけにしましょう。こんな奴に膝枕をしてやる理由などございません!!」
「君はまだそれを気にしていたのか!!?」

 ともうほんとうに騒がしいことになっていたりする。

 ちなみに勇馬はこの日魔獣を倒しに行っていない。今日倒したのはあの中国人風の人だけである。では今勇馬が食っている魔石は・・・ワタシハナニモシリマセンヨ。

 あとランは未だ死んでいる。一応脈はある。だから一応大丈夫だが・・・バグなクマさんを倒すお酒、やはり18禁に間違いはない。

「さてと、変に騒いだが・・・」
「「「お前のせいだろ!!!」」」

 全員が一糸乱れのないシンクロツッコミを入れた。彼らは本当にハートがここ最近アイアンになっていると思う。だって彼ら最初勇馬にビクビクしてただけでしたもん。

 だがいつまでもこんなふざけた雰囲気でいれようはずがない。あの密会の目的がまだ話されていない。

「本題だ。エルフの奴隷が他にもいる」
「「「なっ!?」」」
「まあ、当然だろうね」
「でしょうね」

 ほとんどのエルフはその言葉に驚くもののリシャーナとヒスリアは当然の結果として受け止める。

「どれほどの人数が奴隷になったか・・・わかるかい?」
「済まないが・・・それはわからない」
「まあ、そればかりは仕方がないだろうね。ユーマに任せっきりとばかりにはいかないよ」

 さて、ここからが本当の本題だ。俺は口を開く。

「そのエルフ達をお前たちはどうする?

 それはリシャーナ個人として聞いているわけではない。エルフ全体の意見として質問しているのだ。

 ここで俺は今の状況説明を行う。

「今、もしエルフの奴隷を助けるとするなら正直に言えば難しい状況だ。なんたってこの国じゃエルフの奴隷は高価。つまり希少なわけだ。奴隷を集めるようなクズには喉から手が伸びてでも欲しいような、な」

 そう、この国の重鎮どもは奴隷をおもちゃとして見ている。中には、というか集めているような奴らはコレクター精神があるわけだ。

 巨人や小人、獣人、人魚、などは案外多めで奴隷としての価値は低い。一方、エルフや天翼人などは捕まることが少なく彼らのコレクター精神を揺さぶるには充分に値する。

「当然助け出すための難易度は高い。相手は貴族どもなわけだから金にものを言わせて集めた傭兵どもがいる」

 傭兵、今日のあのカンフー野郎のような実力を持ってる奴らならいくらかいるかもしれない。なんで帝都から派遣されたのより強いのか、それは法外な賃金によるものだろう。

 帝都の方も十分高くはあるが、それでも何万に及ぶような兵士を抱えているのだ。当然、数人しか抱えない貴族よりも賃金は安くなってしまう。

 そこで真に強いと自負するものはフリーな傭兵になった方がなにかと有利である。代わりに定期的な賃金にならないというデメリットこそあるが、些細なことであろう。

 最近、帝都の方も傭兵を取り入れていたりするようだ。おそらくは兵士の数が減ってきたことによるものだろう。

 ともかく、貴族にかき集められた傭兵は普通よりもずっと強い。それこそ、あらゆる方法を使ってでも勝ちに来るだろう。

「それだけでもこちらとすれば勝率が低いっていうのに、お前らの素性がバレて仕舞えば完全にエンドだ」

 もう一度言う。エルフはこの国の奴隷として希少である。

 それはつまり、並々ならぬ執着心を持っているということ。それこそエルフを見つければ大勢力で捕獲しに来ることすら予想できるほどに。

 だからこそ、こちらの正体が世間に広まればこの時点で詰む。しばらくは無事だったとしても長期的に見れば負けるに等しい。

 だからこそほぼ詰みゲーである。相手は強者ばっか、しかもバレて世間に広まれば終わり。

 俺が戦力にいるとしても難しい。

 だからこそ俺はできるならば見逃す方向にしたい。そうすれば一部のエルフこそ死ぬが、リシャーナ達は無事に国に帰られるだろう。

「このまま国に帰るか、それとも・・・。どちらか選べ」

 勇馬は睨みつけ【威圧】を発動。ただの慈愛などこの場で朽ち果てるように。ハリボテのようなカッコつけ精神もいらない。

 聞くことなどしなくてもいいのに勇馬は彼女の答えを待った。

 エルフ達はお互いを見合う。

 だが、とうの昔に考えは決まっていたようで、

「私たちは助ける!」
「・・・へぇ」

 ただの一途な想いをともにリシャーナさその言葉を答えた。

「・・・理由を聞こう」

 それに対して勇馬は目を鋭くし、エルフ達を冷ややかに見る。それは勇馬がその意見に対して否定的な感情を持っていることに他ならない。

 それに対してリシャーナは、

「理由なんてない!!」

 と、なんとも言えないような衝撃発言を放つ。

「・・・は?」
「は? じゃないんだよ、ユーマ。私は女王だ。だからこそ同胞達を見捨てることなどしない!!」

 拳をグッ!と握りしめて天井に向かって振り上げる。

 その顔はなんとも生き生きとしており、しかし油断などは一切ないことを理解できた。

「・・・俺はリシャーナ、おまえの意見には反対だ。お前らが生きていればなんとかなるわけだし、正直に言えば助ける理由もない」

 それを理解した上で勇馬は自身の意見を淡々と述べる。

 その言葉を聞いてなお真っ直ぐな目を向けてきているあたり、リシャーナは最悪の結果を覚悟した上で言っているのだろう。

「だが・・・好きな女が立派に覚悟して、危ないところに突っ込もうとしてるんだ。助けないわけにはいかないな」
「・・・ユーマ」

 勇馬は自身の髪をくるくると指で絡めながら照れているように口をすぼめながら呟いた。目はあっちこっちに行っている。

 まさしくツンデレ様である。

「・・・ありがとうね、ユーマ」
「恩にきるぞ、ユーマ」
「・・・はんっ、別に礼なんざいらねぇよ。真っ直ぐな奴らの応援がしたい、ってのもあるしな。・・・見てたらなんでか助けたくなる」

 リシャーナとヒスリアの言葉に勇馬の視線はさらにせわしなく移動する。

 顔はもう既に完熟である。

「・・・真っ直ぐなのはむしろ、君の方だと思うけどね」
「? なんか言ったか?」
「いいや、何も?」

 リシャーナはそんな勇馬を銀の双眸に映しながら、ぽつりと零した。

「まあ、いいか。それじゃ作戦を考えよう!」
「なぜ貴様が取り仕切っている!!?」
「えっ!? まさかぁ、あなたの方が適役って言うんですかぁ、傲慢なんですかぁ?」
「殴るぞ、貴様!!」
「やれるもんならやってみな!!」
「・・・2人とも落ち着いてくれたまえよ」

 結局、折衷案としてリシャーナがリーダーを務めることになったのだが・・・それに対してとあるお二人さんは神を崇めるように土下座したとかなんとか。
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