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4章、無法侵入する帝国編

79、アチョォオオオ!!!

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「“水針の孔雀”!!」

 敵が距離を詰めるとともに指と指の間に神法を発生させる。

 針のように細く、それでいて鋭利な武器。

 それが全ての指の間に発生、合計8本。

 そして左手の凶器が俺に向けて放たれた。

 そのどれもが俺の急所や逃げることを想定して投げられたもの。“雷装”を使っても構わないのだが・・・ここはあいにく人の家の屋根。使えばその光で目立つかもしれない。

 だからこそ全て・・・撃ち落とす!!!

 虚空から現れる銀色の煌めき。

 その輝きが二閃の軌跡を描く。

 透明な凶刃がその斬圧で吹き飛ぶ。

「やるナ、エルフ!!もしヤ同業者カ!?」

 吹き飛んだ水に変化が起きる。

 時が巻き戻ったかのように全てが凝固し直したのだ。

 しかも俺を包囲するようにして。

「無視カ!!?それジャ、コッチも・・・“青針の檻”!!」

 瞬間、更に放たれたものを合わせた七もの凶器が勇馬目掛けて加速する。

 どうやら針には再生能力があるようだ。

 案外、厄介である。斬り落としても結局直るのでは意味がない。なので、

「“雷装”」

 僅かな蒼いスパークが剣から弾ける。

 そして七閃の流星が流れる。

 蒼い刃紋が水を吹き飛ばし蒸発させる。

 今度こそ水は完全に消滅した。

 剣を振り抜いたまま構える。目の前の敵を睨みつけながら。

 相手も同じく勇馬を目を鋭くした。

 だがしかしすぐに表情を崩し、声を荒げて笑い声を上げた。

「ハハハハハ、やっぱやるナ、エルフ!!久しびさに楽しくなってきたゼ」
「・・・」

 そういえば勇馬、エルフに化けてるんだった。自分でその設定を忘れていた。

「エルフ!!テメェの名はなんダ!!?」
「・・・まず君から名乗れ」

 勇馬は律儀なエルフみたいな口調で話す。

「オオ、たしかにそうダ!!!オレの名はリィ・ヤオだ!!ファットとかいうヤツの傭兵ダ!!ヨロシクナ!!」
「・・・そうか」
「名乗らないノカ!!?・・・あとでキレられるナ」

 オーバーリアクション並みに身振り手振りを行う。とくに最後など額を手で掴み顔を仰け反らせた。

「まあイイ、ヤロウゼッ!!久々に楽しくナッテきたしナ!!カカって来いヤ!!」

 腰を低くし手で招くような仕草をする。

「・・・」

 このようにして黙っている俺も実際には少しだけ高揚していた。

 久しぶりの好敵手、しかも人間の。

 魔獣相手ならばいくらかいたが、俺は剣すら抜ける相手はあまりいない。

 だったら俺もやってやる。

「“迅脚”」

 轟音が鳴る。

 爆発したかのような砂埃が空を舞う。

 リィの目は勇馬を追えていない。

 とった!!

 そのまま勇馬はサーベルでリィの首へと剣の腹をいれる。

 だが、またもや直前でリィは避ける。紙一重で。

「!!?」

 直前まで反応するどころかついさっきまでも驚愕さえできていなかった。それに関わらず避けた。

 なんらかのスキルだろうか。

 勇馬は追撃の針を避けたままそのようなことを思考する。

 当たりだ。

 リィが持つ【闘術】から生まれた特殊派生スキル、【水流の如く】。

 敵が攻撃するたびに自動で避けるようなスキル。このスキルを使用する際、自身の身体能力は一時上昇する。

 そのためこのスキルがなければとっくの昔に彼は死んでいる。

 さらに言えばジリ貧なのも事実。勇馬はそれほどまでに強かった。

 故に彼は自身の必殺技を使う。

「“水天の極意”!!」

 瞬間、彼の身体に水色の光が凝縮された。神法特有の光だ。

 そして、彼が地面を蹴る。さっきまでのような静かさはなく、屋根の破砕音が街に響いた。

 そして、その威力そのままに彼の右手が勇馬の頭に飛来する。

 慌てて勇馬はその手を左手の甲で弾こうとする。

 だが勇馬の手と彼の拳が触れ合った瞬間、纏われている光が勇馬の動きに呼応するように強く輝いた。

 瞬間、光が勇馬を飲み込む

 光が水の激流となり勇馬を吹き飛ばした。

 勇馬の視界が渦巻きながら流れる景色が入れ替わるように変わる。

 いくつもの家の上を通り過ぎ、着地した地面に引きずられる。

 コートの一部が破れた・・・これ高かったのにぃ。

 “水天の極意”、おそらく殴った瞬間に神法を発動した。つまりゼロ距離射撃に近いものだ。

 一応身体全体が光っていたのでカウンターも可能だろう。案外厄介な技である。

 そして当然の如く空から飛来するリィ。

 軽々と片脚で着地する。

「ヤッパ、アンタ流石ダ。アレを受けて生きてるナンテナ。・・・ってアンタ、エルフジャなかったのカ!!?」
「・・・え?」

 あっ!イヤーカフスがいつのまにか壊れてる!!やべぇ!!

「見たコトあるナ。確か・・・そうダ!!【剣姫】ダ!!」

 ・・・こんな奴にすら身元がバレてんのかよ。

 こうなるとコイツをこのまま返すわけにはいかない。身元がバレれば俺は最悪人類の敵になるかもしれない。

 ・・・殺すしかない。

 最早、周りへの影響とか考えていられない。

「・・・冥土の土産に教えてやる」
「ッ?ハッ?マダ勝つ気分でいるノカ?オレの実力見たダロ?」

 カラカラと笑い声をあげるリィ。その姿は自身の勝利を確信していた。

 だが、次の瞬間。彼の声が失われる。

 勇馬の必殺の名の下に。

「“槍刺そうし”」

 その技は剣道で言う“つき”の動き。それが勇馬の化け物スペックで発動された。

 踏み込みだけですら天井に地響きを鳴らせ、ヒビをいれる。

 そして身体の回転によるただ一点への攻撃は強力な衝撃波となり、その照準をリィの頭へと向ける。

 それは頭を穿ち肉塊へと変貌させ、余波を放ちながら空へと飛んでいく。

「俺の名前は黒輝 勇馬、覚えときな。まあ、遅いかもしれねぇが」

 そして、勇馬は周りを見る。

 彼らの戦闘によって穴だらけになった周りの屋根。

 首だけ吹き飛んでいる死体。・・・すぐさまアイテムボックスに入れて証拠隠滅。

 犯人こそバレていないが・・・罪悪感はある。

 両手を重ね彼は祈った。戦ったあの男とボロボロの屋根に向けて。

 ナンマイダブと。
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