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4章、無法侵入する帝国編

72、ドラク○の魔法が仲間になった

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 先に動いたのはメラタリアの方だった。

 この人間は何かが危険だ。

 矮小であるはずの人間にそのような思いを感じた。

 人間は一部を除き弱く、脆い。そうそう人間が龍を、ましてや真龍を越すことなどない。

 だが、メラタリアは自然と気付いていた。勇馬に付着した龍達の血の匂いに。

【ドラゴン・スレイヤー】、その言葉がメラタリアの中に浮かんでいた。

 故に手加減はしない。それはまさしく獅子が兎を狩る時のように、油断などしない。

 無数の光が勇馬を襲う。メラタリアのブレスだ。

 メラタリアのブレスは範囲が狭いがその分、速く当たれば相手はその一部を失うほどの威力を持つ。

 人間に到底反応できる速度ではない。

 だと言うのに

「“紅桜”」

 光が粉々になり空を舞う。全てを切り捨てたのだ。

『ーーー!!?』

 なるほどやはり普通の人間ではないようだ。未だ放たれている砲撃を切り捨ててこちらに瞬足の速さで進んでくる。

 だが、

「っ!!?」

 人間の足にツタが巻きついた。いや、巻きつけたと言うべきだろう。

 ここのあたりは全てメラタリアの完全領域。ここの支配者であるメラタリアに勝てる通りなどない。

 人間の身体が倒れ込む。そこを狙ったかのようにさらに数が増え、密度が高められたブレス。

 緑の光が青を交えながら爆発を起こし飲み込んだ。

 多少の違和感こそあれ、あの攻撃を避けずして死なないことはないだろう。

 エルフ達も唖然としていた。

 たしかにあれほどの実力であればこの子らもかの人間を過信していたのも頷ける。

 だが、自分は真龍であ・・・

「“剣閃”」

 次の瞬間背後から強烈な斬風が襲いかかった。

 本体こそ避けられたもののいくつもの首が吹き飛んでいた。

『っ!!!』

 なぜだ!!あのブレスで完全に消滅させたはずだというのに!!?

 わけがわからないがとりあえずその仕返しに空中に浮かぶ勇馬に尖った木々が襲いかかる。

 しかし、勇馬にそんなものは効かない。

「“雷装”」

 蒼い光の前では植物は無力だった。

 彼に触れようとした武器もそれに繋がっている植物も全てが灰へと生まれ変わる。

 なるほど、先程のツタが効かなかったのはこれが原因か。納得した。

 むしろ、タチの悪い夢であった方がどれほど楽なのか・・・。

 その間にも剣戟が光り輝いた。

 銀の弧がその延長線にある真龍の分体まで吹き飛ばす。

 蒼い光が近寄るものを咎めるように消滅させた。

 その間にも残る顎は両手で数えられる程度しか無くなり、真龍に為すすべは無くなっていた。

『・・・ふはははは、我もすでに狩られるものに変わっていたとはな』

 死への恐怖からか、それとも長かった人生に終わりが見えたからか、真龍は笑った。

 エルフ達は今も剣を納めない勇馬に息を飲む。だが、彼らに勇馬を止める権利などない。助けてもらっている側なのだから当然だ。

『さあ、殺すがいい。我を、この人生に悔いなどないのだから』

 真龍は首を差し出した。

 勇馬はその言葉を聞くと、

「え?やだけど」

 と「何言ってんのコイツ?キモチワル」と言わんばかりに眉を歪めた。

「「「「「「「「「「「「「『『『・・・へ?』』』」」」」」」」」」」」」」

 全員の声が重なった。

 真龍は思った。

 何言ってんだ、コイツ

 と。
 ..............................................................

「いや、コイツ殺したところでリシャーナが王になれなくなるし、第一この辺りの生態系が面白おかしくなるかもじゃんか。だったら今まで通りコイツを生かしといた方が楽なわけ。・・・お判り?」

 勇馬さんが正論みたく普通じゃないことを言い出した。

 この人、めちゃくちゃAランクに対して余裕である。というかむしろ蜘蛛の時の方が戦闘ではきつかったかもしれない。

 たしかにこの真龍、かのイソギンチャクに戦闘スタイルは似ていた。

 しかしそれだけであり、驚異的な溶解液の方がブレスよりも耐性や対処法がないぶん恐ろしいし、驚異的な回復力もないため正味ザコである。

「だから、お前は殺さない。あ、でもリシャーナが王になることは決定しろよ。じゃないと俺が戦った意味ないし」

 リシャーナに優しげに目を向け、メラタリアに頼んでおく。

 ボッコボコにした後でお願いする勇馬、なんだか家の職業が勇馬に影響を与えていることがよくわかる。

 そうして、勇馬は事件解決!と言わんばかりにメラタリアに背を向けた。

 すると、

『待ってくだされ!!』
「・・・?なに?」

 いきなりツタで勇馬を引き留めそして、一言。

『我を貴方様の眷属にしてくださいませ!!!』
「・・・なんでそうなった」

 勇馬はあくまでもボッコボコに倒しただけであり、尊敬されるようなことはしていないというのに・・・もしやドM?

『貴方様のその力と人格に惚れましたぞ!!どうか!どうか!!私を弟子にしてくださいませぇえええええ!!!!』

 どんどん勇馬を引き留めんとツタの本数が増えていく。身体の四肢や腰、髪の毛にまで巻きついてくる。

 ・・・もし勇馬が女子であったなら完全にサービスショットだっただろう。

「だああああ!!うぜぇんだよ!!!ツタで俺をぐるぐる巻きにすんな!!!!わかったから!!!わかったから!!」
『ありがとうございます!!!』
「ツタ!!!?ツタが俺の服の中に入ってきてるんですが!!?やめろ!!!焦がすぞ!!!」

 喜びからか勇馬がミイラみたいにぐるぐる巻きにされていた。

 勇馬が本気で焦がしにかかろうとしたところでツタがシュッと引いた。・・・勇馬、とりあえずキノコくんに八つ当たり。

 ところで、

『それでは“血の盟約”に移りたいのですが・・・』
「“血の盟約”?・・・何ゆえこの世界は厨二で溢れているんだ?」
『ちゅうに?』
「いや、なんでもない」

 そして、説明を聞いてみるとそれは主従関係を敷くための契約であり、主となるものが従者となるものの血を飲むことで交わされるようだ。

 そのメリットとして、主は従者の人権を握る能力を持つ。簡単に言えば絶対遵守の命令を聞かせることができる。また、その従者の数だけ【王】になれる可能性が高まる。

 一方で従者の方は自身のステータス、およびスキルなどの強化を行えるようになる。

 ちなみにこの仕組みは奴隷や魔獣のテイムにも使われている。なんとも悪趣味な仕組みであろうか。

 さらに帝国は特にこの仕組みを多用しており、なんなら王政にも使う模様。

 その説明を賢者の書から聞いた。

「『めちゃくちゃ初耳なんだけど!!?』」
「本当に世間知らずなのだね、君は」
「そんなアホなのになぜあれほど強いのか・・・あ、脳筋なのか」
『世間体を気にせず我が道を行かれるとは・・・流石は我が君でございまする!!』
「とりあえず野郎ども、特にキノコとメラタリア(?)は前に出てこい。ぶん殴ってやる」
「「「それはあんまりだっ!!!」」」
『(?)はつけなくてよろしいでしょう!!我が君よ!!』

 あ、合ってた?よかったよかった。

 さて、全員殴り終わったところで“血の盟約”とやらに行こうか。

「そんで、本当にいいのか?メラ・・・もう、メラって呼ぶけど。俺に隷属してもいいのか?」
『・・・メラ・・・隷属に関してはよろしいのですが・・・メラ・・・・・・』
「そんじゃメラかラタかタリかリアかどれか選べ」
『メラ!!メラでよろしいです!我が君よ!!!』

 よし、オッケー。これで呼ぶのが楽になる。

 ・・・名前、とある初級炎魔法に似ている、いやまんまだけど気にしないでおこう。

「それじゃ・・・血をもらってそれを飲めばいいんだよな?」
『その通りでございます。我が君よ。この血をお使い下さい』

 そう言って差し出されたのは緑色の液体。それがお茶碗みたいな感じの器に入っていた。・・・このお茶碗、コイツが作ったようです。なんて無駄な才能。

 ちょっと見た目抹茶みたいな感じだけど・・・これが血と言われたら少し不気味。・・・果たしてお味は!!?

 ゴクリっ

 ・・・

 ・・・

 うまい。

 いや、予想外の美味しさというわけではない。

 というか抹茶、そのものなんだよ。よく考えればコイツ、植物だな。そう言われてみれば納得。

『称号【血の盟約者】を獲得しました。スキル【血の盟約Lv.1】を獲得しました』

 お、こんなので称号獲得できるんだ。

 それで、どんな能力なのか・・・お?

 不意にコートに馴染みのある重量感がかかる。これは・・・

「ラン?どうした」

 ランであった。コートを着実に登っていき、勇馬の頭の上まで到着する。

『シショー、ボクも契約する!!』

 片手を挙手し、ランにしては真面目さが疑える声が頭に響く。

「え?マジで?・・・いや、でも大変だぞ?一生俺に逆らえないんだぞ?いいの?」
『シショーに逆らうなんてないから大丈夫!!』

 こうなるとランは引かない。

 ・・・はあ、仕方ないか。

「わかった。それじゃランも血を一滴だけくれ」
『りょーかい!!・・・これでいい?』
「ああ、それじゃいただくよ」

 ランの血を手に取りそのまま舌で拾う。普通の人がやると気持ち悪さしか感じられないが、勇馬の場合なんだか華麗さが感じられる。

 こうしてランも俺の従者へとなった。

 真龍とユニークモンスターを従える黒髪剣士、なかなかの悪夢がここに完成した。
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