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3章、初めての街的な所編

46、ミッション ポッシブル(?)

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 えーっと、なにそれマジで?こんな時こそー、こい!賢者の書!

『ミッションとは上級冒険者に対してギルド長等が強制的に受けさせる依頼のことを言います。これは冒険者にとって栄誉あるものであり、 難題であることが多いです』

 えーっと、やだねそれは。

「これをやらなければ君をギルド共通のブラックリストに載せる!」

 ひっ!卑怯な!

「で、でもですねぇ、俺はまだ下級冒険者にすらなっていないわけでそれは上級冒険者などに言うことでは?」

 俺は賢者の書から獲得した情報を元にミッションから逃げようとする。だが・・・

「む?君が倒したのは上級冒険者なのだが?」

 ギルド長からは逃げられない!と言うかのごとくその言い訳を完封される。

「シシラ・カリエント?君はどう思う」
「・・・私に判断を委ねるのはおかしいかと。少し私には荷が重いですね」

 ギルド長の質問をやんわりと躱そうとするシシラ。だがしかし・・・

「いや、私はあくまできみの意見を聞きたいだけなんだ。彼はどれほどの実力を持っていたか?っていうね」

 ギルド長の方が上手だったようだ。

 それに対して、シシラさんは表にこそ出さないもののこの状況に凄くビビっていた。

 なぜならギルド長であるムスクと上級冒険者を文字通り指一本だけで倒せる勇馬から同時に「お前は私の味方だよなぁ!?」だとか「言葉一つ一つを注意して吐けよ」とか言わんばかりの眼光を発しているからだ!

 シシラさんはなんだかいつもの自分を見失いそうになる。

「あれ?君ぃ、威圧しちゃ悪いよ。ここは
「ああ?あんたこそシシラさんを職権で威圧してんだろ?最もていうのには賛成するが」

 いえ、二人とも怖いです。

 もし彼女のステータスにSAN値があったならば今現在、ガリガリ削り減っていることだろう。もう少しで発狂間違いなしだ。

 気持ち涙目になりながらどちらを選べば今後無事か、慎重に判断する。

 結果、

「・・・ユーマ様はそれほどの実力はあるかと」

 彼女の上司が勝った。やはり上司の威圧には勝つものなどないのだろうか。

 シシラが勇馬の方を見やると少し舌打ちをしている勇馬がいた。地球にいたものならばヤクザを彷彿とさせること間違いなしだ。

 それを見なかったことにするシシラさんも凄いと思うが・・・。

「で、そのミッションとやらの内容は?」
「よくぞ聞いてくれた!!」

 そこそこぉお!と言わんばかりに声を張り上げるムスクさん。

「今回のミッションはストレッド・キャッスルの討伐だ。このミッションをクリアしてくれれば最初から上級ランクの冒険者として推薦しても構わない。もちろん賞金も弾むさ」

 ふむ、と勇馬は顎に手を添えた。その長考するような姿は見ていてとても絵になる。

「ところで、その魔獣はどんな外見をしてるんだ?」
「蜘蛛だね。相当でかい。全長6メートルはあるかな?」

 「昔、町がそいつのせいでゴミのように成り果てたのさ」と語るムスクさん。とっても天空に浮かぶ城のサングラスさんに似ている。

「ちなみにあいつのランクは確かB+だったはずだ」

 つまりイソギンチャクと同等である。なるほど苦戦こそしそうだが、魔石を食べれば素晴らしく成長できるだろう。

「よし、乗った!!」
「よし、頼んだ!!」

 2人でグッと握手する。

 シシラはやっと解決したと心の中で胸を撫で下ろし、ほぉっと小さく息を吐いた。

「そういえば今まで仕留めてきた魔獣の買取してもらいたいんだが・・・いいか?」
「む?そういえばシシラから聞いていたが森に暮らしていたようだな。その時のか?」
「ああ、その通りだ」

 少しだけムスクがワクワクしながら早く取り出すように勇馬に言う。

 この時シシラは異変を感じていた。すなわち、

 この人、カバン持ってませんよね?

 と。

 シシラの頭の中では普段鳴るとこの無い警鐘がかつてないほどうるさく鳴り響く!目の前の化け物がまたやらかさないか、不安でたまらない。

 そして、その予想は見事に当たった。

 勇馬が腕をかざすと虚空に穴が開く。

「「へ?」」

 その光景にギルド側の人間は大いに驚く。

 恐らく目の前で行われているのはスキル【アイテムボックス】の使用。それ自体は決して珍しいことではない。

 しかし、それは普通3日分の携帯食料を入れられるぐらいのものであり、決して魔獣を数匹も入れられるものではない。

 そんな感じで驚かれていることを察知出来なかった勇馬はさらにしでかす。

「えーっと、まず狼25匹、」
「「・・・・・・」」

 その量もさることながら取り出してきた魔獣の質にも量にも驚く。

 その光景に元上級冒険者であったムスクは口をあんぐりと開け、シシラさんは普段の笑顔を引きつらせている。

 勇馬が取り出した狼の魔獣は1匹だけでもCランクに認定されている化け物だ。それを「当然」と言わんばかりに出してくる勇馬には唖然とするしかない。

 さらにさらに、

「鹿18匹、熊11頭、蜂63匹、トカゲ22匹、大蛇4体、・・・」

 どんどん出てくる。もう魔獣だけで床が埋まっている。

 あらま?中にはBランクの魔獣がゴロゴロいるんだけど。

 幻覚かしら~ん、とギルド長と受付嬢はお互いの頬をつねり合う。もはや上下関係などより目の前の光景の方が重要だ。

 シシラさんの顔は真顔になっていた。いつもの彼女はもうここにはいない!

 そして最後に出てきたのは、

「で、最後はゴリラな。すまんがコイツは2匹だ」
「「いやいやいやいや、十分におかしいだろ!!」」

 見事にシンクロ。

 最後に出てきたのはバーバリアンと呼ばれるB+であった。

 勇馬はありゃま?やらかした?という感じに首を傾げた。

 勇馬なりに一応配慮はしたつもりである。だって海蛇や阿修羅は出してないんだもん。あれはB-ランクと聞いていたので少しまずいかなと出さなかったのだ。

 それなのに目の前では散々びっくりさせられている。一体どうしたものか?

「・・・・・・ふぅ」
「シシラァアア!!??行くな!お前が召して仕舞えば残りの仕事が片付けられないだろぉおおお!!目の前の化け物のせいでめちゃくちゃ仕事が増えたのにぃいい!!カムバァアアク!!」

 ついにSAN値が切れたシシラが真っ白になりながら床に崩れ落ち意識を落とした。それをムスクが全力で止めようとする。

 勇馬はただただどうすればいいかとそこに佇んだままだった。
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