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1章、王国在住編

18、勝てば良かろうなのだ

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 ドッカーン、ヒュー、グシャグシャ

 目の前の光景を表すには安易だが相応しい擬音だ。

 ふむ、予想よりも楽に終わったな。

 今の状況を説明しよう。

 俺の目の前には大きく深い落とし穴が出来ていた。

 そしてゴブリンの群れは未だ一直線に走って来て、落とし穴へ落ちていっている。まるで、自ら落とし穴へ自殺しにいっているようにも思える。

 だが、実際は違う。

 ゴブリンの群れが落とし穴へ突っ込んで行く理由は俺にある。 

 その原因が【魅了】というスキルにある。

 【魅了】のスキルの能力は単純だ。

 単に仕掛けた相手の自分に対する性欲が増すだけだ。それだけのスキルなので本来は女性が男性に対して既成事実を作るために使うんだとか。俺は出来るだけこのスキルを使いたくはないのだが・・・。

 だが、俺の使い方は普通の使い方とは違う。

 勇馬の使い方はRPGでいう“ヘイト”というものだ。自分に対する性欲を増させることでそれ以外のことを考えにくくする。

 その威力は恐ろしいものだと勇馬は知っていた。

 なぜなら自分のことを男だと知っている園田、アルベルトさん、蓮、アゲハにうっかり使ってしまったら、全員がもれなく襲って来たからだ。

 あれは怖かった。

 なぜか一番積極的に襲ってきていたのがアゲハだという点も恐ろしかった。あの後はみんな謝ってきていた。土下座で。

 その時は何とか天翔に止めてもらったが、本気であの時はどうなるかと思った。

 だいぶ話が脱線したが、要はそのヘイトもどきでずっとをゴブリンに気づかせないようにしただけだ。

 落とし穴は7日前ほどから【地操士】の美濃みのうと【錬成士】の陰柳かげやなぎ七咲しちざきに制作してもらいました。

 まず美濃が大まかな地形を作り、陰柳と七咲が細かい微調整を行った。【錬成士】は細かい加工を得意とする称号である。

 それとこの落とし穴は約25m掘られており、その深くには鋭利で大量の針が待ち構えている。

 もちろん、これで殺せるとは思ってはいない。では、どうやって殺すか。

 この落とし穴の底には大量の液体がある。軽くゴブリンの二倍の水深だ。

 この液体が本命だ。あくまで針はこの液体を傷口に染み込ませるためのものに過ぎない。

 そして護衛の北村には護衛以外の役目があった。

 この落とし穴に火球を放つという役目が。

「北村!いまだ!」
「・・・分かったぁ」

 北村が落とし穴に向けて火球を数発放った。

 その火球が液体へと着弾する。

 ドッガァアアアアン!!!

 目の前が紅蓮に染まる。

 後藤が慌てて障壁をはる。

 さっきまでそこにあった落とし穴が崩壊する。

 ゴブリンたちの絶叫が木霊した。まるで呪いの歌の如く。

 その時俺の足元も崩壊していった。

「アゲハ、木暮!今だ!」

 空から影が2つ降り立つ。勿論アゲハと木暮だ。

 アゲハは訓練途中にテイムした大きな鷹に乗って、木暮は背中から悪魔のような翼を生やして上空に待機してもらっていた。

 俺と北村はその鷹にすぐさま乗って、後藤は木暮の脇に挟まれて上空へと逃げ込んだ。

 ・・・正直、予想外だった。

 何がって?爆炎の威力だよ!!

 落とし穴のそこに溜まっていたのは前世のガソリンを模倣した液体だ。

 製作者は【水創士】の飯田 峰一いいだと【付与士】の飯田 暁いいだ あかつきです。ちなみに双子です。

 峰一の方が水を作成し、暁の方がその水をガソリンみたいに変質させたのだ。その中で試行錯誤して作られたのが先ほどの水でございます。

 その水の爆発の威力に関する実験は行なっていた。でも、その時は少量で行なっていたため、大量に使うとここまでの威力になるとは思っていなかった。

 そのため、後藤とアゲハと木暮にはすごく感謝しよう。なんたって後藤は爆発した瞬間障壁で俺たちを守ってくれたし、アゲハと木暮は前述通りだ。

 ・・・にしても全くカオス・シンさんの能力がわからん。とりあえず、なんでか翼の根元から魔法陣が出ることしかわからん。

 ともかく俺たちは特に大した被害もなく、ゴブリンたちの排除を行えたわけで・・・

 その時だった。

『グァアアアアア』
『『『ガァアアアアアア』』』

 咆哮がおきた。
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