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1巻
1-2
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「言動と行動が伴っていませんよ。これは、子どもにすることです」
「そうかな。でも、本当に綺麗だ」
続けて綺麗と言われて、眉間に皺を寄せつつもさすがに頬は熱を持ち始めた。
幼い乃々佳にとっては、憧れのお兄さん的な存在でもあったのだ。手を伸ばしても遠く届かない人だけれど、声を掛けてもらえば嬉しくてそわそわするというか。
久遠家を親族だと信じていた頃、もっと自由で皆一緒だと思っていた。けれど違うというのをどこかで痛烈にこの身で痛感したのは覚えている。
人としては一緒かもしれないけれど、立場が違うと自然と区別されていく。そんな理不尽もひっくるめて社会なのだ。
「そうだな……。今度から俺が直接迎えにいくから後で連絡先を教えて」
「いやいやいやいや」
乃々佳は全力で首を横に振った。
「坊ちゃんにそんなご迷惑を掛けるのは畏れ多いです。タクシーをちゃんと使います。神に誓ってタクシーを使って領収書を回します。信じて下さい」
東悟は信じていなさそうだ。
領収書はもらい忘れたと言い通すと心の中では決めているのを見透かされている気はする。
「俺に、電話だ」
「……いえ、……ハイ」
小さなお父さんはこうと決めたら譲らない。そういえば三兄弟の中で東悟の連絡先だけ知らなかった。今までも困っていないので、これからも困らないと思うし、社会的地位のある人間の個人情報なんて出来れば知りたくない。
だいたい、跡取りを送り迎えに使うなんて両親を困らせてしまうだけじゃないか。
ふいに乃々佳の頭上にあった手が離れた。大きさと重みが一気になくなって、ぬくもりだけが残り、乃々佳は東悟を見上げた。
「いい加減にその坊ちゃんは止めてくれないかな。何で総司と照はそのままで、俺だけ坊ちゃん」
「跡取りの息子様だからですよ。当然じゃないですか」
困りながらも乃々佳が答えると、東悟は腕を組んだ。
両親が坊ちゃんと呼んでいるから、自然と乃々佳もそう呼ぶようになったのだと思う。それに苦言を呈するのは東悟本人だけだ。
「俺が止めてと言ってるのに? 前から言ってると思うけど、なかなか聞き入れてもらえないのはなぜかな。人が嫌がることをするのが好きっていう趣味なの? あんなに素直な子だったのに、どうしちゃったのかな」
「口が悪くなってますよ……。坊ちゃんと私にはですね、越えられない壁があるんです」
東悟が表情を曇らせた気がした。
本家の跡取りと使用人の娘という関係は、近いようでとても遠い。他の兄弟とは違って年齢も開いているし、たまに会えば親目線な過保護気味だし、やはり坊ちゃん以外はしっくりこない。
「ぶれないね。東悟って呼ばせるのが楽しみになってきた」
「あ、でも、ご結婚をされたら、坊ちゃんとは呼べないかも……」
その時は東悟様と呼ぶしかなくなるな……と考えていると、微笑みを浮かべている東悟と目が合った。庭の灯りの下なせいで、表情が良く見える。
東悟の目から感情が流れ込んでくるようで、それがなんだか、こそばゆくて落ち着かなくなった。
気が付けば先程まで東悟の手が乗せられていた頭を自分の指で触れている。
「……その話はまた後で。俺は乃々佳を迎えに来たんだ」
乃々佳は我に返ると、片手で持っていた荷物を両手で持ち直した。
帰ってきた理由が理由だけに、一気に気持ちが引き締まる。
「あの、旦那様の具合はいかがなのでしょうか」
「気持ちで生きてる人だから、持ち直すとは思っている」
返事を誤魔化された気がした。東悟は乃々佳が持っていたバッグを自然に取り上げる。
「あの」
「悪いね。父からの呼び出しだ。このまま屋敷に寄ってもらうよ」
荷物を自宅に置く時間さえ惜しいということだろうか。いや、それならば、こんな雑談はしなかったはずだ。
乃々佳の頭の中がぐるぐると回る。
緊張で縮むような痛みを胃に覚えながら、東悟について本家の屋敷へと向かった。
本家の屋敷は長い間に改修と増築を重ねながら、レトロモダンな洋館の佇まいを残している。
広々としたロビーにはピアノがあり、訪問客を待たせる応接セットが一つあった。階段横には常に花が活けられ、今日も最も美しい状態で花開いている。
「間宮、乃々佳を父の部屋に通すから」
どこからともなくすっと現れたのは、屋敷を取り仕切る八代の補佐をしている間宮だった。
東悟と同じくらいの年で、すらりとした体型と柔和な笑みが特徴の彼と乃々佳はあまり接点がない。乃々佳の方を向いて、まるで親戚の子が帰って来たかのような優しい視線を向けてくれる。
「かしこまりました。乃々佳さん、お久し振りです」
両親の使用人の中の地位は高い。だからこそ娘はより頭を垂れなければならないのだ。
「こんばんは。間宮さん。こんな夜分に申し訳ありません」
深々と頭を下げる乃々佳の腕を取ったのは東悟だった。
「とりあえず起きているかもしれないから、顔だけは出して欲しい」
「あ、はい」
メインで執事の役割を果たしている八代はもう就寝しているのだろう。間宮が丁寧に礼をして送り出してくれるので、乃々佳は腕を引かれながらぺこぺこと頭を下げる。
無言のまま階段を上り一番奥の久遠家の当主である久遠勝造の主寝室に近づく。緊張が高まり、出来れば引き返したい気持ちだったが、東悟はノックもせずにドアノブに手を掛けた。
ギィ……と音を立ててドアは静かに開いたが、乃々佳は緊張がピークに達したせいで足が動かない。開いたドアの隙間から病院のような匂いが漂ってくる。
「大丈夫だ」
ドアを押さえてくれている東悟が勇気づけるように頷いてくれたので、乃々佳は足を踏み入れる。前に入ったのは、就職祝いのプレゼントを頂いた時だ。次がこんな形になるとは思ってもみなかった。
広いベッドの上で勝造は寝ていて、息をしていないのかと緊張してしまうほどに静かだ。
乃々佳は明らかに自分の手が震えたのがわかった。
「……っ」
前に会った時と比べれば一回りは痩せていて、土気色の顔色は明らかに生気に欠けている。人を従える立派で活気に満ち溢れる勝造の面影と全く重ならない。東悟の態度からここまでの状態だとは想像していなかっただけに、乃々佳はショックで言葉を失う。
「父さん、乃々佳が帰ってきましたよ」
「ぼ、坊ちゃん」
東悟がベッド横に近寄り勝造の耳元に話し掛けたので、思わず彼の腕を掴んだ。わざわざ起こす必要もないと、乃々佳は彼の後ろでハラハラとする。
「昼夜が逆転気味だし、眠りも浅いんだ」
そう言った東悟が寂し気に見えたのは気のせいじゃない。ふっと見せた彼の様子に、乃々佳の涙腺が刺激される。
その時、勝造の瞼が僅かに震え、閉じていた目がゆっくりと開いた。ぼんやりと彷徨う視線が乃々佳に止まった時、虚ろだった表情が笑顔になる。
乃々佳の涙腺が熱を持ち、考えるより先にベッドの脇に膝をついていた。
幼い頃はたくさん遊びに連れて行ってくれる親戚のおじさんと漠然と思っていたが、今ならよくわかる。勝造はいつも忙しい合間を縫ってくれていた。もしかしたら、実の子ども達以上に可愛がってくれたかもしれない。
「旦那様、ただいま帰りました」
「久し振りだね。会うたびに綺麗になって……」
穏やかながらも掠れた小さな声に衝撃を受けて、乃々佳の心はめげそうになった。頑張って笑みを浮かべると、静かに話しかける。
「なかなか帰って来ずに、ごめんなさい」
全てをわかっているような微笑を浮かべた勝造の口元から浅い息が漏れる。体力がだいぶ落ちているのだ。
ベッド脇には点滴のスタンドもある。それ用の物品も棚に整理して置かれていた。大丈夫ですかとは聞けない。いつでも点滴が出来るように準備しておかないといけない状態なのだ。
乃々佳は勝造の掛け布団の上に置かれている手をぎゅっと握り締める。
「仕事はどうだい」
「まだ、会社の役に立てているかはわかりません。でも、私は楽しくやらせてもらっています。元気になったら、いろいろ話を聞かせて下さい。……お仕事のこと、いろいろ教えて下さい」
勝造は嬉しそうに目を細めた。こんなに体調の変化があることを誰も教えてくれなかったのは、皆が乃々佳の生活を大事にしてくれたからだろう。
連絡があったということは危ないから。こみ上げてくる涙を、唇を噛み締めることで堪えた。
勝造は周りを従わせるタイプだが、モラハラ的な絶対的支配者というわけではない。昔から自分とは違う意見にも寛容だった。小さな頃は乃々佳がはっきりと勝造にものを言うものだから、両親はよくハラハラしていた。
勝造は重要な最終決定は自分が下すが、他人の思想や人生にぐいぐいと干渉しない。東悟にはさすがに違ったようだが、他の兄弟は比較的自由に生きている。
だからか乃々佳はあまり勝造が怖いという意識はなかった。ただ可愛がってもらったという印象が強い。
「ののちゃんにね、お願いがあって、呼び出してもらったんだ。悪かったね」
「私に出来ることですか」
「ああ、出来る」
出来ることは何でもしようと乃々佳が真剣に頷くと勝造は笑んだ。
「東悟と、結婚してくれないか」
「……」
乃々佳は固まった。勝造は、東悟と自分に結婚しろと言っていないか。
いや、そんな冗談を言う人ではない。心の中で自分に落ち着くようにと言い聞かせる。久遠家と自分は生きている階層が違うのだから、現実的な話じゃない。
勝造は結婚をお願いする相手を間違うほど、混乱しているのだろうか。乃々佳が困って後ろに立っている東悟を見上げたが、眉を僅かにひそめているだけで微動だにしていない。
勝造は人違いをしていると考えた乃々佳は、親同士が決めた東悟の許嫁ともいえる存在を口に出した。
「坊ちゃんと、黒瀬のお嬢様との縁談の件ですか。私もご成婚の際には、お手伝いに参ります。旦那様もお孫様のお顔を見るまでは、元気でいなければ」
「そうだ、孫だ。二人の孫なら、さぞかし、可愛いだろう」
勝造は微笑んで、満足げに細い息を吐いた。
黒瀬雅は華族の血筋を引いている、父親は大学教授で母親が事業家という家柄の娘だ。乃々佳は屋敷で何度か遠目で見かけたことがある。とても洗練された美しい人だった。
東悟とは年齢が釣り合うということで、公ではないにしろ昔から婚約しているような関係にあった。東悟も三十歳を迎えたし、これを機会にいよいよ身を固めるのだろう。
「ののちゃんが、娘になるのだと思うと嬉しいよ」
「……えっと」
今日は仕事が忙しくて疲れているせいで自分の理解力が落ちているのかもしれない。
そう考えても、やはり、なんだか話がズレている。
勝造の瞼が落ち始めた。とても安らかな表情で、眠るのを邪魔するつもりは全くないのだが、東悟と乃々佳が結婚すると思っていたら大変だ。
乃々佳はどうしていいかがわからなくて、後ろにいる東悟を振り返る。
「ぼ、坊ちゃん。黒瀬のお嬢様との結婚は年内ですか」
東悟は腕を組んで慌てている乃々佳に肩を竦めた。
「あの話はとうの昔になくなっている」
「ああ、えっ? では、他の方との縁談があるのですか」
そろそろ身を固めろと東悟が周りから言われているのは知っている。本人には本命がいるんだけど相手が鈍感でねーと、手のパックをしていた三男の照から聞いた覚えはあった。
「それとも、好きな方がいる……ってことですか」
「いるね」
「なら、それをお伝えしないと」
今の問題は、勝造が誤解したままで眠ってしまっていいのかだ。
勝造には娘のように可愛がってもらっていただけに、誤解に罪悪感が膨らんでいく。
「父さん」
東悟が隣に立ったので、乃々佳は勝造の手を離して場所を譲る。
勝造の手の甲に指先を軽く触れさせた東悟は、目を閉じたままの勝造に静かに声を掛ける。
「乃々佳へのプロポーズはちゃんと自分でしますから、今日はもう休んで下さい」
聞こえたのか勝造の口元が緩んで寝息が深くなったが、乃々佳の頭の中は真っ白になった。
「そんな嘘を吐いたらダメじゃないですか。冗談が過ぎますよ。きっと起きても覚えていらっしゃいますし」
「冗談じゃないんだよ。父が先にするとは思わなかった」
弱っていても本当に食えない人だと、東悟は勝造に悪態づいている。
話が理解出来ない乃々佳は東悟の渋い表情を横からただ見つめた。視線に気づいたのか彼は表情を和らげる。
「乃々佳、遅くに悪いが今から時間をもらえないか」
「わ、わかりました。誤解を解く作戦会議ですね」
乃々佳が拳を握ってやる気を見せると、東悟は苦笑しながら首を横に振った。
「いや、俺が乃々佳にプロポーズする時間が欲しい」
「は」
気が抜けた普通の声が出て慌てて口を押さえる。心臓が早鐘を打ち過ぎて息苦しくて、先程まであった疲れも眠気も一気に吹き飛んだ。
誤解ならそう勝造に伝えれば話は終わる。
壁に掛かっている時計は夜中の一時半を指しているから、まともな判断を出来るとも思えない。
「……明日なら時間を作ってもらえるかな」
乃々佳が時計に視線をやったのに気が付いたのだろう。東悟は強引なようで、気遣ってくれる。
勝造を寂しそうに見下ろす東悟の横顔に少年時代の彼が重なった。一人で何かの重圧に耐えているのに、それを隠しているような表情。すっかり忘れていた乃々佳は内心慌てる。
その横顔に吸い寄せられるように、いつもそばにいた。隣にいれば東悟はちょっと笑ってくれたから。彼が笑うと嬉しかった。
あの時と同じ雰囲気を感じてしまって断れない。
「い、今からでも、少しだけなら」
「ありがとう」
東悟の心底嬉しそうな笑顔が、胸の中にすっと入りこんだ。
冷静でありたいのに、困ったことに指が震えている。それを隠すように乃々佳は手を握り締めた。
東悟の部屋も二階にある。
シンと静まった廊下を彼の後ろについて歩く。歳が離れているから、彼の部屋で遊ぶことはなかった。東悟が幼い乃々佳の面倒を見てくれた時ぐらいしか入ったことがない。
その時も他の弟達の部屋みたいにおもちゃやゲームはなく、東悟は何をして遊んでいるのだろうと幼心に不思議に思ったのを覚えている。今思えば勉強に集中するための個室だったのだろう。
「どうぞ」
「お邪魔します」
押さえてもらったドアをためらいながらくぐって部屋に入った。勧められた一人掛けのソファに腰掛ける。目だけで部屋を見渡したが、やはり記憶の中の部屋とは違った。
家具はセミダブルのベッド、年季の入った勉強机に本棚、一人掛けのソファとオットマンだけだ。広い部屋だがシンプルな装飾は東悟の性格を表しているのかもしれない。
部屋をこっそり観察していると東悟が部屋の鍵を閉めたので、思わず乃々佳はソファから腰を浮かせる。
「坊ちゃん、ドアは開けておくものでは……」
乃々佳に年頃の女性であることを意識しろと注意したばかりなのに、真夜中に部屋を密室にするのは矛盾していないか。いや、夜道は危ないと女扱いをしつつ、頭を撫でてくるなど子ども扱いをしてくるから大丈夫なのか。
混乱が混乱を呼んでよくわからなくなってくる。
「プロポーズを誰かに聞かれてもいいなら開けておくけど」
「その冗談は笑えないんですってば」
今まで結婚なんて考えたこともなく、早く働いて自立をしたいと思っていた。若いうちに結婚して子どもを産みたいという友人もいたが、そういう意見もあるのかと思ったくらいだ。
それに雇い主の息子にプロポーズをされるなんて、恋愛漫画のような想像なんてただの一度もしたことがない。現実の世界には絶対的な区別や階層があって、よほどの切れ者か美人でないと入り込むのは無理なのだ。
戸惑いと不安で乃々佳の顔は引き攣っていた。
「とにかく、旦那様の誤解を解かないと」
「どうして冗談だと思うのかな」
「どうしてって」
乃々佳は思わず笑ってしまった。理由は簡単で、乃々佳が使用人の娘だからだ。
両親のことは大好きだし、とても尊敬しているが、久遠家が経営する会社を大きくしたり、家を存続させるための『何か』を持っていない。
「そんなの、家柄が違いすぎるからに決まっているじゃないですか」
「乃々佳は家柄が合えば結婚するんだ。そこに愛や尊敬がなくても」
「愛と尊敬は大事にしたいです」
「俺もそう思う。だから乃々佳がいい」
「でも家柄が」
「どんな家だって、遡ればただの家だろう」
「久遠家は、百年以上も継続させてきた重みがあります」
東悟は腕を組んで苦笑する。家の重圧を背負う為に、彼がずっと努力してきたのも知っている。
東悟は勉強机から持って来た椅子を置き、背もたれを乃々佳の側に向け跨るように座った。
物理的な小さな壁はあるけれど、とても近い。ちゃんと距離を置いてくれる人が、今日はやたらと近いから乃々佳の緊張が意識せずとも高まる。
東悟は背もたれの上の縁に腕を置き、上に顎を乗せた。
「……父さんの認知の面は問題がなく、せん妄もない。ただ気持ちが弱っているというのが先生の見立てだ。あの人は、気持ちで生きているから」
長年の付き合いのある主治医の先生がそう言ったからということだけではなく納得出来た。
勝造は確かに気持ちが強い人だ。視覚化出来るのなら、この屋敷くらいは簡単に包み込むほど大きいだろう。
「だから、俺達は回復すると思っている。問題は父さんがどうすれば気持ちがしっかりと保てるかなんだよ」
「それが私だと言わないで下さいね」
東悟が微笑したので乃々佳は頭を抱えた。大事に思ってくれているのは嬉しいが何か違う。
「旦那様は坊ちゃんが望まない結婚をさせるような方じゃないでしょう。坊ちゃんが誰かと結婚してお子様が生まれたら気力も戻ってくると思います。だから早く」
「ちょっと違う」
東悟が困ったように笑った。彼の笑顔は反則だと乃々佳はいつも思う。長身で筋肉質という厳つさがあって圧もある人が、笑めば簡単に惹き付けられるのだ。
「父さんは、乃々佳がこの家に戻ってくることを望んでいる」
「ええっと」
乃々佳はあまり働かない頭をフル稼働させる。
「実家から通勤すれば、問題は解決ですよね。出来るだけ早めに、実家に戻ります」
実家は屋敷内だから帰ってくることになるだろう。会社まで遠くはなるが通勤に無理な距離ではない。旦那様の具合が良くなればまた一人暮らしをすればいい。
自分なりの結論が出ると、ほっとして眠くなってきた。あくびをかみ殺すと東悟と目が合った。
「乃々佳」
「はい。えっと、引っ越しの日程ですね。いつから戻ってくることが可能かを両親に相談をして、父から坊ちゃんに連絡してもらいますね。会社にも通勤手当の変更とか、報告が必要だし」
もろもろの難しいことはまず寝て朝から考えたいと思っていると、東悟が腰を浮かせてまた椅子を近づけてきた。顔がかなり近づいて焦る。乃々佳は少しでも距離を保つために、ソファの背もたれに背中を押し付けた。
東悟の、彫像のような人を惹き付ける完璧な顔立ちとカリスマの雰囲気。それを全面に押し出してきたので、否が応でも緊張が高まる。
「ち、近いです」
「近づいたからね」
にこりと微笑むだけで下がらなかったので、乃々佳の頬が真っ赤に染まる。東悟は微笑を浮かべたままだ。
「敷地内に戻ってきて欲しいというわけではない。父さんは乃々佳が頑張っているのを喜んでいたし、邪魔をしないようにしていただろう」
「はい」
実家に戻らず、屋敷に顔を出さないことにも、何を言われたこともなかった。
「ある日、話題に上ってね。乃々佳が知らない男と結婚すれば、久遠とは縁が遠のくという話だ。相手の男の仕事で知らない土地で子どもでも産めば、ますます帰ってこれなくなる」
「それは……そうなのかな……。ちょっとわからないです。そんな相手がいないから。でも、どんな関係が」
急な話の展開に乃々佳の頭にハテナがいっぱい浮かんだ。
結婚相手どころか彼氏さえいない状況なのに、皆揃って勝手に何を心配しているのか。それに、両親が働いている限り久遠家と縁が切れるわけではない。
「原家は久遠にとっては親戚よりも近い他人なんだ。それなのに外に出たら自然と関係が遠くなるどころか切れる可能性がある。それが嫌なのだと思う。歳を取って信頼出来る人間にそばにいて欲しいという欲が強く出たんだろう」
「……あの、旦那様と父は、仕事の上下関係はありますが、友人でもあると思います。だから、原の家と縁が切れたりすることはないと思うんです」
原家は久遠家と雇用関係で結ばれているが、勝造と父親は友人だ。それに彼らは常に久遠家を大事にしてきた。乃々佳が寂しくなる程度には。だから、心配するようなことはないと思う。
「父さんが乃々佳に結婚の話をしたのは、それが理由」
「……何となくわかりました。でもそれは、私が実家に帰ってくれば解決ですよね」
乃々佳は胸を撫でおろした。おかしな空気を終わらせたかったのに、東悟は表情を引き締める。
「プロポーズはまた別。俺と結婚して欲しいというのは、俺の意志」
「は……、またまたご冗談を」
笑って誤魔化そうとしたが、東悟の目が真剣に自分を見ていた。
「結婚してくれないか」
「いやいや、そんな、それは……」
それはありえない。それだけは乃々佳にもわかっていた。乃々佳の返事を予想していたのか、東悟はまったく動揺していない。
「坊ちゃんは好きな方と結ばれないと……。お子様が生まれれば旦那様も気持ちも変わるでしょう」
「うん。で、乃々佳が俺に生理的嫌悪感があるなら、無理強いは出来ないけど、俺との結婚はどうかな」
「どうかなって……できません」
重いのか軽いのかわからないプロポーズにどう反応していいかわからないが、返事だけは決まっている。
「あ、もちろん坊ちゃんに嫌悪感はありませんけれど」
乃々佳がそう返事をすると東悟は自分が座っていた椅子を勉強机のそばに片付け、戻ってくると目の前に跪いた。
それから、乃々佳が気づかない内に膝の上できつく握り締めていた手を、東悟の手が包み込んできた。びっくりするくらいに温かい。
「手を握ってますが、これは何……」
「嫌かな」
久遠家の跡取りを跪かせているだけでなく、手を包まれているという状況が乃々佳をますます混乱させる。
そういえば先程は頭を随分と撫でられた。今日はボディタッチが多い、普段はそんなことをしてくる人ではない。
「乃々佳」
「はいっ」
名前を呼ばれただけなのに、全身の血が沸騰するかのような感覚に襲われた。顔も耳も全部真っ赤になった上に、じわりと汗までが浮かんできて恥ずかしい。雰囲気に呑まれてしまっている。
腕で顔を隠そうにも、東悟に見上げられている上に、手を握られているから動くのが難しかった。
「その、あの、えっと、坊ちゃん」
「気分が悪いとか、触られたくないとかある?」
こんな状況なのに紳士的に尋ねられるので、一人で興奮しているような自分がますますいたたまれない。緊張しすぎて呼吸は浅くなるし、肌はやけに敏感になっていて、東悟の息や声にも反応していた。
キャパシティを完全に超えてしまった乃々佳は涙目を東悟に向ける。
「どれだけ触られても大丈夫なので、私、家に帰りたい……。ご飯も食べたいです。夜ご飯、まだなんです……。お腹が空いたんです」
追い詰められて出てくるのが食事の話である自分が情けない。
もう駄目だと、場の雰囲気に耐えられなくなった乃々佳は立ち上がろうとした。その二の腕を咄嗟に東悟に掴まれた。
その時、僅かに東悟の手が胸の尖端を掠って、身体に走った痺れに声が漏れた。
「あっ」
膝から力が抜けて、先程まで座っていたソファに腰が落ちた。
自分が過剰に反応している様子を全部、東悟に見られている。恥ずかしさが振り切れて、乃々佳はこの場から逃げ出すことしか考えられなくなった。
「本当に、嫌じゃないです。坊ちゃん、今日はなんだかおかしいです」
「もう俺はずっとおかしいよ。……ここは?」
腕を掴んでいた東悟の手が離れて耳に触れた。
ビリっと走った甘痒い感覚に乃々佳が首を竦めたのに、彼の手は頬、髪、うなじと移動していく。
「そうかな。でも、本当に綺麗だ」
続けて綺麗と言われて、眉間に皺を寄せつつもさすがに頬は熱を持ち始めた。
幼い乃々佳にとっては、憧れのお兄さん的な存在でもあったのだ。手を伸ばしても遠く届かない人だけれど、声を掛けてもらえば嬉しくてそわそわするというか。
久遠家を親族だと信じていた頃、もっと自由で皆一緒だと思っていた。けれど違うというのをどこかで痛烈にこの身で痛感したのは覚えている。
人としては一緒かもしれないけれど、立場が違うと自然と区別されていく。そんな理不尽もひっくるめて社会なのだ。
「そうだな……。今度から俺が直接迎えにいくから後で連絡先を教えて」
「いやいやいやいや」
乃々佳は全力で首を横に振った。
「坊ちゃんにそんなご迷惑を掛けるのは畏れ多いです。タクシーをちゃんと使います。神に誓ってタクシーを使って領収書を回します。信じて下さい」
東悟は信じていなさそうだ。
領収書はもらい忘れたと言い通すと心の中では決めているのを見透かされている気はする。
「俺に、電話だ」
「……いえ、……ハイ」
小さなお父さんはこうと決めたら譲らない。そういえば三兄弟の中で東悟の連絡先だけ知らなかった。今までも困っていないので、これからも困らないと思うし、社会的地位のある人間の個人情報なんて出来れば知りたくない。
だいたい、跡取りを送り迎えに使うなんて両親を困らせてしまうだけじゃないか。
ふいに乃々佳の頭上にあった手が離れた。大きさと重みが一気になくなって、ぬくもりだけが残り、乃々佳は東悟を見上げた。
「いい加減にその坊ちゃんは止めてくれないかな。何で総司と照はそのままで、俺だけ坊ちゃん」
「跡取りの息子様だからですよ。当然じゃないですか」
困りながらも乃々佳が答えると、東悟は腕を組んだ。
両親が坊ちゃんと呼んでいるから、自然と乃々佳もそう呼ぶようになったのだと思う。それに苦言を呈するのは東悟本人だけだ。
「俺が止めてと言ってるのに? 前から言ってると思うけど、なかなか聞き入れてもらえないのはなぜかな。人が嫌がることをするのが好きっていう趣味なの? あんなに素直な子だったのに、どうしちゃったのかな」
「口が悪くなってますよ……。坊ちゃんと私にはですね、越えられない壁があるんです」
東悟が表情を曇らせた気がした。
本家の跡取りと使用人の娘という関係は、近いようでとても遠い。他の兄弟とは違って年齢も開いているし、たまに会えば親目線な過保護気味だし、やはり坊ちゃん以外はしっくりこない。
「ぶれないね。東悟って呼ばせるのが楽しみになってきた」
「あ、でも、ご結婚をされたら、坊ちゃんとは呼べないかも……」
その時は東悟様と呼ぶしかなくなるな……と考えていると、微笑みを浮かべている東悟と目が合った。庭の灯りの下なせいで、表情が良く見える。
東悟の目から感情が流れ込んでくるようで、それがなんだか、こそばゆくて落ち着かなくなった。
気が付けば先程まで東悟の手が乗せられていた頭を自分の指で触れている。
「……その話はまた後で。俺は乃々佳を迎えに来たんだ」
乃々佳は我に返ると、片手で持っていた荷物を両手で持ち直した。
帰ってきた理由が理由だけに、一気に気持ちが引き締まる。
「あの、旦那様の具合はいかがなのでしょうか」
「気持ちで生きてる人だから、持ち直すとは思っている」
返事を誤魔化された気がした。東悟は乃々佳が持っていたバッグを自然に取り上げる。
「あの」
「悪いね。父からの呼び出しだ。このまま屋敷に寄ってもらうよ」
荷物を自宅に置く時間さえ惜しいということだろうか。いや、それならば、こんな雑談はしなかったはずだ。
乃々佳の頭の中がぐるぐると回る。
緊張で縮むような痛みを胃に覚えながら、東悟について本家の屋敷へと向かった。
本家の屋敷は長い間に改修と増築を重ねながら、レトロモダンな洋館の佇まいを残している。
広々としたロビーにはピアノがあり、訪問客を待たせる応接セットが一つあった。階段横には常に花が活けられ、今日も最も美しい状態で花開いている。
「間宮、乃々佳を父の部屋に通すから」
どこからともなくすっと現れたのは、屋敷を取り仕切る八代の補佐をしている間宮だった。
東悟と同じくらいの年で、すらりとした体型と柔和な笑みが特徴の彼と乃々佳はあまり接点がない。乃々佳の方を向いて、まるで親戚の子が帰って来たかのような優しい視線を向けてくれる。
「かしこまりました。乃々佳さん、お久し振りです」
両親の使用人の中の地位は高い。だからこそ娘はより頭を垂れなければならないのだ。
「こんばんは。間宮さん。こんな夜分に申し訳ありません」
深々と頭を下げる乃々佳の腕を取ったのは東悟だった。
「とりあえず起きているかもしれないから、顔だけは出して欲しい」
「あ、はい」
メインで執事の役割を果たしている八代はもう就寝しているのだろう。間宮が丁寧に礼をして送り出してくれるので、乃々佳は腕を引かれながらぺこぺこと頭を下げる。
無言のまま階段を上り一番奥の久遠家の当主である久遠勝造の主寝室に近づく。緊張が高まり、出来れば引き返したい気持ちだったが、東悟はノックもせずにドアノブに手を掛けた。
ギィ……と音を立ててドアは静かに開いたが、乃々佳は緊張がピークに達したせいで足が動かない。開いたドアの隙間から病院のような匂いが漂ってくる。
「大丈夫だ」
ドアを押さえてくれている東悟が勇気づけるように頷いてくれたので、乃々佳は足を踏み入れる。前に入ったのは、就職祝いのプレゼントを頂いた時だ。次がこんな形になるとは思ってもみなかった。
広いベッドの上で勝造は寝ていて、息をしていないのかと緊張してしまうほどに静かだ。
乃々佳は明らかに自分の手が震えたのがわかった。
「……っ」
前に会った時と比べれば一回りは痩せていて、土気色の顔色は明らかに生気に欠けている。人を従える立派で活気に満ち溢れる勝造の面影と全く重ならない。東悟の態度からここまでの状態だとは想像していなかっただけに、乃々佳はショックで言葉を失う。
「父さん、乃々佳が帰ってきましたよ」
「ぼ、坊ちゃん」
東悟がベッド横に近寄り勝造の耳元に話し掛けたので、思わず彼の腕を掴んだ。わざわざ起こす必要もないと、乃々佳は彼の後ろでハラハラとする。
「昼夜が逆転気味だし、眠りも浅いんだ」
そう言った東悟が寂し気に見えたのは気のせいじゃない。ふっと見せた彼の様子に、乃々佳の涙腺が刺激される。
その時、勝造の瞼が僅かに震え、閉じていた目がゆっくりと開いた。ぼんやりと彷徨う視線が乃々佳に止まった時、虚ろだった表情が笑顔になる。
乃々佳の涙腺が熱を持ち、考えるより先にベッドの脇に膝をついていた。
幼い頃はたくさん遊びに連れて行ってくれる親戚のおじさんと漠然と思っていたが、今ならよくわかる。勝造はいつも忙しい合間を縫ってくれていた。もしかしたら、実の子ども達以上に可愛がってくれたかもしれない。
「旦那様、ただいま帰りました」
「久し振りだね。会うたびに綺麗になって……」
穏やかながらも掠れた小さな声に衝撃を受けて、乃々佳の心はめげそうになった。頑張って笑みを浮かべると、静かに話しかける。
「なかなか帰って来ずに、ごめんなさい」
全てをわかっているような微笑を浮かべた勝造の口元から浅い息が漏れる。体力がだいぶ落ちているのだ。
ベッド脇には点滴のスタンドもある。それ用の物品も棚に整理して置かれていた。大丈夫ですかとは聞けない。いつでも点滴が出来るように準備しておかないといけない状態なのだ。
乃々佳は勝造の掛け布団の上に置かれている手をぎゅっと握り締める。
「仕事はどうだい」
「まだ、会社の役に立てているかはわかりません。でも、私は楽しくやらせてもらっています。元気になったら、いろいろ話を聞かせて下さい。……お仕事のこと、いろいろ教えて下さい」
勝造は嬉しそうに目を細めた。こんなに体調の変化があることを誰も教えてくれなかったのは、皆が乃々佳の生活を大事にしてくれたからだろう。
連絡があったということは危ないから。こみ上げてくる涙を、唇を噛み締めることで堪えた。
勝造は周りを従わせるタイプだが、モラハラ的な絶対的支配者というわけではない。昔から自分とは違う意見にも寛容だった。小さな頃は乃々佳がはっきりと勝造にものを言うものだから、両親はよくハラハラしていた。
勝造は重要な最終決定は自分が下すが、他人の思想や人生にぐいぐいと干渉しない。東悟にはさすがに違ったようだが、他の兄弟は比較的自由に生きている。
だからか乃々佳はあまり勝造が怖いという意識はなかった。ただ可愛がってもらったという印象が強い。
「ののちゃんにね、お願いがあって、呼び出してもらったんだ。悪かったね」
「私に出来ることですか」
「ああ、出来る」
出来ることは何でもしようと乃々佳が真剣に頷くと勝造は笑んだ。
「東悟と、結婚してくれないか」
「……」
乃々佳は固まった。勝造は、東悟と自分に結婚しろと言っていないか。
いや、そんな冗談を言う人ではない。心の中で自分に落ち着くようにと言い聞かせる。久遠家と自分は生きている階層が違うのだから、現実的な話じゃない。
勝造は結婚をお願いする相手を間違うほど、混乱しているのだろうか。乃々佳が困って後ろに立っている東悟を見上げたが、眉を僅かにひそめているだけで微動だにしていない。
勝造は人違いをしていると考えた乃々佳は、親同士が決めた東悟の許嫁ともいえる存在を口に出した。
「坊ちゃんと、黒瀬のお嬢様との縁談の件ですか。私もご成婚の際には、お手伝いに参ります。旦那様もお孫様のお顔を見るまでは、元気でいなければ」
「そうだ、孫だ。二人の孫なら、さぞかし、可愛いだろう」
勝造は微笑んで、満足げに細い息を吐いた。
黒瀬雅は華族の血筋を引いている、父親は大学教授で母親が事業家という家柄の娘だ。乃々佳は屋敷で何度か遠目で見かけたことがある。とても洗練された美しい人だった。
東悟とは年齢が釣り合うということで、公ではないにしろ昔から婚約しているような関係にあった。東悟も三十歳を迎えたし、これを機会にいよいよ身を固めるのだろう。
「ののちゃんが、娘になるのだと思うと嬉しいよ」
「……えっと」
今日は仕事が忙しくて疲れているせいで自分の理解力が落ちているのかもしれない。
そう考えても、やはり、なんだか話がズレている。
勝造の瞼が落ち始めた。とても安らかな表情で、眠るのを邪魔するつもりは全くないのだが、東悟と乃々佳が結婚すると思っていたら大変だ。
乃々佳はどうしていいかがわからなくて、後ろにいる東悟を振り返る。
「ぼ、坊ちゃん。黒瀬のお嬢様との結婚は年内ですか」
東悟は腕を組んで慌てている乃々佳に肩を竦めた。
「あの話はとうの昔になくなっている」
「ああ、えっ? では、他の方との縁談があるのですか」
そろそろ身を固めろと東悟が周りから言われているのは知っている。本人には本命がいるんだけど相手が鈍感でねーと、手のパックをしていた三男の照から聞いた覚えはあった。
「それとも、好きな方がいる……ってことですか」
「いるね」
「なら、それをお伝えしないと」
今の問題は、勝造が誤解したままで眠ってしまっていいのかだ。
勝造には娘のように可愛がってもらっていただけに、誤解に罪悪感が膨らんでいく。
「父さん」
東悟が隣に立ったので、乃々佳は勝造の手を離して場所を譲る。
勝造の手の甲に指先を軽く触れさせた東悟は、目を閉じたままの勝造に静かに声を掛ける。
「乃々佳へのプロポーズはちゃんと自分でしますから、今日はもう休んで下さい」
聞こえたのか勝造の口元が緩んで寝息が深くなったが、乃々佳の頭の中は真っ白になった。
「そんな嘘を吐いたらダメじゃないですか。冗談が過ぎますよ。きっと起きても覚えていらっしゃいますし」
「冗談じゃないんだよ。父が先にするとは思わなかった」
弱っていても本当に食えない人だと、東悟は勝造に悪態づいている。
話が理解出来ない乃々佳は東悟の渋い表情を横からただ見つめた。視線に気づいたのか彼は表情を和らげる。
「乃々佳、遅くに悪いが今から時間をもらえないか」
「わ、わかりました。誤解を解く作戦会議ですね」
乃々佳が拳を握ってやる気を見せると、東悟は苦笑しながら首を横に振った。
「いや、俺が乃々佳にプロポーズする時間が欲しい」
「は」
気が抜けた普通の声が出て慌てて口を押さえる。心臓が早鐘を打ち過ぎて息苦しくて、先程まであった疲れも眠気も一気に吹き飛んだ。
誤解ならそう勝造に伝えれば話は終わる。
壁に掛かっている時計は夜中の一時半を指しているから、まともな判断を出来るとも思えない。
「……明日なら時間を作ってもらえるかな」
乃々佳が時計に視線をやったのに気が付いたのだろう。東悟は強引なようで、気遣ってくれる。
勝造を寂しそうに見下ろす東悟の横顔に少年時代の彼が重なった。一人で何かの重圧に耐えているのに、それを隠しているような表情。すっかり忘れていた乃々佳は内心慌てる。
その横顔に吸い寄せられるように、いつもそばにいた。隣にいれば東悟はちょっと笑ってくれたから。彼が笑うと嬉しかった。
あの時と同じ雰囲気を感じてしまって断れない。
「い、今からでも、少しだけなら」
「ありがとう」
東悟の心底嬉しそうな笑顔が、胸の中にすっと入りこんだ。
冷静でありたいのに、困ったことに指が震えている。それを隠すように乃々佳は手を握り締めた。
東悟の部屋も二階にある。
シンと静まった廊下を彼の後ろについて歩く。歳が離れているから、彼の部屋で遊ぶことはなかった。東悟が幼い乃々佳の面倒を見てくれた時ぐらいしか入ったことがない。
その時も他の弟達の部屋みたいにおもちゃやゲームはなく、東悟は何をして遊んでいるのだろうと幼心に不思議に思ったのを覚えている。今思えば勉強に集中するための個室だったのだろう。
「どうぞ」
「お邪魔します」
押さえてもらったドアをためらいながらくぐって部屋に入った。勧められた一人掛けのソファに腰掛ける。目だけで部屋を見渡したが、やはり記憶の中の部屋とは違った。
家具はセミダブルのベッド、年季の入った勉強机に本棚、一人掛けのソファとオットマンだけだ。広い部屋だがシンプルな装飾は東悟の性格を表しているのかもしれない。
部屋をこっそり観察していると東悟が部屋の鍵を閉めたので、思わず乃々佳はソファから腰を浮かせる。
「坊ちゃん、ドアは開けておくものでは……」
乃々佳に年頃の女性であることを意識しろと注意したばかりなのに、真夜中に部屋を密室にするのは矛盾していないか。いや、夜道は危ないと女扱いをしつつ、頭を撫でてくるなど子ども扱いをしてくるから大丈夫なのか。
混乱が混乱を呼んでよくわからなくなってくる。
「プロポーズを誰かに聞かれてもいいなら開けておくけど」
「その冗談は笑えないんですってば」
今まで結婚なんて考えたこともなく、早く働いて自立をしたいと思っていた。若いうちに結婚して子どもを産みたいという友人もいたが、そういう意見もあるのかと思ったくらいだ。
それに雇い主の息子にプロポーズをされるなんて、恋愛漫画のような想像なんてただの一度もしたことがない。現実の世界には絶対的な区別や階層があって、よほどの切れ者か美人でないと入り込むのは無理なのだ。
戸惑いと不安で乃々佳の顔は引き攣っていた。
「とにかく、旦那様の誤解を解かないと」
「どうして冗談だと思うのかな」
「どうしてって」
乃々佳は思わず笑ってしまった。理由は簡単で、乃々佳が使用人の娘だからだ。
両親のことは大好きだし、とても尊敬しているが、久遠家が経営する会社を大きくしたり、家を存続させるための『何か』を持っていない。
「そんなの、家柄が違いすぎるからに決まっているじゃないですか」
「乃々佳は家柄が合えば結婚するんだ。そこに愛や尊敬がなくても」
「愛と尊敬は大事にしたいです」
「俺もそう思う。だから乃々佳がいい」
「でも家柄が」
「どんな家だって、遡ればただの家だろう」
「久遠家は、百年以上も継続させてきた重みがあります」
東悟は腕を組んで苦笑する。家の重圧を背負う為に、彼がずっと努力してきたのも知っている。
東悟は勉強机から持って来た椅子を置き、背もたれを乃々佳の側に向け跨るように座った。
物理的な小さな壁はあるけれど、とても近い。ちゃんと距離を置いてくれる人が、今日はやたらと近いから乃々佳の緊張が意識せずとも高まる。
東悟は背もたれの上の縁に腕を置き、上に顎を乗せた。
「……父さんの認知の面は問題がなく、せん妄もない。ただ気持ちが弱っているというのが先生の見立てだ。あの人は、気持ちで生きているから」
長年の付き合いのある主治医の先生がそう言ったからということだけではなく納得出来た。
勝造は確かに気持ちが強い人だ。視覚化出来るのなら、この屋敷くらいは簡単に包み込むほど大きいだろう。
「だから、俺達は回復すると思っている。問題は父さんがどうすれば気持ちがしっかりと保てるかなんだよ」
「それが私だと言わないで下さいね」
東悟が微笑したので乃々佳は頭を抱えた。大事に思ってくれているのは嬉しいが何か違う。
「旦那様は坊ちゃんが望まない結婚をさせるような方じゃないでしょう。坊ちゃんが誰かと結婚してお子様が生まれたら気力も戻ってくると思います。だから早く」
「ちょっと違う」
東悟が困ったように笑った。彼の笑顔は反則だと乃々佳はいつも思う。長身で筋肉質という厳つさがあって圧もある人が、笑めば簡単に惹き付けられるのだ。
「父さんは、乃々佳がこの家に戻ってくることを望んでいる」
「ええっと」
乃々佳はあまり働かない頭をフル稼働させる。
「実家から通勤すれば、問題は解決ですよね。出来るだけ早めに、実家に戻ります」
実家は屋敷内だから帰ってくることになるだろう。会社まで遠くはなるが通勤に無理な距離ではない。旦那様の具合が良くなればまた一人暮らしをすればいい。
自分なりの結論が出ると、ほっとして眠くなってきた。あくびをかみ殺すと東悟と目が合った。
「乃々佳」
「はい。えっと、引っ越しの日程ですね。いつから戻ってくることが可能かを両親に相談をして、父から坊ちゃんに連絡してもらいますね。会社にも通勤手当の変更とか、報告が必要だし」
もろもろの難しいことはまず寝て朝から考えたいと思っていると、東悟が腰を浮かせてまた椅子を近づけてきた。顔がかなり近づいて焦る。乃々佳は少しでも距離を保つために、ソファの背もたれに背中を押し付けた。
東悟の、彫像のような人を惹き付ける完璧な顔立ちとカリスマの雰囲気。それを全面に押し出してきたので、否が応でも緊張が高まる。
「ち、近いです」
「近づいたからね」
にこりと微笑むだけで下がらなかったので、乃々佳の頬が真っ赤に染まる。東悟は微笑を浮かべたままだ。
「敷地内に戻ってきて欲しいというわけではない。父さんは乃々佳が頑張っているのを喜んでいたし、邪魔をしないようにしていただろう」
「はい」
実家に戻らず、屋敷に顔を出さないことにも、何を言われたこともなかった。
「ある日、話題に上ってね。乃々佳が知らない男と結婚すれば、久遠とは縁が遠のくという話だ。相手の男の仕事で知らない土地で子どもでも産めば、ますます帰ってこれなくなる」
「それは……そうなのかな……。ちょっとわからないです。そんな相手がいないから。でも、どんな関係が」
急な話の展開に乃々佳の頭にハテナがいっぱい浮かんだ。
結婚相手どころか彼氏さえいない状況なのに、皆揃って勝手に何を心配しているのか。それに、両親が働いている限り久遠家と縁が切れるわけではない。
「原家は久遠にとっては親戚よりも近い他人なんだ。それなのに外に出たら自然と関係が遠くなるどころか切れる可能性がある。それが嫌なのだと思う。歳を取って信頼出来る人間にそばにいて欲しいという欲が強く出たんだろう」
「……あの、旦那様と父は、仕事の上下関係はありますが、友人でもあると思います。だから、原の家と縁が切れたりすることはないと思うんです」
原家は久遠家と雇用関係で結ばれているが、勝造と父親は友人だ。それに彼らは常に久遠家を大事にしてきた。乃々佳が寂しくなる程度には。だから、心配するようなことはないと思う。
「父さんが乃々佳に結婚の話をしたのは、それが理由」
「……何となくわかりました。でもそれは、私が実家に帰ってくれば解決ですよね」
乃々佳は胸を撫でおろした。おかしな空気を終わらせたかったのに、東悟は表情を引き締める。
「プロポーズはまた別。俺と結婚して欲しいというのは、俺の意志」
「は……、またまたご冗談を」
笑って誤魔化そうとしたが、東悟の目が真剣に自分を見ていた。
「結婚してくれないか」
「いやいや、そんな、それは……」
それはありえない。それだけは乃々佳にもわかっていた。乃々佳の返事を予想していたのか、東悟はまったく動揺していない。
「坊ちゃんは好きな方と結ばれないと……。お子様が生まれれば旦那様も気持ちも変わるでしょう」
「うん。で、乃々佳が俺に生理的嫌悪感があるなら、無理強いは出来ないけど、俺との結婚はどうかな」
「どうかなって……できません」
重いのか軽いのかわからないプロポーズにどう反応していいかわからないが、返事だけは決まっている。
「あ、もちろん坊ちゃんに嫌悪感はありませんけれど」
乃々佳がそう返事をすると東悟は自分が座っていた椅子を勉強机のそばに片付け、戻ってくると目の前に跪いた。
それから、乃々佳が気づかない内に膝の上できつく握り締めていた手を、東悟の手が包み込んできた。びっくりするくらいに温かい。
「手を握ってますが、これは何……」
「嫌かな」
久遠家の跡取りを跪かせているだけでなく、手を包まれているという状況が乃々佳をますます混乱させる。
そういえば先程は頭を随分と撫でられた。今日はボディタッチが多い、普段はそんなことをしてくる人ではない。
「乃々佳」
「はいっ」
名前を呼ばれただけなのに、全身の血が沸騰するかのような感覚に襲われた。顔も耳も全部真っ赤になった上に、じわりと汗までが浮かんできて恥ずかしい。雰囲気に呑まれてしまっている。
腕で顔を隠そうにも、東悟に見上げられている上に、手を握られているから動くのが難しかった。
「その、あの、えっと、坊ちゃん」
「気分が悪いとか、触られたくないとかある?」
こんな状況なのに紳士的に尋ねられるので、一人で興奮しているような自分がますますいたたまれない。緊張しすぎて呼吸は浅くなるし、肌はやけに敏感になっていて、東悟の息や声にも反応していた。
キャパシティを完全に超えてしまった乃々佳は涙目を東悟に向ける。
「どれだけ触られても大丈夫なので、私、家に帰りたい……。ご飯も食べたいです。夜ご飯、まだなんです……。お腹が空いたんです」
追い詰められて出てくるのが食事の話である自分が情けない。
もう駄目だと、場の雰囲気に耐えられなくなった乃々佳は立ち上がろうとした。その二の腕を咄嗟に東悟に掴まれた。
その時、僅かに東悟の手が胸の尖端を掠って、身体に走った痺れに声が漏れた。
「あっ」
膝から力が抜けて、先程まで座っていたソファに腰が落ちた。
自分が過剰に反応している様子を全部、東悟に見られている。恥ずかしさが振り切れて、乃々佳はこの場から逃げ出すことしか考えられなくなった。
「本当に、嫌じゃないです。坊ちゃん、今日はなんだかおかしいです」
「もう俺はずっとおかしいよ。……ここは?」
腕を掴んでいた東悟の手が離れて耳に触れた。
ビリっと走った甘痒い感覚に乃々佳が首を竦めたのに、彼の手は頬、髪、うなじと移動していく。
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