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第四計画
もともと嫌われていたので6
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◆◆◆
ジュリアを目の前にすると冷静に考えることが難しくなる。
『……そんなに、ヒューバートが大事かい?』
『大事だわ』
アイスブルーの目を潤ませ、男の名を呼ぶ彼女に見つめられると嫉妬が体を突き抜けた。懲りもせずに男の名を出して試すような事をする自分は愚かだ。
聴収すればヒューバートは無実だとすぐにわかった。
仮面舞踏会で媚薬を使った誘拐に加担していた兄のジャックを捕り逃してしまった方が大問題だ。
しかも、ジュリアがその場にいた彼の容貌をしっかりと覚えていた。
彼女の才能の豊かさには感嘆するしかない。
……だが、危ない。
顔を見たという危険だけでない。ジャックは蝶の仮面をつけていたジュリアに媚薬入りの葡萄酒を飲ませようとしていた。
その後のことなどは考えなくてもわかる。
やはり、仮面はジュリアが振りまく魅力を隠せなかった。
そばに置いて守るしかない。理由ができたのに、心から喜べない自分がいた。
ジュリアが王都に来れば、この結婚をどんなに望んでいるか、どれだけ彼女の事をハリーから聞いていたか、王宮の庭を散策しながらいくらでも伝えるつもりだった。
気の遠くなるくらい広い庭のどこかに、彼女のお気に入りの場所ができるならば、時間の許す限り付き合うつもりでもいた。
ヒューバートが地下牢にいると嘘をついたのは計算だ。
娼婦の方は入院が必要だったが、彼はとくに問題がなかった為にすぐに家に帰した。
帰る間際までジュリアの心配をしていたとの報告は、苛立ちを募らせただけだった。
自分が権力を使って彼を解放したと伝えれば、彼女は罪悪感と恩義に絡めとられるだろう。
犯罪が行われていた仮面舞踏会にいたことに触れれば、アレクのそばいることを選ぶだろう。
『貴女ができることをするように、私も、できることをするまでだよ』
『本当にありがとう』
貴女が逃げ出さないように、できることをする。
アレクの自分勝手な決意に、感謝を口にしたジュリアはヒューバートへの愛の殉教者に見えた。
「んっ……ふぅっ……ふぁ……」
小さな口いっぱいに膨らんだ陰茎を含んで、息苦しそうに喘ぐ愛しい女性の姿に、アレクはたまらず腰を揺らした。
ヒューバートの影をちらつかせれば、覚悟を決めて靴を舐めようとまでした彼女が、憎くて愛しい。
加虐心が煽られ、自分を刻み付けるように欲望を押し付ける。
ひたすら優しくしたいのに、彼女はそれを受け入れない。
「気持ち良いことを楽しめるのも特技なんだね。――淫乱だ」
ひどい言葉を吐いた時だけ、ジュリアの言葉は感情を見せてくれる。
「きもち、いいもの……」
まるで、嫌われようとしているようだ。アレクは口元を歪ませる。
「私以外を受け入れれば、違和感があるようにしておこう。そうすれば、こんなに愉しめないだろう」
ヒューバート以外の男に抱かれて、自棄になっているのだろうか。
もしかして、あの男を思い浮かべながら自分に抱かれているのかもしれない。
達しても収まらない情欲を、ジュリアを組み敷いて穿ち続ける。
「もっと、もっと欲しいわ……アレク……」
ジュリアの甘い声音は、アレクの心臓を高鳴らせた。
この大陸の美しいもの全てを商人に持ってこさせよう。宝石や反物、仕立て屋に音楽家、すべて王宮に揃えよう。
……だから、気持ちをくれ。
ジュリアを抱く日々は渇望感を増すばかりだったが、ごくたまに彼女と心を通わせることができている気がしていた。
それなのに、ある日、帳が落ちたようにジュリアが心を閉ざしてしまった。
「ジュリア」
名を呼べばこちらに礼儀正しい笑顔を向けてくれる。だが、目に浮かび始めていた親しみは完全に消えて、今あるのは義務と諦観だ。
恐れていたものが、そこにあった。
ジュリアを目の前にすると冷静に考えることが難しくなる。
『……そんなに、ヒューバートが大事かい?』
『大事だわ』
アイスブルーの目を潤ませ、男の名を呼ぶ彼女に見つめられると嫉妬が体を突き抜けた。懲りもせずに男の名を出して試すような事をする自分は愚かだ。
聴収すればヒューバートは無実だとすぐにわかった。
仮面舞踏会で媚薬を使った誘拐に加担していた兄のジャックを捕り逃してしまった方が大問題だ。
しかも、ジュリアがその場にいた彼の容貌をしっかりと覚えていた。
彼女の才能の豊かさには感嘆するしかない。
……だが、危ない。
顔を見たという危険だけでない。ジャックは蝶の仮面をつけていたジュリアに媚薬入りの葡萄酒を飲ませようとしていた。
その後のことなどは考えなくてもわかる。
やはり、仮面はジュリアが振りまく魅力を隠せなかった。
そばに置いて守るしかない。理由ができたのに、心から喜べない自分がいた。
ジュリアが王都に来れば、この結婚をどんなに望んでいるか、どれだけ彼女の事をハリーから聞いていたか、王宮の庭を散策しながらいくらでも伝えるつもりだった。
気の遠くなるくらい広い庭のどこかに、彼女のお気に入りの場所ができるならば、時間の許す限り付き合うつもりでもいた。
ヒューバートが地下牢にいると嘘をついたのは計算だ。
娼婦の方は入院が必要だったが、彼はとくに問題がなかった為にすぐに家に帰した。
帰る間際までジュリアの心配をしていたとの報告は、苛立ちを募らせただけだった。
自分が権力を使って彼を解放したと伝えれば、彼女は罪悪感と恩義に絡めとられるだろう。
犯罪が行われていた仮面舞踏会にいたことに触れれば、アレクのそばいることを選ぶだろう。
『貴女ができることをするように、私も、できることをするまでだよ』
『本当にありがとう』
貴女が逃げ出さないように、できることをする。
アレクの自分勝手な決意に、感謝を口にしたジュリアはヒューバートへの愛の殉教者に見えた。
「んっ……ふぅっ……ふぁ……」
小さな口いっぱいに膨らんだ陰茎を含んで、息苦しそうに喘ぐ愛しい女性の姿に、アレクはたまらず腰を揺らした。
ヒューバートの影をちらつかせれば、覚悟を決めて靴を舐めようとまでした彼女が、憎くて愛しい。
加虐心が煽られ、自分を刻み付けるように欲望を押し付ける。
ひたすら優しくしたいのに、彼女はそれを受け入れない。
「気持ち良いことを楽しめるのも特技なんだね。――淫乱だ」
ひどい言葉を吐いた時だけ、ジュリアの言葉は感情を見せてくれる。
「きもち、いいもの……」
まるで、嫌われようとしているようだ。アレクは口元を歪ませる。
「私以外を受け入れれば、違和感があるようにしておこう。そうすれば、こんなに愉しめないだろう」
ヒューバート以外の男に抱かれて、自棄になっているのだろうか。
もしかして、あの男を思い浮かべながら自分に抱かれているのかもしれない。
達しても収まらない情欲を、ジュリアを組み敷いて穿ち続ける。
「もっと、もっと欲しいわ……アレク……」
ジュリアの甘い声音は、アレクの心臓を高鳴らせた。
この大陸の美しいもの全てを商人に持ってこさせよう。宝石や反物、仕立て屋に音楽家、すべて王宮に揃えよう。
……だから、気持ちをくれ。
ジュリアを抱く日々は渇望感を増すばかりだったが、ごくたまに彼女と心を通わせることができている気がしていた。
それなのに、ある日、帳が落ちたようにジュリアが心を閉ざしてしまった。
「ジュリア」
名を呼べばこちらに礼儀正しい笑顔を向けてくれる。だが、目に浮かび始めていた親しみは完全に消えて、今あるのは義務と諦観だ。
恐れていたものが、そこにあった。
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