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第二計画
カーテンドレスで会いましょう 4
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アレクは孤児院を訪れた。神父とジェラルドと一緒に孤児たちが世話をしているという花園を散策していた。
聞けば裕福な商人などから寄付を募るため、色とりどりの花が咲く遊歩道を作るよう提案したのはジュリアらしい。
美しい花園を歩きながら寄付が有意義であることを説明するのだという。
……ほとんど、政治だな。
アレクはそれを聞いた時、笑みがこぼれるのを堪えられなかった。
『侯爵令嬢に修道女になりたいと相談を受けておりまして』
アレクの機嫌の良さを勘違いして、媚びへつらった笑顔を浮かべた神父は口を滑らせる。
ハリーから『妹は結婚したくないらしいので、しなくていいと言っています』とは聞いていた。求婚するまで、誰にも興味を持たせないためにも丁度良いと思っていた。
だが本当に永遠に結婚せずに済む道筋を自らつけようとしていたとは。
驚きながらも他の男と関係を持つなどという軽薄なもの選ばなかっただけ良かったと安堵はする。
『それと、彼女とあなたとの結婚。どういう関りが?』
なぜ王子がそれを知っているのかという疑問も持たなかったらしい。アレクが聞くと神父は堂々と答えた。
『女性は男性と結婚し庇護されるために存在しています。修道女という道は、侯爵令嬢にはあまりにも無責任、ならば私と結婚すれば良いのではないかと思い至りました。神が望む道に彼女を矯正するのもまた、神に仕える者の務めかと』
神父は自分の考え方に心酔しているようだった。だが、この教区はそのジュリアの提案と侯爵家からの資金があって充実していると聞けばすぐにわかる。
それを自分の力だと思い込み、疑ってもいないような彼にアレクは冷ややかに微笑んだ。
『夫に仕えるのも神に仕えるのも同じく尊いものだ。人に寄りそう心を持ち、持っているものを惜しみなく与える。それこそが神が望む愛なのではないですか。対象が違うだけの事』
神父は自分の価値観をアレクがその通りだと賛同すると信じ切っていたようだった。正面から否定され、顔を赤くした後に真っ白にして、そのまま黙ってしまう。
領主を通さずに直接教皇宛に問い合わせをする辺り、頭が悪いなりに力関係には敏いのだろう。
アレクはさらに畳みかけた。
『令嬢との結婚話の問い合わせしていると、ルヴィク侯爵が知ったらどうなるだろうか』
アレクは怯えた神父の視線を無視し、そばに付きそう枢機卿のジェラルドに言う。
『……素晴らしい手腕を持つ神父には、救うべき者が多い教区でますます活躍をしてもらいたい』
実質の異動の宣告に神父は口をぱくぱくさせた。白い唾を口の端に浮かばせ、救いを求めるようにジェラルドを見たが、無駄だった。
『仰せのままに』
こういった人物に対する制裁はジェラルドの方が厳しい。黙って話を聞いていた彼の方が怒りで煮えたぎっていたはずだ。
そんな凍った空気の中、一人の従者が近衛兵の間を縫い手紙を持ってやってきた。ハリーからの手紙は早急に手元に届けるように申し付けていたのだ。
そこに書かれていたのは、ジュリアが結婚を承諾したという簡素な文。
「明日、伺うと伝えてくれ」
……やっと、貴女を。
勘違いした男を一人遠くへ追いやったばかりのアレクは微笑する。
長かった5年間を思いながら、彼は彼女が提案した花園の花にそっと口づけた。
翌日、昼過ぎに最少人数の共を連れてハリーの館に着いた時、柄にもなく緊張していた自分に苦笑した。
玄関ホールで見たジュリアの独創的な姿に、やはり愉しい人だと思う。
ほっそりした小さな顔とすらりと伸びた首だけを見ればとても華奢なのがわかるのに、ごわごわとしたドレスが体型を完全に覆い隠している。おまけに綺麗なアイスブルーの目も金縁の眼鏡の奥に隠していた。
まるで、本当の姿をこれからじっくり探求して欲しいと誘われているようで、アレクは笑みを深める。
求婚者が来るというのに、この姿で出迎えるジュリアにアレクは確信した。
公務という義務と責任で感情を殺す倦怠の日々も、彼女と一緒なら楽しいはずだと。
ジュリアに歩み寄ると毅然とした態度を崩すまいとしながらも動揺している彼女が愛らしすぎた。このまま馬車に押し込んで王宮に連れて帰りたいほどだった。
それなのに、ジュリアはこともあろうに他の男をアレクの前で褒めた。彼女を利用し、影響力を上げようとしたあの男を。
自制心は一瞬にして消え去った。彼女に対して征服欲が抑えられない自分に驚いた。感情に呑まれる自分を客観視できているのに、止めることができない。
……彼女は私のものだ。
応接室で渋るハリーを追い出しジュリアを待った。一度目のノックの音を無視して取っ手が動くのを待って思い切り扉を引き開いた。
目論見通りに倒れ込んできた彼女を抱き締める。微かに香る薔薇の香水が鼻腔をくすぐると、ジュリアに触れないでいることなどできなくなった。陰鬱な気持ちをぶつけるように、ジュリアの唇に吸い付き自分を刻み付ける。
抵抗する仕草の全てがアレクを煽っていると気づかないジュリアのうぶさが狂おしいほどに愛しくてたまらない。
脱がしにくいドレスでなければ、きっとその場で彼女を奪っていた。
『兄の命の恩人でもある殿下ですもの。こんな私で良ければお受けいたします』
ジュリアからの求婚の返事は嫌々だとも捉えられるものだった。王家からの縁談だから、ハリーの命の恩人だから断れない。彼女は暗にそう言って、辛そうに顔を歪ませた。
貴女に私と婚約したこと、結婚することを後悔させない。
ジュリアを安心させるためにはどうすればいいのか。アレクは彼女の細い体を抱き締めながら、その方法を考え始めていた。
聞けば裕福な商人などから寄付を募るため、色とりどりの花が咲く遊歩道を作るよう提案したのはジュリアらしい。
美しい花園を歩きながら寄付が有意義であることを説明するのだという。
……ほとんど、政治だな。
アレクはそれを聞いた時、笑みがこぼれるのを堪えられなかった。
『侯爵令嬢に修道女になりたいと相談を受けておりまして』
アレクの機嫌の良さを勘違いして、媚びへつらった笑顔を浮かべた神父は口を滑らせる。
ハリーから『妹は結婚したくないらしいので、しなくていいと言っています』とは聞いていた。求婚するまで、誰にも興味を持たせないためにも丁度良いと思っていた。
だが本当に永遠に結婚せずに済む道筋を自らつけようとしていたとは。
驚きながらも他の男と関係を持つなどという軽薄なもの選ばなかっただけ良かったと安堵はする。
『それと、彼女とあなたとの結婚。どういう関りが?』
なぜ王子がそれを知っているのかという疑問も持たなかったらしい。アレクが聞くと神父は堂々と答えた。
『女性は男性と結婚し庇護されるために存在しています。修道女という道は、侯爵令嬢にはあまりにも無責任、ならば私と結婚すれば良いのではないかと思い至りました。神が望む道に彼女を矯正するのもまた、神に仕える者の務めかと』
神父は自分の考え方に心酔しているようだった。だが、この教区はそのジュリアの提案と侯爵家からの資金があって充実していると聞けばすぐにわかる。
それを自分の力だと思い込み、疑ってもいないような彼にアレクは冷ややかに微笑んだ。
『夫に仕えるのも神に仕えるのも同じく尊いものだ。人に寄りそう心を持ち、持っているものを惜しみなく与える。それこそが神が望む愛なのではないですか。対象が違うだけの事』
神父は自分の価値観をアレクがその通りだと賛同すると信じ切っていたようだった。正面から否定され、顔を赤くした後に真っ白にして、そのまま黙ってしまう。
領主を通さずに直接教皇宛に問い合わせをする辺り、頭が悪いなりに力関係には敏いのだろう。
アレクはさらに畳みかけた。
『令嬢との結婚話の問い合わせしていると、ルヴィク侯爵が知ったらどうなるだろうか』
アレクは怯えた神父の視線を無視し、そばに付きそう枢機卿のジェラルドに言う。
『……素晴らしい手腕を持つ神父には、救うべき者が多い教区でますます活躍をしてもらいたい』
実質の異動の宣告に神父は口をぱくぱくさせた。白い唾を口の端に浮かばせ、救いを求めるようにジェラルドを見たが、無駄だった。
『仰せのままに』
こういった人物に対する制裁はジェラルドの方が厳しい。黙って話を聞いていた彼の方が怒りで煮えたぎっていたはずだ。
そんな凍った空気の中、一人の従者が近衛兵の間を縫い手紙を持ってやってきた。ハリーからの手紙は早急に手元に届けるように申し付けていたのだ。
そこに書かれていたのは、ジュリアが結婚を承諾したという簡素な文。
「明日、伺うと伝えてくれ」
……やっと、貴女を。
勘違いした男を一人遠くへ追いやったばかりのアレクは微笑する。
長かった5年間を思いながら、彼は彼女が提案した花園の花にそっと口づけた。
翌日、昼過ぎに最少人数の共を連れてハリーの館に着いた時、柄にもなく緊張していた自分に苦笑した。
玄関ホールで見たジュリアの独創的な姿に、やはり愉しい人だと思う。
ほっそりした小さな顔とすらりと伸びた首だけを見ればとても華奢なのがわかるのに、ごわごわとしたドレスが体型を完全に覆い隠している。おまけに綺麗なアイスブルーの目も金縁の眼鏡の奥に隠していた。
まるで、本当の姿をこれからじっくり探求して欲しいと誘われているようで、アレクは笑みを深める。
求婚者が来るというのに、この姿で出迎えるジュリアにアレクは確信した。
公務という義務と責任で感情を殺す倦怠の日々も、彼女と一緒なら楽しいはずだと。
ジュリアに歩み寄ると毅然とした態度を崩すまいとしながらも動揺している彼女が愛らしすぎた。このまま馬車に押し込んで王宮に連れて帰りたいほどだった。
それなのに、ジュリアはこともあろうに他の男をアレクの前で褒めた。彼女を利用し、影響力を上げようとしたあの男を。
自制心は一瞬にして消え去った。彼女に対して征服欲が抑えられない自分に驚いた。感情に呑まれる自分を客観視できているのに、止めることができない。
……彼女は私のものだ。
応接室で渋るハリーを追い出しジュリアを待った。一度目のノックの音を無視して取っ手が動くのを待って思い切り扉を引き開いた。
目論見通りに倒れ込んできた彼女を抱き締める。微かに香る薔薇の香水が鼻腔をくすぐると、ジュリアに触れないでいることなどできなくなった。陰鬱な気持ちをぶつけるように、ジュリアの唇に吸い付き自分を刻み付ける。
抵抗する仕草の全てがアレクを煽っていると気づかないジュリアのうぶさが狂おしいほどに愛しくてたまらない。
脱がしにくいドレスでなければ、きっとその場で彼女を奪っていた。
『兄の命の恩人でもある殿下ですもの。こんな私で良ければお受けいたします』
ジュリアからの求婚の返事は嫌々だとも捉えられるものだった。王家からの縁談だから、ハリーの命の恩人だから断れない。彼女は暗にそう言って、辛そうに顔を歪ませた。
貴女に私と婚約したこと、結婚することを後悔させない。
ジュリアを安心させるためにはどうすればいいのか。アレクは彼女の細い体を抱き締めながら、その方法を考え始めていた。
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