優しい手に守られたい

水守真子

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その重さ ※R18

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 亮一は充血し猛った楔に、薄い膜を被せる。可南子はその大きさに眉根を寄せた後、慌てて目を逸らした。
 何度も身体を重ねたが、気持ちが引いてしまうのは変わらない。
 違ってしまったことがあるすれば、身体の反応だ。
 蜜路をよじ登られ窪みを満たされると、身体のすみずみまで安堵感で満たされる。質量が動くと、悦が白銀の繊根になって、身体の神経を隅々まで絡み、覆いつくす。麻痺して、考える事を放棄して、可南子はすべてを明け渡す。
 心は引いても、知ってしまった身体は燻りながら次の段階を待っていた。「泊まりたい」と言うまで、ことを完璧に運ばれた。

 ……口で、言ってくれれば良いのに。

 何度も主張しては、呆気に取られる返しをされた言葉を反芻する。だか、元はと言えば可南子が「帰る」と頑固に主張したせいなので、それ以上は言えない。
 可南子は、亮一に背を向けるように身体を横にして、掛け布団を肩まで引き寄せた。
 シーツのにおいや乾いた感触で、洗い立てなのがわかる。いろいろと、こそばゆい。
 亮一が、可南子の背後に滑り込むように、自分の腕を枕にして横たわった。
 その密着してきた身体に、期待は膨らんではち切れそうになって、可南子は痛む心臓の前で両手を握り締めた。
 亮一は可南子の頭に頤を置いて、口を開く。

「……俺も、もっと早くに会いたかった」

 唐突の言葉に、可南子は目を瞬かせる。身体を亮一に向かい合うように、寝返りを打った。
 可南子が亮一に『もっと早くに会いたかった』と言った、その事だと思ったからだ。
 亮一は、消しこむかのように、可南子の言ったことを唐突に掘り起こす。

「……三年前の、事ですか」

 頭の上から、ふっと笑った息がこぼれてきた。
 亮一の手がゆっくりと可南子の腰のくびれを辿り、腰骨の上で止まる。じわりと、そこから手の熱が入ってくる感覚は、心地よい。

「もっと前だ。十年位前」

 ……十年。

 その途方も無い年月に驚いた後、可南子は自分の年齢から十を引いて、その若すぎる年齢に眉を顰める。

「大学生と高校生なら、問題ないだろ」
「いや……」
「もっと、早くても良かったな」

 怪しいにおいがし出して、可南子は亮一の立派な喉仏を睨む。

「……高校生と中学生でも、問題ないだろ」

 裸で抱き合ったまま言われても、と思う。
 薄い膜で覆われた昂ぶりは、話していても衰えることなく、可南子の下腹部に当たっている。
 こんな状態で、そんな事を言われても、うまく考えられない。

「言ってもしょうがない事を、言う性分では無いんだ」

 確かに、亮一はそういう性格だと、可南子は思う。

「でも、こればっかりは、何で会えなかったのだろうかと、思う」

 今までは引き離されていた。
 そんな風にも聞こえて、可南子は驚いて亮一の顔を見る。
 絵空事のようなことを言うような人には、全く見えない。
 大きく切れ長の目は、冷酷に感じるほどの意志の強さが根付いている。
 現実という世界で足をつけて、冷静さと努力で切り開いてきた人の目だ。
 亮一は見上げられて、口付けの刺激で赤くなった可南子の唇に、触れるように口付けた。
 触れられて、可南子はその優しい甘さに酔う。

「どう、したんですか」
「どうしたんだろうな」

 可南子の腰に触れていた亮一の手が、可南子の太腿に降りてきた。
 亮一が可南子の唇にもう一度触れ、今度は下唇を柔らかく噛んで引っ張って離す。

「んっ」

 理不尽な甘美な痛みは、今からの行為に近い。
 お互いが引き寄せられたように、もう一度、唇を重ねた。
 亮一の手が、可南子の閉じられた両腿の間に手を入れ、上へと指を進めていく。
 その指の熱に触れられるだけで、普通でない感覚が起こるのはなぜだろう。
 舌を絡めないキスの唇から漏れる、可南子の吐息を、亮一は受け止める。
 亮一の指が進んで行き止まったそこは、まだふわりと緩んで、十分に濡れていた。

「ん」

 亮一は花芽から長い指を差し込んで、媚唇に沿わせた。
 蕩けて、泥濘になったそこは、蜜口の入り口さえも曖昧になっている。
 また溢れようとする蜜を確認すると、指が離れた。
 亮一は上半身を起こして、可南子の膝を割り、自身をあてがう。

「いいか」

 聞かれて赤くなりながら小さく頷いたものの、可南子の身体は緊張して硬くなった。
 亮一は、可南子の顔の横に肘下をついて覆い被さると、そのこめかみに頬を寄せる。
 それからゆっくりと、花路の奥へとの繋がりをもたらしていく。

「好きだ」
「……ふ、あっ」

 亮一の告白と、可南子の緊張や息遣いを聞き漏らすまいとする気遣いに、胸がとくん、と鳴る。
 返事をするように、可南子は剛直を痛みも無く呑み込み、ずぶずぶと嵌っていく感覚に戦慄いた。
 唇を触れるように重ねてきた亮一に、ぴくりと反応してしまう。
 可南子が「泊まる」と言うまでの、重く濃いキスが嘘のような、白い小さな羽が掠ったかのような軽さだった。
 その優しい感覚に、夜の月を見上げるような、朧気な切なさを抱く。
 亮一はいつもならすぐに動かず、可南子の様子を窺う。
 けれど、今日は緩やかながらすぐに律動し始めた。可南子は亮一の肩に爪を立てないように掴んだ。
 耳元に移動した唇で、息と一緒に亮一に囁かれる。

「好きだ」

 可南子の、全身が粟立った。
 打ち付けるわけではない、さざ波のように押して引く動きに、ぶわりと毛穴が開く。

「あっ」

 身体が意図せずに足が震えて、喉から声にもならない音が漏れた。
 可南子は亮一の肩に爪を立ててしまう。
 好きだとの想いを交し合ってから、初めて肌を合わす行為は今までと違った。
 目の前に、石を打ちつけたような、火花がずっと散っている。
 凪のような静かな動きは、亮一の形を模るほどに感じる。
 人肌よりも少し熱いくらいの湯が、奔流となって、身体の中を駆け巡っている。
 その鋭く見られやすい目元を緩ませ、満足そうな光を宿して、亮一が声を漏らす。
 可南子の柔らかさを堪能しているその姿は、いつもの厳しさが無い。
 可南子は亮一の、そんな姿を見たことが無かった。
 眼に焼きつく、荒々しく射抜くような目で見つめられていたのは、たくさん覚えがある。

「……ッ」

 急に恥ずかしくなって、可南子が顔を背けると、亮一が動きを止めた。

「痛いか。無理をさせているか」

 背けた顔を覗き込まれて、広がった気持ちがさらに大きくなっていく。

「……だ、だいじょう、ぶ」
「良かった」

 亮一が緩やかに動き始めると、輝く澄んだ悦楽がまた身体を包み込んだ。
 まったく緩和しない愉楽は、弧を描くこと無く、高みをずっと飛んでいる。

「あ……あっあ……あっ」
 頭の奥が痺れ、呼吸が浅くなり、愉楽にさらわれる。
 萌芽を刺激されるのとは違う、ずっと快感の中にたゆたうこの感覚は、終わりが無い。
 汗がじわりと全身に浮かぶ。足先までが熱い。
 苦しさと快楽は同じ所にあると感じる瞬間は、罪の意識と恍惚という、相反する幻が結びつく。
 交わった場所はすでに濡れきっていて、卑猥な音をずっと立てている。
 くち、ぐちゅ、ちっ、色んな音が、可南子の鼓膜を震わして、理性と自分を分離させていく。

「可南子、好きだ」

 左肘下を可南子の頭の横に置いたまま、亮一は右手で可南子の胸の頂を親指で擦った。
 鋭い悦が刺さったかのように、下腹部に走る。

「い、やっ」
「好きだ」

 唾液で濡れた頂きを咥えられて、背中が仰け反った。

「可南子、好きだ」

 好きだと伝えられながら刺激を与えられて、反応を教え込まれているような錯覚を覚える。
 好きだと言われたら、これを思い出すように。

 ……錯覚じゃ、ない。

 可南子は、はっとして亮一の顔を見た。
 悦の快さに目元を緩ませているのに、根気強く反復して可南子に印を付けてきている。
 身体だけじゃなく心にも印を付けようとする亮一に、可南子はまた固まる。
 好きだと言われるたびに、深い紅色の快楽が、鮮やかに甦る。
 享受した喜びは、日常のすぐそばに息づき、何をしていても、きっと、思い出す。
 道端で唐突に耳元に呼吸を感じて、振り返ってしまう。
 そんな幻想を見続ける毎日が続く、快楽の深い淵に堕とされている。

「り、亮一さん」

 切に呼びかけると、真剣な表情で顔を覗き込まれた。
 可南子の、皮膚が薄いようにも感じる桃色に染まった白い頬を、亮一は自分の頬で撫でる。
 ざらり、とした感覚は、可南子の背中を反らせた。

「好きだ」

 可南子が何か言うのを遮るように強く言われて、可南子の心臓が痛んだ。
 これと決めたものに、全ての力を注ぐ真摯さ。
 こだわりの強さは、その性質を一瞬複雑に見せる。
 どこまで自分のものにしようとする熱情は重いのに、太陽のように力強く照っている。

「……最初から、好きだと、言えば……もっと、早く会えるよう、努力、すべきだったんだ」

 亮一の、自分を叱責する小さな呟きの口調は、どこまで自身に厳しかった。
 可南子は愛しげに額に唇を落とされた。亮一の律動が早くなる。
 挿されて引かれて、熟した花路の蜜を掃うように打ちつけられる。

「あっ……んッ」
「……会いたかった」

 耳打ちされて、悦楽の濃度が増していく。
 緩んでいるのに吸い上げる蜜の道に、その猛った楔が打ちつける速度を早くしていく。
 その形をしなやかに掴まえて、逃がそうとしないのは、可南子の肉の襞だ。楔を吸おうと離そうとしてない。
 渦巻き状に圧縮された高まりは目的を果たしたい一心で、悦を拾い続ける。
 亮一が上半身を起こすと、密接していた肌に浮かんでいた汗が、外気に触れてひやりと温度を下げた。
 膝の裏に大きな手を差し込まれ持たれると、腰がふわりと浮く。

「あっ」
「……ッ、好き、なんだ」

 その熱を解放しようと動き出したその強さに、可南子は目を硬く瞑って、身体を無意識に上に逃してしまう。
 それを見た亮一は、可南子の胸の色づいた頂全てを口に含んで、力強く吸った。
 片方の手で、花芽を押しつぶされると、痛みはなぜか淫らな刺激に変わっていく。
 力が入りかけた身体が緩んで、うっすらと目が開いた。
 交わっている部分が、くちくちという音を立てている。
 自分の喘ぎ声と、もうひとつの声。
 いつも、可南子は、行為の最中に自分だけが溺れていると思っていた。
 けれど、見上げた亮一の顔に、いつものような可南子の様子を常に気にしている余裕が無かった。
 自分の欲を放出させるために、小さく呻きながら、額に汗を浮かべて行為に酩酊している。
 その事が、興奮とは違う喜びを引き起こした。
 可南子の言った好きが軽いと言われた。けれど、亮一の好きは、その言葉で表す事ができないくらいに、重い。
 離れようとすることは、許されない。
 階段を駆け上がるような息切れと一緒に、熱い愉楽が迫り上る。

「ア、アアッ…………ん、アッッ」
「……ッ」

 亮一が、小さく震えるように、数度、腰を打ちつけた後に、動きを止める。
 連れて行かれる白い世界は、いつも倦怠感をもたらして、指を動かすのも、億劫になる。
 注ぎこまれるはずの情熱は、薄い膜に受け止められた。
 それなのに、渇きを感じている喉のように呑み込もうと動く肉壁は、自分のものではない気がする。

「……好き、だ」

 そう言って、控えめながらも、倒れこんできた亮一の重さに、可南子は潰されるほどの息苦しさを感じた。
 可南子はだるい腕を上げて、亮一の髪に触れる。硬い、まだ少し濡れた髪。
 声を出す力もない。瞼も、重い。
 でも、息が止まるほどの圧迫は、一緒に居る気がする。
 あと一歩踏み出せば良いとわかっているが、その一歩を踏み出すタイミングが難しい。
 だから、可南子はその重さを受け入れた。
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