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共同作業

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「それは水で飲むものです!」

 ハドリーが慌てた様子で寝台袖にあった水差しからコップに水を入れて差し出してくれた。
 気持ち悪さを流したくて、ごくごくと飲んだ瞬間、下腹部が燃え上がるように熱くなる。

「う……ぁ」

 立ち上がるどころが、上体を起こしておくのさえ辛い。
 そんな体をハドリーが心配げに支えてくれているのが苦しかった。
 誰も良いから満たして欲しい。この身体を鎮めて、落ち着かせて欲しい。

「はぁ……っ」

 これは本当に発情だけの、まったくオメガの身体のことも考えないものだ。
 飲めば飲むほど身体に蓄積されて死に近づくと直感が告げている。
 どこかでこんなものを飲まされているオメガがいると思うと悔しくて仕方ない。
 のぼせて頭がぼぅっとする中、イザベラはどこでもなく手を伸ばした。

「ハ、ハーブ……」
「口を開けて」

 ハドリーがチョコレートを口に入れてくれた。
 けれどもったりとした味に、拒否反応ですぐに口から吐き出してしまう。
 シーツを汚してしまうと焦ったが、それをハドリーの手が受け止めてくれた。
 その咄嗟の行動にも驚いたが、彼はベッドから文字通り飛び降りる。

「蜂蜜を」

 机の上にあったそれを手に取ると、素早く戻ってきてくれた。

「無理をさせて、本当にすまない」

 苦しい中、視界の隅でハドリーの表情が見える。
 背中をハドリーが撫でてくれた瞬間、両脚の間からとろりとした蜜が大量に溢れだし太ももを伝った。
 これは、完全な生殖用だ。それか、娼婦用。
 下腹部は猛烈に欲しい欲しいとずっと蠢いている。

「ほら、飲んで」

 ハドリーがスプーンで口元まで蜂蜜を運んでくれたが、匂いだけで唇を開けるのも嫌だった。
 水分しか体が受け付けないが、飲めるだけ良いのかもしれない。

「これは飲めますか」

 蜂蜜を水で溶かしてくれたが、匂いが気持ち悪くて唇を閉じてしまった。
 口に入れることができない場合があるなんて思いもしなかったのが悔やまれる。
 治める方法が無いのなら、この熱の塊のような波が去るまで待つしかない。
 火照る身体を持て余し、イザベラは身体をぎゅっと丸くして蹲った。
 息も絶え絶えにハドリーにお願いをする。

「治まる……まで、耐えます。お願いだから、自室に……」
「嫌です」

 どうして言うことをひとつも聞いてくれないのだろう。

「イザベラ、あなたを奪うことはしない。それだけは信じて欲しい」
「離し……て」

 ハドリーがイザベラを仰向けにし、両脚を自分の両肩に乗せた。
 自分でも、アルファを誘惑する匂いが自分からするのがわかる。

「触れない……で」
「触れます」

 夜着のスカートを捲り、ドロワーズを脱がされた。

「や、やだぁ」

 ハドリーの唇がみぞおちに落ちたかと思えば、へそ、下腹部、と下がっていく。蜜で蕩けたイザベラの足の付け根に彼は顔を埋めた。
 蜜で光る花弁に舌を這わせ、ぬるついたそこを丁寧に舌で舐め始めてしまう。

「ひぃっ」

 雷が身体を貫通したような快楽の衝撃と、その後の落とされるような弛緩。
 ぐったりと身体はベッドに沈み込むのに、蜜口から蜜がどっと溢れ出たのがわかる。
 それでも劣情は治まらず、ますます高まってしまった快楽に両手で顔を覆った。

「治まりませんね……」

 ハドリーは花弁を指で丁寧にめくり、小さく開いた蜜口の浅い部分に舌を入れた。
 ずん、と身体に衝撃が走る。

「ひぃ……あぁ……っ」

 二回目の激しい快楽と、弛緩。ぐったり、ともう指先を動かすのも億劫になってしまう。
 ハーブで強制的に終了させられない発情の向こう側を見ることができた満足感が、オメガの本能を満たしたのかもしれない。
 それでも、まだ体の奥底は疼いている。

「食べることはできますか」

 イザベラの発情が少し治まったのを感じたのか、ハドリーがチョコレートを口の中に入れようとしてくれた。
 だが今度は快楽に達した疲労から、体が固形物を取ることを拒否している。
 ハドリーが眉間に皺を寄せつつ硬く目を瞑った。

「……まだ、触れますよ」

 目を開けたハドリーに確認をされて、イザベラは金色の美しい目に見惚れながら頷いていた。
 夜着をすべて剝ぎ取られ全裸を晒すのに抵抗はできなかった。
 豊満な乳房も、熟れた桃のように瑞々しい臀部も、その秘部さえも妻開きにしていた。

「きれいですよ、イザベラ。とても、とてもきれいだ」

 ハドリーは昼間と同じく乳房の頂を舐めながら、指で花弁を開いて蜜口を探り差し込んでくる。
 決して暴こうとしなかった場所を、彼が触れてくれている。イザベラの頬を涙が伝う。

「痛いですか」
「い、たく、ない……っ」

 優しい声色に、イザベラは微かに感じる痛みを伝えなかった。
 きっと、ハドリーは止めてしまうと思ったから。
 指が奥へと入るたびに背に快楽の震えが起こり、蜜壺が同じようにひくひくとうねるのがわかった。
 おいしいと咥えていた指が自分の中を蹂躙している。
 口の代りに蜜の襞がしゃぶっている。イザベラは無意識に唇を舐めていた。
 ハドリーの厚い掌が、茱萸(ぐみ)のように膨れた粒を潰しながら、中をぐちゅぐちゅとかき回している。

「はぁっ、んっ、んっ」
「気持ち良いですか」
「いい……いいですっ……っ」

 お尻側の壁、お腹側の壁、奥の奥、ハドリーはイザベラが達するところを的確に見極め、何度も絶頂へ押し上げてくれる。

「ハドリー様……ぁ、うっ、あぁっ」
「ここにいますよ。あなたは美しいままです。だから、安心して達してください」

 イザベラはハドリーに向かって両手を差し伸べていた。
 もっと大きなものをください。私の中に、あなたをください。もっと、もっと。
 性(さが)が叫んでいる。その代弁である手を、ハドリーが舐めてくれた。

 仰向けになれば背中がしなり、食べてくださいと胸を突き出してしまう。
 うつぶせになれば、満たしてくださいと両脚を開きながら臀部をぐっと押し上げてしまう。
 その全てを満たしてくれる目の前のハドリーの、余裕のない顔が一番イザベラを満たしていた。
 アルファを翻弄できる唯一の方法は、オメガがオメガである時なのだ。
 何度目かの絶頂を迎える恍惚を経て、快楽が引いていくのをイザベラはじんわりと感じていた。



 どれくらい時間が立ったのだろう。
 疲れ切った身体をハドリーの胸板が受け止めてくれている。
 体中に、激しい愛撫の余韻が残っていた。
 気が戻ってきたのに気づいたのか、ハドリーが耳を頬で撫でながら聞いてきた。

「体は大丈夫ですか」
「いいえ」

 素直に答えるのは、考えることさえも億劫だから。

「明日、一緒に港へ行きますよ」
「いや」
「行きますので」

 棘のある口調は自分に向けられていないが、いつになく荒い。
 港へ行く理由もわからず、どうして怒っているのだろうと、ぼんやりと思っていた。

「発情の香りが薄くなりましたね」

 ハドリーの言葉にイザベラは背中にいる彼を見上げた。

「私の発情、わかるのですか」
「わからないはずがないです。私はアルファですよ」

 ハドリーは頭を掻きむしった後、何度も顔を両手で撫でた。
 いつもは整えられている髪が乱れ、表情もいつになく険しい。
 柔和そうな笑顔以外を、今日はたくさん見ることができている。

「すみません、今日は我慢できそうにない」

 何をだろう、そんな疑問が表情に出ていたのか、ハドリーは笑顔の仮面を剥いだ、アルファとしての余裕のない表情を浮かべる。
 オメガが、欲しい。
 性(さが)に侵された顔に、イザベラの気持ちが晴れやかになっていく。

「いつもどんなに我慢をしているか、見せましょう」

 ハドリーはズボンを寛がせ脱いだ。
 イザベラはそのお腹のところにあるものから、目が離せなくなる。
 太く長い強直は、ハドリーのような力強さで、天を向いていた。

「……」
「これが、女性と子を為すために使うものです。これは、勃起状態ですね。昼間、あなたはこれの上に座っていました」

 昼間ハドリーに跨って座っていた時、両脚の間にあった硬いものはコレだったのかと、イザベラはますます目を離せなくなった。
 屹立したそれはハドリーの腹に向かって立っている。
 どういう仕組みでそうなっているのかという好奇心もあり、見ないようにしなくてはと思うほどに見てしまう。
 するとハドリーが頬を撫でてくれた。

「最後まで、見てください。これをあなたの中に埋めて、こうしたいと、ずっと思っているのですから」

 ハドリーはその剛直を自分の手の平で包むと、上下にゆっくりと動かし始めた。
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