14 / 29
共同作業
6
しおりを挟むハドリーがその指を舐めた。
「おいしいですね」
ハドリーの言葉に、イザベラの目はとろんと蕩ける。
「難しく気負っていただかなくて大丈夫。簡単な話です。あなたのハーブは素晴らしい。他国のオメガにも届けたい。彼ら彼女らの、安全と安心に寄与したい」
話が半分しか入ってこなくなっていた。
身体に芽生えた疼きがじわじわと体中に広がっていく。
イザベラは自分が味わっている極上の甘みに導かれるように自分の唇に触れた。
「いまだにオメガが生殖者として公然と扱われる国もあります」
アルファの数は少ない。でも、オメガの数はもっと少ない。
発情するだけの性別と差別が放置されるのは絶対数が少ないから。
そして、アルファを生む確率が高いとして、有力者に囲われることも多いせいだ。
弱者や少数派は我慢を強いられる。
そのオメガに手を差し伸べることができるのは、その機会と手段を持つ人――つまり、自分だ。
すべてのオメガにハーブを届けたいのというのは、自分の夢でもある。
ありがたい話なのにハドリーに触れられて、疼きに囚われて思考がまとまらない自分が悔しい。
唇に触れていた手を握りしめた。
「ここで、新しいハーブを開発しませんか。レシピを持つ料理人と場所は侯爵家が、ハーブと配合はコートナー家が。悪い話ではないはずです」
「お願いですから、まずは父に」
「いえ、まずはあなたです」
ハドリーの指が再び唇に触れてきたせいで、触れたいという情動が大きく揺れ出す。
「ハーブの多用は身体に負担です。何もかも一挙に引き受けようとするあなたには手助けが必要だ。発情を起こした後のあなたの身も守らないといけない」
何もかも父であるラファティがお膳立てしてくれるはずだ。
それよりも、とイザベラは顔を引いてハドリーの指から離れた。
「お気遣いは感謝します。先ほどから申し上げておりますが、父に相談をお願い致します。私に決定権はありません」
「あなたにしか、決められないことがある」
だから無いと言っているのに。
そう反論しようとした唇が、ハドリーの指でなぞられた。
「発情したあなたを守る獣人だ」
確かにと思うが、それはきっと兄が引き受けてくれる。
「――私にして欲しい」
「……」
今のは、確実に聞き違いだ。
唇をふわりと指で撫でられながら言われて、耳がひくひくと動いている。
王宮から呼び出しがあるような次期侯爵が、コートナー商会の娘とはいえ平民を守ろうとする意味がわからない。
唇を壊れ物のように撫でてくる理由を、知りたい。
「返事が無いのは、肯定と言うことでいいかな」
ハドリーがゆっくりと確認をしてきたので、イザベラは瞬きをして我に戻る。
「ち、父に」
「あなたは」
唇を割って口の中にハドリーの指が入ってくる。
長くて太い、剣を持つことに慣れた美しい指が、自分の口の中にある。
体中を雷のように走った喜びに、一瞬で酩酊してしまう。
「ふっ……ぁ」
「ハーブが効かなかったとき、発情を私以外の誰かに見せて、治めてもらうのですか」
突き刺さるような視線を受けながら、指で舌を撫でられた。
口の上のザラザラしたところ、頬の内側、小屋の中の興奮が蘇ってくるようで、イザベラは指を味わいたくなる衝動を堪えた。
「ん……」
「それは私が面白くない。何も、喜ばしくない」
金色の目に突き刺されたようで、動くことができない。
口腔内を指でぐちゅぐちゅと擦られて、意識も朦朧としてくる。
「はぁ……ぅ」
味わいたい。そのじれったさが極限に達したイザベラは、その指に舌を絡めた。
じゅっ、と吸うと蜂蜜の味の記憶が、口の中に広がる。
「他のアルファに、これをするつもりですか」
ぐっと腰を引き寄せられた。ハドリーが口に出し入れする指を、くちゅくちゅと夢中で吸ってしまう。
ハドリーの指の節、ごわごわした皮膚は剣を持つからだろう、その全てを味わっていた。手が彼の腕を辿って肩を掴んでいた。
逞しい胸に押しつぶされた豊満な胸の頂が張り詰めうずく。
もっと欲しいと胸を押し付けると、ハドリーの手が細いウエストを辿った。
深い場所も触れて欲しい、味合わせて欲しい。自分を、奪って欲しい――。
「私に任せてくれますね」
ふにゃりとした耳を軽く噛まれた。興奮が両脚の間で脈打って、アルファを欲している。
「じゃないと、もう上げませんよ」
「はうぅ……」
頬の裏側から撫でられてきゅん、と下腹が締まった。
くれなくなるのは、嫌だ。
とろん、とした目で、お願いしますと伝え、ハドリーの指を前歯で噛んだ。
「悪い子ですね。では、あなたの体調と発情は、全て私が守らせていただきます」
耳をくしゅくしゅと撫でられる。
自分が悪い子なら、ハドリーは悪い人だ。
その噛んだ場所に舌を絡み付けて、ちゅうっと吸いながら、胸を押し付けた。
「はっ……。本当に、悪い子だ」
ハドリーの指がチョコレートでコーティングされていたら、きっともっとおいしい。
腰をぎゅっと抱き寄せられ、潰されて盛り上がったイザベラの胸の谷間が二人の間で上下する。
白くて張りのある、上記した膨らみがハドリーの胸板で押しつぶされていた。
「こんな光景、誰かに見せたら本当に、私は怒りますよ」
ハドリーはにっこりと笑う。
怒ったらどうなるのかを知りたい。
イザベラは身体を揺らして胸を押し付けながら指を咥えて続けていた。
1
お気に入りに追加
171
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる