腹黒狼侯爵は、兎のお嬢様を甘々と愛したい

水守真子

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共同作業

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 ハドリーがその指を舐めた。

「おいしいですね」

 ハドリーの言葉に、イザベラの目はとろんと蕩ける。

「難しく気負っていただかなくて大丈夫。簡単な話です。あなたのハーブは素晴らしい。他国のオメガにも届けたい。彼ら彼女らの、安全と安心に寄与したい」

 話が半分しか入ってこなくなっていた。
 身体に芽生えた疼きがじわじわと体中に広がっていく。
 イザベラは自分が味わっている極上の甘みに導かれるように自分の唇に触れた。

「いまだにオメガが生殖者として公然と扱われる国もあります」

 アルファの数は少ない。でも、オメガの数はもっと少ない。
 発情するだけの性別と差別が放置されるのは絶対数が少ないから。
 そして、アルファを生む確率が高いとして、有力者に囲われることも多いせいだ。
 弱者や少数派は我慢を強いられる。
 そのオメガに手を差し伸べることができるのは、その機会と手段を持つ人――つまり、自分だ。
 すべてのオメガにハーブを届けたいのというのは、自分の夢でもある。
 ありがたい話なのにハドリーに触れられて、疼きに囚われて思考がまとまらない自分が悔しい。
 唇に触れていた手を握りしめた。

「ここで、新しいハーブを開発しませんか。レシピを持つ料理人と場所は侯爵家が、ハーブと配合はコートナー家が。悪い話ではないはずです」
「お願いですから、まずは父に」
「いえ、まずはあなたです」

 ハドリーの指が再び唇に触れてきたせいで、触れたいという情動が大きく揺れ出す。

「ハーブの多用は身体に負担です。何もかも一挙に引き受けようとするあなたには手助けが必要だ。発情を起こした後のあなたの身も守らないといけない」

 何もかも父であるラファティがお膳立てしてくれるはずだ。
 それよりも、とイザベラは顔を引いてハドリーの指から離れた。

「お気遣いは感謝します。先ほどから申し上げておりますが、父に相談をお願い致します。私に決定権はありません」
「あなたにしか、決められないことがある」

 だから無いと言っているのに。
 そう反論しようとした唇が、ハドリーの指でなぞられた。

「発情したあなたを守る獣人だ」

 確かにと思うが、それはきっと兄が引き受けてくれる。

「――私にして欲しい」
「……」

 今のは、確実に聞き違いだ。
 唇をふわりと指で撫でられながら言われて、耳がひくひくと動いている。
 王宮から呼び出しがあるような次期侯爵が、コートナー商会の娘とはいえ平民を守ろうとする意味がわからない。
 唇を壊れ物のように撫でてくる理由を、知りたい。

「返事が無いのは、肯定と言うことでいいかな」

 ハドリーがゆっくりと確認をしてきたので、イザベラは瞬きをして我に戻る。

「ち、父に」
「あなたは」

 唇を割って口の中にハドリーの指が入ってくる。
 長くて太い、剣を持つことに慣れた美しい指が、自分の口の中にある。
 体中を雷のように走った喜びに、一瞬で酩酊してしまう。

「ふっ……ぁ」
「ハーブが効かなかったとき、発情を私以外の誰かに見せて、治めてもらうのですか」

 突き刺さるような視線を受けながら、指で舌を撫でられた。
 口の上のザラザラしたところ、頬の内側、小屋の中の興奮が蘇ってくるようで、イザベラは指を味わいたくなる衝動を堪えた。

「ん……」
「それは私が面白くない。何も、喜ばしくない」

 金色の目に突き刺されたようで、動くことができない。
 口腔内を指でぐちゅぐちゅと擦られて、意識も朦朧としてくる。

「はぁ……ぅ」

 味わいたい。そのじれったさが極限に達したイザベラは、その指に舌を絡めた。
 じゅっ、と吸うと蜂蜜の味の記憶が、口の中に広がる。

「他のアルファに、これをするつもりですか」

 ぐっと腰を引き寄せられた。ハドリーが口に出し入れする指を、くちゅくちゅと夢中で吸ってしまう。
 ハドリーの指の節、ごわごわした皮膚は剣を持つからだろう、その全てを味わっていた。手が彼の腕を辿って肩を掴んでいた。

 逞しい胸に押しつぶされた豊満な胸の頂が張り詰めうずく。
 もっと欲しいと胸を押し付けると、ハドリーの手が細いウエストを辿った。
 深い場所も触れて欲しい、味合わせて欲しい。自分を、奪って欲しい――。

「私に任せてくれますね」

 ふにゃりとした耳を軽く噛まれた。興奮が両脚の間で脈打って、アルファを欲している。

「じゃないと、もう上げませんよ」
「はうぅ……」

 頬の裏側から撫でられてきゅん、と下腹が締まった。
 くれなくなるのは、嫌だ。
 とろん、とした目で、お願いしますと伝え、ハドリーの指を前歯で噛んだ。

「悪い子ですね。では、あなたの体調と発情は、全て私が守らせていただきます」

 耳をくしゅくしゅと撫でられる。
 自分が悪い子なら、ハドリーは悪い人だ。
 その噛んだ場所に舌を絡み付けて、ちゅうっと吸いながら、胸を押し付けた。

「はっ……。本当に、悪い子だ」

 ハドリーの指がチョコレートでコーティングされていたら、きっともっとおいしい。
 腰をぎゅっと抱き寄せられ、潰されて盛り上がったイザベラの胸の谷間が二人の間で上下する。
 白くて張りのある、上記した膨らみがハドリーの胸板で押しつぶされていた。

「こんな光景、誰かに見せたら本当に、私は怒りますよ」

 ハドリーはにっこりと笑う。
 怒ったらどうなるのかを知りたい。
 イザベラは身体を揺らして胸を押し付けながら指を咥えて続けていた。
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