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共同作業
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「ハーブの話の続きをしても良いですか」
「あの、大変申し訳ありません。父を通して戴けませんか」
アーデルハイトを見送った後、ハドリーが離れへとエスコートしてくれている最中、とても自然に話を出された。
イザベラは商会の商売に直接関わっているわけでは無いが、商会の不利益になることは言えないくらいの意識はある。
そして、何が不利益かを判断できないという謙虚さもあった。
両親や、跡目を継ぐ兄達、後ろ盾になっている母の実家である伯爵家に迷惑をかけるわけにはいかない。
無意識に拒否した自分は家族と離れていても商会の人間らしいと自嘲してしまう。
イザベラが知っていることをあえて上げるなら、ハーブの配合と調合。
簡単に漏らせないと身構えるとハドリーは尊大に頷いた。
「確かにそうですね。ですが、概ねの合意は頂いています」
「どういう意味でしょうか」
ハドリーは腕にあるイザベラの手の上に、自分の手を乗せた。
「私があのハーブ園へ行きたいと商会に願い出たのは、即効性のハーブが他国にも需要があると見込んだからです」
「……」
「外交の珍しい贈り物として加えたいという意向がある」
「それは……」
外交となると国同士の話になり、話が大きすぎる。
イザベラは隣を歩くハドリーを注意深く見上げた。
商会でも貴族から珍しい商品の仕入れを頼まれたりする。
無茶ぶりにも近い『誰も持っていないようなもの』などという依頼だってある。
もちろん、珍品を個別に紹介することもよくある話。
だからこそ、父を、商会を通して欲しい。
「父を通してください、としか申し上げられません」
「警戒心が強くて、立派です」
なんだか気持ちが落ち込んでいた。
あの小屋でのことがあって、どんな顔で会えば良いかはわからなかった。
一週間ぶりに会って、ふたりで話す内容がこれ。
ハーブのことを知りたくて丁重にもてなされているのかと考えれば辻褄が合う。
気が重いまま心の中で溜め息を吐いて庭の草木を見やる。
離れに着くと、ハドリーも当然のように部屋に入ってきた。
「ハーブの生産者に会い、その商品の本質をこの目で確かめたかった」
イザベラの胸に痛みがじわじわと広がる。
父の仕事関係だろうとは思っていたのに、傷つくなんておかしい。
自分の反応にイザベラは顔を顰める。
「結果、どうお思いになったのですか」
「間違いなく、推せると」
自分が関わったハーブが認められるのは嬉しいが複雑だ。
ハドリーが自分に興味を持ってくれたと勘違いし始めていた自分も恥ずかしい。
花と手紙なんてものを送ったりするせいだと、軽く相手を恨む。
「ただ問題もあります」
「何でしょうか」
「生産者がこのように美しいと知られるのは困りますね」
「……はぁ」
どこまでが本当で嘘かがわからない。イザベラの耳がひくひくと動く。
でも、本当にそう思ってくれているのなら嬉しい、と耳の方が反応している。
ハドリーが王宮に一週間も呼び出されていた理由のひとつはハーブのことなのだろうか。
イザベラがソファに腰かけると、ハドリーはテーブルの上のベルを鳴らす。
待ち構えていたように使用人がお茶のセットを持ってきた。
「どうか、手伝いをさせてもらえませんか。――世界のオメガの為に」
「国の為ではありませんか」
イザベラは自分でも褒めたいくらいにきっぱりと言った。
国が富めば、人も富む構造がこの国にはある。手伝うのはやぶさかではない。
ただ胸の痛みはずっと引かず、もやもやしているとハドリーが声を上げて笑った。
「手厳しい。立派ですね」
怒っているのかと思えば本当に楽しそうで、ハドリーが何を考えているのかわからない。
使用人がテーブルの上に紅茶、チョコレートやクッキーも用意して退出した。
「私もこの国が好きですから……いくらでも尽力します。ただ、ハーブに、甘いお菓子のレシピを持つ料理人。費用もかかるので本当に父に相談してからでないと……」
「ええ、まずは、お茶を冷めないうちにどうぞ」
ハドリーがお茶を勧めてくれたので、イザベラは素直に口に運ぶ。
侯爵家で出される紅茶は香りがたまらなく良い。
テーブルに用意された、干しブドウが入っていたクッキーにもつい手を伸ばした。
素朴なのに上品な味は紅茶とよく合って、イザベラは感動してしまう。
「おいしそうに食べますね。たくさん食べさせたくなります」
横に座っているハドリーに笑顔で顔を覗き込まれて、真面目な話をしていたのだと気を取り直す。
こほん、と咳をしてから、口を開いた。
「お菓子にしたとして、その即効性のハーブが発情に本当に効くかを確認しなくてはいけません。発情したオメガと、安全な場所が必要です。発情は私がすれば良いのですが、安全な場所については、とにかく父に相談を」
発情するのは良いが、絶対に安全である場所が欲しい。
あの小屋が使えるのがベストだが、熊がいるのなら安全とは程遠い。
「私が父に手紙を書き……」
ふいに言葉が遮られた。テーブルに用意された甘いチョコレートが唇に押し当てられたからだ。
ベリーの香りがする。甘酸っぱいさわやかな芳香にときめいた。
「口を開けて」
返事の代りに口を開くと、チョコレートが口の中に入ってくる。
瑞々しい爽やかな果実の甘さが唾液と一緒に口の中に広がった。
おいしさに目を輝かせると、ハドリーは次のチョコレート手に取った。
「これもどうぞ」
次に唇に押し当てられたチョコレートはオレンジの香りがする。
誘われるまま口を開くと、ハドリーの指も口腔内に入ってきた。
「ああ、入ってしまった」
ズシン、と下腹に疼きが走ったが、あっけなく指は抜かれてしまった。
「あの、大変申し訳ありません。父を通して戴けませんか」
アーデルハイトを見送った後、ハドリーが離れへとエスコートしてくれている最中、とても自然に話を出された。
イザベラは商会の商売に直接関わっているわけでは無いが、商会の不利益になることは言えないくらいの意識はある。
そして、何が不利益かを判断できないという謙虚さもあった。
両親や、跡目を継ぐ兄達、後ろ盾になっている母の実家である伯爵家に迷惑をかけるわけにはいかない。
無意識に拒否した自分は家族と離れていても商会の人間らしいと自嘲してしまう。
イザベラが知っていることをあえて上げるなら、ハーブの配合と調合。
簡単に漏らせないと身構えるとハドリーは尊大に頷いた。
「確かにそうですね。ですが、概ねの合意は頂いています」
「どういう意味でしょうか」
ハドリーは腕にあるイザベラの手の上に、自分の手を乗せた。
「私があのハーブ園へ行きたいと商会に願い出たのは、即効性のハーブが他国にも需要があると見込んだからです」
「……」
「外交の珍しい贈り物として加えたいという意向がある」
「それは……」
外交となると国同士の話になり、話が大きすぎる。
イザベラは隣を歩くハドリーを注意深く見上げた。
商会でも貴族から珍しい商品の仕入れを頼まれたりする。
無茶ぶりにも近い『誰も持っていないようなもの』などという依頼だってある。
もちろん、珍品を個別に紹介することもよくある話。
だからこそ、父を、商会を通して欲しい。
「父を通してください、としか申し上げられません」
「警戒心が強くて、立派です」
なんだか気持ちが落ち込んでいた。
あの小屋でのことがあって、どんな顔で会えば良いかはわからなかった。
一週間ぶりに会って、ふたりで話す内容がこれ。
ハーブのことを知りたくて丁重にもてなされているのかと考えれば辻褄が合う。
気が重いまま心の中で溜め息を吐いて庭の草木を見やる。
離れに着くと、ハドリーも当然のように部屋に入ってきた。
「ハーブの生産者に会い、その商品の本質をこの目で確かめたかった」
イザベラの胸に痛みがじわじわと広がる。
父の仕事関係だろうとは思っていたのに、傷つくなんておかしい。
自分の反応にイザベラは顔を顰める。
「結果、どうお思いになったのですか」
「間違いなく、推せると」
自分が関わったハーブが認められるのは嬉しいが複雑だ。
ハドリーが自分に興味を持ってくれたと勘違いし始めていた自分も恥ずかしい。
花と手紙なんてものを送ったりするせいだと、軽く相手を恨む。
「ただ問題もあります」
「何でしょうか」
「生産者がこのように美しいと知られるのは困りますね」
「……はぁ」
どこまでが本当で嘘かがわからない。イザベラの耳がひくひくと動く。
でも、本当にそう思ってくれているのなら嬉しい、と耳の方が反応している。
ハドリーが王宮に一週間も呼び出されていた理由のひとつはハーブのことなのだろうか。
イザベラがソファに腰かけると、ハドリーはテーブルの上のベルを鳴らす。
待ち構えていたように使用人がお茶のセットを持ってきた。
「どうか、手伝いをさせてもらえませんか。――世界のオメガの為に」
「国の為ではありませんか」
イザベラは自分でも褒めたいくらいにきっぱりと言った。
国が富めば、人も富む構造がこの国にはある。手伝うのはやぶさかではない。
ただ胸の痛みはずっと引かず、もやもやしているとハドリーが声を上げて笑った。
「手厳しい。立派ですね」
怒っているのかと思えば本当に楽しそうで、ハドリーが何を考えているのかわからない。
使用人がテーブルの上に紅茶、チョコレートやクッキーも用意して退出した。
「私もこの国が好きですから……いくらでも尽力します。ただ、ハーブに、甘いお菓子のレシピを持つ料理人。費用もかかるので本当に父に相談してからでないと……」
「ええ、まずは、お茶を冷めないうちにどうぞ」
ハドリーがお茶を勧めてくれたので、イザベラは素直に口に運ぶ。
侯爵家で出される紅茶は香りがたまらなく良い。
テーブルに用意された、干しブドウが入っていたクッキーにもつい手を伸ばした。
素朴なのに上品な味は紅茶とよく合って、イザベラは感動してしまう。
「おいしそうに食べますね。たくさん食べさせたくなります」
横に座っているハドリーに笑顔で顔を覗き込まれて、真面目な話をしていたのだと気を取り直す。
こほん、と咳をしてから、口を開いた。
「お菓子にしたとして、その即効性のハーブが発情に本当に効くかを確認しなくてはいけません。発情したオメガと、安全な場所が必要です。発情は私がすれば良いのですが、安全な場所については、とにかく父に相談を」
発情するのは良いが、絶対に安全である場所が欲しい。
あの小屋が使えるのがベストだが、熊がいるのなら安全とは程遠い。
「私が父に手紙を書き……」
ふいに言葉が遮られた。テーブルに用意された甘いチョコレートが唇に押し当てられたからだ。
ベリーの香りがする。甘酸っぱいさわやかな芳香にときめいた。
「口を開けて」
返事の代りに口を開くと、チョコレートが口の中に入ってくる。
瑞々しい爽やかな果実の甘さが唾液と一緒に口の中に広がった。
おいしさに目を輝かせると、ハドリーは次のチョコレート手に取った。
「これもどうぞ」
次に唇に押し当てられたチョコレートはオレンジの香りがする。
誘われるまま口を開くと、ハドリーの指も口腔内に入ってきた。
「ああ、入ってしまった」
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