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6、やっぱり好き。やっぱりかわいい。絶対離れたくない。
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「モカ、人間と一緒になることを許す。だがその代償として……」
キングがすべてを言い終わらないうちに、平太はまた割りこんだ。納得がいかなかった。
「そ、それだめなやつ! いいんですか、モカさん、いや、だめだ。僕なんかのせいで、だめだだめだだめだ。命がけなんて。何かと引き換えなんて。僕なんかどこにでもいる平凡な人間です。モカさんが何かを失ってでも得るべき存在だとは思えません。モカさんが僕を選んだとして、モカさんが幸せになるかどうかなんてわからない。モカさんの何かが欠けるなんて絶対嫌だ」
危機意識が低くて優しい。平凡な男がはじめて見せる必死の形相に、モカは思い出していた。
かつてあったマンションでの暮らし。幸せだった。
それが急につまらなく思えた。隠れ里に逃げたのち、一度だけ様子を見に行った。ご主人は新しい「モカ」と幸せそうに暮らしていた。ほっとしたが馬鹿だとも思った。
「モカが一番かわいい。世界一かわいいねえ」
それでも、ご主人の声が耳の奥に残っている。愛されていた。善良な人だった。
「平太さん。好きです。平太さんは確かに平凡で、つまらない人かもしれない。でも私にとって特別な人です。心がきれいで、マロンをかわいがってくれる。私たちを何より思いやってくれる」
「も、モカさんが好きです。マロンくんとも離れたくない。でもそれは僕のエゴで。
モカさん本当はキングを好きなんですよね? そうじゃないと子どもを産みたいなんて思わないはず。知っているんです。わかっているんです。モカさんやマロンくんみたいな素敵でかわいい二人が僕なんかのところに急にやってくるとか、ありえない」
平太は泣いていた。
「平太さんはとってもバカですね」
モカは、今ならわかる、と思った。大事なものが何なのか。
あの時の選択は後悔はしていない。でもその価値がやっとわかるから、今度だけは選択を間違えたくなかった。
「はいはいはいはい、そんでどうすんのー」
マロンが疲れてぐずりだしているのを、王みずからあやしながら、二人をせかした。
「心は決まってます」
「モカさん、ダメです!」
「そんなもめることかね。対価はモカがポメラニアンに戻れない、ってことだけだ」
「うおおおお、やっぱそんな気がしたあああああ! 歩くと激痛はしるやつ!」
「激痛とかないですし、戻らなくなるほうが、平太さんと一緒に人間界で暮らすんだったら都合いいかと思いますが……」
「それなら僕が隠れ里にお婿にきますよ。そしたらモカさんは何も失わない。はい決定決定」
側室たちが興味しんしんで平太を見ている。モカが、鼻のあたりにしわをよせ威嚇した。
「みんな人間に遊んでほしくてよだれたらしてる。きみ、もみくちゃにされるよ。さっき拷問されたの忘れた?」
キングポメの少年の顔は、ぐわっと裂けてほとんどが口になる。舌がべろりと出てきて、平太の顔をべろおおっと舐めた。つづけざまにモカを舐める。
平太はモカを守ろうと手をのばすと、モカも同時にそうしていた。
間にマロンをはさむように抱き合うと、「離れたくない」と平太は言ってしまった。涙とキングのよだれでべちょべちょ。
あああ~これやっちゃった、自分はモカとマロンを一生守る気まんまんだけど、モカさんにとってはこれでよかったのか、はたして幸せにできるのか自信がない。マロンにとっていい環境を用意できるのかとかなど、悩みは複数ありすぎる。なのにつないだ手は離れない。それは平太がしっかり握っているせいであり、モカが強く強く握り返しているせいでもあった。
「平太さんだけが背負わなくて、大丈夫ですよ」
モカははっきりと言いきり、にこっとした。
「ばかだね、モカ。かわいさパワーで人間を操るのが私たちの仕事なのに。人間なんかを守ろうとするなんて『番犬タイプ』か」
キングはげらげら笑っていた。
モカは、キングに顔をしかめて、ベーっと舌をだした。キングは虚を突かれ、驚いた顔をしたが、大きな口をさらに大きくあけてさらに笑い続けた。
平太は泣き笑いしていた。
「やっぱり好き、やっぱりかわいい。絶対離れたくない!」
「バカですね、平太さん」
モカは平太の唇にそっと自分の唇をあわせた。
「ヒトのものはヒトに。ポメラニアンのものはポメラニアンに、ポメラニアンからヒトに……契約、完了」
キングの声が響きわたる。人間の姿のポメラニアンが、ポメラニアンの姿のポメラニアンが皆一斉にのどをそらせ、遠吠えをした。
キングがすべてを言い終わらないうちに、平太はまた割りこんだ。納得がいかなかった。
「そ、それだめなやつ! いいんですか、モカさん、いや、だめだ。僕なんかのせいで、だめだだめだだめだ。命がけなんて。何かと引き換えなんて。僕なんかどこにでもいる平凡な人間です。モカさんが何かを失ってでも得るべき存在だとは思えません。モカさんが僕を選んだとして、モカさんが幸せになるかどうかなんてわからない。モカさんの何かが欠けるなんて絶対嫌だ」
危機意識が低くて優しい。平凡な男がはじめて見せる必死の形相に、モカは思い出していた。
かつてあったマンションでの暮らし。幸せだった。
それが急につまらなく思えた。隠れ里に逃げたのち、一度だけ様子を見に行った。ご主人は新しい「モカ」と幸せそうに暮らしていた。ほっとしたが馬鹿だとも思った。
「モカが一番かわいい。世界一かわいいねえ」
それでも、ご主人の声が耳の奥に残っている。愛されていた。善良な人だった。
「平太さん。好きです。平太さんは確かに平凡で、つまらない人かもしれない。でも私にとって特別な人です。心がきれいで、マロンをかわいがってくれる。私たちを何より思いやってくれる」
「も、モカさんが好きです。マロンくんとも離れたくない。でもそれは僕のエゴで。
モカさん本当はキングを好きなんですよね? そうじゃないと子どもを産みたいなんて思わないはず。知っているんです。わかっているんです。モカさんやマロンくんみたいな素敵でかわいい二人が僕なんかのところに急にやってくるとか、ありえない」
平太は泣いていた。
「平太さんはとってもバカですね」
モカは、今ならわかる、と思った。大事なものが何なのか。
あの時の選択は後悔はしていない。でもその価値がやっとわかるから、今度だけは選択を間違えたくなかった。
「はいはいはいはい、そんでどうすんのー」
マロンが疲れてぐずりだしているのを、王みずからあやしながら、二人をせかした。
「心は決まってます」
「モカさん、ダメです!」
「そんなもめることかね。対価はモカがポメラニアンに戻れない、ってことだけだ」
「うおおおお、やっぱそんな気がしたあああああ! 歩くと激痛はしるやつ!」
「激痛とかないですし、戻らなくなるほうが、平太さんと一緒に人間界で暮らすんだったら都合いいかと思いますが……」
「それなら僕が隠れ里にお婿にきますよ。そしたらモカさんは何も失わない。はい決定決定」
側室たちが興味しんしんで平太を見ている。モカが、鼻のあたりにしわをよせ威嚇した。
「みんな人間に遊んでほしくてよだれたらしてる。きみ、もみくちゃにされるよ。さっき拷問されたの忘れた?」
キングポメの少年の顔は、ぐわっと裂けてほとんどが口になる。舌がべろりと出てきて、平太の顔をべろおおっと舐めた。つづけざまにモカを舐める。
平太はモカを守ろうと手をのばすと、モカも同時にそうしていた。
間にマロンをはさむように抱き合うと、「離れたくない」と平太は言ってしまった。涙とキングのよだれでべちょべちょ。
あああ~これやっちゃった、自分はモカとマロンを一生守る気まんまんだけど、モカさんにとってはこれでよかったのか、はたして幸せにできるのか自信がない。マロンにとっていい環境を用意できるのかとかなど、悩みは複数ありすぎる。なのにつないだ手は離れない。それは平太がしっかり握っているせいであり、モカが強く強く握り返しているせいでもあった。
「平太さんだけが背負わなくて、大丈夫ですよ」
モカははっきりと言いきり、にこっとした。
「ばかだね、モカ。かわいさパワーで人間を操るのが私たちの仕事なのに。人間なんかを守ろうとするなんて『番犬タイプ』か」
キングはげらげら笑っていた。
モカは、キングに顔をしかめて、ベーっと舌をだした。キングは虚を突かれ、驚いた顔をしたが、大きな口をさらに大きくあけてさらに笑い続けた。
平太は泣き笑いしていた。
「やっぱり好き、やっぱりかわいい。絶対離れたくない!」
「バカですね、平太さん」
モカは平太の唇にそっと自分の唇をあわせた。
「ヒトのものはヒトに。ポメラニアンのものはポメラニアンに、ポメラニアンからヒトに……契約、完了」
キングの声が響きわたる。人間の姿のポメラニアンが、ポメラニアンの姿のポメラニアンが皆一斉にのどをそらせ、遠吠えをした。
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