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6、やっぱり好き。やっぱりかわいい。絶対離れたくない。

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 その後連行された平太を待ち受けていたのは、とてつもなく恐ろしい拷問だった。

 身動きできないよう拘束され床に転がされた状態で、大量のちびポメを放たれる。どれもかわいくてもふもふでふわふわで、無垢な瞳で平太を不思議そうにみつめ、ちっちゃなあんよでふみふみしてくる。上にのったりぺろぺろしたり好き放題、とんでもない狼藉をはたらいた。トイレトレーニングが終わってないものは、平太におしっこをかけた。

 天国なのか地獄なのかわからない、おそろしくも耐え難い時間だった。平太は、かわいがりたいのを、お預けくらってぼろぼろだ。どれほどかわいく思っても、抱っこもなでなでもできない。一方的にエネルギーを吸いつくされ頭はれろれろ、パーンとはじけそうである。

(こんなハードな拷問、考えつくなど……人間ではない……なんておそろしい……えへ……えへへ……しぼりとられる)

 命をすり減らしつつポメのよだれとおしっこにまみれ、憔悴しきった平太が、次に連れていかれたのは、王の間だった。

 王の間は、モノクロモダンインテリアで、都会のイケてる男の隠れ家風だった。高そうな中央のカウチには、十代前半くらいの美少年が、どかっと座りその周りには、しどけない姿の美男美女がはべっている。

 周囲の様子と、どんな姿にでもなれるというモカの話からすると、少年がキングだと想像がついた。

 モフモフ拷問の余韻で朦朧としながらも、平太はモカがいないか、姿を探す。モカは王をとりまく美男美女の末席にいた。悲しそうな苦しそうな、何か言いたげな顔で、今すぐ平太のそばに駆けつけたい様子でじりじりしているようだった。腕にはポメのマロンを抱っこしている。

 お迎えは間に合ったのだ。ほっと安心した。ご近所さんとの付き合いで、時間や約束を守ることはなにより大事だから。

 平太は「少しヨレっとしているが、こんなの全然平気ですよ」というように、ニヒルに笑ってみせた。うまくいったかどうかはわからない。

「証拠品はこちらでございます」

 お付きのものが、漬物石をうやうやしく指し示す。

「お前これ、ぶん投げたんだってな。危ないだろうまじで。しかもこれ、人間界に行くドアをとめるのに手頃な大きさだから使っていたやつ。なくなって不便したわ」

 そう言いながら王は突然貫禄のある壮年の男に変幻する。威圧的でめちゃくちゃ怖そうだった。

 モカが必死にハンドサインを送ってくるのを見た。両手の指でわっかをつくって目にあてるしぐさだった。

 平太は「あっ」と声をあげ、どさくさで渡された眼鏡をかけてみた。

「うわ、かわい……」

 黒髪のコワモテ王と美貌のしもべたちは、巨大ポメラニアンと、いろんなカラーのかわいいポメ軍団に見えた。さきほどぺろぺろ地獄だったのも忘れて「かわいーぃ」と甲高い声が出てしまったのも仕方がなかった。

 眼鏡をつけたりはずしたりすると、見えるものがまるで違う。

 つけるとキングポメと、ころころモフッモフ達、はずすとイケメン王と淫靡な薄布の側室たち。
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