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3、ハッピーラッキーラブ☆トラップアワー
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「うあうあうわああうわああああああ」
「平太ぁ! 平太!! 大丈夫か!?」
心臓がばくんばくんと跳ねている。頭がぐわんぐわんしていた。
汗だくで布団の上だった。全身がずっしり重い。
「どうした!? 夢でもみてたか?」
「じいちゃん……?」
目の前にいた祖父に差しだされた湯呑をうけとり、冷たいお茶を一気に飲み干すと、なんとか現実に戻ることができた。
「近所の人から玄関あけっぱなしって連絡があったから来てみれば。平太、どうした、何があった」
平太は祖父に促されるままに、今まであったことをあらいざらい話した。
祖父は孫の話を、ほうほうと最後まで口をはさまず全部聞いた。しかし、実のところ、孫が何を言っているのか、さっぱり理解できなかった。
「ええと、その、つまり? イングリッシュシープドッグを山で拾ったと?」
「うん! その拾ったポメラニアンは、実は人間で。いや、人間がポメになったのか、ポメが人間に化けたのかは、本当のところはわからないんだけど。そんでほら、正体をいっちゃったら、ダメなやつってすぐわかったから本人にも聞かなかったし誰にも言わなかったのに、巨大ポメラニアン、ポメ神様が二人を迎えにきて。僕は巨ポメに食われて。……あっ、この話誰にも言わないでね。秘密にね」
かわいい孫だが、しばらく会わないうちに、様子が変わってしまった。
「ちょっと熱測ろうか」
熱はない。
近所の人から通報がはいって、駆けつけた。孫は庭でぐうぐう寝ていた。見たところ、特に外傷はなさそうだが、実は強く頭をぶつけているのかもしれない。
「そういや、頼んでいた漬物石は」
とりあえず話を変えた。山に行くという平太にじゃあついでに、と頼んでいた。
「あっ、これこれ」
「おお、これはいい具合の石だな。ん、なんか書いてあるぞ? 『ぽ』……?」
ひっくり返した裏に丸印に「ぽ」とひらがなが書かれていた。そして人のような記号に×印が書かれている。
平太は奇声をあげた。
「これ、『ポメラニアンのだから人間が持ち出すの厳禁』って意味だ! ポメのものだったんだ、ぜんぜん気づかなかった! だからか」
なぜか深く納得している平太に、「いやいやいやいや、うちの山だから厳禁とかないから」と祖父は一応つっこみをいれた。
「まてよ? じゃあ逆にこれを持っていって謝れば巨大ポメ神もお許しになって、二人を探しだせるかも。つまり『山のものは山に。ポメラニアンのものはポメラニアンに還せ』ってことか」
何を言っているのかさっぱりわからない。
「……平太、山ぁ、好きか」
「うん!」
「なんならお前、いる? たいした価値はないけど」
「えっ、いいの? もらう。じいちゃんありがと」
「じゃあ、管理のこととか固定資産税の話は、お前が社会人になって稼ぐようになったら教える」
「うん」
「じゃ、じいちゃん用事あっから、そろそろ帰るな」
祖父は孫に小遣いを多めにやった。
「わ、ありがと~」
帰り際、ぶんぶん手を振る孫の姿に目を細めた。ちょっと変わったところはあるが、昔も今も素直でいい子である。だからこそ、帰りながら不安が募っていった。
平太の言っていることをまとめると、親子のイングリッシュ、じゃない、ポメラニアンを助けたところ、二匹が人間の姿で恩返しにやってきた。(……いや恩返しという割には、聞けば聞くほど平太の方が世話してばかりのようだったが)その正体に気づいた平太は、秘密を本人にも誰にも明かさなかった。にもかかわらず、巨大ポメが二人を迎えに来て、去っていってしまった。
それはひとえに、自分が親ポメに恋心を抱いてしまったから、ポメ神の怒りかってしまったから、であると平太はのたまった。そしてそもそもの発端は、ポメ神様の大事な石を持ち帰ってしまったのが原因ときたもんだ。(「ぽ」と書いてあったのがその証拠だそうだ)
確かに昔話であれば、人ならざるものの秘密を暴けば命取りだ。雪女だったら殺されかけるし、鶴女房なら飛んでいってしまう。迎えが来て、月に帰ってしまうのはかぐや姫。
しかしなぜ、山にポメラニアン。あの何の特徴もない山に。
頭の中では鶴と雪女とかぐや姫とポメラニアンがぐるぐるしている。愛くるしいふわふわの小型犬に、鶴女房と雪女とかぐや姫がきゃふきゃふたわむれる。
平太には小さい時分に犬の一匹でも飼ってやればよかったのかもしれない。そんなことを考えたが、次の瞬間には、もうシルバー人材センターで紹介された子育てボランティアのことを考えていた。今どきの高齢者はとても忙しいのだ。
「平太ぁ! 平太!! 大丈夫か!?」
心臓がばくんばくんと跳ねている。頭がぐわんぐわんしていた。
汗だくで布団の上だった。全身がずっしり重い。
「どうした!? 夢でもみてたか?」
「じいちゃん……?」
目の前にいた祖父に差しだされた湯呑をうけとり、冷たいお茶を一気に飲み干すと、なんとか現実に戻ることができた。
「近所の人から玄関あけっぱなしって連絡があったから来てみれば。平太、どうした、何があった」
平太は祖父に促されるままに、今まであったことをあらいざらい話した。
祖父は孫の話を、ほうほうと最後まで口をはさまず全部聞いた。しかし、実のところ、孫が何を言っているのか、さっぱり理解できなかった。
「ええと、その、つまり? イングリッシュシープドッグを山で拾ったと?」
「うん! その拾ったポメラニアンは、実は人間で。いや、人間がポメになったのか、ポメが人間に化けたのかは、本当のところはわからないんだけど。そんでほら、正体をいっちゃったら、ダメなやつってすぐわかったから本人にも聞かなかったし誰にも言わなかったのに、巨大ポメラニアン、ポメ神様が二人を迎えにきて。僕は巨ポメに食われて。……あっ、この話誰にも言わないでね。秘密にね」
かわいい孫だが、しばらく会わないうちに、様子が変わってしまった。
「ちょっと熱測ろうか」
熱はない。
近所の人から通報がはいって、駆けつけた。孫は庭でぐうぐう寝ていた。見たところ、特に外傷はなさそうだが、実は強く頭をぶつけているのかもしれない。
「そういや、頼んでいた漬物石は」
とりあえず話を変えた。山に行くという平太にじゃあついでに、と頼んでいた。
「あっ、これこれ」
「おお、これはいい具合の石だな。ん、なんか書いてあるぞ? 『ぽ』……?」
ひっくり返した裏に丸印に「ぽ」とひらがなが書かれていた。そして人のような記号に×印が書かれている。
平太は奇声をあげた。
「これ、『ポメラニアンのだから人間が持ち出すの厳禁』って意味だ! ポメのものだったんだ、ぜんぜん気づかなかった! だからか」
なぜか深く納得している平太に、「いやいやいやいや、うちの山だから厳禁とかないから」と祖父は一応つっこみをいれた。
「まてよ? じゃあ逆にこれを持っていって謝れば巨大ポメ神もお許しになって、二人を探しだせるかも。つまり『山のものは山に。ポメラニアンのものはポメラニアンに還せ』ってことか」
何を言っているのかさっぱりわからない。
「……平太、山ぁ、好きか」
「うん!」
「なんならお前、いる? たいした価値はないけど」
「えっ、いいの? もらう。じいちゃんありがと」
「じゃあ、管理のこととか固定資産税の話は、お前が社会人になって稼ぐようになったら教える」
「うん」
「じゃ、じいちゃん用事あっから、そろそろ帰るな」
祖父は孫に小遣いを多めにやった。
「わ、ありがと~」
帰り際、ぶんぶん手を振る孫の姿に目を細めた。ちょっと変わったところはあるが、昔も今も素直でいい子である。だからこそ、帰りながら不安が募っていった。
平太の言っていることをまとめると、親子のイングリッシュ、じゃない、ポメラニアンを助けたところ、二匹が人間の姿で恩返しにやってきた。(……いや恩返しという割には、聞けば聞くほど平太の方が世話してばかりのようだったが)その正体に気づいた平太は、秘密を本人にも誰にも明かさなかった。にもかかわらず、巨大ポメが二人を迎えに来て、去っていってしまった。
それはひとえに、自分が親ポメに恋心を抱いてしまったから、ポメ神の怒りかってしまったから、であると平太はのたまった。そしてそもそもの発端は、ポメ神様の大事な石を持ち帰ってしまったのが原因ときたもんだ。(「ぽ」と書いてあったのがその証拠だそうだ)
確かに昔話であれば、人ならざるものの秘密を暴けば命取りだ。雪女だったら殺されかけるし、鶴女房なら飛んでいってしまう。迎えが来て、月に帰ってしまうのはかぐや姫。
しかしなぜ、山にポメラニアン。あの何の特徴もない山に。
頭の中では鶴と雪女とかぐや姫とポメラニアンがぐるぐるしている。愛くるしいふわふわの小型犬に、鶴女房と雪女とかぐや姫がきゃふきゃふたわむれる。
平太には小さい時分に犬の一匹でも飼ってやればよかったのかもしれない。そんなことを考えたが、次の瞬間には、もうシルバー人材センターで紹介された子育てボランティアのことを考えていた。今どきの高齢者はとても忙しいのだ。
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