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XANXUS~おにいちゃん 3
ボンゴレのアジトに、平和な朝がやって来た。
しかし、平和じゃない人がひとり。
「ゔぉ゙ぉ゙~い゙。何時まで寝てるんだぁぁぁ~」
叫んでいるのは、スクアーロ。
かなり不機嫌な様相で、廊下を歩いていた。
「んだよ~、うるせぇな」
ベルが寝惚けた顔を出す。
「何騒いでんのよ~、朝っぱらから~って、あら?失恋隊長だったのねぇ~」
「失恋?スクアーロ失恋したのかよ?ししし、笑える~」
「うるせぇ!ぶっ殺すぞぉ~」
その時。
リリィがひょっこり顔を出した。
「あら~ん、リリィ。今日も可愛いわねぇ」
「あ……おはよ……」
何となく恥ずかしそうにしている。
多分……。
みんな知ってるよね?
昨夜のことは……。
「るせぇぞ!カス共が!」
ザンザスが、リリィの背後から声をあげた。
すると。
スクアーロはその場から去っていこうとした。
「どうした?カス鮫?」
「……何でもねぇよ」
「ふっ、そうか」
「おにいちゃん?」
リリィが不思議そうに、ザンザスの顔を見上げる。
「リリィ、お前が気にする事じゃねぇ」
そうなのかなぁ?
隊長……。
いつもと違ってたし。
元気なかったよ。
「あの、おにいちゃん?」
「何だ?」
「隊長、何かあったのかな?」
「なぜそう思うんだ?」
「いつもの元気がなかったから」
「静かでいいじゃねぇか」
おにいちゃん?
おにいちゃんも、何となくいつもと違う気がする……。
「リリィ、支度出来たら食堂に行くぞ」
「おにいちゃん、あたし何着ればいいの?」
物心ついたときから、記憶にあるのはぼろぼろの衣服しか与えられて来なかったこと。
今、ヴァリアーのボスであるザンザスに溺愛され、リリィの生活は一変した。
豪華な部屋、ふかふかのベッド。
そして。
ルっスーリアが揃えてくれた、これまで見た事もないようなキレイなドレス。
「何でもいいじゃねぇか。それともルッスーリアでも呼ぶのか?」
ザンザスは、自分で言ってから少し考えて、こう言った。
「いや……、やっぱり俺が決める」
リリィの身体は、誰にも見せたくない。
むごい傷痕もそうだが。
リリィは俺だけのものだからな。
「おにいちゃん?」
「あぁ……、これにしろ」
上の空で、適当に掴んでリリィに渡した。
「これ?ルッス姐より変わってる」
「あぁ?」
リリィが着替えたのは、薄いキャミソール。しかも、下着をつけてない状態のまま。身体が透けてみえて何ともいえない色っぽい姿だった。
「ちょ、ちょっと待て」
ザンザスは慌てて、違う服を探した。
そんな格好で部屋から出せるか。
「ほら、これでいいじゃねぇか」
白いワンピースを探し、リリィに渡した。
白なら金髪に映えるだろう。
「おにいちゃん、似合う?」
「あぁ、よく似合ってるぜ」
言われて、リリィは花の様に微笑んだ。
——可愛い。
俺だけの、ものだ。
永遠にな。
コンコン!
誰かがドアをノックした。
「はぁ~い」
リリィがドアへと走って行こうとするのを、ザンザスが止めた。
「待て、俺が出る」
カチャ……——。
静かにドアを開けた。
「ボス何やってんだ?朝飯の時間だぜ」
ベルがひょっこり顔を出して、呆れた様子で言った。
「るせぇっ!リリィの支度がまだなんだ」
「リリィ?可愛いじゃね?ししし」
「ベルさん?あたしおかしくないですか?」
「何で?似合ってるじゃん?」
その言葉を聞いて、リリィが少し頬を染めたのを、ザンザスは見逃さなかった。
リリィ。
忘れるな。
お前の全ては、この俺のものだ。
誰にも触れさせやしない。
「飯食いに行くぞ」
「あ!待ってよ、おにいちゃん」
ザンザスの腕にしがみついて、食堂へ向かって行った。
アジトの中、ザンザス率いる変態集団が歩いているのは、一種異様な光景だ。
その中で、紅一点リリィの存在は貴重かもしれない。
「まさかまともな食い物は用意してあるんだろうな」
「けっ、どこまで行ってもわがままなボスだぜぇ」
スクアーロが言った、その言葉が、皮肉に聞こえたのはリリィの思い過ごしだろうか?
「あれ~?皆さんお揃いですか?あんまり遅いんで、呼びに行こうとしていたんです」
「俺達の事は構うな。好きなようにやらせてもらう」
「あ、はい!判りました。あっ、リリィちゃん。おはよう」
「ハルさん……おはようございます」
「沢田はどうした?」
「さぁ……、ご飯食べたらいなくなっちゃいました」
いなくなった?
あのバカ、どこに行きやがった。
「リリィ、俺がいいというまで食べろ」
「え?なんでそんな事いうの?」
ザンザスが、リリィの耳元で囁いた。
「あれだけ体力使ってるんだ、俺のいう事を聞け」
「おにいちゃんの意地悪~」
くっくっくっ……。
何とでもわめくがいい。リリィ、お前は俺の命なんだからな。
ヴァリアーの調理師はもちろん、ルッスーリアだ。
「何にしましょうか~?」
「俺とリリィは和牛のフィレステーキ。無論レアでな」
「嘘?おにいちゃん、いじめだよね?そんなの食べたらあたし吐くよ?」
「俺の言う事が聞けねぇのか?」
ザンザスの声色が変わった。
辺りが水を打ったように静まり返った……。
「リリィ、ボスの言うこと聞いときなさい」
ルッスーリアが、リリィに囁いた。
ザンザスが本気で怒っている事など、リリィ以外の、ヴァリアーの全員がわかっていた。
「でも……」
「リリィ、俺が納得するまで食べろ」
うにゃ~。
おにいちゃん横暴~。
「俺の言うことが聞けねぇのならいい。後悔するまでの事だ」
何?
どういう意味で言ってるの?
「後でたっぷり可愛がってやる」
不敵、としか言い様のない笑みを浮かべ、ザンザスはリリィに言った。
「お、おにいちゃん?みんなのいる所で……」
「あぁ?何か文句ある奴はいるか?」
「ミーは何もないですー」
「しししっ!俺もないぜ」
「けっ、好きにしたらいいだろう」
「リリィさんなら、ボスに相応しい」
「ほらぁ~、全員一致よぉ~」
「ふっ、当たり前だ」
おにいちゃん。
あたし間違った方向に、っていうか、変態集団に馴染んでるんだけど……。
言葉には出さないけど、内心不安なリリィだった。
「ちゃんと食え!」
ザンザスの声が飛んでくる。
ぅえ~。
拒食症のリリィには、食事は一番つらい事だけど。おにいちゃんの心配してくれてる気持ちには応えたい。
刹那がリリィを苦しめていた。
「しっかり食え!リリィ」
う、っ……。
吐きそう……。
「お、にい……」
ガタン!
ザンザスが席を立って、リリィを抱きかかえて食堂から出ていった。
洗面所まで、もつか?
「リリィ、吐き出してかまわないぞ」
「うっ……っっ……」
悪かった。
俺が……。
悪かったんだ。
結果、リリィを苦しめる事になっちまった。
「お、にい、ちゃん……」
「あぁ……、部屋で休むか?」
「ん……うん……」
その言葉を聞いたザンザスは、リリィを抱いて部屋に連れていった。
ふたりきり……。
ザンザスが思い切り我慢している事に、リリィは気づかない。
「……少しは楽になったか?」
「うん……」
まだ、元気とはいえない状況のようだな。
リリィとふたりきりでいて、我慢するのはちょっと辛いな。
そっと……。
リリィの唇にふれてみた。
ふんわり柔かな感触に抑えていた欲望が目を覚ました。
ドサリ!
ベッドに押し倒されるリリィ。その唇に縛り付けるようにキスを落とす。
あぁ……。
駄目だ。
俺は、俺は……。
リリィを壊してしまいそうだ。
「おにいちゃん……?」
「黙れリリィ。俺に火をつけるな!」
苦悩するザンザス。
戸惑うリリィ。
「ぐっ……―—」
時折リリィを、吐き気が襲う。
「お、にぃちゃ……」
「なんだ?苦しいか?」
「ちが……。抱いて……」
ドクン……——。
ザンザスの心臓が高鳴る。
「……いいのか?」
「うん——」
その言葉に、抑えていた欲望が一気に吹きだした。
「途中で止まらねぇぞ?」
「いい……」
ザンザスが、リリィのワンピースのボタンを外す。白い肌が露になり、リリィの胸にその大きな手が伸びてゆく。ふんわりとしたリリィの肌の感触を、確かめるように胸を掴み……。
「ぁっ……」
リリィの嗚咽が漏れ聞こえて、一気に責め出した。
「気持ちいいか?」
「はっ、あ、ぁぁぁ……」
リリィの胸のピンクの蕾を口に含んだ。
「ぁっ……お、にぃち……」
堪らなくなってリリィがザンザスにしがみつく。その腕をすり抜けてザンザスの唇はリリィの身体の下へとおりてゆく。
「ひっ、や、だめ……」
「途中で止まらねぇって、言っただろ?」
そのままリリィの足を開いて、その中心部に顔を埋めた。
「いやぁ……」
オモチャにされていた、リリィの身体が過敏に反応する。そのたびザンザスはやりきれない思いを抱いていた。
忌まわしい過去など、俺が全て塗りかえてやる。
「どうして欲しいんだ?」
「あ……、入れ、て……」
そんな言葉を、たかが16で口にするのか。
「いくぞ」
いろんな思いが交錯する中で、ザンザスはその身をリリィの中へ進めた。
「あぅ……はっ、はっ……ぁっぁぁ~」
「……イッたか。リリィ」
がっくりとザンザスの腕の中で、力が抜けてぼ~っとしているリリィを見て、ザンザスは腰の動きを早めた。
「あぁっ……はぁっ」
登りつめた身体にまた、ザンザスの与える快感の波が押し寄せてくる。
そのままリリィの意識は、ザンザスの胸の中で沈んでいった。
ザンザスもまた、リリィの中で果てた。
「リリィ……?また気を失ったか」
そっとザンザスはその胸にリリィを抱いた。
今は休め。
俺がこうして抱いていてやる。
リリィは夢を見ていた……。
遠い意識の中で、忌まわしい過去の中にいる自分を空から見下ろしている、不思議な夢を……。
『リリィ!!まだ終わらないの?本当に使い物にならないわね!』
罵声が飛んで来て、リリィに頭から水をかけた。
季節は真冬。
ずぶ濡れのまま、リリィはまた床を磨いていた……。
知らずに涙が零れ落ちた。
『リリィ。こっちに来なさい』
リリィの腕を掴んで、ひとつの部屋に入るその男。
部屋の中には、壁から下がった鎖。
リリィはその鎖に繋がれ、鞭で打たれていた。
『すみません……旦那様……』
『何を謝っているのかね?リリィは私の人形だろう?さぁ、もっと悲鳴を聞かせておくれ』
空を切る鞭の音が虚しく響く。
背中に焼けるような痛みが伝わる。
いっそこのまま死ねたなら……。
そんな日々に終止符を打ってくれたのが、兄と名乗った男だった。
その兄は、リリィを苦しめ続けていた全てを、一瞬でかっ消した。
『リリィか?俺はヴァリアー暗殺部隊のボスでザンザス。お前の兄だ』
『お……にい、ちゃん……?』
『そうだ。これからは俺がお前を守る』
力強い言葉。
この日から、リリィにとって全く違う生活が待っていた。
兄に逆らう者はひとりもいない。
基地内で誰しもが恐れる存在の兄が、自分にだけは優しかった。
ザンザスが大切にしてくれる。
それだけでもみんなが優しく接してくれた。
リリィにとって、初めて人から普通の人間として扱って貰えたのだった。
不意に、唇に柔らかい感触。
夢から現実に引き戻された。
「おにいちゃん……」
「目覚めたか?リリィ、身体は大丈夫か?」
あぁ……。
目を覚ました時には、必ず傍にいてくれる。
おにいちゃん……。
「大丈夫だよ」
「そうか……。手加減出来なかったからな」
不敵なその笑みは、リリィだけに向けられたもの。
「なんのこと?」
もっと過激な経験を強いられて来たリリィにとって、大好きな兄に抱かれることは、何一つ苦痛などなかった。
「さっきまた失神しただろうが?」
「それは……おにいちゃんが……大好きだから」
ザンザスの胸に顔を埋めて、リリィは小さく囁いた。
「俺が大好き、か?」
「うん!」
今度ははっきりと言った。ザンザスが戸惑っているのが、伝わって来た。
そのまま無言でザンザスはリリィをしっかりと抱きしめた。
「温かいね、おにいちゃんの胸は」
「そうか。だがなリリィ忘れるな。俺は平気で殺人を繰り返してきた」
急に何を……?
おにいちゃんがヴァリアーのボスだってことは最初に聞いて知ってるのに。
「俺達は敵が多い。リリィ……、いつかお前に危険がせまる時がくるだろう」
苦痛に満ちた表情でザンザスは言った。
あたしに危険って?
何の事……?
リリィはそこで忌まわしい記憶を思い出してしまった。
駄目……。
発作が来る。
「おにいちゃん……」
リリィの一言でザンザスは察した。
「発作か、リリィ」
そのまま力強く抱きしめ、リリィの唇を奪う。
俺が抱いて消し去ってやる。
ぬぷっ……。
ザンザスが指を入れて確かめる。
リリィの蕾は、蜜が溢れている。
このまま一気に行くか。
「リリィ、力を抜け」
ザンザスがその身を、リリィの溢れる蜜の中に突き立てた。
「ぁっ……はぁぁ……」
激しく身悶えるリリィ。
リリィ。
俺を感じろ!
俺だけに、その甘い鳴き声を聞かせるんだ。
いずれお前の悪夢は消えてゆく。
「はっ、ぁぁっ……」
「俺だけを見ろ、リリィ。その深い翠色の瞳でな」
「おに、ちゃ……」
ザンザスにしがみついていたリリィの腕が、ぱたりとベッドに落ちた。
「おに、いちゃ……。も、ダメ……」
その声を合図のようにザンザスは動くのを止めた。
ただ発作を止めるためにリリィを絶頂に導いただけだった。
俺が大好きって、言ったからな。
「リリィ、落ち着いたか?」
「だるい……」
その言葉に、ザンザスは大笑いした。
「そりゃああれだけ運動すればな」
「なっ、おにいちゃんっ!」
「何だ?図星じゃねぇのか?」
リリィは真っ赤になって、俯いた。
だって……。
「リリィ、悪かったな」
「なにが?」
「お前が食えねぇのは、わかってた。だがな……」
ザンザスが言葉を切った。
「おにいちゃん……?」
リリィがザンザスの顔を覗き込んだ。
苦痛な面持ちの、ザンザス。
どうして?
おにいちゃんは何も悪くないのに……。
あたしが、あたしが悪いのに。
————コンコン!
「リリィ~、大丈夫ぅ~?」
ルッスーリアの声が、ドア越しに聞こえた。
「ちっ!うるせぇ奴だ」
「おにいちゃん、ルッス姐は心配してくれてるんだよ?」
そう言って、ドアへと駆け寄ろうとした。
が、ザンザスに腕を掴まれ、その腕の中に囚われた。
「俺が出る」
カチャリ!
ザンザスがドアを開けたのを見た途端、ルッスーリアの体が吹っ飛んだ。
「いったいわねぇ~」
「るせぇっ!ルッスーリア、リリィが食える物を考えろ!」
「はい~?何の事かしら~?」
「俺の指示だ。逆らうのか?」
「ちょ、ちょっと待ってよ~。さっぱり事情がわからないわよ」
「リリィは病人だ。それでわかるだろう?」
病人……?
あたし病気なの?
ザンザスの言葉に一番戸惑っているのはリリィ本人だった。
「おにいちゃん、あたし病気なの?」
「なんだ、気付かなかったのか?お前は拒食症だ」
拒食症??
何?
それ??
「お前がどんな過去を背負っているのか、俺には聞けねぇ。だがな、お前の病気は俺が必ず治してやる」
あたしの、過去。
忌まわしい、記憶の断片がリリィの脳裏に浮かんだ。
思わず、ザンザスの胸にしがみついた。
「リリィ?どうしたんだ?」
小刻みに震えるリリィの、羽織っていたシルクのローブがはらりと落ちた。
ザンザスが慌ててリリィの傷痕を隠したが、ルッスーリアは見てしまった。
「その傷痕。鞭で打たれたのね……。こんな少女になんて酷い事を。私達より汚い奴等っているのね~」
「ルッスーリア、この事は誰にも言うな」
「判ってるわよ~。リリィは私達の大切な妹ですものねぇ~」
「ルッス姐……、ありがと」
「いいのよ~。これからは食べたいものは何でも言ってね~」
ルッスーリアに、リリィの傷痕を見られた。ザンザスにとっては、リリィの過去を見られた様な気がしていた。
誰にも知られたくはなかった。
だが。
リリィの病気は俺だけでは治してやれねぇ。
「ボス~?あんまりリリィを疲れさせちゃ、駄目よぉ~」
「っるせえ!テメェはリリィの食い物を考えろ!」
「はいは~い。判ったわよ~」
やっぱり皆知ってるんだ。
あたしと、おにいちゃんの事。
なんだか恥ずかしい。
「じゃ~ね、リリィ。後でね~」
そう言って、ルッスーリアが部屋を出て行った。
「おにいちゃん、あたしの病気ってあの「何も言うな」」
強引に唇を塞いだ。
聞きたくねぇ。
リリィ。
お前の過去なんか、俺が消し去ってやる。
「あ、リリィちゃん。大丈夫ですか?」
キッチンに入ると、ハルと京子が心配そうに駆け寄って来た。
「あ……、大丈夫です。ありがと……」
微かな声で、辛うじてリリィは言葉を返した。その手は、ザンザスの手を握りしめていた。
「ハルちゃん、だったかしら?後は私がやるわ~。ボスの命令なのよ~」
間髪入れずに、ルッスーリアが言った。
「あ、はい。わかりました。それではハル達は失礼します」
「さぁ~、リリィ。何が食べたいのかしら~?」
「あの……」
困った様に、ザンザスを見上げる。
「リリィ、そんな顔しても駄目だ。ちゃんと食う約束だからな」
「おにいちゃんの意地悪……」
リリィは聞こえない様に、小さな声で文句を言った。
「ん?何か言ったか?リリィ」
「えっ?別に、何も言ってないよ」
「そうか、じゃあ俺の見てる前でちゃんと食うんだな?」
げっ。
今の、聞こえた?
「さぁ~リリィ、これなら食べられるかしら~」
ルッスーリアが用意したのは、生ハムのサラダ、パスタが3種類、子羊のロースト、トマトのリゾット。
全部ほんの少しの量だった。
「リリィ、無理じゃない程度に食え」
「うん……」
ザンザスが見つめている……。
リリィは先ずサラダをお皿に取り分けた。
一口目を口に運ぶ。
「どうかしら?お味は?」
「……美味しい」
ザンザスが、ほっと一息ついた。
これなら何とかなるか……。
「ルッスーリア、リリィの献立には充分に気を使え」
「は~い、判ったわ~」
少しずつ、リリィはルッスーリアの作った料理を口に運ぶ。
……大丈夫。
吐き気は来ないわ。
だって、おにいちゃんが傍にいてくれるもの。
ザンザスはリリィに変化が無いか、ずっと見つめたままだった。
ボンゴレのアジトに、平和な朝がやって来た。
しかし、平和じゃない人がひとり。
「ゔぉ゙ぉ゙~い゙。何時まで寝てるんだぁぁぁ~」
叫んでいるのは、スクアーロ。
かなり不機嫌な様相で、廊下を歩いていた。
「んだよ~、うるせぇな」
ベルが寝惚けた顔を出す。
「何騒いでんのよ~、朝っぱらから~って、あら?失恋隊長だったのねぇ~」
「失恋?スクアーロ失恋したのかよ?ししし、笑える~」
「うるせぇ!ぶっ殺すぞぉ~」
その時。
リリィがひょっこり顔を出した。
「あら~ん、リリィ。今日も可愛いわねぇ」
「あ……おはよ……」
何となく恥ずかしそうにしている。
多分……。
みんな知ってるよね?
昨夜のことは……。
「るせぇぞ!カス共が!」
ザンザスが、リリィの背後から声をあげた。
すると。
スクアーロはその場から去っていこうとした。
「どうした?カス鮫?」
「……何でもねぇよ」
「ふっ、そうか」
「おにいちゃん?」
リリィが不思議そうに、ザンザスの顔を見上げる。
「リリィ、お前が気にする事じゃねぇ」
そうなのかなぁ?
隊長……。
いつもと違ってたし。
元気なかったよ。
「あの、おにいちゃん?」
「何だ?」
「隊長、何かあったのかな?」
「なぜそう思うんだ?」
「いつもの元気がなかったから」
「静かでいいじゃねぇか」
おにいちゃん?
おにいちゃんも、何となくいつもと違う気がする……。
「リリィ、支度出来たら食堂に行くぞ」
「おにいちゃん、あたし何着ればいいの?」
物心ついたときから、記憶にあるのはぼろぼろの衣服しか与えられて来なかったこと。
今、ヴァリアーのボスであるザンザスに溺愛され、リリィの生活は一変した。
豪華な部屋、ふかふかのベッド。
そして。
ルっスーリアが揃えてくれた、これまで見た事もないようなキレイなドレス。
「何でもいいじゃねぇか。それともルッスーリアでも呼ぶのか?」
ザンザスは、自分で言ってから少し考えて、こう言った。
「いや……、やっぱり俺が決める」
リリィの身体は、誰にも見せたくない。
むごい傷痕もそうだが。
リリィは俺だけのものだからな。
「おにいちゃん?」
「あぁ……、これにしろ」
上の空で、適当に掴んでリリィに渡した。
「これ?ルッス姐より変わってる」
「あぁ?」
リリィが着替えたのは、薄いキャミソール。しかも、下着をつけてない状態のまま。身体が透けてみえて何ともいえない色っぽい姿だった。
「ちょ、ちょっと待て」
ザンザスは慌てて、違う服を探した。
そんな格好で部屋から出せるか。
「ほら、これでいいじゃねぇか」
白いワンピースを探し、リリィに渡した。
白なら金髪に映えるだろう。
「おにいちゃん、似合う?」
「あぁ、よく似合ってるぜ」
言われて、リリィは花の様に微笑んだ。
——可愛い。
俺だけの、ものだ。
永遠にな。
コンコン!
誰かがドアをノックした。
「はぁ~い」
リリィがドアへと走って行こうとするのを、ザンザスが止めた。
「待て、俺が出る」
カチャ……——。
静かにドアを開けた。
「ボス何やってんだ?朝飯の時間だぜ」
ベルがひょっこり顔を出して、呆れた様子で言った。
「るせぇっ!リリィの支度がまだなんだ」
「リリィ?可愛いじゃね?ししし」
「ベルさん?あたしおかしくないですか?」
「何で?似合ってるじゃん?」
その言葉を聞いて、リリィが少し頬を染めたのを、ザンザスは見逃さなかった。
リリィ。
忘れるな。
お前の全ては、この俺のものだ。
誰にも触れさせやしない。
「飯食いに行くぞ」
「あ!待ってよ、おにいちゃん」
ザンザスの腕にしがみついて、食堂へ向かって行った。
アジトの中、ザンザス率いる変態集団が歩いているのは、一種異様な光景だ。
その中で、紅一点リリィの存在は貴重かもしれない。
「まさかまともな食い物は用意してあるんだろうな」
「けっ、どこまで行ってもわがままなボスだぜぇ」
スクアーロが言った、その言葉が、皮肉に聞こえたのはリリィの思い過ごしだろうか?
「あれ~?皆さんお揃いですか?あんまり遅いんで、呼びに行こうとしていたんです」
「俺達の事は構うな。好きなようにやらせてもらう」
「あ、はい!判りました。あっ、リリィちゃん。おはよう」
「ハルさん……おはようございます」
「沢田はどうした?」
「さぁ……、ご飯食べたらいなくなっちゃいました」
いなくなった?
あのバカ、どこに行きやがった。
「リリィ、俺がいいというまで食べろ」
「え?なんでそんな事いうの?」
ザンザスが、リリィの耳元で囁いた。
「あれだけ体力使ってるんだ、俺のいう事を聞け」
「おにいちゃんの意地悪~」
くっくっくっ……。
何とでもわめくがいい。リリィ、お前は俺の命なんだからな。
ヴァリアーの調理師はもちろん、ルッスーリアだ。
「何にしましょうか~?」
「俺とリリィは和牛のフィレステーキ。無論レアでな」
「嘘?おにいちゃん、いじめだよね?そんなの食べたらあたし吐くよ?」
「俺の言う事が聞けねぇのか?」
ザンザスの声色が変わった。
辺りが水を打ったように静まり返った……。
「リリィ、ボスの言うこと聞いときなさい」
ルッスーリアが、リリィに囁いた。
ザンザスが本気で怒っている事など、リリィ以外の、ヴァリアーの全員がわかっていた。
「でも……」
「リリィ、俺が納得するまで食べろ」
うにゃ~。
おにいちゃん横暴~。
「俺の言うことが聞けねぇのならいい。後悔するまでの事だ」
何?
どういう意味で言ってるの?
「後でたっぷり可愛がってやる」
不敵、としか言い様のない笑みを浮かべ、ザンザスはリリィに言った。
「お、おにいちゃん?みんなのいる所で……」
「あぁ?何か文句ある奴はいるか?」
「ミーは何もないですー」
「しししっ!俺もないぜ」
「けっ、好きにしたらいいだろう」
「リリィさんなら、ボスに相応しい」
「ほらぁ~、全員一致よぉ~」
「ふっ、当たり前だ」
おにいちゃん。
あたし間違った方向に、っていうか、変態集団に馴染んでるんだけど……。
言葉には出さないけど、内心不安なリリィだった。
「ちゃんと食え!」
ザンザスの声が飛んでくる。
ぅえ~。
拒食症のリリィには、食事は一番つらい事だけど。おにいちゃんの心配してくれてる気持ちには応えたい。
刹那がリリィを苦しめていた。
「しっかり食え!リリィ」
う、っ……。
吐きそう……。
「お、にい……」
ガタン!
ザンザスが席を立って、リリィを抱きかかえて食堂から出ていった。
洗面所まで、もつか?
「リリィ、吐き出してかまわないぞ」
「うっ……っっ……」
悪かった。
俺が……。
悪かったんだ。
結果、リリィを苦しめる事になっちまった。
「お、にい、ちゃん……」
「あぁ……、部屋で休むか?」
「ん……うん……」
その言葉を聞いたザンザスは、リリィを抱いて部屋に連れていった。
ふたりきり……。
ザンザスが思い切り我慢している事に、リリィは気づかない。
「……少しは楽になったか?」
「うん……」
まだ、元気とはいえない状況のようだな。
リリィとふたりきりでいて、我慢するのはちょっと辛いな。
そっと……。
リリィの唇にふれてみた。
ふんわり柔かな感触に抑えていた欲望が目を覚ました。
ドサリ!
ベッドに押し倒されるリリィ。その唇に縛り付けるようにキスを落とす。
あぁ……。
駄目だ。
俺は、俺は……。
リリィを壊してしまいそうだ。
「おにいちゃん……?」
「黙れリリィ。俺に火をつけるな!」
苦悩するザンザス。
戸惑うリリィ。
「ぐっ……―—」
時折リリィを、吐き気が襲う。
「お、にぃちゃ……」
「なんだ?苦しいか?」
「ちが……。抱いて……」
ドクン……——。
ザンザスの心臓が高鳴る。
「……いいのか?」
「うん——」
その言葉に、抑えていた欲望が一気に吹きだした。
「途中で止まらねぇぞ?」
「いい……」
ザンザスが、リリィのワンピースのボタンを外す。白い肌が露になり、リリィの胸にその大きな手が伸びてゆく。ふんわりとしたリリィの肌の感触を、確かめるように胸を掴み……。
「ぁっ……」
リリィの嗚咽が漏れ聞こえて、一気に責め出した。
「気持ちいいか?」
「はっ、あ、ぁぁぁ……」
リリィの胸のピンクの蕾を口に含んだ。
「ぁっ……お、にぃち……」
堪らなくなってリリィがザンザスにしがみつく。その腕をすり抜けてザンザスの唇はリリィの身体の下へとおりてゆく。
「ひっ、や、だめ……」
「途中で止まらねぇって、言っただろ?」
そのままリリィの足を開いて、その中心部に顔を埋めた。
「いやぁ……」
オモチャにされていた、リリィの身体が過敏に反応する。そのたびザンザスはやりきれない思いを抱いていた。
忌まわしい過去など、俺が全て塗りかえてやる。
「どうして欲しいんだ?」
「あ……、入れ、て……」
そんな言葉を、たかが16で口にするのか。
「いくぞ」
いろんな思いが交錯する中で、ザンザスはその身をリリィの中へ進めた。
「あぅ……はっ、はっ……ぁっぁぁ~」
「……イッたか。リリィ」
がっくりとザンザスの腕の中で、力が抜けてぼ~っとしているリリィを見て、ザンザスは腰の動きを早めた。
「あぁっ……はぁっ」
登りつめた身体にまた、ザンザスの与える快感の波が押し寄せてくる。
そのままリリィの意識は、ザンザスの胸の中で沈んでいった。
ザンザスもまた、リリィの中で果てた。
「リリィ……?また気を失ったか」
そっとザンザスはその胸にリリィを抱いた。
今は休め。
俺がこうして抱いていてやる。
リリィは夢を見ていた……。
遠い意識の中で、忌まわしい過去の中にいる自分を空から見下ろしている、不思議な夢を……。
『リリィ!!まだ終わらないの?本当に使い物にならないわね!』
罵声が飛んで来て、リリィに頭から水をかけた。
季節は真冬。
ずぶ濡れのまま、リリィはまた床を磨いていた……。
知らずに涙が零れ落ちた。
『リリィ。こっちに来なさい』
リリィの腕を掴んで、ひとつの部屋に入るその男。
部屋の中には、壁から下がった鎖。
リリィはその鎖に繋がれ、鞭で打たれていた。
『すみません……旦那様……』
『何を謝っているのかね?リリィは私の人形だろう?さぁ、もっと悲鳴を聞かせておくれ』
空を切る鞭の音が虚しく響く。
背中に焼けるような痛みが伝わる。
いっそこのまま死ねたなら……。
そんな日々に終止符を打ってくれたのが、兄と名乗った男だった。
その兄は、リリィを苦しめ続けていた全てを、一瞬でかっ消した。
『リリィか?俺はヴァリアー暗殺部隊のボスでザンザス。お前の兄だ』
『お……にい、ちゃん……?』
『そうだ。これからは俺がお前を守る』
力強い言葉。
この日から、リリィにとって全く違う生活が待っていた。
兄に逆らう者はひとりもいない。
基地内で誰しもが恐れる存在の兄が、自分にだけは優しかった。
ザンザスが大切にしてくれる。
それだけでもみんなが優しく接してくれた。
リリィにとって、初めて人から普通の人間として扱って貰えたのだった。
不意に、唇に柔らかい感触。
夢から現実に引き戻された。
「おにいちゃん……」
「目覚めたか?リリィ、身体は大丈夫か?」
あぁ……。
目を覚ました時には、必ず傍にいてくれる。
おにいちゃん……。
「大丈夫だよ」
「そうか……。手加減出来なかったからな」
不敵なその笑みは、リリィだけに向けられたもの。
「なんのこと?」
もっと過激な経験を強いられて来たリリィにとって、大好きな兄に抱かれることは、何一つ苦痛などなかった。
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そのまま力強く抱きしめ、リリィの唇を奪う。
俺が抱いて消し去ってやる。
ぬぷっ……。
ザンザスが指を入れて確かめる。
リリィの蕾は、蜜が溢れている。
このまま一気に行くか。
「リリィ、力を抜け」
ザンザスがその身を、リリィの溢れる蜜の中に突き立てた。
「ぁっ……はぁぁ……」
激しく身悶えるリリィ。
リリィ。
俺を感じろ!
俺だけに、その甘い鳴き声を聞かせるんだ。
いずれお前の悪夢は消えてゆく。
「はっ、ぁぁっ……」
「俺だけを見ろ、リリィ。その深い翠色の瞳でな」
「おに、ちゃ……」
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「おに、いちゃ……。も、ダメ……」
その声を合図のようにザンザスは動くのを止めた。
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「だるい……」
その言葉に、ザンザスは大笑いした。
「そりゃああれだけ運動すればな」
「なっ、おにいちゃんっ!」
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リリィは真っ赤になって、俯いた。
だって……。
「リリィ、悪かったな」
「なにが?」
「お前が食えねぇのは、わかってた。だがな……」
ザンザスが言葉を切った。
「おにいちゃん……?」
リリィがザンザスの顔を覗き込んだ。
苦痛な面持ちの、ザンザス。
どうして?
おにいちゃんは何も悪くないのに……。
あたしが、あたしが悪いのに。
————コンコン!
「リリィ~、大丈夫ぅ~?」
ルッスーリアの声が、ドア越しに聞こえた。
「ちっ!うるせぇ奴だ」
「おにいちゃん、ルッス姐は心配してくれてるんだよ?」
そう言って、ドアへと駆け寄ろうとした。
が、ザンザスに腕を掴まれ、その腕の中に囚われた。
「俺が出る」
カチャリ!
ザンザスがドアを開けたのを見た途端、ルッスーリアの体が吹っ飛んだ。
「いったいわねぇ~」
「るせぇっ!ルッスーリア、リリィが食える物を考えろ!」
「はい~?何の事かしら~?」
「俺の指示だ。逆らうのか?」
「ちょ、ちょっと待ってよ~。さっぱり事情がわからないわよ」
「リリィは病人だ。それでわかるだろう?」
病人……?
あたし病気なの?
ザンザスの言葉に一番戸惑っているのはリリィ本人だった。
「おにいちゃん、あたし病気なの?」
「なんだ、気付かなかったのか?お前は拒食症だ」
拒食症??
何?
それ??
「お前がどんな過去を背負っているのか、俺には聞けねぇ。だがな、お前の病気は俺が必ず治してやる」
あたしの、過去。
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思わず、ザンザスの胸にしがみついた。
「リリィ?どうしたんだ?」
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ザンザスが慌ててリリィの傷痕を隠したが、ルッスーリアは見てしまった。
「その傷痕。鞭で打たれたのね……。こんな少女になんて酷い事を。私達より汚い奴等っているのね~」
「ルッスーリア、この事は誰にも言うな」
「判ってるわよ~。リリィは私達の大切な妹ですものねぇ~」
「ルッス姐……、ありがと」
「いいのよ~。これからは食べたいものは何でも言ってね~」
ルッスーリアに、リリィの傷痕を見られた。ザンザスにとっては、リリィの過去を見られた様な気がしていた。
誰にも知られたくはなかった。
だが。
リリィの病気は俺だけでは治してやれねぇ。
「ボス~?あんまりリリィを疲れさせちゃ、駄目よぉ~」
「っるせえ!テメェはリリィの食い物を考えろ!」
「はいは~い。判ったわよ~」
やっぱり皆知ってるんだ。
あたしと、おにいちゃんの事。
なんだか恥ずかしい。
「じゃ~ね、リリィ。後でね~」
そう言って、ルッスーリアが部屋を出て行った。
「おにいちゃん、あたしの病気ってあの「何も言うな」」
強引に唇を塞いだ。
聞きたくねぇ。
リリィ。
お前の過去なんか、俺が消し去ってやる。
「あ、リリィちゃん。大丈夫ですか?」
キッチンに入ると、ハルと京子が心配そうに駆け寄って来た。
「あ……、大丈夫です。ありがと……」
微かな声で、辛うじてリリィは言葉を返した。その手は、ザンザスの手を握りしめていた。
「ハルちゃん、だったかしら?後は私がやるわ~。ボスの命令なのよ~」
間髪入れずに、ルッスーリアが言った。
「あ、はい。わかりました。それではハル達は失礼します」
「さぁ~、リリィ。何が食べたいのかしら~?」
「あの……」
困った様に、ザンザスを見上げる。
「リリィ、そんな顔しても駄目だ。ちゃんと食う約束だからな」
「おにいちゃんの意地悪……」
リリィは聞こえない様に、小さな声で文句を言った。
「ん?何か言ったか?リリィ」
「えっ?別に、何も言ってないよ」
「そうか、じゃあ俺の見てる前でちゃんと食うんだな?」
げっ。
今の、聞こえた?
「さぁ~リリィ、これなら食べられるかしら~」
ルッスーリアが用意したのは、生ハムのサラダ、パスタが3種類、子羊のロースト、トマトのリゾット。
全部ほんの少しの量だった。
「リリィ、無理じゃない程度に食え」
「うん……」
ザンザスが見つめている……。
リリィは先ずサラダをお皿に取り分けた。
一口目を口に運ぶ。
「どうかしら?お味は?」
「……美味しい」
ザンザスが、ほっと一息ついた。
これなら何とかなるか……。
「ルッスーリア、リリィの献立には充分に気を使え」
「は~い、判ったわ~」
少しずつ、リリィはルッスーリアの作った料理を口に運ぶ。
……大丈夫。
吐き気は来ないわ。
だって、おにいちゃんが傍にいてくれるもの。
ザンザスはリリィに変化が無いか、ずっと見つめたままだった。
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