仄暗い部屋から

神崎真紅

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第四章

act 9 弱気

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  賢司の右手は腫れ上がり、内出血したのだろう、紫色に変色していた。
  中指と薬指が一番酷く、曲げる事すら出来ない状態だった。
  それでも、唯一の救いだったのは、酷い怪我でも骨は折れていなかった、という事。

  怪我をしてから数日は、ご飯も瞳が食べさせた。
 お風呂も一緒に入り、全部瞳が洗って拭いて、と、介護状態の日々が続いた。

 「お互い歳取ったら本当にこんな生活になるのかな?」
 「そうだなぁ・・・・今回立て続けにこんな事になってよ、俺本当に呪われてんのかもって思うんだよ」

  ・・・・だから、それは呪い、じゃなくて、天罰って言うんだって。
  喉まで出かかった言葉を押し込んで、瞳は賢司の話しを聞いた。

 「今度の日曜に、おばあさんのお墓参りに行こう」
 「そうだね。お彼岸にも行かなかったしね。きっとおばあさんが怒ってるんだよ賢司のこと」

  まぁ・・・・。
  少し反省した方がいいね。
  と、心の中で呟いた。

  賢司が薬に走り出して止まらなくなる事は、今までにも何十回もあった。
  昨日や今日の付き合いじゃ、ない。
  瞳は賢司の癖みたいなものがある事も、判っている。
  前回逮捕された時だって、ひとりで十日くらい薬漬けになっていたのだ。
  まだ執行猶予期間中だったのに、だ。

  早い話しが、賢司の気の済むまで瞳が相手をしてやれば、賢司はそれで満足して日常を取り戻す。
  簡単に壊れるけれど、守るのもまた、そんなに難しい事ではないのだ。
  ただ、瞳の体力が持たないだけの事。
  元々瞳は、そんなに何日も続けて薬をやりたいとは思っていない。
  気持ちがいい、と、感じるのは、精々二日か、多くて三日が限度だった。
  後は、快感よりも痛みが先になってしまうのだ。

  それもそうだろう。
  普通じゃないセックスを何日も続けてたら、瞳の花弁はただれて腫れ上がり、痛みを堪えるだけになる。
  そんな行為に、快楽など感じない。
  賢司の独りよがりなだけの、ドラッグセックス。

  それに賢司は、日を重ねる毎に、S性が強くなり、瞳の身体を凌辱する。
  太い電マを無理矢理瞳の中にねじ込む。
  引き裂かれる様な、痛み。
  そんなセックスに、瞳が快感など感じくなるのは、当然のこと。
  けれど賢司は違う。
  まるで狂った様に、執拗に瞳を責める。

  だから瞳は、そんな賢司から逃げる様に、睡眠薬を飲んで寝てしまうのだ。
  じゃなければ、賢司に付き合っても『痛い』と言うだけで、賢司の機嫌を損ねる結果になるだけ。

  そして賢司は、そこからまた訳のわからない妄想の世界の住人になってしまう。

  そんな時、瞳は、心底賢司に合わせて失敗した、と悔やむのだった。
  こんな結果になるんだったら、ゆっくり寝ればよかった、と。
  それでもやっぱり、賢司に誘われれば、断れない自分も確かに存在している。

  どれだけキレイ事を並べてみても、結局は瞳も薬の味を覚えてしまっている、ただの麻薬常習者でしか、ないのだ。
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