仄暗い部屋から

神崎真紅

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第四章

act 4 ついに来たその日

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  あれはまだ寒い二月の事だった。
  賢司が、ぽつり、呟いた。

 「・・・・ちょっと30分くらい出掛けて来る」

  逮捕前の頃に賢司からこの言葉が出たら、もうそれはまるで暗号の様に、100%薬を買いに行っていた。

  瞳は油断していた。
  まだ仮釈中だから、大丈夫だろう、と。
  仮釈が切れたら絶対にまた薬に手を出す。
  けれど、それまでは大丈夫だろう、なんて、何の根拠もなく漠然とそう思い込んでいた。

  思えば賢司が働いてる所は、社長を含め、4人全員が覚醒剤の現役使用者だった。
  賢司は薬の仲介もしていたんだ。
  自分でやるつもりがなくても、現物を見てしまっては歯止めがきかなくなるのも頷ける。
  瞳だって、経験者なのだから。

  出掛けた賢司から、着信が入った。

 「....ちょっとだけ外に出て来てくれないか?こんな事言えるのは、瞳しかいねぇから」
 「??どうしたの?取り敢えず今行くよ」

  瑠花は絵を描いて遊んでいた。

 「瑠花、ちょっとパパが用があるみたいだから、行って来るけど眠くなったら先に寝てていいからね?」
 「うん、分かった」


  瞳はもう勘づいていた。
  恐らく賢司は我慢出来ずに手を出してしまったのだろう。
 『覚醒剤』という甘い誘いに。
  そして瞳を呼んでいるのだ。
  やっぱり薬と瞳は賢司にとってセットになっているのかな。
  急いで待っていた賢司の車に乗り込んだ。

  そのまま車は走り出し、暗い畑道で停車した。
  ダッシュボードから注射器を取り出し、こう言った。

 「瞳、腕を出せ」

  無言のまま瞳が腕を出した。
  が、なかなか血管に入らない。

 「いたっ・・・」
 「おかしいな、ここにあるんだけどな。何で入らねぇんだ?」

  次の瞬間、忘れていた記憶が蘇る。
  身体中を、焼ける様な熱が駆け巡った。

 「けほっ!」

  初めて覚醒剤を打たれた時の様に、喉が焼かれ咳き込んだ。
  四年もブランクがあると、身体も戻ってしまうのかな。
  その割には、肝心の下半身に熱が来ない。
  顔だけが熱く火照っただけで終わってしまったかの様な、物足りなさを瞳は感じていた。

  狭い車の中で、瞳の履いていたパジャマとショーツを脱がされた。
  まだ寒い真冬の夜だった。
  賢司の手が指が、瞳の中に入り込む。
  けれど、あの頃の様な快感は得られず、何となく白けてしまった。

 「瑠花が待ってるだろうから、帰るか」
 「うん・・・・そうだね」

  賢司も同じ事を思ったのだろう。
  この時賢司は、瞳の中に射精する事もなかった。

  逮捕される前は、月に、いや週に何度覚醒剤を打っていたんだっけ?
  それがたった一度だけ使って、賢司は残った覚醒剤を仕事仲間にあげてしまった。
  本当にありえない事だった・・・・。
  四年前の賢司だったら、間違いなく全部身体に入れていたから。

  何となくもやもやした気分だけが、瞳に残っていた。
  が、それは賢司も同じだったのだろう。

  家に帰ると、瑠花はひとりで眠っていた。
  その眠り顔を見て、瑠花がどんなに不安な気持ちで、独りぼっちで眠ったのか、瞳にはただ眠っている瑠花の身体を撫でる事しか出来なかった。

  その時の薬は外れだったのだろう。
  いつもなら睡眠薬を飲んでも眠れない瞳も賢司も、普段通りに眠ってそして次の日何もなかったかの様に仕事に行ったのだった。
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