仄暗い部屋から

神崎真紅

文字の大きさ
上 下
59 / 87
第三章

act 18 塀の中の臭いメシ

しおりを挟む
よく刑務所の食事を『臭いメシ』というが、実際白米と麦が7:3らしい。
  それはきっと我慢も出来る範囲だろう。
  シャバにいても健康を考えて麦を入れる事は、あるのだから。
  それよりももっと酷いのが、味付けらしい。

 「あ~ぁ、早く帰ってちゃんとした味のある物が食いてぇよ」
 「え、何で?ちゃんとした資格持ってる受刑者が作ってるんじゃないの?」
 「そういう人もいるけどな・・・。食事全部に味がねぇんだよ。味噌汁なんて、お湯飲んでみてぇだからな。マカロニサラダなんて出たら最悪だぜ?マヨネーズ抜きだからな。ただの茹でたマカロニだよ」
 「ぶっ・・・・、何それ?おかずにならないじゃない」
 「だからよ、何か不満はありますか?って聞かれた時に、全員で醤油とか調味料を付けて欲しいって、言ったんだ」
 「それで?どうなったの?」
 「食事の味付けは皆さんの健康を考えて出しているのでって却下されたよ・・・」

  賢司のがっくりした姿を見て、瞳は爆笑していた。
  賢司はもともと味が濃いものが好きだから、この三年間はかなり堪えただろうな。
  仮釈放で帰って来てからも、月に一度か二度尿検査があるって言ってた。
  じゃあその間はあたしの心配もなくなるんだな。
  どうせなら仮釈放期間中じゃなくて、一生尿検査して欲しいものだわ。

 「瞳、今日は何の本持って来てくれた?」
 「んー、ATARUとスペックかな。テレビとか映画の本がいいって言ってたでしょ?これは面白いよ」


  って、見つけるのも大変なんだけどね。
  古本屋に必ずあるとも限らないし、新刊は高いし。

 「そういや清志と直樹な、農業始めたんだってよ。しかも瞳の実家のある○市でな」
 「農業?へぇー何作ってるんだろ?」
 「葉物って言ってたかなぁ」
 「葉物って、ホウレンソウとか?季節が違うんじゃないかな」


  瞳は父親の実家が農業をやっていたので、小さい頃はいつも大好きなおばあちゃんの家に遊びに連れて行ってもらっていた。
  その、おばあちゃんが父のお母さんだという事は、その頃の瞳は知らずにいた。

  まだ、小学生だった瞳には、遊びに行くとおばあちゃんが凄く喜んで、おばあちゃんの山(おばあちゃんはお嫁に来る時山をひとつ持って来たのだそうだった)に入って遊ぶか、畑に転がってるトマトを丸かじりして食べていた。

  その、お日様一杯のトマトはまるで果物のように甘かった。
  今でもその味は忘れられない。
  大好きだったおばあちゃんの味だから。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

僕がヤ○マンゲイになったワケ

TA
エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:9

不実なあなたに感謝を

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,703pt お気に入り:3,448

【新章突入】ショタたちがいろんなものに襲われる話

BL / 連載中 24h.ポイント:681pt お気に入り:327

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,919pt お気に入り:1,295

淫獄

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:13

催眠学校〜今日から君はAV監督〜

SF / 連載中 24h.ポイント:234pt お気に入り:120

身体検査が恥ずかしすぎる

BL / 連載中 24h.ポイント:177pt お気に入り:89

処理中です...