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第一章
act 11 妄想と独占欲
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「瞳?何か食えそうか?お前が欲しがってた甘い物適当に買ってきてあるぜ」
「だる~い…」
「だから食って寝ろ。それのくり返ししか、そのゾンビみたいになった顔、いつまでも戻んねぇぜ」
「ゾンビ?」
賢司がげらげら笑って言った。
「鏡見てねぇのかよ?」
「さっきお風呂場で見たよ。…そんなにひどい?」
「あぁ、まず会社には行けそうにねぇわな」
えっ?
会社行けないの?
「賢司…、あたしここでひとりでいるの…?」
「だから食って寝ろっつてんだろ?」
「判ったよ!そんなに怒んなくても「何か言ったか?」」
「えっ?な、何にも?…さてと、どれにしようかな?」
テーブルに一杯に広げられた、スイーツの山。
「飲み物と一緒に食えよ?喉に詰まるからな」
「じゃあミルクティーとこれにしようかな」
手にしたのは、ロールケーキ。
瞳の大好物だ。
「ははっ、やっぱりそれか」
向かい合って座り、他愛もない話しをしていると、とてもさっきまでの賢司と同一人物とは思えなくなって来る。
今瞳の目の前にいるのは、いつもの優しい賢司でしかなかった。
その、ギャップの激しさに、瞳はまだ馴染めないでいた…。
…―…次の日の朝。
「瞳?会社遅刻するぞ~!」
「きゃっ!」
耳元で賢司が叫んだその拍子に、瞳はベッドから転げ落ちた。
「いったぁ~い。もうちょっとましな起こし方なかったの?」
「起こしてやっただけでも感謝されたいね」
げらげらと笑って賢司は瞳を見下ろす。
???
何処か…。
いつもの賢司と印象が違うような気がするんだけど…。
「起こしてよ!」
「何だよ?ひとりで立てねぇのかよ?」
「賢司が悪いんだもん。助けてくれるの当然でしょ」
それでも賢司はやけに楽しそうにしている。
それが瞳には不思議でならなかった。
「賢司、今朝はご機嫌ね?」
「あぁ、まだ切れてねぇからな。そのせいでちょっとばかしテンション上がってるわ」
ちょっとの域を超えてると思うけどなぁ~。
「ちょ、賢司遅刻だよ?」
「あれっ、もうそんな時間かよ。瞳、出かけるぜ」
「あ、待ってよ。あたしまだ着替えてない…」
「早くしろよ。車出してくるからな」
キーを持って玄関を出てゆく賢司のあとを追うようにして、瞳は部屋を出た…。
「おはようございます」
瞳と賢司、ふたり一緒に出勤した。
その瞳に向けられた視線に、賢司はいち早く気づいた。
「森下さん、もう大丈夫なの?」
声をかけてきたのは、瞳と同期生の桜井昌宏だった。
瞳は以前、桜井に交際を申し込まれて断ったのだが、なぜかなかなか諦めが悪いようで、何かと声をかけてくる。
瞳は誰にでも同じように明るく接していた。
それが瞳の優しさであり、また欠点でもあった。
「あ、桜井君。もう大丈夫、心配ありがとう」
「そう言えば森下さん、主任と結婚するんだって?俺あの日出張で居なかったからさ、後から聞いてびっくりしたよ」
「あ~…、まぁ、ね」
28とは思えない愛くるしさで、瞳は煮え切らない返事をした。
「桜井君、森下さん、いつまでお喋りしているんだい?」
賢司だった。
物凄い形相でふたりを見ている。
「す、すみません」
桜井は慌てて自分の机に戻った。
瞳も席に戻ろうとして、賢司の横を通り抜けようとした時、賢司に腕を掴まれた。
「森下さん、ちょっと手伝って」
「えっ?あ、はい」
賢司は瞳を誰もいない資料室に連れて行った。
カチャ…!
静かにドアに鍵が掛けられた。
「瞳?お前俺以外の男と話してたよな?」
「え…」
賢司の手が瞳の制服の胸に伸びて来る。
そのままブラウスの釦を外され、乳首を掴まれた。
「あっ…いっ…」
「瞳は俺以外の男と話しちゃ駄目だろ?」
乳首を掴まれ捻られて、その気持ち良さに身体の奥から熱いものが流れ出している。
「け、んじ…、やめ、て。ここ…会社、だよ…、あっ、あっ」
「俺は瞳に他の男と一切係わらせたくねぇんだよ」
ぎらぎらとした目で、賢司はそう言い放った。
「けん、じ…?どうしたの…?」
それが覚醒剤のせいだなんて、知るよしもなかった。
「けん、じ…?いつも、と違う、よ…?」
「違わねぇよ。瞳はこの俺だけの大事な女だからな」
瞳の胸を掴んでいた手を離し、賢司は今度はキスをしてきた。
舌を強引に差し込まれ、絡め取られる。
もうそれだけで瞳は足の力が抜けてゆくのを、感じていた。
「け…、や、め…」
これ以上されたら、とても平常心ではいられない。
「だったら俺の言い付け、守れるかよ?」
瞳を離して、肩を抱き寄せて賢司は言う。
「判ったよ。判ったから…」
「仕事に戻らせて?か?」
「うん…」
「俺と一緒に仕事する事。それが条件だ」
何それ…?
賢司どうしちゃったの?
「賢司…、どうしちゃったの?今までは「今までとは違うんだよ。判んねぇのかよ?」」
あ…。
覚醒剤…?
「瞳が他の男と笑ってるなんて、絶えられねぇんだよ」
「…判ったよ、賢司。あたし賢司のそばにいるよ」
「そうか、約束出来るんだな?」
「うん…」
ふたりは資料室を出て、それぞれの机に戻った。
待ちぶせたように桜井が瞳に声をかけてきた。
「森下さん、主任に怒られちゃった?」
「え…」
返事につまっている瞳を、賢司が呼んだ。
「森下さん、探したい書類があるから手伝って」
「…はい」
抑揚のない、沈んだ声で瞳は辛うじて答えた。
「じゃあ資料室に来てくれるか」
断われるはずがない。
今の賢司は…。
異常に執着心が強かった。
言う事を聞かなかったら、何をされるか想像できない。
瞳は黙って賢司の後をついて、資料室に向かった。
「瞳、あの野郎何なんだ?お前に随分ご執心のようだな」
「前に…付き合ってくれって言われた事が…」
それを聞いた賢司の目が、ギラリと光った。
「それで?お前は断った、つまりあいつを振ったんだな?」
「うん…」
ふぅー…ん。
沈黙が続いた。
「瞳、お前有給残ってるよな?」
「え…?うん」
「ならば明日から3日、お前有給取れ。理由は結婚式の打ち合わせでいい」
「え…?何で…?」
「明日から3日休めば、今週は全部休みになるだろ?」
あ…。
今日は火曜日。
「たっぷり可愛がってやるよ」
耳元で賢司が囁いた。
その意味を瞳は理解した。
また…?
あたしを…?
少しずつ蝕んで行く賢司の魔の手。
「判ったな、瞳。部長には俺から言っておくからな」
…――…定時を知らせるチャイムが鳴った。
皆それぞれの机を片付け、帰り支度を始める。
瞳は…。
ぼんやりとまだパソコンの画面を眺めていた。
「瞳、終わりだよ?」
不意に尚美に声を掛けられ、慌てて我に返る。
「どうしたの?瞳最近変だよ?急に痩せちゃったり」
「あ…な、何でもないよ。…ちょっとダイエットしてるから…」
「あ、そっか。ウェディングドレスのためってわけか~。いいなぁ~」
背後から賢司の声がした。
「やぁ、杉田さん…だっけ?瞳と同期生の」
「主任、瞳を迎えにきたんですか?」
「うん、待っててもなかなか来ないからね」
ちらり、瞳に視線を向ける。
瞳は慌てて帰り支度をしていた。
「終わった?帰ろうか」
「うん…」
「じゃあね、瞳。お疲れさま。主任、お疲れさまでした」
「あぁ、お疲れさま」
賢司は瞳の手を引いて、エレベーターに乗り込んだ。
「何を話してた?杉田と」
「え…?何って…?」
「お前が俺の目の届かない所で何をやってるのか知ってるんだぜ」
「は…?」
「しらばっくれてもな、瞳。お前の全てはこの俺だけのものだ。忘れるなよ」
賢司が何を言っているのか、瞳には皆目見当がつかなかった…。
ただ、判った事はあたしに自由はない。
それだけは漠然と瞳の中に響いていた。
賢司の運転する車の助手席で、瞳はぼんやり窓の外を見ていた。
「瞳、どうしたよ?黙ったまんまでよ?」
「別に…」
「つれねぇなぁ。だるいのかよ?」
「判んない…」
「まぁいい。お楽しみはこれからだからな」
やっぱり…。
またあたしに覚醒剤を使うんだ…。
一軒の家の前で車を止めた。
「瞳、ちょっと待ってろ」
賢司がその家の中に入って行った。
ここは…。
賢司が売人をやっていた時の、元締めの家だ。
ほんの数分で賢司は戻って来た。
そのまま無言で車を走らせ、マンションへと向かった。
地下駐車場からエレベーターで、最上階へ瞳の肩を抱いて行く。
賢司はかなりご機嫌だった。
対称的に瞳はぼんやりと沈んでいる。
ポー…―ン!
賢司の、瞳を抱く手に力がこもる。
部屋は…。
今朝出かけた時と、何も変わらない。
けれど瞳には、何か違った風景に見えた。
「瞳、先に風呂入って来い」
「うん…」
言われた通りに、瞳はバスルームに消えた。
その間に賢司は薬の入ったパケを取り出し、中身を確認していた。
白い結晶の塊がいくつも入っている。
それを丁寧に細かく砕いて行く。
注射器2本にストローを使って詰めてゆく。
片方の注射器の方に多目に詰めた。
瞳の分だった。
少しの水でそれを溶かす。ゆらゆらと、結晶が溶けて陽炎のように見える。
きれいに溶かす為に、注射器を振る。
その2本の注射器を持って寝室に入った。
ベッドサイドの引き出しにそっと入れ、更にパケもそこに入れた。
冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、サイドテーブルに置いた。
それから賢司は自分もバスルームに入って行った。
バスルームでは瞳がぼんやり宙を見ながら、バスタブに浸かっていた。
賢司が入って来たのを横目で見ながら、何も言わない。
「瞳、もう洗ったのか?」
「うん…」
素っ気なく言葉を返し、瞳はバスルームから出て行った。
「ありゃぁ完璧な切れ目だな。やっぱり早いな」
賢司はバスタブに浸かりながら、呟いた。
瞳はバスローブを羽織って、冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出し、一気に飲んだ。
喉が渇く…。
だるさも酷くなってきた…。
それが覚醒剤の切れ目だなんて、瞳にわかる筈がない。
爪先が冷たい。
瞳は寝室の、賢司のタンスから靴下を取り出して履いた。
少しほっとする暖かさだった。
「瞳」
賢司が寝室に入って来る。そして賢司は当たり前のように言った。
「瞳、腕を出せ」
「え…」
とまどっていると、ベッドに倒され左腕を捕まれた。
「縛った方がいいか」
そう言うと、サイドテーブルの引き出しからゴム紐を取り出し、瞳の上腕部を縛った。
内肘に、血管が浮き上がって来た。
迷う事なく賢司は瞳の静脈に、注射器の針を刺した。血液が逆流して、注射器の中に入って行った。
押し棒を引き、ずれていないか確かめる。
赤黒い血液が、注射器の中に入って来る。
それを確認すると、賢司は縛ったゴム紐を外し、ゆっくりと注射器の押し棒を押してゆく。
瞳の身体中に、熱が廻ってゆくのを、瞳ははっきりと感じていた。
賢司はもう一度押し棒を引き、血液を注射器に吸い込んだ。
それをまたゆっくりと押してゆく。
瞳の息が上がる。
鼓動が早鐘を打つ。
熱い…。
特に下半身が火傷しそうなくらいに熱い…。
「あぁ…、あ、つ…い…」
その言葉を聞いた賢司が、瞳の腕から針を抜く。
「どうだ?効いただろ?」
「あ…、あ…、つ」
「どこが熱いんだ?ここだろ?」
賢司の指が瞳の花芯に挿入される。
「ひっ、あぁっ、ぁぁ…」
「固く冷たくなってるぜ、かなり来ただろ?」
今度は急激に寒くなってきた。
髪の毛も、全身の毛も逆立つような感じだった。
「さ、むい…」
「冷えてきたか、それが本当に効いた証拠だ。もう力も入んねぇだろ?」
賢司の言う通り、瞳の身体から力が抜けてゆく。
目も廻る…。
賢司は待ちきれないように、忙しなく自分の腕に針を刺した。
身体中に廻る熱と快感。
抑えていた欲望に火が付いた。
「瞳、どこがいいんだ?」
「あ…」
何か言おうとしたけれど、口の中が渇き切っていて言葉にならない。
それ以前に話す事すらままならない状態だった。
「どうだ?気持ちいいだろう?忘れられなくなるだろう?」
賢司の言葉に反論はなかった…。
瞳の花芯の奥深くに、埋め込まれたローターが、瞳を絶頂に導いてゆく。
「あっ、あっ、だ、めぇ~。いっちゃう~」
「いいんだよ、いかせてやりてぇんだからな。俺は瞳が狂う程に感じてる姿が大好きだからな」
あたしが…?
感じてる姿が大好き…?
「あ、あたし、も…、賢司に感じさせて、ほし、い…。賢司、が…大好き…」
「そっか、じゃあ狂う程に感じさせてもいいな?」
「うん…、いっぱい、苛めて…」
その言葉を聞いた賢司は、とても幸せな表情を垣間見せた。
俺に…。
苛めて欲しいなんて、いじらしいじゃねぇか。
可愛い瞳…。
お前の望むように、苛めてやるよ。
賢司は瞳の花芯にバイブを突き立てた。
「ひっ、あぁぁぁっ、おっぱい、苛めて…」
「おっぱいか?乳首だろ?ほら、どうだ?」
賢司の指が瞳の乳首を掴んで引っ張る。
「あっ、あっ、いいっ、もっとしてっ。痛くしてっ」
「痛いのに悶えるなんて、瞳にはお仕置きが必要だな」
賢司の平手が瞳のお尻を打つ。
ぱしっ、と響き渡る音に瞳は悲鳴なのか、歓喜の声なのか、判別のつかない声を上げる。
賢司は立て続けに瞳のお尻を打つ。
「あっ、あっ、いい~。痛くて気持ちいいの~」
瞳は完全に賢司の魔の手によって、狂ってきている。
尤も(もっとも)瞳自身に自覚などありはしないのだが…。
瞳の頭の中は、違う世界が拡がっていた。
覚醒剤の幻覚だろうか?
それは瞳自身にしか見えない世界なのかもしれない。
身体の感覚は鋭利に研ぎ澄まされ、全てが快感に変化してゆくのだった…。
痛みすらも、快感に変わってしまう。
それでも、瞳も賢司も今は幸せの絶頂にいた。
互いに求め合うふたりの間に、何者も入り込む隙間などありはしない…。
「だる~い…」
「だから食って寝ろ。それのくり返ししか、そのゾンビみたいになった顔、いつまでも戻んねぇぜ」
「ゾンビ?」
賢司がげらげら笑って言った。
「鏡見てねぇのかよ?」
「さっきお風呂場で見たよ。…そんなにひどい?」
「あぁ、まず会社には行けそうにねぇわな」
えっ?
会社行けないの?
「賢司…、あたしここでひとりでいるの…?」
「だから食って寝ろっつてんだろ?」
「判ったよ!そんなに怒んなくても「何か言ったか?」」
「えっ?な、何にも?…さてと、どれにしようかな?」
テーブルに一杯に広げられた、スイーツの山。
「飲み物と一緒に食えよ?喉に詰まるからな」
「じゃあミルクティーとこれにしようかな」
手にしたのは、ロールケーキ。
瞳の大好物だ。
「ははっ、やっぱりそれか」
向かい合って座り、他愛もない話しをしていると、とてもさっきまでの賢司と同一人物とは思えなくなって来る。
今瞳の目の前にいるのは、いつもの優しい賢司でしかなかった。
その、ギャップの激しさに、瞳はまだ馴染めないでいた…。
…―…次の日の朝。
「瞳?会社遅刻するぞ~!」
「きゃっ!」
耳元で賢司が叫んだその拍子に、瞳はベッドから転げ落ちた。
「いったぁ~い。もうちょっとましな起こし方なかったの?」
「起こしてやっただけでも感謝されたいね」
げらげらと笑って賢司は瞳を見下ろす。
???
何処か…。
いつもの賢司と印象が違うような気がするんだけど…。
「起こしてよ!」
「何だよ?ひとりで立てねぇのかよ?」
「賢司が悪いんだもん。助けてくれるの当然でしょ」
それでも賢司はやけに楽しそうにしている。
それが瞳には不思議でならなかった。
「賢司、今朝はご機嫌ね?」
「あぁ、まだ切れてねぇからな。そのせいでちょっとばかしテンション上がってるわ」
ちょっとの域を超えてると思うけどなぁ~。
「ちょ、賢司遅刻だよ?」
「あれっ、もうそんな時間かよ。瞳、出かけるぜ」
「あ、待ってよ。あたしまだ着替えてない…」
「早くしろよ。車出してくるからな」
キーを持って玄関を出てゆく賢司のあとを追うようにして、瞳は部屋を出た…。
「おはようございます」
瞳と賢司、ふたり一緒に出勤した。
その瞳に向けられた視線に、賢司はいち早く気づいた。
「森下さん、もう大丈夫なの?」
声をかけてきたのは、瞳と同期生の桜井昌宏だった。
瞳は以前、桜井に交際を申し込まれて断ったのだが、なぜかなかなか諦めが悪いようで、何かと声をかけてくる。
瞳は誰にでも同じように明るく接していた。
それが瞳の優しさであり、また欠点でもあった。
「あ、桜井君。もう大丈夫、心配ありがとう」
「そう言えば森下さん、主任と結婚するんだって?俺あの日出張で居なかったからさ、後から聞いてびっくりしたよ」
「あ~…、まぁ、ね」
28とは思えない愛くるしさで、瞳は煮え切らない返事をした。
「桜井君、森下さん、いつまでお喋りしているんだい?」
賢司だった。
物凄い形相でふたりを見ている。
「す、すみません」
桜井は慌てて自分の机に戻った。
瞳も席に戻ろうとして、賢司の横を通り抜けようとした時、賢司に腕を掴まれた。
「森下さん、ちょっと手伝って」
「えっ?あ、はい」
賢司は瞳を誰もいない資料室に連れて行った。
カチャ…!
静かにドアに鍵が掛けられた。
「瞳?お前俺以外の男と話してたよな?」
「え…」
賢司の手が瞳の制服の胸に伸びて来る。
そのままブラウスの釦を外され、乳首を掴まれた。
「あっ…いっ…」
「瞳は俺以外の男と話しちゃ駄目だろ?」
乳首を掴まれ捻られて、その気持ち良さに身体の奥から熱いものが流れ出している。
「け、んじ…、やめ、て。ここ…会社、だよ…、あっ、あっ」
「俺は瞳に他の男と一切係わらせたくねぇんだよ」
ぎらぎらとした目で、賢司はそう言い放った。
「けん、じ…?どうしたの…?」
それが覚醒剤のせいだなんて、知るよしもなかった。
「けん、じ…?いつも、と違う、よ…?」
「違わねぇよ。瞳はこの俺だけの大事な女だからな」
瞳の胸を掴んでいた手を離し、賢司は今度はキスをしてきた。
舌を強引に差し込まれ、絡め取られる。
もうそれだけで瞳は足の力が抜けてゆくのを、感じていた。
「け…、や、め…」
これ以上されたら、とても平常心ではいられない。
「だったら俺の言い付け、守れるかよ?」
瞳を離して、肩を抱き寄せて賢司は言う。
「判ったよ。判ったから…」
「仕事に戻らせて?か?」
「うん…」
「俺と一緒に仕事する事。それが条件だ」
何それ…?
賢司どうしちゃったの?
「賢司…、どうしちゃったの?今までは「今までとは違うんだよ。判んねぇのかよ?」」
あ…。
覚醒剤…?
「瞳が他の男と笑ってるなんて、絶えられねぇんだよ」
「…判ったよ、賢司。あたし賢司のそばにいるよ」
「そうか、約束出来るんだな?」
「うん…」
ふたりは資料室を出て、それぞれの机に戻った。
待ちぶせたように桜井が瞳に声をかけてきた。
「森下さん、主任に怒られちゃった?」
「え…」
返事につまっている瞳を、賢司が呼んだ。
「森下さん、探したい書類があるから手伝って」
「…はい」
抑揚のない、沈んだ声で瞳は辛うじて答えた。
「じゃあ資料室に来てくれるか」
断われるはずがない。
今の賢司は…。
異常に執着心が強かった。
言う事を聞かなかったら、何をされるか想像できない。
瞳は黙って賢司の後をついて、資料室に向かった。
「瞳、あの野郎何なんだ?お前に随分ご執心のようだな」
「前に…付き合ってくれって言われた事が…」
それを聞いた賢司の目が、ギラリと光った。
「それで?お前は断った、つまりあいつを振ったんだな?」
「うん…」
ふぅー…ん。
沈黙が続いた。
「瞳、お前有給残ってるよな?」
「え…?うん」
「ならば明日から3日、お前有給取れ。理由は結婚式の打ち合わせでいい」
「え…?何で…?」
「明日から3日休めば、今週は全部休みになるだろ?」
あ…。
今日は火曜日。
「たっぷり可愛がってやるよ」
耳元で賢司が囁いた。
その意味を瞳は理解した。
また…?
あたしを…?
少しずつ蝕んで行く賢司の魔の手。
「判ったな、瞳。部長には俺から言っておくからな」
…――…定時を知らせるチャイムが鳴った。
皆それぞれの机を片付け、帰り支度を始める。
瞳は…。
ぼんやりとまだパソコンの画面を眺めていた。
「瞳、終わりだよ?」
不意に尚美に声を掛けられ、慌てて我に返る。
「どうしたの?瞳最近変だよ?急に痩せちゃったり」
「あ…な、何でもないよ。…ちょっとダイエットしてるから…」
「あ、そっか。ウェディングドレスのためってわけか~。いいなぁ~」
背後から賢司の声がした。
「やぁ、杉田さん…だっけ?瞳と同期生の」
「主任、瞳を迎えにきたんですか?」
「うん、待っててもなかなか来ないからね」
ちらり、瞳に視線を向ける。
瞳は慌てて帰り支度をしていた。
「終わった?帰ろうか」
「うん…」
「じゃあね、瞳。お疲れさま。主任、お疲れさまでした」
「あぁ、お疲れさま」
賢司は瞳の手を引いて、エレベーターに乗り込んだ。
「何を話してた?杉田と」
「え…?何って…?」
「お前が俺の目の届かない所で何をやってるのか知ってるんだぜ」
「は…?」
「しらばっくれてもな、瞳。お前の全てはこの俺だけのものだ。忘れるなよ」
賢司が何を言っているのか、瞳には皆目見当がつかなかった…。
ただ、判った事はあたしに自由はない。
それだけは漠然と瞳の中に響いていた。
賢司の運転する車の助手席で、瞳はぼんやり窓の外を見ていた。
「瞳、どうしたよ?黙ったまんまでよ?」
「別に…」
「つれねぇなぁ。だるいのかよ?」
「判んない…」
「まぁいい。お楽しみはこれからだからな」
やっぱり…。
またあたしに覚醒剤を使うんだ…。
一軒の家の前で車を止めた。
「瞳、ちょっと待ってろ」
賢司がその家の中に入って行った。
ここは…。
賢司が売人をやっていた時の、元締めの家だ。
ほんの数分で賢司は戻って来た。
そのまま無言で車を走らせ、マンションへと向かった。
地下駐車場からエレベーターで、最上階へ瞳の肩を抱いて行く。
賢司はかなりご機嫌だった。
対称的に瞳はぼんやりと沈んでいる。
ポー…―ン!
賢司の、瞳を抱く手に力がこもる。
部屋は…。
今朝出かけた時と、何も変わらない。
けれど瞳には、何か違った風景に見えた。
「瞳、先に風呂入って来い」
「うん…」
言われた通りに、瞳はバスルームに消えた。
その間に賢司は薬の入ったパケを取り出し、中身を確認していた。
白い結晶の塊がいくつも入っている。
それを丁寧に細かく砕いて行く。
注射器2本にストローを使って詰めてゆく。
片方の注射器の方に多目に詰めた。
瞳の分だった。
少しの水でそれを溶かす。ゆらゆらと、結晶が溶けて陽炎のように見える。
きれいに溶かす為に、注射器を振る。
その2本の注射器を持って寝室に入った。
ベッドサイドの引き出しにそっと入れ、更にパケもそこに入れた。
冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、サイドテーブルに置いた。
それから賢司は自分もバスルームに入って行った。
バスルームでは瞳がぼんやり宙を見ながら、バスタブに浸かっていた。
賢司が入って来たのを横目で見ながら、何も言わない。
「瞳、もう洗ったのか?」
「うん…」
素っ気なく言葉を返し、瞳はバスルームから出て行った。
「ありゃぁ完璧な切れ目だな。やっぱり早いな」
賢司はバスタブに浸かりながら、呟いた。
瞳はバスローブを羽織って、冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出し、一気に飲んだ。
喉が渇く…。
だるさも酷くなってきた…。
それが覚醒剤の切れ目だなんて、瞳にわかる筈がない。
爪先が冷たい。
瞳は寝室の、賢司のタンスから靴下を取り出して履いた。
少しほっとする暖かさだった。
「瞳」
賢司が寝室に入って来る。そして賢司は当たり前のように言った。
「瞳、腕を出せ」
「え…」
とまどっていると、ベッドに倒され左腕を捕まれた。
「縛った方がいいか」
そう言うと、サイドテーブルの引き出しからゴム紐を取り出し、瞳の上腕部を縛った。
内肘に、血管が浮き上がって来た。
迷う事なく賢司は瞳の静脈に、注射器の針を刺した。血液が逆流して、注射器の中に入って行った。
押し棒を引き、ずれていないか確かめる。
赤黒い血液が、注射器の中に入って来る。
それを確認すると、賢司は縛ったゴム紐を外し、ゆっくりと注射器の押し棒を押してゆく。
瞳の身体中に、熱が廻ってゆくのを、瞳ははっきりと感じていた。
賢司はもう一度押し棒を引き、血液を注射器に吸い込んだ。
それをまたゆっくりと押してゆく。
瞳の息が上がる。
鼓動が早鐘を打つ。
熱い…。
特に下半身が火傷しそうなくらいに熱い…。
「あぁ…、あ、つ…い…」
その言葉を聞いた賢司が、瞳の腕から針を抜く。
「どうだ?効いただろ?」
「あ…、あ…、つ」
「どこが熱いんだ?ここだろ?」
賢司の指が瞳の花芯に挿入される。
「ひっ、あぁっ、ぁぁ…」
「固く冷たくなってるぜ、かなり来ただろ?」
今度は急激に寒くなってきた。
髪の毛も、全身の毛も逆立つような感じだった。
「さ、むい…」
「冷えてきたか、それが本当に効いた証拠だ。もう力も入んねぇだろ?」
賢司の言う通り、瞳の身体から力が抜けてゆく。
目も廻る…。
賢司は待ちきれないように、忙しなく自分の腕に針を刺した。
身体中に廻る熱と快感。
抑えていた欲望に火が付いた。
「瞳、どこがいいんだ?」
「あ…」
何か言おうとしたけれど、口の中が渇き切っていて言葉にならない。
それ以前に話す事すらままならない状態だった。
「どうだ?気持ちいいだろう?忘れられなくなるだろう?」
賢司の言葉に反論はなかった…。
瞳の花芯の奥深くに、埋め込まれたローターが、瞳を絶頂に導いてゆく。
「あっ、あっ、だ、めぇ~。いっちゃう~」
「いいんだよ、いかせてやりてぇんだからな。俺は瞳が狂う程に感じてる姿が大好きだからな」
あたしが…?
感じてる姿が大好き…?
「あ、あたし、も…、賢司に感じさせて、ほし、い…。賢司、が…大好き…」
「そっか、じゃあ狂う程に感じさせてもいいな?」
「うん…、いっぱい、苛めて…」
その言葉を聞いた賢司は、とても幸せな表情を垣間見せた。
俺に…。
苛めて欲しいなんて、いじらしいじゃねぇか。
可愛い瞳…。
お前の望むように、苛めてやるよ。
賢司は瞳の花芯にバイブを突き立てた。
「ひっ、あぁぁぁっ、おっぱい、苛めて…」
「おっぱいか?乳首だろ?ほら、どうだ?」
賢司の指が瞳の乳首を掴んで引っ張る。
「あっ、あっ、いいっ、もっとしてっ。痛くしてっ」
「痛いのに悶えるなんて、瞳にはお仕置きが必要だな」
賢司の平手が瞳のお尻を打つ。
ぱしっ、と響き渡る音に瞳は悲鳴なのか、歓喜の声なのか、判別のつかない声を上げる。
賢司は立て続けに瞳のお尻を打つ。
「あっ、あっ、いい~。痛くて気持ちいいの~」
瞳は完全に賢司の魔の手によって、狂ってきている。
尤も(もっとも)瞳自身に自覚などありはしないのだが…。
瞳の頭の中は、違う世界が拡がっていた。
覚醒剤の幻覚だろうか?
それは瞳自身にしか見えない世界なのかもしれない。
身体の感覚は鋭利に研ぎ澄まされ、全てが快感に変化してゆくのだった…。
痛みすらも、快感に変わってしまう。
それでも、瞳も賢司も今は幸せの絶頂にいた。
互いに求め合うふたりの間に、何者も入り込む隙間などありはしない…。
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