仄暗い部屋から

神崎真紅

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第四章

act 21 リセット

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    8月のお盆休みの初日。
賢司はまた覚醒剤に走った。

   賢司がまた続けて覚醒剤にのめり込んでいるのを見て、瞳はもう無理なのだろうか、と考えていた。

   この呆れた茶番に幕を引くのは、多分瞳自身になるのだろうか?

   賢司がどんどん壊れてゆくのをずっと見てきたからこそ、もう限界が近いと感じていたのだった。

   覚醒剤を使っている時の、賢司の面倒くさい言い訳やら、キレ目の時の人が変わった様に怒り、怒鳴り散らされる悔しさも。
   そして、日に日に酷くなる物忘れ。
   薬物性アルツハイマー型認知症。

   賢司の脳は、多分もう限界が来ているんだと、そう思う。
本当は、賢司に死なれては困るのだけれど、これも運命ならば仕方のないこと。

   それは、多分そう遠くないうちに現実になるだろうから。
   そして、賢司のその命を以て、全てをリセットしよう、と。

   愛情も、過ぎてしまえば愛憎に変わる。

  ずっと賢司と一緒に歩いて来た道。
これからも続いてゆく未来の筈だった。
   どこで歯車が狂ってしまったのだろう?
   それは瞳が考えても分からない事なのだ。
  その答えは賢司しかもっていないのだから。




   今夜少しマシになった賢司が、ちょっとずつ、話してくれた事があった。
   仕事の人間関係にほとほと嫌気がさして、それで覚醒剤に走ったと。

   何度も聞いたその言い訳だったけど、賢司は一見強そうに見えてその実、内面はとても弱い。心の傷には耐え切れないところがある。
   そして心がショートした時に覚醒剤に逃げるようにのめり込むのだった。
   でもそれは瞳は知っている、これまでにも何度もあった事だし。

   そんなに苦しんでいるのならば、なぜ傍にいる瞳に助けを求めないの?

    瞳の立場って、なに?
   ただの変態セックスの相手だけ?

   困った時こそ助け合うのが夫婦なんじゃないの?
   覚醒剤に逃げる事しか浮かばないなんて、その方がずっと情けないよ。

   でも、今回覚醒剤を使った理由がそれなら、賢司が楽な方に行っていいよ。
   そう、今の仕事辞めたっていいんだよ、そんな事わたしが反対するわけないじゃない。
   
   だからもう覚醒剤に逃げるのは、辞めて?
   

   夏樹が瞳に言う。

   『俺、独りぼっちで淋しいんで賢司さんにこっちに来てもらってもいいですか?』

   うーん……。
   そうだなぁ。
   賢司が弱けりゃ夏樹の闇に飲み込まれるだろうし、まだこっちに大切に思うものが残ってるならば、その闇に落ちることはないかな。
   だから賢司次第なんじゃないの?
   わたしは別に連れて行かないで、とは言わないよ。

   賢司の心の強さ次第なんじゃないの?
   別に試すわけでもないんだけどね。

   さて、相変わらず覚醒剤を使った人が家庭内にいると、全ての時間の歯車が狂い出す。

   もう夜中の12時を回ってると言うのに、今は車のエアコンの吹き出し口に車の鍵が入っちゃったとかで、解体を始めていた。
   もう、わたし寝てもいいですか?
   明日も朝から仕事なんですけど。

   あ~ぁ。
   あんまり今はやらない方がいいんじゃないかな。
   多分、それ、元に戻せなくなるよ?

   なんて言うのも面倒くさいから、瞳はさっさとお風呂に入って寝ることにした。
   
   明日も仕事。
   今は瞳は仕事に逃げられる。
   
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