仄暗い部屋から

神崎真紅

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第四章

act 15 退院

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   瞳の入院生活は10日間続いた。

   一般病棟に移ってからは、点滴とオシッコの袋をぶら下げて、1階にあるローソンにちょくちょく買い物に出かけた。

   とにかく飲み物がなくては生きていけない瞳である。
   ローソンが入っていたのは好都合だとばかりに、しこたまジュースやら甘い物を買い込んだ。


   ある意味この入院生活は、瞳にとっては唯一ゆっくり休める大事な時間だった。


   家に帰ればいつ、賢司が薬に手を出すか分からない。
   瞳は怯えて暮らしていたのだった。


   でも入院中は、その心配はしなくても済んだ。
   今の瞳にとっては、それが何より大切な事だった。

   そう、瞳は今回のケガで、心身ともに深く傷付いていたのだ。


   賢司が嫌いな訳じゃない。
でも、拭いきれない恐怖心。
   瞳は、いずれ自分は賢司に殺されるだろう、そう感じていた。


   理性もまともな思考も無くし、どっぷりと覚醒剤に浸かった賢司の、辿る道は瞳の身体の異変に気付きもしない。
   ただ瞳の身体に溺れ、そしてそのまま瞳の心臓が止まっていても分からないままなのだろう、と。


  賢司は瞳にどれだけの量を打っているのか、未だに瞳は知らない。
  ただ、これは冗談じゃあ済まされないんじゃないの?っていうくらい酷い。 


    身体が痙攣を起こして、目がグルグル回って開けることすら出来ない。
   それでも賢司はお構いなしに瞳の敏感なところに、大体なぜか尿道なんだけど、色んなものを入れる性癖がある。


   瞳が『痛い』と言うと、決まって賢司は怒るのだった。


   痛みというのは、身体が危険を察知して送る自己防衛の本能なのだ。
それを聞き入れて貰えないならば、辿る道の先にあるのは、死、あるのみ。



   退院してから、さすがに賢司も覚醒剤に手を出すことはなかった。
   ただ、辞めたわけではないのだから、いつ、その魔の手が迫ってくるのか分からない。


    瞳にとって毎日が恐怖との戦いの日々だった。
   けれどそんな瞳の心を賢司が知る由もなく、やっぱり覚醒剤の誘惑に簡単に負けてしまうのだった。


   もう、賢司が覚醒剤を辞める事は無いのだろう。
   いつしか瞳はそう思う様になっていた。


   ただ、瞳自身は覚醒剤なんてなくても平気だったのだから、賢司から溢れ出る言い様のない恐怖に支配されるのが嫌だった。


   いつだか賢司がぽつり、押し出した言葉があった。
  それは、瞳が賢司とのSEXを拒否していると感じると。
  瞳は、それは勿論素面なら何の問題もないから、拒んだりはしない。


   けれど賢司がキマッてる時だけは、過去にも散々後悔したから、それだけはやっぱりうんとは言えなかった。


   賢司には、瞳の気持ちなど考える余裕すら、ないのだろうか?
  瞳は、全て賢司の快楽のためのマリオネットでしかないのだろうか?

   だとしたら、あまりにも哀しい。

   瞳は死ぬまで賢司の快楽のためだけに、苦界に身を投じなければならないのか?


   退院の日の朝は、何となくそわそわと落ち着かない。
  これで自由だという反面、また賢司と薬との板挟みになって、本当の自由なんて何処にもないんじゃないだろうか?
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