紅い糸切らないで

神崎真紅

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思わぬ場所で…

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 咲が働いていた呑み屋に、翔の仲間が偶然客としてやって来た。


「あれ~?咲ちゃんじゃね?」

「えっ?....ごめん、誰だっけ?」

「翔の仲間だよ、覚えてねぇか。ま、仕方ねぇけどな」

「翔君の?翔君って、まだあの子と付き合ってるの?」

「あぁ、あの女か?とっくに別れちゃったぜ。翔は本気じゃなかったんじゃね?そんなに大事にしてる様には見えなかったしな」

「じゃあ今は?」

「多分誰とも付き合ってねぇよ」

「そう....。あの、お願いしてもいい?翔君に会いたいの。そう伝えてくれる?」

「いいよ、今度会ったら伝えとくよ」



 この友達からの伝言を聞いた翔が、咲に会いに来たのはそれから少し経ってからの事だった。 



 ........ある夜、咲のいる呑み屋に、翔が来た。



「咲、どうした?何か用か?」

「翔君、来てくれたんだ....元気だった?」

「あ、あぁ。変わりないぜ。....咲、お前痩せたな」

 痛々しい程に変わり果てた咲を見て、翔は何も言えなかった。
 俺のせいだよな....。


 本当はもう一度、やり直そう、と言いたかった。
 けど、言えなかった。
 そんな勝手な事、言える筈ねぇだろう?


「あの、翔君。今誰かと付き合ってるの....?」

「あぁ、まぁな。いるぜ、違う学校だけどな」


 咄嗟(とっさ)についた、嘘だった。
 この頃の翔は、彼女を作らずに、手当たり次第に女遊びしていただけだった。

 もう、俺には彼女なんかいらねぇ。
 たったひとりの女すら、守ってやれねぇんだからよ。 


「そう....。翔君の友達がね、今は誰とも付き合ってないって、言ってたから、それならあたし、戻れないかなって....」

「あ~そういう話しなら、無理だな。俺、別れた女とよりを戻すって事はやんねぇんだ。それにお前だって色んな男と付き合ってただろ?」

「翔君がいなくなったら、蛆虫(うじむし)みたいに湧いて来たんだ。だからあたし、もう振られて傷付くの、イヤだったから全部付き合ってから、あたしから振ったの。振られる痛み、分かる?ってね」

「咲....お前、変わったな。俺と一緒にいた時は、いつも笑ってたのに何でそんなに辛そうな顔してんだよ?」

「....全部あたしが悪いの。もう笑い方なんて、忘れちゃった」

 違うだろ?
 咲、俺が悪いってなんで言わねぇんだよ? 


「まぁ....何か困った事があったら電話して来ても構わねぇけどよ」

「うん....ありがとう」


 何で笑わねぇんだよ?咲。
 何で俺はそんな事言ってるんだ?

 咲の為なら、突き放した方がいいんじゃねぇのかよ?
 俺はまだ咲の事、忘れられねぇのか?



「咲、俺がいなくちゃ何も出来ねぇ様な女になるな!」

「え....?」

「俺の事なんかいつでも捨てられる女でいろ!そんでも俺が追いかけてく様な女になれ!」

「翔君...?」

「....そろそろ帰るよ。じゃあな、元気でな」



 本当にこれでいいの?
 ねぇ、咲?
 このまま翔君と本当にさよならしちゃって、いいの?
 また、苦しむんだよ?


 そう考えたら、咲の瞳から、涙が零れ落ちた。
 でも、どうしようもないじゃない。
 翔君は戻れない、って、そう言ったもん。
 だから....。 

 俯いたまま、翔を送り出そうとした時、翔が咲の涙に気付いた。


「咲?泣いてんのか?」

「ち、違うよ。あ、あのね、翔君のタバコの煙が、目に入って、それで....」


 そんな咲の嘘を、見抜けない筈がなかった。
 俺の存在が咲を苦しめてるのか。
 戻りてぇのは、俺の方なのによ....。



「咲、ごめんな....。もう少しだけ、時間くれるか?」

「時間....?何の....?」

「考えさせてくれねぇか?俺の気持ちにケジメが付くまで」

「翔君?何を言ってるの?」

「俺さ、お前しか愛さないって言ったくせして、咲の事裏切っただろ?そんな自分がまだ許せねぇんだ。だからもう少し考えさせてくれよな」

「それは....あたし待ってても、いいの?」

「咲が待っててくれるって言うんならな」 
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