紅い糸切らないで

神崎真紅

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一縷の可能性

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「翔、その女じゃねぇのか?咲ちゃんと付き合う時、翔から告ったんだろ?だとしたら咲ちゃんを恨んでもおかしくねぇしな」

「ったく、何で俺じゃなくて咲を恨むんだよ?意味が分かんねぇよ」

「お前から女に告るなんて、初めてだろ?それが気に食わないんじゃねぇの?負けたみたいでよ」

「翔、もしその女が犯人ならば、お前からもう一度誘い出せよ。絶対のこのこ出て来るだろうからな。後は俺らに任せろ、いつもの様にやるからよ」

「うえ?またあいつを誘うのかよ?口も聞いてねぇぜ」 

「お前は誘い出すだけでいい。仕上げは俺らが引き受けるからな」

「だな!それでいいんじゃね?今はよ。可能性を潰してゆくってな」

「分かった、じゃあいつもの場所に呼び出すから、後は任せるぜ。俺は顔は出さねぇからよ。マジで口も聞きたくねぇんだからよ」


 その話しを黙って聞いていた咲が、突然「翔君?一体何をしようとしてるの?」と声を掛けて来た。


 翔はまさか本当の事なんか咲に言える筈もなく、どうはぐらかすかでおろおろしていた。

 見かねた仲間から声が上がった。


「咲ちゃんは何も心配しないで、翔の傍にいなよ。大丈夫、咲ちゃんの事は翔が守るからね」 


 力強いその言葉に咲は、改めて翔がどれだけの力を持つのか、想像がついた気がした。


 そして今、翔達の仲間の絆の強さに感動していた。
 女の子とはまた違ったその友情を何と表現したらいいのだろう。



「咲、そう言う訳だ。でも咲を狙ってるのが本当にその女なのかは、まだはっきりした訳じゃないんだ。可能性のある奴を潰してゆくしか、方法はない」

「じゃああたしはまだ誰かに狙われるのは続くの?翔君?」

「だから俺が傍にいる。咲を絶対に危ない目に遭わせやしない。とにかく今はひとりになっちゃダメだ、拉致される危険も残ってるからね」
  
「らちって何?翔君?」



 またか……。
 本当に何も知らないんだな。


「咲、拉致ってのははっきり言うと誘拐みたいなもんだよ。俺らも使う手口だけど、その後どうなるかは今は言えない。咲怖がるだろうし、何よりショックが大きすぎるからね」

「怖い事なの?でも翔君達誰かを誘拐するみたいに聞こえる……」

「咲が危ない目に遭わない為に、仕方なくだよ。俺には咲以外の女はいらないからね」

「そう言う事だよ、咲ちゃん。後始末は俺達に任せて、咲ちゃんは翔の事を頼むよ。こんなにひとりの女に執着する翔は初めて見たからね」 

「じゃあ善は急げ、だろ?早速明日にでもその女を呼び出せよ」

「だな!今は出来る事をやってくしかねぇんだからよ」

「でもよ、俺と咲が付き合ってる噂はもう学園中に知れ渡ってるぜ。そんな状況で俺が呼び出して来るかな?」

「そこは翔が上手くやるんだな。この役はお前にしか出来ねぇからよ」

「ちぇっ、何か嫌な役回りだな。俺直接話すのも嫌だからよ、手紙か何かでも構わないよな?」 

「呼び出して出て来る様に仕向けるだけでいいからよ、やり方は翔の好きな様にやればいいんじゃね?」

「んじゃあの女の机の中にでも手紙書いて入れとくわ。まぁ俺が会いたいって言えば多分来るぜ。後始末は任せるからな」

「了解!絶対に咲ちゃんに火の粉が飛ばない様に、上手くやんねぇとな」



 果たして、咲への嫌がらせは本当にこの愛梨なのか?

 それすらもはっきりしない状態での、翔達の行動は、反対に咲を追い詰めやしないだろうか?


 そうならない様に翔達は念入りに計画を立て始まった。


 聞いてる咲には、さっぱり分らない話しばかりだが。
 何となくだけど、かなり怖い事を実行しようとしている事ぐらいは、その場の雰囲気で伝わって来た。 


「じゃあ俺は愛梨をいつもの場所に呼び出すから、後始末はお前らが煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

「おっけ!後始末は引き受けた。翔は咲ちゃんを守ってやれよ?まだその女が犯人と決まった訳じゃねぇからな。多分他にもいると考えて間違いねぇだろうからな」

「だな。咲に届いた嫌がらせのメールの数は半端じゃなかった。とてもひとりの仕業とは思えねぇからな」

「他にもいんだろ?翔が捨てた女の中に逆恨みしそうな女がよ」

「どうだろ……。そう考えたら、全部の女が俺にまだ未練あるだろうし、咲に逆恨みしてもおかしくねぇしな。あ~、ったく面倒くせぇな女も何考えてんだか分かんねぇよ」

「翔君、あたしも女だけど?あたしも分らない?」

「咲は別だよ。まぁ違う意味で何も分かってないけどな」笑って言う翔。

「翔君、それってどういう意味?」


 翔が何を言ってるのか、咲には理解出来なかった。 


「咲は今まで恋愛にも興味なかっただろ?その分男と女の事には全く奥手だからな。まぁ、俺が惚れちゃったのもそんな咲が可愛かったからだけどな」

 咲は「それ、褒めてるの?」と聞いた。

「当然だよ。だからこそ咲の事は離さないし、誰にも渡さない」

「翔がここまできっぱり言い切ったのは初めて聞いたな。マジで咲ちゃんに惚れ込んだなぁ……分かる気はするけどな」


 仲間全員が相槌を打った。


 その日の内に翔は愛梨に短い手紙を書いて机に突っ込んだ。
 誰かに見られたら、この計画自体水泡に帰す。




『ふたりきりで会いたい。今夜8時、いつもの場所で待ってる』



 それを見た愛梨は、翔が内心はまだ自分を好きなんだと舞い上がってしまった。
 何も疑う余地などなかった。 



 .... その日の夜。



 翔に呼ばれたと思って、うきうきしながら愛梨は待ち合わせの場所へと向かった。
 けれど、そこに翔はいなく代わりに翔の仲間が待機していた。



「来たぜ!」
「よし、そのまま捕まえて倉庫の中に連れ込め」



 闇夜に紛れて、翔の仲間が愛梨に近付いた。
 ふ……と、物音に気付いた愛梨が振り返った瞬間。



「きゃ……」



 短い叫び声と共に、愛梨は翔の仲間によって拉致された。
 その後の事は愛梨の記憶には、刻まれていなかった。
 そこで起こった悲惨な出来事すらも……。 



 ただ、泣き叫ぶ声が倉庫内に木霊していた。
 そして無残にも引き裂かれた、愛梨の、翔への想い。



 もう、愛梨が正気に戻る事はなかった……。



「翔、終わったぜ。全て計画通りだ。この女にはもう何も分らねぇみたいだぜ」

『さんきゅ、とにかくひとつの可能性は消した。まだいるかもしれねぇ。俺は引き続き怪しい女を探す』

「ああ、後始末の方は俺達に任せろよ、翔」

『悪りぃな、今回俺は動けねぇからな。俺が直接動いたらまた咲が危なくなりそうだしな』

「その事情も分かってる。だから翔は大事な咲ちゃんを守ってやれ」

『さんきゅ、そうさせて貰うよ』 
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