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1巻
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彼女たちの様子に呆れながら、私は誰にもなにも告げずに自室に戻った。そのことに気づいた者はいないだろう。
一人、部屋に戻った私は自分で寝る支度をする。
ここは公爵家。使用人は大勢いるけれど、私には相変わらず専属侍女はいない。
家族からも避けられているため、私は家の中で放置されていた。
昔は愛されようと奮闘したけど、それが無駄だったってことは理解している。いや、理解させられたのかな、何度も何度も辛く当たられて。
けれど悪いことばかりではない。誰からも必要とされないのは楽でもある。だって、嫌われないように気を遣う必要がないから。
それに、もしなにかの拍子に魔力暴走を起こしてしまった時に、近くに誰もいなければ怪我をさせずにすむし。
さて、寝る準備はできた。
でもすぐに寝ることはせず、私はベッドサイドに置いている本を手に取った。
翌日、公爵邸はなんだか騒がしかった。
どうやらドミニカが庭でお茶会を開催するようだ。
そろそろ蒸し暑い夏がやって来るのに、庭でお茶会なんてご苦労なことだと、準備に慌ただしく駆けまわる使用人やドミニカを見て思った。
その日の夜。私の部屋に入って来たドミニカは自慢げに教えてくれた。
「今日ね、ミルドレット公爵家のご子息に会ったのよ」
ドミニカはノックもせずに扉を開け、ずかずかと部屋に入ってきて、読書をしていた私から本を取り上げる。
その行動に、一緒に部屋に入って来た彼女の侍女がひっと悲鳴を上げる。それから侍女は、自分の安全を確保するかのように数歩後ろに下がった。
そんな侍女の様子には気づかず、ドミニカは自慢げに口を開く。
「彼ね、私に好意を持っているみたいなの」
「うふふふ」と笑うドミニカを見て、気持ちの悪い笑みだと思った。
「当然よね。だって、私は可愛いもの」
ドミニカは自信満々に言う。
彼女は決して太っているわけではないものの、他の貴族令嬢に比べればやや太めな体形をしている。
けれどお母様はいつもドミニカのことを「世界一可愛い」と言っていた。「あなたたちもそう思うわよね」とお母様に同意を求められれば、否と言う使用人はいない。みんな一様に「そうだ」と言って褒めるので、ドミニカの中には根拠のない自信が出来上がっているのだ。
そんなドミニカを見て、私は心の中で『井の中の蛙大海を知らず。実に幸せなことだ』と皮肉った。
「他の方たちもね、私のことをちらちらと見ていらっしゃったわ。魔力しか取り柄のないあなたと違って、私は容姿も頭もいい。家柄もいいし、あなたと違って野蛮でもないから、きっと引く手数多ね」
それからドミニカは、連日お茶会をしては私の部屋へやってきて自慢話をするようになった。自分はモテるのだ、お前とは違うのだと。
実にくだらないことなので、私は相手にすらしなかった。
この時ドミニカは十六歳。
そろそろ婚約者を決めなければと、焦り始める年齢だった。
そんなある日。なにを思ったのか、ドミニカがまたくだらないことを言い出した。
「お母様、お父様。セシルをお茶会に参加させてはダメでしょうか?」
いつものように食事中にもかかわらず、ドミニカは両親に話しかける。それを聞いた二人の顔は強張っていた。
「それはできない」
お父様はにべもなく答える。さすがのお母様も困ったような笑みを浮かべていた。
「そうね。いくらドミニカのお願いでも、それはちょっと……」
「どうしてですの?」
その理由を、ドミニカは知っている。でも、彼女はわざと知らないフリをしてるのだ。
お母様はそんなドミニカの思惑には気づかず、どうやって誤魔化そうかと考えながら視線を私に向ける。
「セシルはあなたと違って、お茶会のマナーなんて知らないからよ」
私には、マナーを教えてくれる人もいないので、当然お茶会に参加したこともない。
そんな私がマナーを身につけているはずがないと、ドミニカは気づいている。
「でも、お母様。仕方がないこととはいえ、セシルだって公爵家の人間ですわ。このまま社交界デビューしてしまったら、我が家の恥になります」
そう言うドミニカの言葉のあとには、『まぁ、存在するだけでも恥ですけど』という本音が続くような気がした。けれど、気のせいだと思って私は流す。
「いつかはお茶会に参加しないといけませんわ。これもいい機会だと思いませんか?」
「それは、そうだけど……」
お母様は助けを求めるようにお父様を見る。
二人は私をあまり表に出したくないのだ。強大な魔力を持った私が、万が一外で魔力を暴走させたら危険だと思っているのだろう。
お父様はフォークとナイフを置き口をナプキンで拭くと、腕を組んで思案する姿勢を見せた。
「一度だけで構いませんの。どうしてもダメですか?」
なにを考えているのか分からないけれど、熱心に食いさがるドミニカ。
「どうしてそこまで、セシルをお茶会に参加させたがる?」
「だって、かわいそうなんですもの。貴族に生まれながら、無知であるセシルが」
ドミニカの意地悪そうな顔に、私を憐れむ気持ちは一切浮かんでいない。けれどそれに気づいているのは私だけだ。
「ねぇ、お願いです。お父様、お母様。一度だけでいいの。セシルにもお茶会の楽しさを知ってほしいのよ」
「ドミニカは優しいのね」
感激したという感じでお母様は目じりに涙を浮かべ、愛おしげにドミニカの頭を撫でる。
「あなた、どうかしら? 一度くらいなら……」
「……そうだな。では、一度だけ。セシル、ドミニカの優しさに感謝してお茶会に参加しなさい」
「頼んだ覚えはありませんが。厚かましくも『感謝しろ』とおっしゃるのなら、口先でいくらでもお礼の言葉を羅列いたしましょう」
棘のある言葉に、お父様もお母様も不快そうな顔をしたけれど、怒りはしなかった。
私のお茶会への参加はこうして決まった。
お茶会当日。私は室内用のドレスしか持っていなかったので、ドミニカが着なくなったドレスを借りることになった。
こういったドレスは一人で着られないため、この日だけは侍女に手伝ってもらって着替える。
「も、申し訳ありません。えっと、あの……」
オドオドした様子の侍女は新人のようで、動作が覚束ない。さっきからミスを連発している。
彼女の名前はアリス。
アリスは涙目になりながらも、なんとか私にドレスを着せようと悪戦苦闘している。恐らく通常の倍の時間がかかっていただろう。
まぁ、新人なら仕方がない。
それに私のことは、きっと他の侍女たちから聞いているはずだ。
少しのことで叱責したり、魔力暴走を起こしたりするかもしれないと思っているのだろう。
その証拠に、さっきから彼女は震えている。まるでライオンに食べられる前の子ウサギのようだ。
「あ、あの、申し訳ありません」
「問題ないわ。まだお茶会まで時間があるし」
「……」
私の言葉に、アリスは驚いたようにこちらを見つめた。
「なにか?」
「い、いいえ。なんでもありません」
私が、不慣れな侍女を叱責するとでも思っていたのだろうか。アリスは意外そうな顔をしていた。
「あ、あの、髪型はどうされますか?」
アリスが髪をすきながら聞いてくれるが、その手つきからも覚束なさが感じられる。
きっとまだ髪を結い上げるのも下手だろう。それでも、私が恥をかかないようにしようと頑張ってくれている。彼女からは、そんな純粋な気遣いが感じ取れた。
だけど、私は自分の姿を鏡で見て首を横に振った。
「必要ないわ」
「え、でも……」
彼女が戸惑うのも仕方がない。知り合い同士の気軽なお茶会でも、貴族の令嬢は髪に装飾品をつけて結い上げるものだ。さらには、結い上げるのに使う装飾品で自分の権威を示したりもする。
装飾品をまったく身につけないというのは、それを用意するお金さえありませんと言っているようなもの。恥以外のなにものでもない。
加えて、ドミニカから借りたドレスは、誰の目にもお古だと分かるぐらい私に似合っていない。多少の手直しはしてあるものの、急な話だったのでサイズはぶかぶかだ。
ドミニカは太っているわけではないが普通の令嬢に比べるとぽっちゃりしている。一方、私は普段から食が細いため、貴族令嬢の理想的な体形をしている。
どうしたってサイズは合わず、見るからに不格好だ。
だというのに、髪も結わないと言い始めたから、アリスが戸惑うのも当然。
「あの、装飾品を一つも身につけないというのは、その……」
「いいのよ。持ってないから」
私の言葉に、アリスは言葉を詰まらせた。
私は商人を呼んでなにかを買ったことがない。ドレスすら持っていなかったくらいだ。装飾品は言わずもがな。
「……本当にお茶会に出席されるのですか? その、準備も不十分ですし……」
アリスは不安そうな顔で私に確認する。その顔には、やめたほうがいいとありありと書いてあった。
「だから逃げろと?」
「い、いいえ! そんな!」
慌てて否定するアリスに笑みを向けると、彼女は私を見て固まった。なぜかアリスは頬を紅潮させている。
「迎え撃ってやるわ。それくらいの気概は持っているのよ、私」
そう言って私は優雅に微笑んだ。
準備を終え、私はお茶会の会場である邸の庭園へ向かった。
そこには白い丸テーブルが用意されていて、真っ赤なドレスを着たドミニカと、三人のお友達が座っていた。
そのうちの二人が私を見て、意味ありげにくすくすと笑っている。
ある意味悪役令嬢よりも悪役令嬢らしい人たちだ。役を交代してもいいくらい。私としてはむしろそのほうがありがたい。
「左から、ミランダ・ルドゥナー様、アデーレ・ローリー様、ルワンダ・ダーリン様です」
アリスが私の耳元でそう教えてくれる。
お茶会には自分の侍女を連れてくるのが常識だ。けれど私には専属侍女がいないため、彼女に同行してもらうことになった。
私に他の貴族との繋がりはないけれど、以前読んだ貴族名鑑の記憶を頼りに、三人の令嬢の家柄を思い出す。
ルドゥナーとローリーは伯爵家、ダーリンは侯爵家だ。つまり、全員が私よりも身分は下。
それにもかかわらず、ミランダとアデーレは私に無遠慮な視線を向けてくすくすと笑っている。そんな態度を取っていられるのは、ドミニカがそれを許しているからだろう。
「バカな人たち」
「……っ」
私の呟きを聞いて、アリスは顔を青ざめさせた。
「お嬢様」
アリスが私の耳元で窘めるように呟く。
どういうわけか、私に対する恐怖心はもう薄れているようだ。
そんな彼女に、私は周囲に聞こえないくらいの小さな声で言う。
「攻撃は最大の防御よ」
これは私を貶めるためだけのお茶会。穏便にすむわけがないのだ。
「アリス、ここまででいいわ」
「し、しかし……」
躊躇うアリスに、私は彼女にしか聞こえないくらいの声で言う。
「あなたには他にしてほしいことがあるの」
顔に疑問を浮かべるアリスに簡単な指示を出して、私は用意された席へ真っすぐ歩く。
私は優雅に見えるように歩きながら、前世で読んだ身なりと性格の関係について書かれた本の記憶を手繰り寄せる。
ドミニカは赤いドレスを着ている。赤を好む人は行動力があり、積極的な反面、感情の揺れ動きが激しい。
その隣にいるミランダは黄色いドレス。黄色を好む人間は上昇志向が強い傾向にある。その隣のアデーレはごてごてした装飾品を身に着けている。これは自分に自信がないけれど、見栄っ張りな人に多い傾向。
そして最後にルワンダ。彼女は青いドレスを着ている。青を好む人間は穏やかで思慮深い。髪は結い上げているけれど、他の二人とは違い、耳を髪で隠している。耳を隠すのは内向的な人間に多い傾向だ。
なかなかにカオスなお茶会になりそうだな。
そんなことを思いながら、私はドミニカの右隣に腰を下ろした。
「初めましてですわね、セシル様」
最初に声をかけてきたのはミランダ。フレンドリーな感じではあるけれど、先ほどアデーレと一緒に私を見てくすくす笑っていたのも事実だ。
「それにしても……」と続けながら、ミランダは私の全身を確認する。
「急なお茶会というわけでもなかったのだけれど、用意が間に合わなかったのかしら?」
首を傾げて言うミランダ。つまり、『自分に合ったドレスもなく、装飾品もない。貧相な出で立ちだ』と暗に言っているのだ。
急なお茶会ではなかったと言われても、私はもともと参加予定ではなかったし、そうなったのはドミニカがいきなり我儘を言い出したからだ。
きっとここにいる人たちは、その事情も知っているだろう。
「あら、ミランダ。きっとセシル様はご自分の容姿に自信がおありなんじゃないかしら? ありきたりなドレスや装飾品では、かえって自分の美貌を損なうとお考えになったのでしょう。でも、ご安心なさいませ、セシル様。貴族令嬢とは常に己を磨かなければいけないもの。そんな貴族令嬢のために作られたドレスや装飾品は、本人の美しさをより引き立ててくれますわ」
ミランダに続き、そう言ったのはアデーレ。意訳すると『自分のことを美人だと思ってお高くとまってるんだろう』といったところか。
「そのドレスは私が昔着ていたものなのですけれど、やはりドレスも着る人間を選ぶのでしょうね」
ドミニカが先ほどの二人と同じように偽物の笑みを浮かべて言う。
この程度で優越感を得ているらしく、その笑みは嘲笑ともとれた。
三人の挑発的な態度をどう思っているのか、ルワンダだけが嘘くさい笑みを浮かべて沈黙を貫いている。
――ああ。なんてつまらない女たち。
「おっしゃる通りですわね、お姉様。私にはこのドレス、いささか大きすぎますもの。ふくよかなお姉様には似合っても、私に似合うはずがありませんわ」
「なんですって! 私がせっかくあなたのためを思って貸して差し上げたというのに。恩を仇で返す気!?」
怒るドミニカをよそに、くすりと笑い声が聞こえた。
笑ったのは私ではない。ミランダとアデーレに視線を向ければ、目を細めて口角を上げている。それは本心からの笑みだった。
私を貶めるために開催されたお茶会。しかし、その主催者であるドミニカの味方など、実は一人もいないのだ。
感情的で、傲慢で、お粗末な頭の持ち主であるドミニカには、味方を得ることほど難しいことはないだろう。取り巻きがいればいいほうだ。
私はドミニカを見て、心底意味が分からないという顔をし、首を少しだけ横に傾けて見せる。さらに頬に手を当てて『困ったわ』とでも言いたげな表情を作った。
「恩、ねぇ。お姉様は『ドレスも着る人間を選ぶ』とおっしゃったではありませんか。つまり、初めから私に合わないと分かっていて譲ってくださったのですよね」
「あんたみたいなブスに合うドレスがないのだから、仕方がないでしょう」
ドミニカの言い分に私は笑みを深くする。
「お忘れのようですけど、私には並外れた魔力があります。お姉様の行いで、私が魔力を暴走させてしまったらどうするおつもりですの? 昔魔力暴走に巻き込まれてお怪我をなさったこと、まさかお忘れではありませんよね?」
「わ、私は……」
まずいと思ったのか、ドミニカは顔を青ざめさせた。
他の二人も顔をわずかに強張らせ、身を硬くする。
「アデーレ様とミランダ様。あなたたち二人も、私に随分な歓迎をしてくれましたわね。私、傷つきましたわ」
私が浮かべている表情は、誰がどう見ても傷ついた者の顔ではない。けれどそれを指摘できる勇気のある人間は、この場にはいなかった。
「ちょ、ちょっとした冗談ですわ」
「そうですわ。初めてのお茶会で緊張していらっしゃるだろうから、ほぐして差し上げようと思いまして」
顔を引きつらせながら言い訳をする二人に、私は人のいい笑みを浮かべた。
「まぁ! そうだったのですね! 私、お二人のお気持ちに気づかず、糾弾するような真似をしてしまって申し訳ありません」
胸の前で手を組み、許しを乞うように言う。そんな私に、二人は難を逃れたのだとほっとしたようだ。
けれどこれで終わらせるわけがない。私の次の言葉は、二人を奈落の底へと突き落とす。
「でしたら、みなさまにもお二人の優しさをお伝えしたいですわね」
「「えっ?」」
固まる二人に、私は続ける。
「折しもあと少しで社交シーズン。残念ながら私は年齢的にまだ出席できませんが、今のやり取りを記録した映像を流す方法なんていくらでもありますわ」
「ちょっと、待ちなさい!」
「映像ってなによ! 許可もなく、そんな。勝手に録画するなんて」
「あなたたちこそ、なにを言っているのですか?」
「「ひっ」」
穏やかな口調で口元には笑みを浮かべているのに、私の目は笑っていない。
おまけに、わずかに滲み出た魔力がドミニカたち三人を容赦なく包み込んでいく。
「ここは公爵家の敷地内。ご存知でしょう? 貴族の邸には、いたるところに防犯用の魔道具が設置されていることを。もちろん我が公爵家でも録画用の魔道具がフル稼働していて、不審者がいないか常に監視していますわ。これは貴族の常識ですから、ここでの様子が録画されているのはご承知でしょう?」
「そ、それは……」
「そんな映像、お父様とお母様があんたに渡すわけないわ!」
ドミニカの叫びに、彼女の友人たちは安心した顔をする。
だけどそんな分かりきったこと、なんの手も打たずにいるわけないじゃない。本当にバカなんだから。
「ご心配いりませんわ。すでに映像は回収済みですから」
録画用の魔道具の位置は把握している。その魔道具から映像を直接取り出す方法も本で読んだことがあった。
だからアリスにその方法を教えて、頃合いを見計らって回収するように頼んでおいたのだ。
だって、絶対なにかあると分かっていたもの。
「私から奪おうとしても無駄ですよ。脅しが通じないことは、お姉様が嫌って言うほど分かっていらっしゃるでしょう?」
私はドミニカに言ってから、一同を見回す。
青ざめるドミニカたちの中で、ルワンダはじっと黙って事の成り行きを見守っていた。
「お父様たちに言いたいのならご自由になさって。その際はそうね……この国全土に映像を流してあげましょうか」
いいことを思いついたと言わんばかりに、無邪気な子供のような笑みを浮かべて言った。
「そんなことできるわけ――」
「できますわよ。私の魔力なら。そうねぇ、水魔法を使いましょうか。水魔法で水鏡を作って映像を投影させるの。素晴らしいでしょう。ねぇ?」
そう言って、私はこてんと首を傾ける。
「どちらがよろしいかしら。社交界という閉ざされた空間で映像を流されるのと、国中に流されるの。私は別にどっちでもいいですわよ」
誰も言葉を発さず、ルワンダ以外は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
どちらにしても、私がこの映像を流せば彼女たちの未来は絶望的だろう。
「ご安心ください。あなた方が私のためを思ってしてくださったのだということは、聡明な貴族のみなさまならすぐに理解してくださいますわ」
完全にドミニカたちの敗北だ。
お茶会はそのままお開きとなった。ドミニカたち三人がそそくさと去っていったあと、ここまで一言も喋らなかったルワンダが溜息をついた。それから、一切口をつけていなかったお茶を一気に飲み干す。
「家同士の付き合いだとしても、もう少し相手は選ぶことをおすすめいたしますわ。でないと、巻き添えを食らって一緒に潰れてしまいますわよ」
唐突に言った私に、呆けたような顔をするルワンダ。
そんな彼女を残して、私はアリスと一緒に自室へ戻った。
一人、部屋に戻った私は自分で寝る支度をする。
ここは公爵家。使用人は大勢いるけれど、私には相変わらず専属侍女はいない。
家族からも避けられているため、私は家の中で放置されていた。
昔は愛されようと奮闘したけど、それが無駄だったってことは理解している。いや、理解させられたのかな、何度も何度も辛く当たられて。
けれど悪いことばかりではない。誰からも必要とされないのは楽でもある。だって、嫌われないように気を遣う必要がないから。
それに、もしなにかの拍子に魔力暴走を起こしてしまった時に、近くに誰もいなければ怪我をさせずにすむし。
さて、寝る準備はできた。
でもすぐに寝ることはせず、私はベッドサイドに置いている本を手に取った。
翌日、公爵邸はなんだか騒がしかった。
どうやらドミニカが庭でお茶会を開催するようだ。
そろそろ蒸し暑い夏がやって来るのに、庭でお茶会なんてご苦労なことだと、準備に慌ただしく駆けまわる使用人やドミニカを見て思った。
その日の夜。私の部屋に入って来たドミニカは自慢げに教えてくれた。
「今日ね、ミルドレット公爵家のご子息に会ったのよ」
ドミニカはノックもせずに扉を開け、ずかずかと部屋に入ってきて、読書をしていた私から本を取り上げる。
その行動に、一緒に部屋に入って来た彼女の侍女がひっと悲鳴を上げる。それから侍女は、自分の安全を確保するかのように数歩後ろに下がった。
そんな侍女の様子には気づかず、ドミニカは自慢げに口を開く。
「彼ね、私に好意を持っているみたいなの」
「うふふふ」と笑うドミニカを見て、気持ちの悪い笑みだと思った。
「当然よね。だって、私は可愛いもの」
ドミニカは自信満々に言う。
彼女は決して太っているわけではないものの、他の貴族令嬢に比べればやや太めな体形をしている。
けれどお母様はいつもドミニカのことを「世界一可愛い」と言っていた。「あなたたちもそう思うわよね」とお母様に同意を求められれば、否と言う使用人はいない。みんな一様に「そうだ」と言って褒めるので、ドミニカの中には根拠のない自信が出来上がっているのだ。
そんなドミニカを見て、私は心の中で『井の中の蛙大海を知らず。実に幸せなことだ』と皮肉った。
「他の方たちもね、私のことをちらちらと見ていらっしゃったわ。魔力しか取り柄のないあなたと違って、私は容姿も頭もいい。家柄もいいし、あなたと違って野蛮でもないから、きっと引く手数多ね」
それからドミニカは、連日お茶会をしては私の部屋へやってきて自慢話をするようになった。自分はモテるのだ、お前とは違うのだと。
実にくだらないことなので、私は相手にすらしなかった。
この時ドミニカは十六歳。
そろそろ婚約者を決めなければと、焦り始める年齢だった。
そんなある日。なにを思ったのか、ドミニカがまたくだらないことを言い出した。
「お母様、お父様。セシルをお茶会に参加させてはダメでしょうか?」
いつものように食事中にもかかわらず、ドミニカは両親に話しかける。それを聞いた二人の顔は強張っていた。
「それはできない」
お父様はにべもなく答える。さすがのお母様も困ったような笑みを浮かべていた。
「そうね。いくらドミニカのお願いでも、それはちょっと……」
「どうしてですの?」
その理由を、ドミニカは知っている。でも、彼女はわざと知らないフリをしてるのだ。
お母様はそんなドミニカの思惑には気づかず、どうやって誤魔化そうかと考えながら視線を私に向ける。
「セシルはあなたと違って、お茶会のマナーなんて知らないからよ」
私には、マナーを教えてくれる人もいないので、当然お茶会に参加したこともない。
そんな私がマナーを身につけているはずがないと、ドミニカは気づいている。
「でも、お母様。仕方がないこととはいえ、セシルだって公爵家の人間ですわ。このまま社交界デビューしてしまったら、我が家の恥になります」
そう言うドミニカの言葉のあとには、『まぁ、存在するだけでも恥ですけど』という本音が続くような気がした。けれど、気のせいだと思って私は流す。
「いつかはお茶会に参加しないといけませんわ。これもいい機会だと思いませんか?」
「それは、そうだけど……」
お母様は助けを求めるようにお父様を見る。
二人は私をあまり表に出したくないのだ。強大な魔力を持った私が、万が一外で魔力を暴走させたら危険だと思っているのだろう。
お父様はフォークとナイフを置き口をナプキンで拭くと、腕を組んで思案する姿勢を見せた。
「一度だけで構いませんの。どうしてもダメですか?」
なにを考えているのか分からないけれど、熱心に食いさがるドミニカ。
「どうしてそこまで、セシルをお茶会に参加させたがる?」
「だって、かわいそうなんですもの。貴族に生まれながら、無知であるセシルが」
ドミニカの意地悪そうな顔に、私を憐れむ気持ちは一切浮かんでいない。けれどそれに気づいているのは私だけだ。
「ねぇ、お願いです。お父様、お母様。一度だけでいいの。セシルにもお茶会の楽しさを知ってほしいのよ」
「ドミニカは優しいのね」
感激したという感じでお母様は目じりに涙を浮かべ、愛おしげにドミニカの頭を撫でる。
「あなた、どうかしら? 一度くらいなら……」
「……そうだな。では、一度だけ。セシル、ドミニカの優しさに感謝してお茶会に参加しなさい」
「頼んだ覚えはありませんが。厚かましくも『感謝しろ』とおっしゃるのなら、口先でいくらでもお礼の言葉を羅列いたしましょう」
棘のある言葉に、お父様もお母様も不快そうな顔をしたけれど、怒りはしなかった。
私のお茶会への参加はこうして決まった。
お茶会当日。私は室内用のドレスしか持っていなかったので、ドミニカが着なくなったドレスを借りることになった。
こういったドレスは一人で着られないため、この日だけは侍女に手伝ってもらって着替える。
「も、申し訳ありません。えっと、あの……」
オドオドした様子の侍女は新人のようで、動作が覚束ない。さっきからミスを連発している。
彼女の名前はアリス。
アリスは涙目になりながらも、なんとか私にドレスを着せようと悪戦苦闘している。恐らく通常の倍の時間がかかっていただろう。
まぁ、新人なら仕方がない。
それに私のことは、きっと他の侍女たちから聞いているはずだ。
少しのことで叱責したり、魔力暴走を起こしたりするかもしれないと思っているのだろう。
その証拠に、さっきから彼女は震えている。まるでライオンに食べられる前の子ウサギのようだ。
「あ、あの、申し訳ありません」
「問題ないわ。まだお茶会まで時間があるし」
「……」
私の言葉に、アリスは驚いたようにこちらを見つめた。
「なにか?」
「い、いいえ。なんでもありません」
私が、不慣れな侍女を叱責するとでも思っていたのだろうか。アリスは意外そうな顔をしていた。
「あ、あの、髪型はどうされますか?」
アリスが髪をすきながら聞いてくれるが、その手つきからも覚束なさが感じられる。
きっとまだ髪を結い上げるのも下手だろう。それでも、私が恥をかかないようにしようと頑張ってくれている。彼女からは、そんな純粋な気遣いが感じ取れた。
だけど、私は自分の姿を鏡で見て首を横に振った。
「必要ないわ」
「え、でも……」
彼女が戸惑うのも仕方がない。知り合い同士の気軽なお茶会でも、貴族の令嬢は髪に装飾品をつけて結い上げるものだ。さらには、結い上げるのに使う装飾品で自分の権威を示したりもする。
装飾品をまったく身につけないというのは、それを用意するお金さえありませんと言っているようなもの。恥以外のなにものでもない。
加えて、ドミニカから借りたドレスは、誰の目にもお古だと分かるぐらい私に似合っていない。多少の手直しはしてあるものの、急な話だったのでサイズはぶかぶかだ。
ドミニカは太っているわけではないが普通の令嬢に比べるとぽっちゃりしている。一方、私は普段から食が細いため、貴族令嬢の理想的な体形をしている。
どうしたってサイズは合わず、見るからに不格好だ。
だというのに、髪も結わないと言い始めたから、アリスが戸惑うのも当然。
「あの、装飾品を一つも身につけないというのは、その……」
「いいのよ。持ってないから」
私の言葉に、アリスは言葉を詰まらせた。
私は商人を呼んでなにかを買ったことがない。ドレスすら持っていなかったくらいだ。装飾品は言わずもがな。
「……本当にお茶会に出席されるのですか? その、準備も不十分ですし……」
アリスは不安そうな顔で私に確認する。その顔には、やめたほうがいいとありありと書いてあった。
「だから逃げろと?」
「い、いいえ! そんな!」
慌てて否定するアリスに笑みを向けると、彼女は私を見て固まった。なぜかアリスは頬を紅潮させている。
「迎え撃ってやるわ。それくらいの気概は持っているのよ、私」
そう言って私は優雅に微笑んだ。
準備を終え、私はお茶会の会場である邸の庭園へ向かった。
そこには白い丸テーブルが用意されていて、真っ赤なドレスを着たドミニカと、三人のお友達が座っていた。
そのうちの二人が私を見て、意味ありげにくすくすと笑っている。
ある意味悪役令嬢よりも悪役令嬢らしい人たちだ。役を交代してもいいくらい。私としてはむしろそのほうがありがたい。
「左から、ミランダ・ルドゥナー様、アデーレ・ローリー様、ルワンダ・ダーリン様です」
アリスが私の耳元でそう教えてくれる。
お茶会には自分の侍女を連れてくるのが常識だ。けれど私には専属侍女がいないため、彼女に同行してもらうことになった。
私に他の貴族との繋がりはないけれど、以前読んだ貴族名鑑の記憶を頼りに、三人の令嬢の家柄を思い出す。
ルドゥナーとローリーは伯爵家、ダーリンは侯爵家だ。つまり、全員が私よりも身分は下。
それにもかかわらず、ミランダとアデーレは私に無遠慮な視線を向けてくすくすと笑っている。そんな態度を取っていられるのは、ドミニカがそれを許しているからだろう。
「バカな人たち」
「……っ」
私の呟きを聞いて、アリスは顔を青ざめさせた。
「お嬢様」
アリスが私の耳元で窘めるように呟く。
どういうわけか、私に対する恐怖心はもう薄れているようだ。
そんな彼女に、私は周囲に聞こえないくらいの小さな声で言う。
「攻撃は最大の防御よ」
これは私を貶めるためだけのお茶会。穏便にすむわけがないのだ。
「アリス、ここまででいいわ」
「し、しかし……」
躊躇うアリスに、私は彼女にしか聞こえないくらいの声で言う。
「あなたには他にしてほしいことがあるの」
顔に疑問を浮かべるアリスに簡単な指示を出して、私は用意された席へ真っすぐ歩く。
私は優雅に見えるように歩きながら、前世で読んだ身なりと性格の関係について書かれた本の記憶を手繰り寄せる。
ドミニカは赤いドレスを着ている。赤を好む人は行動力があり、積極的な反面、感情の揺れ動きが激しい。
その隣にいるミランダは黄色いドレス。黄色を好む人間は上昇志向が強い傾向にある。その隣のアデーレはごてごてした装飾品を身に着けている。これは自分に自信がないけれど、見栄っ張りな人に多い傾向。
そして最後にルワンダ。彼女は青いドレスを着ている。青を好む人間は穏やかで思慮深い。髪は結い上げているけれど、他の二人とは違い、耳を髪で隠している。耳を隠すのは内向的な人間に多い傾向だ。
なかなかにカオスなお茶会になりそうだな。
そんなことを思いながら、私はドミニカの右隣に腰を下ろした。
「初めましてですわね、セシル様」
最初に声をかけてきたのはミランダ。フレンドリーな感じではあるけれど、先ほどアデーレと一緒に私を見てくすくす笑っていたのも事実だ。
「それにしても……」と続けながら、ミランダは私の全身を確認する。
「急なお茶会というわけでもなかったのだけれど、用意が間に合わなかったのかしら?」
首を傾げて言うミランダ。つまり、『自分に合ったドレスもなく、装飾品もない。貧相な出で立ちだ』と暗に言っているのだ。
急なお茶会ではなかったと言われても、私はもともと参加予定ではなかったし、そうなったのはドミニカがいきなり我儘を言い出したからだ。
きっとここにいる人たちは、その事情も知っているだろう。
「あら、ミランダ。きっとセシル様はご自分の容姿に自信がおありなんじゃないかしら? ありきたりなドレスや装飾品では、かえって自分の美貌を損なうとお考えになったのでしょう。でも、ご安心なさいませ、セシル様。貴族令嬢とは常に己を磨かなければいけないもの。そんな貴族令嬢のために作られたドレスや装飾品は、本人の美しさをより引き立ててくれますわ」
ミランダに続き、そう言ったのはアデーレ。意訳すると『自分のことを美人だと思ってお高くとまってるんだろう』といったところか。
「そのドレスは私が昔着ていたものなのですけれど、やはりドレスも着る人間を選ぶのでしょうね」
ドミニカが先ほどの二人と同じように偽物の笑みを浮かべて言う。
この程度で優越感を得ているらしく、その笑みは嘲笑ともとれた。
三人の挑発的な態度をどう思っているのか、ルワンダだけが嘘くさい笑みを浮かべて沈黙を貫いている。
――ああ。なんてつまらない女たち。
「おっしゃる通りですわね、お姉様。私にはこのドレス、いささか大きすぎますもの。ふくよかなお姉様には似合っても、私に似合うはずがありませんわ」
「なんですって! 私がせっかくあなたのためを思って貸して差し上げたというのに。恩を仇で返す気!?」
怒るドミニカをよそに、くすりと笑い声が聞こえた。
笑ったのは私ではない。ミランダとアデーレに視線を向ければ、目を細めて口角を上げている。それは本心からの笑みだった。
私を貶めるために開催されたお茶会。しかし、その主催者であるドミニカの味方など、実は一人もいないのだ。
感情的で、傲慢で、お粗末な頭の持ち主であるドミニカには、味方を得ることほど難しいことはないだろう。取り巻きがいればいいほうだ。
私はドミニカを見て、心底意味が分からないという顔をし、首を少しだけ横に傾けて見せる。さらに頬に手を当てて『困ったわ』とでも言いたげな表情を作った。
「恩、ねぇ。お姉様は『ドレスも着る人間を選ぶ』とおっしゃったではありませんか。つまり、初めから私に合わないと分かっていて譲ってくださったのですよね」
「あんたみたいなブスに合うドレスがないのだから、仕方がないでしょう」
ドミニカの言い分に私は笑みを深くする。
「お忘れのようですけど、私には並外れた魔力があります。お姉様の行いで、私が魔力を暴走させてしまったらどうするおつもりですの? 昔魔力暴走に巻き込まれてお怪我をなさったこと、まさかお忘れではありませんよね?」
「わ、私は……」
まずいと思ったのか、ドミニカは顔を青ざめさせた。
他の二人も顔をわずかに強張らせ、身を硬くする。
「アデーレ様とミランダ様。あなたたち二人も、私に随分な歓迎をしてくれましたわね。私、傷つきましたわ」
私が浮かべている表情は、誰がどう見ても傷ついた者の顔ではない。けれどそれを指摘できる勇気のある人間は、この場にはいなかった。
「ちょ、ちょっとした冗談ですわ」
「そうですわ。初めてのお茶会で緊張していらっしゃるだろうから、ほぐして差し上げようと思いまして」
顔を引きつらせながら言い訳をする二人に、私は人のいい笑みを浮かべた。
「まぁ! そうだったのですね! 私、お二人のお気持ちに気づかず、糾弾するような真似をしてしまって申し訳ありません」
胸の前で手を組み、許しを乞うように言う。そんな私に、二人は難を逃れたのだとほっとしたようだ。
けれどこれで終わらせるわけがない。私の次の言葉は、二人を奈落の底へと突き落とす。
「でしたら、みなさまにもお二人の優しさをお伝えしたいですわね」
「「えっ?」」
固まる二人に、私は続ける。
「折しもあと少しで社交シーズン。残念ながら私は年齢的にまだ出席できませんが、今のやり取りを記録した映像を流す方法なんていくらでもありますわ」
「ちょっと、待ちなさい!」
「映像ってなによ! 許可もなく、そんな。勝手に録画するなんて」
「あなたたちこそ、なにを言っているのですか?」
「「ひっ」」
穏やかな口調で口元には笑みを浮かべているのに、私の目は笑っていない。
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「ここは公爵家の敷地内。ご存知でしょう? 貴族の邸には、いたるところに防犯用の魔道具が設置されていることを。もちろん我が公爵家でも録画用の魔道具がフル稼働していて、不審者がいないか常に監視していますわ。これは貴族の常識ですから、ここでの様子が録画されているのはご承知でしょう?」
「そ、それは……」
「そんな映像、お父様とお母様があんたに渡すわけないわ!」
ドミニカの叫びに、彼女の友人たちは安心した顔をする。
だけどそんな分かりきったこと、なんの手も打たずにいるわけないじゃない。本当にバカなんだから。
「ご心配いりませんわ。すでに映像は回収済みですから」
録画用の魔道具の位置は把握している。その魔道具から映像を直接取り出す方法も本で読んだことがあった。
だからアリスにその方法を教えて、頃合いを見計らって回収するように頼んでおいたのだ。
だって、絶対なにかあると分かっていたもの。
「私から奪おうとしても無駄ですよ。脅しが通じないことは、お姉様が嫌って言うほど分かっていらっしゃるでしょう?」
私はドミニカに言ってから、一同を見回す。
青ざめるドミニカたちの中で、ルワンダはじっと黙って事の成り行きを見守っていた。
「お父様たちに言いたいのならご自由になさって。その際はそうね……この国全土に映像を流してあげましょうか」
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「そんなことできるわけ――」
「できますわよ。私の魔力なら。そうねぇ、水魔法を使いましょうか。水魔法で水鏡を作って映像を投影させるの。素晴らしいでしょう。ねぇ?」
そう言って、私はこてんと首を傾ける。
「どちらがよろしいかしら。社交界という閉ざされた空間で映像を流されるのと、国中に流されるの。私は別にどっちでもいいですわよ」
誰も言葉を発さず、ルワンダ以外は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
どちらにしても、私がこの映像を流せば彼女たちの未来は絶望的だろう。
「ご安心ください。あなた方が私のためを思ってしてくださったのだということは、聡明な貴族のみなさまならすぐに理解してくださいますわ」
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お茶会はそのままお開きとなった。ドミニカたち三人がそそくさと去っていったあと、ここまで一言も喋らなかったルワンダが溜息をついた。それから、一切口をつけていなかったお茶を一気に飲み干す。
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唐突に言った私に、呆けたような顔をするルワンダ。
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