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第Ⅱ章 悪役令嬢、ヤンデレ従者に捕らわれる

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「イスファーン、私は殿下に婚約破棄されたから今あなたとこうして一緒にいるけどそうでなければどうするつもりだったの?」
「ああ、ルラーンの王子が馬鹿で助かりました。おかげで手間が省けた」
王子に対して容赦ないな。
まぁ、身分を気にしてへりくだるようなタイプでは決してないだろう。
「俺はね、あなたを手に入れるためならどんな手段も厭わないんです。やりようは幾らでもありました」
にっこりと笑うイスファーンの目には闇があった。
太陽の光すらも届かない深淵がそこにはあった。
「あの男があなたの名前を呼ぶ度、あなたに触れる度、あなたがあの男に笑いかける度に何度も頭の中で奴を殺しました。まず、あなたの名前を二度と呼べないように舌を引き抜き、その汚らしい声をあなたに聞かせないために口を縫い付けます。次は手です。あなたに触れた手を切り落とします。舌を抜き、口を閉ざしているのであなたに醜い断末魔を聴かせることはないので安心してください」
安心できる要素はそこではないのだけど。
「最後に目です。二度とその目にあなたが映らないようにくり抜きます。これでもう彼はあなたを見ることができない。完璧な仕上がりです」
イスファーンは一つ一つ分かりやすく説明するように口、手、目と私に触れる。
狂ってる。
そんなことはここに連れてこられた時に分かっていたかとだけど。
私の身の安全はどこまで保証されているのだろうか。
「妄想だよね。実際にやったわけじゃないわよね」
「まだ現実にはなってないよ」
それはつまり、いつかは現実になるということ?
「やらないよね?」
「随分と気にかけるんだね、あなたを捨てた男だよ。ねぇ、まさかまだ愛してるなんて言わないよね。それとも俺が怖くてそれさえも言えない?」
イスファーンに問われて、考えてみる。
私の中にエーメントに対する想いは欠片も残っていなかった。
「愛してはいないわ」
「本当に?」
「ええ」
嘘は言っていないけどそう答えないとエーメントは確実に先ほど言ったことを実行しただろう。
碌に調べもせずに国王の許可もなしに勝手に私を国外追放した馬鹿な男
婚約者である私の妹に手を出して罪の意識すら持たない。
そんな男、庇う義理はないけどだからってそんな残酷な最期を迎えてほしいとも思わない。後味も悪いしね。
「イスファーン、私はアリシアを虐めていないわ」
「ええ、知っています。あなたがあの女の為に手を汚す必要なんてありません」
「ただ私は見て見ぬふりをした。そういう人間は私だけではなかった。でも、私だけが断罪された。なぜなら私が邪魔だったから。私さえいなくなれば彼らは彼らの言う純愛を貫ける。私を貶めた人たちがどうなったか知りたいと思うのはそんなにおかしなことじゃないでしょう」
「そうだね。どんな目にあって欲しい?」
「えっ?」
子供のように無邪気に笑うイスファーン。でも言うことは子供の無邪気さなんて欠片もない。
私の希望を叶えてくれると彼は言っているのだ。それがどんな願いでも。
「殺せ」と言えば殺すだろう。
道徳なんてない。倫理観なんて皆無。それがこんなにも恐ろしいことだとは思わなかった。
「私は情報が欲しいだけよ。はぐらかさないで教えて」
「はぐらかしてないよ。イリスこそはぐらかさないでよ。俺の質問の意味を正確に理解してるでしょ。俺、イリスの為ならなんでもするよ」
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