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第Ⅱ章 悪役令嬢、ヤンデレ従者に捕らわれる

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「また来ますね」
そう言ってイスファーンは私に軽くキスをしてから部屋を出て行った。
一人になった私はベッドに寝転び枕に顔を埋める。

「うわぁっー」と言う叫び声を枕で殺した。
私の頭は絶賛混乱中だ。
理解不能。
処理不能。
対処不能。
思考停止。
「イスファーンにヤンデレ要素があったなんて」
いや、今思い出してみればおかしな点はいくつかあった。
ここまで考えが及びなかったのはまさか自分がという思いがあったのとイリスに周囲の様子を見るだけの余裕がなかったからだろう。
「でもこういうのって乙女ゲームに例えるとヒロインのバッドエンドじゃないの?何で悪役令嬢の私が?」
いや、そもそもこの世界は乙女ゲームでなく恋愛小説の中だけどさ。
中身は乙女ゲームみたいなもんだけどね。
複数の男性の心を掴んで虜にして。
現にアリシアを守る騎士?が数人いたし、彼らはみんなアリシアに想いを寄せている。
アリシアがそれに気づいているかは分からないけど。
でも気もないのに優しくしたり、積極的にボディータッチして相手に自分を意識させたり、ずかずかと心に入り込むやり口はまさにヒロイン。
私の一番嫌いなタイプだ。
それに結局は最高権力者である王子を選ぶんだから、身分に関係ないと常日頃から言っているわりにはやることがおかしいでしょう。
「つうか、結局ヒロインってビッチじゃん」
彼女に想いを寄せてる男性陣は殿下の取り巻き。
つまりは将来有望な高位貴族。ただの高位貴族とはわけが違う。
王族の側近。つまり彼らの妻になる人たちが社交界の中心になるのだ。そんな人たちにアリシアは媚を売ってたんでしょう。
最低じゃん。
悪役令嬢のイリスの方が気高い貴族って感じで私は好きだな。
いや、今の私がそのイリスだからこれじゃあナルシストか。
「アリシアに対する不平不満、罵詈雑言は泉のように湧いて出てくるけどそれをしていても仕方がないわね。今やるべきことは現状の打破…………できる気がしない」
別にアウトドア派ではないけどさ、だからって引き籠もるタイプでもないんだよね、私。
ずっと部屋にいたら気が滅入るし、たまにはショッピングがしたい。外に出たい。
でも、いきなりそう要求したところでイスファーンから許可は下りないだろう。
私につけられた枷がその証拠だ。
イスファーンは私を信用していない。私がここから逃げると思っているんだ。
逃げた所で行き先がないことは彼が一番分かっていても。
それに私はオスファルト王王女の娘。
オスファルトに庇護を求めれば彼らは私を無視できないだろう。
私にその気はないけど。
それがイスファーンを余計、不安にさせているのかも。
「今のところは様子見かな」
イスファーンを安心させて枷を外させる。
邸の中、あるいは庭、取り敢えず敷地内なら出歩いてもいいという許可をもらい、最終的には邸の外だ。
ここまで上手くいくとは思えないけど段階を踏んでというのは悪くないと思う。
「…………イリスにもいたんだね」
彼女を愛してくれる人が。
ちょっと、だいぶ重たいけど。
それでも誰からも愛されず寂しさを埋めるようにエーメントを愛し、愛されようとしたイリスにここまで思ってくれる人がいたことが嬉しい。
彼女は一人ではなかったのだ。
小説には描かれなかったイリスがハッピーエンドであればいいと思う。
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