上 下
15 / 36
第Ⅱ章 悪役令嬢、ヤンデレ従者に捕らわれる

14

しおりを挟む
「っ」
ここはどこ?
邸に向かっていたんじゃないの?
思っていたよりも長く眠ってしまったらしい。
目を覚ました場所は天蓋付きのベッドの上だった。しかも、足首に鎖がついている。
辺りを見渡すと出口と思われる場所は一つだけ。窓すらもない部屋だった。
足についている鎖はかなり長いようで部屋を歩き回るには問題なさそうだ。と、いう考えが甘かったことをすぐに思い知った。
十分な長さのある鎖だけど辛うじて出口は行けない長さに調整されていた。
「おや、目覚めたんですね」
がちゃりと空いたドアからいつも通りの調子でイスファーンが姿を見せた。こんな異様な状況なのにいつも通りというところに不気味さを感じる。
「イスファーン、ここはどこ?どうして私は鎖で繋がれているの?お母様の命令?私をどうするの?」
「ちゃんと説明しますから。取り敢えず座りましょう」
そう言ってイスファーンは私をソファーに座らせた。そしてなぜかイスファーンは私の隣に腰を下ろす。いつもならそんなことしないのに。
「ち、近いわ」
足と足が触れ合うような距離。彼が纏う空気がいつもと違って甘く、私を見る目に熱を帯びているからだろうか。心臓がどきどきする。
顔を赤くしてできるだけイスファーンを見ないようにする私に自分の存在を認識させるためか、イスファーンは私の頭を撫でたり、指に髪の毛を絡ませたりとどこかしらに必ず触れようとする。
「まず、ここはどこかって質問だけど、詳しい場所は言えない。でもここはもうルラーンではないよ。ここはオスファルト。国外追放されちゃったからね」
くだけた口調で日常会話を楽しむように言うイスファーンだけど、その内容はとても聞き流せるものではなかった。
「でも国外追放は正式な沙汰ではないわ。殿下が身分を振りかざして勝手にしたことよ」
本来なら殿下の行いこそ違法になるのだ。
法律と調査された結果を元に判決を下すのは司法の役目。それを許可するのは王の役目。そのどちらでもない殿下は越権行為に該当される。
今回の件は叛意あり捕えられ投獄される可能性もある。私たちが殿下の裁可に従う必要はないのだ。
「陛下がどのような対応をしようと、あなたが殿下に婚約破棄されたことも一時とは言え王族に『国外追放』を言い渡された『罪人』であることに変わりはない。そうなれば、レミット公爵家がどのような対応をするかあなたはすでに分かっているはずだ」
その通りすぎて何も言えなかった。
実際、野垂れ死ぬかもと馬車の中でひっそりと覚悟を決めていたりもしたし。
「大丈夫ですよ」
うっとりとした顔でイスファーンは言う。
「俺があなたを守ってあげます。俺だけがあなたを守れるんです、
それは私の知るイスファーンではなかった。
「これはお母様の命令ではなく、あなたの意思なのね」
「はい」
「では、私の足に嵌められた枷は何?あなたは先程私を守ると言った。ならなぜ鎖で繋ぐの?これではあなたが私に危害を加えないと言っても信じられないわ」
「申し訳ありません。この枷はどうしても必要なのです」
イスファーンは鎖を持ち上げ、キスをする。
「っ」
どうさの一つ一つに艶があり、まるで見てはいけないものを見せられている気分になる。
こんな異様な光景なのにどうしてときめいているのよ。馬鹿じゃないの。
「これがある限り、あなたはもうどこにも行けない。私だけのものです。この部屋の中なら自由に動けるだけの長さはあるので不便はないはずです」
「不便がないですって?こんな窓のない部屋に閉じ込められて?それにドアに近づけないように長さが調整されているみたいだけど?」
「はい」とイスファーンは嬉しそうに笑う。
何も間違えたことはしていないと言わんばかりに。
「ドアには鍵がかかっているのでどのみち部屋から出ることはできません。部屋の外には俺以外の人間がいますからね。あなたの美しい姿を見せるわけにはいかないでしょう」
私の頬を触りながらイスファーンは言う。
「もしちらりとでもあなたの姿を俺以外の人間が見たら嫉妬で殺してしまう」
ぞわりと寒気がした。
彼はどうしてそんなに恐ろしいことを笑顔で言えるのだろう。人の命など何とも思わないのか。
イスファーンが私を大切に思ってくれるように彼らにだって大切な人がいるのに。
「大丈夫ですよ。あなたが私だけのものになってくれたらそんな悲劇は起きませんから」
それは脅迫だ。
顔も名前も知らない複数の人命を人質にとった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ幼馴染が帰ってきたので大人しく溺愛されます

下菊みこと
恋愛
私はブーゼ・ターフェルルンデ。侯爵令嬢。公爵令息で幼馴染、婚約者のベゼッセンハイト・ザンクトゥアーリウムにうっとおしいほど溺愛されています。ここ数年はハイトが留学に行ってくれていたのでやっと離れられて落ち着いていたのですが、とうとうハイトが帰ってきてしまいました。まあ、仕方がないので大人しく溺愛されておきます。

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました

市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。 ……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。 それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?! 上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる? このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!! ※小説家になろう様でも投稿しています

長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ

藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。 そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした! どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!? えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…? 死にたくない!けど乙女ゲームは見たい! どうしよう! ◯閑話はちょいちょい挟みます ◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください! ◯11/20 名前の表記を少し変更 ◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更

美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛

らがまふぃん
恋愛
 人の心を持たない美しく残酷な公爵令息エリアスト。学園祭で伯爵令嬢アリスと出会ったことから、エリアストの世界は変わっていく。 ※残酷な表現があります。苦手な方はご遠慮ください。ご都合主義です。笑ってご容赦くださいませ。 *R5.1/28本編完結しました。数話お届けいたしました番外編、R5.2/9に最終話投稿いたしました。時々思い出してまた読んでくださると嬉しいです。ありがとうございました。 たくさんのお気に入り登録、エール、ありがとうございます!とても励みになります!これからもがんばって参ります! ※R5.6/1続編 美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛 投稿いたしました。再度読み返してくださっている方、新たに読み始めてくださった方、すべての方に感謝申し上げます。これからもよろしくお願い申し上げます。 ※R5.7/24お気に入り登録200突破記念といたしまして、感謝を込めて一話お届けいたします。 ※R5.10/29らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R5.11/12お気に入り登録300突破記念といたしまして、感謝を込めて一話お届けいたします。 ※R6.1/27こちらの作品と、続編 美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れる程の愛(前作) の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.10/29に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R6.11/17お気に入り登録500突破記念といたしまして、感謝を込めて一話お届けいたします。

愛してほしかった

こな
恋愛
「側室でもいいか」最愛の人にそう問われ、頷くしかなかった。  心はすり減り、期待を持つことを止めた。  ──なのに、今更どういうおつもりですか? ※設定ふんわり ※何でも大丈夫な方向け ※合わない方は即ブラウザバックしてください ※指示、暴言を含むコメント、読後の苦情などはお控えください

執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?

陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。 この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。 執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め...... 剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。 本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。 小説家になろう様でも掲載中です。

処理中です...