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第Ⅰ章 私は悪役令嬢
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「‥…殿下」
謹慎からあけて学園に行った。
そこには楽しそうに会話をする殿下とアリシア、それに殿下の側近たちがいた。
「イリス様、お久しぶりです」
「暫く学園を休んでいたので心配しましたわ」
いつもなら遠巻きに私を見ているだけのクラスメイトたちがなぜか今日に限って積極的に私に話しかけてきた。
「イリス様、見てください。アリシア様ったらイリス様がいないからと殿下にあのように親し気に」
「イリス様の婚約者ですのに」
「よろしいんですか、イリス様」
「ここはお姉様として常識を教えるべきではございませんの」
ああそうか。
殿下の婚約者の座が欲しんだ。
一番邪魔なのは私。私さえ排除すればいいと思っていたところにまさかの伏兵が現れた。
アリシアを排除するために私を使おうと考えたのだ。
「人様の家のことに他人がとやかく言うのは些か無礼ではありませんか?」
私の言葉に彼女たちは扇で口元を隠した。それでも彼女たちが私を笑っているのは雰囲気で分かる。
「私たちはイリス様のことを心配しているだけですわ。イリス様は大切なクラスメイトですもの」
嘘つき。
私のことを貶してるくせに。アスファルトの血が混じった信用できない貴族。白磁の肌を持たない汚れた娘だと陰口を叩いているくせに。
「イリス様だって気に入らないのでしょう。その証拠にアリシア様に手をあげられたとか」
野蛮ねぇという蔑みの言葉が含まれていた。
人を利用しようと言う時でさえ見下すことを忘れないのね。
「ここはイリス様が毅然とした態度で」
「何様なの?」
「えっ?」
「公爵家の令嬢である私に指図をするなんて何様なのかと聞いているの」
さすがにまずいと思ったのか令嬢たちは黙ってしまった。そんな彼女たちを鼻で笑って私は学園を出た。
「お嬢様、どうされたんですか?」
学園に着いたばかりで帰ってきた私にイスファーンは驚いていた。
母は一日中留守だから私が学園をサボったことはバレないだろう。
「別に、何でもないわ」
「誰がお嬢様を不快にさせたんですか?教えてください。すぐに処分してきます」
「イスファーン‥…」
「冗談です」
そう言って笑ったイスファーンの目は笑ってはいなかった。ぞくりと闇に飲み込まれる恐怖が私を襲った。
「どうかしましたか?」
「いいえ、何でもないわ」
私は気のせいだと首を振って何にも気づかないふりをした。
もしこの時、彼の狂気に気づいていたら私の運命はどのように変わっていたのだろうか。この先の運命に従者である彼が大きく関わって来るなんてこの時の私は夢にも思わなかった。
「イスファーン、私が早退したこと、お母様には内緒にしてね」
「もちろんです。お嬢様、覚えておいてくださいね。何があろうと俺はあなたの味方です。俺だけはあなたを裏切りません」
「‥‥‥」
どうしてだろう。
涙が出そうになった。
「人の心は移ろうものよ」
私は顔を見られたくなくて下を向いた。涙を堪える為に敢えて酷い言葉をイスファーンに放った。それでも彼は怒らずに断言する。
「俺の心があなた以外に向くことはありません」
まるで恋人に告白するような言葉だ。
私の婚約者がイスファーンだったらこんなに苦しむこともなかっただろうな。
謹慎からあけて学園に行った。
そこには楽しそうに会話をする殿下とアリシア、それに殿下の側近たちがいた。
「イリス様、お久しぶりです」
「暫く学園を休んでいたので心配しましたわ」
いつもなら遠巻きに私を見ているだけのクラスメイトたちがなぜか今日に限って積極的に私に話しかけてきた。
「イリス様、見てください。アリシア様ったらイリス様がいないからと殿下にあのように親し気に」
「イリス様の婚約者ですのに」
「よろしいんですか、イリス様」
「ここはお姉様として常識を教えるべきではございませんの」
ああそうか。
殿下の婚約者の座が欲しんだ。
一番邪魔なのは私。私さえ排除すればいいと思っていたところにまさかの伏兵が現れた。
アリシアを排除するために私を使おうと考えたのだ。
「人様の家のことに他人がとやかく言うのは些か無礼ではありませんか?」
私の言葉に彼女たちは扇で口元を隠した。それでも彼女たちが私を笑っているのは雰囲気で分かる。
「私たちはイリス様のことを心配しているだけですわ。イリス様は大切なクラスメイトですもの」
嘘つき。
私のことを貶してるくせに。アスファルトの血が混じった信用できない貴族。白磁の肌を持たない汚れた娘だと陰口を叩いているくせに。
「イリス様だって気に入らないのでしょう。その証拠にアリシア様に手をあげられたとか」
野蛮ねぇという蔑みの言葉が含まれていた。
人を利用しようと言う時でさえ見下すことを忘れないのね。
「ここはイリス様が毅然とした態度で」
「何様なの?」
「えっ?」
「公爵家の令嬢である私に指図をするなんて何様なのかと聞いているの」
さすがにまずいと思ったのか令嬢たちは黙ってしまった。そんな彼女たちを鼻で笑って私は学園を出た。
「お嬢様、どうされたんですか?」
学園に着いたばかりで帰ってきた私にイスファーンは驚いていた。
母は一日中留守だから私が学園をサボったことはバレないだろう。
「別に、何でもないわ」
「誰がお嬢様を不快にさせたんですか?教えてください。すぐに処分してきます」
「イスファーン‥…」
「冗談です」
そう言って笑ったイスファーンの目は笑ってはいなかった。ぞくりと闇に飲み込まれる恐怖が私を襲った。
「どうかしましたか?」
「いいえ、何でもないわ」
私は気のせいだと首を振って何にも気づかないふりをした。
もしこの時、彼の狂気に気づいていたら私の運命はどのように変わっていたのだろうか。この先の運命に従者である彼が大きく関わって来るなんてこの時の私は夢にも思わなかった。
「イスファーン、私が早退したこと、お母様には内緒にしてね」
「もちろんです。お嬢様、覚えておいてくださいね。何があろうと俺はあなたの味方です。俺だけはあなたを裏切りません」
「‥‥‥」
どうしてだろう。
涙が出そうになった。
「人の心は移ろうものよ」
私は顔を見られたくなくて下を向いた。涙を堪える為に敢えて酷い言葉をイスファーンに放った。それでも彼は怒らずに断言する。
「俺の心があなた以外に向くことはありません」
まるで恋人に告白するような言葉だ。
私の婚約者がイスファーンだったらこんなに苦しむこともなかっただろうな。
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