名無し令嬢の身代わり聖女生活

音無砂月

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「ここまで来れば大丈夫かな」
どさくさに紛れて何とか逃げ出せた。
「どうしよう」
死にたくない一心で逃げ出したけど私が今いるのは森の中だ。
薬の過剰摂取で体調も良くない。森の中を下手に動き回れば遭難するし、もしかしたらまだ魔物がいるかもしれない。でも、戻ったところで処刑だろう。
当然だ。
聖女を偽るなんて大罪だもの。きっと公爵たちは私を切り捨てる。ならば、まだ生き残れる可能性のある逃亡を選択するしかない。
一緒に来た騎士の人達には迷惑をかけることになるけど、ディランには私が偽聖女だってバレているから問題はないだろう。きっと軽い罪ですみはずだ。
「気持ちが悪い」
足ももう殆ど動かない。私は偶然見つけた洞窟の中に入って休むことにした。
何の準備もできていないうえでの逃亡なので当然、水も食事も暖を取る為の道具すら持っていなかった。
私は体を丸めて少しでも寒さから逃れようとした。

◇◇◇

ふわふわ。暖かい。
はっと目を覚ますとまず先に目に入ったのは真っ白な毛皮。
「えっ」
体を起こして見てみると三メートルぐらいはある大きな狼がまるで子供を守るように私を包んでいた。
危険な感じはしなかった。だからこのまま休ませてもらおうと思い、私は再び目を閉じた。

◇◇◇
ディラン視点

「ホロ」
『ディランか』
逃げるとは思わなかった。大人しかったから。それにそんな体力も残っていないから。油断した。事後処理に追われて少し目を放した隙に逃げられた。
遠くには行けていないはずだと痕跡を辿ってここまで辿り着いた。
するとなぜか聖獣であるホロが聖女アニスを守るように寄り添っていた。
「なぜあなたがここに?」
『清らかな魂に導かれた故だ』
聖獣が惹かれるほどの清らかな魂。彼女は下手したら罪人として裁かれるかもしれないのに。聖獣に好かれたとなればそう簡単に裁くことはできない。
そもそも聖獣は罪人の味方はしない。
これは面倒なことになったな。
「連れて帰ったも?」
『構わんが、かなりの毒物が体内に入っていたので浄化をしておいた』
恐らく魔力回復薬と増幅薬のことだろう。
厳密に言えば毒ではないが、適正量を大幅に超えて摂取していたので毒になってしまったのだろう。
「ありがとうございます」
深く眠る聖女アニスの顔色は逃亡前よりも幾分か良くなっていた。
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