15 / 27
15
しおりを挟む
side.エリザベート
「お兄様、どうしてあの女に何のお咎めもなさらないのですか」
学校にドラゴンが入り込んだ。それも二匹。
二匹とも私を狙っていた。原因は分かっている。
ドラゴンは生物の中で最強を誇る強さを持ち、人間と同じくらい賢いと言われている。
けれど、警戒心の強いドラゴンは人に懐くことはなく飼いならすことは無理だと言われている。
でも、子供の頃から育てたら?
刷り込みできっと懐くはず。ドラゴンは愛情深い生き物だと言われている。だから私はまだ警戒心の緩いドラゴンの子供を誘い込み、捕えた。
ドラゴンは鉱物が好きだと言われているから餌は私の持っている宝石たち。
案の定、ドラゴンの子供はあっさりと誘い込まれた。
ドラゴンを飼いならして魔物討伐に向かわせればきっとみんなが私に注目を集めるはず。
あの傲慢で我儘で、貴族の癖に王族を見下す似非聖女の鼻を明かしてやろうと思った。まさか、子供を取り返しに学校に侵入するなんて。そもそも私が子供を盗んだとバレるなんて思ってもいなかった。
でも、大丈夫。
ドラゴンにバレたからって他の人間にバレるわけがない。それよりも問題ないのは学校でのアニスの行動だ。
「体を張り、命がけで生徒を守る為に戦った聖女をなぜ咎めなければならない」
茶色髪に王家の証である金色の目をした獰猛な獣のような雰囲気を持つ男。彼は私の兄であり現国王ガイオン。
王様だけど私は正妻の子で、彼は妾の子。正統な血筋は私の方よ。だから私の方が立場は上。
「あの女は避難しようとした私を止めたのよ。本来なら誰よりも優先して守られなければならない私をあの女は守ろうともしなかった。殺す気だったのよ!この高貴な血筋の私を」
なのに、兄は興味なさげに書類と睨めっこ。可愛い妹よりも紙の方が大事だって言うの。
「お前の周りには結界が張られていた。殺す気ならドラゴンの前に突き出している」
「そ、それは。じゃあ、きっと意地悪をしたのね。なんて悪質な意地悪なの」
一歩間違えたら死んでいた。
だと言うのに兄は私を心配する素振りさえ見せない。正妻の子である私の身に何かあれば正統な王家の血が途絶えるというのに。兄はこの重大さが分かっていないのだろうか。
私が死に、兄だけになったら汚れた血のみが受け継がれるのよ。
「ドラゴンはお前を目掛けて狙ってきた。アニスが止めなければ生徒の被害が出ていたかもな」
は?何言っているの。他の生徒なんてどうでもいいじゃない。大事なのは正統血を引く私でしょう。
私を守る為ならそれ以外の人間が何人死のうがどうでもいいじゃない。
「なぜドラゴンはお前を狙った?」
兄の目が私を捉える。ネズミを弄び殺す猫のような。猫というより獅子と言った方がしっくりくる獰猛さだけど。
「そんな私が知るわけないじゃない」
「ドラゴンは愛情深い生き物だ。お前、ドラゴンの子供を盗んだな」
「なっ!」
「自分が招いた上にその場で呑気に気絶をしていた愚鈍なお前に一応説明してやろう。ドラゴンはドラゴン用の麻酔で眠らせ、森に返した。お前の部屋から発見された子供も帰した。当然だが、愛情深いドラゴンが自分の子供を誘拐した人間を許すわけがない。だが、唯一許される方法がある」
ドカドカと騎士が兄の執務室に入って来た私を床に抑えつけた。
「ちょっ、何するのよ!放しなさい。私を誰だと思っているのよ。私は」
私の言葉を兄が代わりに言う。
「『正統な王家の血筋の持ち主』?」
「はっ」と兄は鼻で笑った。
「それしか価値がない‥‥いや、それすらも価値がない愚かな娘だ。連れて行け」
兄の命令に従った騎士が私を連行する。私がいくら命令して聞いてはくれない。
信じられない。
いくら兄が国王だからって正統な血筋の私の命令よりも重視されるなんてどうかしてる。頭に蛆でもわいてるんじゃないの。
そして私は手足を縛れたままドラゴンの縄張りになるギリギリのラインの所で放り出された。
ここまで乗せられた馬車は生まれて初めて乗ったおんぼろ馬車。
おかげで身動きがとれない私は体のあちこちをぶつけてかなり痛い。
「ひっ」
騎士たちは馬車から私を放り出し、さっさと行ってしまった。
私も今の状況がかなりまずいというのは分かっている。
家族や強欲な人間に貶められて非業の死を遂げた悲運な王女の話はたくさんある。まさか、自分がそうなるとは思いたくなかった。
けれど後ろから感じる圧が嫌でも私の今後の未来を予見させてしまう。
「あっ、あっ」
私は地面をはいずり何とか距離を取ろうとしたけど、足をがぶりと噛まれた。
「いやあ゛っ!痛い。放しないよ」
私の足を噛んだのは赤いドラゴンだった。赤いドラゴンは私を持ち上げて、何をするのかと涙目で見つめるとそのまま木に叩きつけた。
「ぐへっ」
どうやら手加減しているようで楽には死なせてくれないようだ。
「だずげてぇ。おに゛ざまぁ。ゆるじてあげるがら、おねがいぃ」
ドラゴンの鋭い爪が私の背中をひっかいた。
「ぎゃあっ」
次は頬、胸、腹部。深くはないけど、確実に痕が残るようにドラゴンは私に体に傷をつけて行く。
私を痛めつけて楽しんでいるようだった。
「もう、ごろじでぇ」
喉が潰れ、最後に発せられたのがその言葉だった。けれど非情なドラゴンは私を殺してはくれなかった。
「お兄様、どうしてあの女に何のお咎めもなさらないのですか」
学校にドラゴンが入り込んだ。それも二匹。
二匹とも私を狙っていた。原因は分かっている。
ドラゴンは生物の中で最強を誇る強さを持ち、人間と同じくらい賢いと言われている。
けれど、警戒心の強いドラゴンは人に懐くことはなく飼いならすことは無理だと言われている。
でも、子供の頃から育てたら?
刷り込みできっと懐くはず。ドラゴンは愛情深い生き物だと言われている。だから私はまだ警戒心の緩いドラゴンの子供を誘い込み、捕えた。
ドラゴンは鉱物が好きだと言われているから餌は私の持っている宝石たち。
案の定、ドラゴンの子供はあっさりと誘い込まれた。
ドラゴンを飼いならして魔物討伐に向かわせればきっとみんなが私に注目を集めるはず。
あの傲慢で我儘で、貴族の癖に王族を見下す似非聖女の鼻を明かしてやろうと思った。まさか、子供を取り返しに学校に侵入するなんて。そもそも私が子供を盗んだとバレるなんて思ってもいなかった。
でも、大丈夫。
ドラゴンにバレたからって他の人間にバレるわけがない。それよりも問題ないのは学校でのアニスの行動だ。
「体を張り、命がけで生徒を守る為に戦った聖女をなぜ咎めなければならない」
茶色髪に王家の証である金色の目をした獰猛な獣のような雰囲気を持つ男。彼は私の兄であり現国王ガイオン。
王様だけど私は正妻の子で、彼は妾の子。正統な血筋は私の方よ。だから私の方が立場は上。
「あの女は避難しようとした私を止めたのよ。本来なら誰よりも優先して守られなければならない私をあの女は守ろうともしなかった。殺す気だったのよ!この高貴な血筋の私を」
なのに、兄は興味なさげに書類と睨めっこ。可愛い妹よりも紙の方が大事だって言うの。
「お前の周りには結界が張られていた。殺す気ならドラゴンの前に突き出している」
「そ、それは。じゃあ、きっと意地悪をしたのね。なんて悪質な意地悪なの」
一歩間違えたら死んでいた。
だと言うのに兄は私を心配する素振りさえ見せない。正妻の子である私の身に何かあれば正統な王家の血が途絶えるというのに。兄はこの重大さが分かっていないのだろうか。
私が死に、兄だけになったら汚れた血のみが受け継がれるのよ。
「ドラゴンはお前を目掛けて狙ってきた。アニスが止めなければ生徒の被害が出ていたかもな」
は?何言っているの。他の生徒なんてどうでもいいじゃない。大事なのは正統血を引く私でしょう。
私を守る為ならそれ以外の人間が何人死のうがどうでもいいじゃない。
「なぜドラゴンはお前を狙った?」
兄の目が私を捉える。ネズミを弄び殺す猫のような。猫というより獅子と言った方がしっくりくる獰猛さだけど。
「そんな私が知るわけないじゃない」
「ドラゴンは愛情深い生き物だ。お前、ドラゴンの子供を盗んだな」
「なっ!」
「自分が招いた上にその場で呑気に気絶をしていた愚鈍なお前に一応説明してやろう。ドラゴンはドラゴン用の麻酔で眠らせ、森に返した。お前の部屋から発見された子供も帰した。当然だが、愛情深いドラゴンが自分の子供を誘拐した人間を許すわけがない。だが、唯一許される方法がある」
ドカドカと騎士が兄の執務室に入って来た私を床に抑えつけた。
「ちょっ、何するのよ!放しなさい。私を誰だと思っているのよ。私は」
私の言葉を兄が代わりに言う。
「『正統な王家の血筋の持ち主』?」
「はっ」と兄は鼻で笑った。
「それしか価値がない‥‥いや、それすらも価値がない愚かな娘だ。連れて行け」
兄の命令に従った騎士が私を連行する。私がいくら命令して聞いてはくれない。
信じられない。
いくら兄が国王だからって正統な血筋の私の命令よりも重視されるなんてどうかしてる。頭に蛆でもわいてるんじゃないの。
そして私は手足を縛れたままドラゴンの縄張りになるギリギリのラインの所で放り出された。
ここまで乗せられた馬車は生まれて初めて乗ったおんぼろ馬車。
おかげで身動きがとれない私は体のあちこちをぶつけてかなり痛い。
「ひっ」
騎士たちは馬車から私を放り出し、さっさと行ってしまった。
私も今の状況がかなりまずいというのは分かっている。
家族や強欲な人間に貶められて非業の死を遂げた悲運な王女の話はたくさんある。まさか、自分がそうなるとは思いたくなかった。
けれど後ろから感じる圧が嫌でも私の今後の未来を予見させてしまう。
「あっ、あっ」
私は地面をはいずり何とか距離を取ろうとしたけど、足をがぶりと噛まれた。
「いやあ゛っ!痛い。放しないよ」
私の足を噛んだのは赤いドラゴンだった。赤いドラゴンは私を持ち上げて、何をするのかと涙目で見つめるとそのまま木に叩きつけた。
「ぐへっ」
どうやら手加減しているようで楽には死なせてくれないようだ。
「だずげてぇ。おに゛ざまぁ。ゆるじてあげるがら、おねがいぃ」
ドラゴンの鋭い爪が私の背中をひっかいた。
「ぎゃあっ」
次は頬、胸、腹部。深くはないけど、確実に痕が残るようにドラゴンは私に体に傷をつけて行く。
私を痛めつけて楽しんでいるようだった。
「もう、ごろじでぇ」
喉が潰れ、最後に発せられたのがその言葉だった。けれど非情なドラゴンは私を殺してはくれなかった。
1
お気に入りに追加
1,469
あなたにおすすめの小説
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
黎
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

とりかえばや聖女は成功しない
猫乃真鶴
ファンタジー
キステナス王国のサレバントーレ侯爵家に生まれたエクレールは、ミルクティー色の髪を持つという以外には、特別これといった特徴を持たない平凡な少女だ。
ごく普通の貴族の娘として育ったが、五歳の時、女神から神託があった事でそれが一変してしまう。
『亜麻色の乙女が、聖なる力でこの国に繁栄をもたらすでしょう』
その色を持つのは、国内ではエクレールだけ。神託にある乙女とはエクレールの事だろうと、慣れ親しんだ家を離れ、神殿での生活を強制される。
エクレールは言われるがまま厳しい教育と修行を始めるが、十六歳の成人を迎えてもエクレールに聖なる力は発現しなかった。
それどころか成人の祝いの場でエクレールと同じ特徴を持つ少女が現れる。しかもエクレールと同じエクレール・サレバントーレと名乗った少女は、聖なる力を自在に操れると言うのだ。
それを知った周囲は、その少女こそを〝エクレール〟として扱うようになり——。
※小説家になろう様にも投稿しています

(完)聖女様は頑張らない
青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。
それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。
私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!!
もう全力でこの国の為になんか働くもんか!
異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)
セカンドバージンな聖女様
青の雀
恋愛
公爵令嬢のパトリシアは、第1王子と婚約中で、いずれ結婚するのだからと、婚前交渉に応じていたのに、結婚式の1か月前に突然、婚約破棄されてしまう。
それというのも、婚約者の王子は聖女様と結婚したいからという理由
パトリシアのように結婚前にカラダを開くような女は嫌だと言われ、要するに弄ばれ捨てられてしまう。
聖女様を名乗る女性と第1王子は、そのまま婚前旅行に行くが……行く先々で困難に見舞われる。
それもそのはず、その聖女様は偽物だった。
玉の輿に乗りたい偽聖女 × 聖女様と結婚したい王子 のカップルで
第1王子から側妃としてなら、と言われるが断って、幸せを模索しているときに、偶然、聖女様であったことがわかる。
聖女になってからのロストバージンだったので、聖女の力は衰えていない。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている
五色ひわ
恋愛
ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。
初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。


婚約破棄された令嬢は、隣国の皇女になりました。
瑞紀
恋愛
婚約破棄された主人公アイリスが、復興した帝国の皇女として、そして皇帝の婚約者として奮闘する物語です。
前作「婚約破棄された令嬢は、それでも幸せな未来を描く」( https://www.alphapolis.co.jp/novel/737101674/537555585 )の続編にあたりますが、本作だけでもある程度お楽しみいただけます。
※本作には婚約破棄の場面は含まれません。
※毎日7:10、21:10に更新します。
※ホトラン6位、24hポイント100000↑お気に入り1000↑、たくさんの感想等、ありがとうございます!
※12/28 21:10完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる