名無し令嬢の身代わり聖女生活

音無砂月

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「っ」
公爵家の地下
体調を回復させた私は公爵夫人に鞭で打たれた。
「この程度で体調を崩すなんて本当に役立たずね。アニスとは大違いだわ」
「申し訳ありません」
背中に衝撃が走る。
鞭打ちが開始されてからどれくらい経っただろうか。
もう感覚が麻痺して痛みさえ感じなくなってきた。
鞭で打たれる背中は皮膚が裂けているところもある。それでも公爵夫人による罰は終わらなかった。
「あの程度の任務でばてるなど聖女としてあり得ないことよ。あなたはどれだけ私たちを失望させればすむのっ!この役立たずの出来損ない。何の為にお前のようなガラクタを今まで飼ってやったと思っているの。あなたは恩を返すことすらできないの。それとも本来なら生まれた瞬間に殺されてもおかしくはなかったお前をわざわざここまで育ててやった私たちに対して恩すらも感じていないのかしら。この薄情者」
「いいえ、そのようなことはありません。とても感謝しております」
「ならば少しは役に立ってみなさい」
「はい、お母様」
逆らえば、口答えすれば鞭で打たれる時間は長くなるので私はただひたすら耐えた。
鞭打ちの罰が終わった私は部屋で休んだ。
聖女の力は自分には利かないので自然治癒を待つしかない。公爵夫人が医者を呼んでくれるわけがない。それに聖女の体が実は傷だらけなんて知られるわけにはいかないのなら尚更。

◇◇◇

「暫く大人しいと思ったらまた聖女様のさぼり癖が始まったようね」
ズキズキと痛む背中には血が漏れないように何重にも包帯をしている。
痛みに堪えながら学校に行くと周囲の生徒からそんな言葉が聞こえた。
「聖女様はいいわよね。学校を好きな時に好きなだけサボれて」
数日、学校を休んだのは本当に体調が悪かったからだ。けれど、アニスは学校をさぼりがちだったようだ。それは知らなかった。アニスが死ぬまで私は地下牢に等しい場所に居たから。
私が偽物だと知らない彼らが、仮病を使ったのだと思っていても仕方がないことだ。彼らに事情を話すわけにはいかないのだから。
叶うならばこの現状がどうか公爵夫妻の耳に入りませんように。
彼女たちのことだ。全てはアニスではなく私が招いた結果だと思うだろう。
そう考えるとため息が漏れた。
「聖女様、顔色が優れないようでしたら保健室に行かれますか?」
今日の護衛はリュウだ。
化粧で隠した顔色を読み取って保健室行きを勧めてくれる。とても魅惑的な提案だけど‥…。
私は周囲に視線を向ける。私が聖女で公爵家の人間だから表立っては何も言って来ないけど好意的ではない視線を感じる。
今ここで保健室に行ってもサボりと思われるだけだろう。
アニスに好意的な人間がいない以上、事実とは違ったとしても誤解されるような動きは取るべきではない。どんな噂が公爵夫妻の耳に入るか分からないのだから。
「いいえ、問題ないわ」
私がそう言えばリュウは食い下がっては来なった。
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