名無し令嬢の身代わり聖女生活

音無砂月

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1.私が「アニス」になった日

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アドリス公爵家
代々、聖女を輩出してきた家系
聖女だけが使える光魔法は戦闘向きではないが瘴気で汚れた土地を浄化したり、治癒魔法で人を救うことができる。
そんなアドリス公爵家に双子の女の子が生まれた。
白銀の髪、右目は琥珀色、左目はアクアマリンをはめ込んだような神秘的な色をした女の子だった。
二人ともそっくりで両親すら見分けることができないほどだった。
ただ、一人は聖女に相応しいだけの魔力量を有し、もう一人は魔力含有量がとても少ない子だった。
その為、一人はアニスと名付けられ可愛がられてきたがもう一人は名前すらつけられずにアニスのスペアとして生かされた。


◇◇◇

アニスが死んだ。
足を滑らせて階段から落ちて首の骨を折って死んだ。幸い、目撃者はいなかった。
「今日からあなたがアニスよ」
私は地下から出されて母にそう言われた。
白銀の髪に青い目をした綺麗だけど、とても冷たい印象の女の人だった。
「はい、アドニス公爵夫人様」
バシンっ
頬に強い衝撃があった。叩かれたのだと少し遅れて理解した。
「お母様と言いなさい。あなたが今日からアニスなのだから。いい?分かったわね」
「はい、お母様」
マナーや勉強に関しては公爵夫人‥‥お母様が縁戚から雇った家庭教師が厳しく指導してくれたので何も問題はない。
その家庭教師には私のことを言わないように言ってある。べらべら話さないように縁戚から雇ったのだから私の存在が知られることはない。だから成り代わったなんて誰も思わないだろう。
私は地下から出され、アニスの人間関係などの情報を頭に叩き込まれて学校へ行くことになった。
学校に行く日、邸の前に一台の馬車が止まった。
馬車の横に刀剣のような鋭さを持った綺麗な顔の男の人が立っていた。
長い黒髪を上で結った男の人は私を視認すると軽く頭を下げる。
リュウ・ランベグス。
ルトアニア王国国王ガイオンの従弟。国王直属の近衛騎士で現在は聖女であるアニスの護衛を務めている。
私はお母様から詰め込まれた情報を思い浮かべながら馬車に乗る。
そんな私をリュウはじっと見つめていた。
どこかおかしかっただろうか。でも、何も言って来ないから大丈夫よね。
私が馬車に乗るとリュウも馬車に乗り込んだ。リュウは私の向かいに座り、じっと私を見つめる。
‥‥・気まずい。
バレているのかな。それとも、これが普通なのかな。
お母様が教えてくれたアニスと私の知っているアニスがあまりにも違い過ぎてどう振る舞ったらいいか分からない。
お母様はアニスはとても優しくて淑女の鑑だと言っていた。
でも、少なくとも私の知っているアニスは優しくなんかなかった。
アニスは両親の前だけそう振る舞っていたのかな。それとも、みんなの前でも振る舞っていたのかな。
気まずい空気のまま馬車は学校に着いた。
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