義弟に婚約者を奪われ、悪女として断罪されましたがなぜか邪神に溺愛されハッピーエンド？を迎えることになりました🐍

21.徳は孤ならず、必ず隣にあり

side .リリー

「ねぇ、聞いた？ロヴァル子爵令嬢のこと」
「友達の令嬢の悪評を広めたってやつでしょう。怖いわねぇ。友人面して影で貶めるなんて」
「それが、ちょっと違うみたいなのよ」
「どういうこと？」
「彼女自身に悪気はなかったみたいなの。現に、グランチェ子爵令嬢のことを悪く言っているような決定的な場面がないのよ」
「わざとじゃないの？」
「それが違うのよ。食堂でグランチェ子爵令嬢と仲違いする場面を見ちゃったんだけど。どうも、本当に悪気があったわけじゃないみたいなの。不用意な発言で何度も傷つけているみたいだし」
「じゃあ、単に頭が足りないってこと？」
「そうみたいよ」
「貴族として終わってるわね」
「ええ、あまり関わり合いがないからどういう子か知らないけど、近づかない方がいいわね。悪意なく悪評を広めるって、厄介じゃない」
「それもそうね」
よく知りもしない連中が好き勝手ほざきやがって。

「リリー、悪いけどもう二度と私たちに話しかけないで」
「私たちまで悪評を広められたら困るのよ」
「今まで友人だと思っていたのに、影でそんなことをしていたなんて信じられないわ。悪意がないからって許されることじゃないのよ。最低だわ」
「家のことも含めて今後の付き合いは考えさせてもらう」
何よ。私がフィオナの話しをする度に嬉しそうに聞いてたくせに。嬉々として醜聞を広めておいて、自分たちは清廉潔白だとでも言いたいの？
不細工のクセに。地味で、モテないあんたらを可愛い私がわざわざ友達に選んであげたのに。
容姿だけではなく、心も不細工なのね。本当、最低だわ。
「リリー」
あ゛あ゛ーっ！もうっ！
どうしてこういう時に声をかけるのよ。やめてよね。余計イラつくじゃない。間の悪い男ね。本当に何もかもが気に食わない。
「ねぇ、私言ったわよね。学校で気安く話しかけないでって。子供でも守れる言いつけよね。犬だって待てができるのよ。それができないあなたは畜生以下ってことかしら？」
「ご、ごめん。でも、その、心配で」
は？マジでムカつく。
「あんたに心配される筋合いないけど」
「でも、婚約者だし」
「やめてっ！」
誰かに聞かれたらどうすんのよ。こんな冴えない男が私の婚約者？いい笑い者じゃない。
私の美貌なら高位貴族の妻だって狙える。あのフィオナでさえ伯爵令息と婚約できたのよ。まぁ、魅力が足りなくて義弟に横取りされてはいたけど。フィオナって本当、間抜けね。
フィオナにできたのなら私だって。最低でも同じ伯爵家。でも、私ならそれ以上の家と婚約することだって可能よ。私の父が、野心のない能無しでさえなければ。全く。何が同じ階級か下の階級なら気兼ねなく暮らせるよ。冗談じゃない。娘の幸せもろくに考えられないなんて。
「あんたと婚約しているなんて周りに知られたくないの」
「ご、ごめん」
そのどもりながら喋られるのもイラつくのよね。まるで私が彼をいじめているみたいじゃない。
「グ、グランチェ子爵令嬢と仲直りしたの？」
「は？何をどう聞いたか知らないけど、喧嘩なんかしてないから」
まさか私に頭を下げろとか言わないわよね。もし、言ったらただじゃあおかないんだから。
「そ、そうなんだ。あの」
「ねぇ、もうどっかに行ってくれない？これ以上、あんたと一緒にいるの、耐えられないんだけど」
「ご、ごめん。でも、この話しだけは聞いてほしい」
「まさか、婚約破棄とか言わないでしょうね？」
「ち、違うよ」
首がもげるんじゃないかというぐらい首を横に振られてもきもいだけだから。
まぁ、あんたから婚約破棄なんてあり得ないものね。この私と婚約できるっていう贅沢を不満に思うことなんて一つもないでしょう。婚約破棄をするとしても、あんたからじゃない。私からよ。あんたは選んでもらう側。私は選ぶ側なんだから。ああ、でも勘違いされるのは嫌だから一応言っておく。こいつを側においているのは私の趣味じゃない。父の趣味だから。あのダサい服もそう。
「グランチェ子爵令嬢とあまり関わらない方がいいよ」
「どういう意味よ」
「彼女、トラント伯爵令息と仲がいいみたいなんだ」
は？何それ。婚約者がいながら不貞を働いているの？
「トラント伯爵令息って、なんだか不気味だよね。あまり関わらない方がいいって感じがする。僕の勘は当たるんだ。絶対に。だからもうこれ以上は関わらない方がいい」
私は婚約者の話しをほとんど聞いていなかった。聞いていたらあの結末は変えられたかもしれないけど、私はそれよりもフィオナが既に新しい相手を見つけていることに怒りを感じていて。どうでもいい男のどうでもいい話しなんて聞く価値もないから。

◇◇◇

side .クロヴィス

リリーの婚約者、キャンベル・ココはリリーと別れた後、人気のない場所に行きメガネを外す。外されたメガネは適当に放り投げる。それを拾いに行った使用人には捨てるように命じた。
だって必要がないから。
彼の容姿は平凡なものから女神と称される美貌に変わり、茶色の髪は黒へと変わった。そこに現れたのはクロヴィスだった。
そう、リリーの婚約者であるキャンベル・ココはクロヴィス化けた姿だったのだ。
「単純な女。たかが婚約者の身分が上か下かで劣等感を抱き、フィオナにまで手を伸ばすなんて」
くだらない女だ。
「ああ、フィオナに会いたい」
でもその前に風呂に入らなければ。触れられてはいないけど、リリー・ロヴァルと同じ空間にいた体をフィオナに目に映したくはない。
「フィオナ、君の周りにいる人間は碌でもない奴らばかりだ。でも、大丈夫。俺が君を害する者は排除するから。君は好きな場所で好きなだけ甘えたらいい」
ああ、夜になれば夢を渡って彼女に会いに行ける。それまでに風呂に入って、準備をしなければ。
「フィオナ、たくさん甘やかしてあげるよ」
君の心はいい感じに黒く染まっていっている。これで、君が俺のモノになるのも時間の問題だ。そうなれば、この国はどうしよう。
フィオナが気に入っている一部の区画だけは残して後は消滅させようかな。
「とてもいい考えだ。ああ、でも、そうなればリリーはどうしよう。彼女はフィオナを傷つけた。でも、その報いを受けるかのように、彼女への嫌がらせが続くようになった。フィオナは助けなかった。
誰もリリーを助ける人はいない。
リリー・ロヴァル、君に徳があれば人は離れていかなかったかもしれないのに。一人も残らないところを見るに、人徳がなかったのだろう。