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第三章

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「なんて愚かなの」
私は今、暗い倉庫の中にいた。
食堂でひと悶着合った後は特に問題なく終業時間を迎えた。
通常通り徒歩で帰宅中に数人の男に囲まれ、倉庫に閉じ込められた。
周囲には人がいたがみんな関わり合いになりたくないとばかりに視線をそらした。
屈強な男どもが数人もいれば恐怖で動けなくなるのは当然だろう。
だから私は私を助けなかった彼ら、彼女たちを恨んだりはしない。
「何か言ったか?」
「さぁ、自分の不幸に絶望でもしてんじゃねぇの。俺たちはラッキーだけどな」
そう言ってゲラゲラと笑う男たちの目的は明らかだ。
問題は誰に雇われたか。
たまたま私に目をつけただけなのか、伯爵家か私個人に恨みを持つ誰かの仕業なのか。
「大人しくしろよ、嬢ちゃん」
「そうそう。大人しくいい子にしてらた痛い思いはせずにすむんだからな」
そう言って男の一人が私の頭を撫でる。
たったそれだけなのに鳥肌が立ち、体が小刻みに震える。
震えるな。怯えるな。彼を喜ばせるだけだと自分に言い聞かせても身体は思うようにいかない。
冷静になろうと必死に視線を巡らせる。
何か武器になるものはないだろうか。
「可哀そうに、震えてやがる。大丈夫だぜ、ちゃぁんと優しくするからよ」
そう言って声を上げて笑う男たちの姿が余計に恐怖心を煽る。
どうにかして逃げようと考えていると手に何か当たった。
視線を向けてみると木の棒だ。
私は咄嗟にそれを掴んで男の頭を殴り、倉庫の入り口に向かう。
「いってぇ。ふざけんなよ、このアマぁ」
「っ」
ダメ、追いつかれる。
殴られる。
恐怖で足がもつれ、転びそうになった。そんな私を捉えようと男の手が伸びた。
男の手が私を掴もうとした瞬間、なぜか私を追いかけていた男は背後に吹っ飛んでいった。そして私は温かい腕の中に閉じ込められている。
先ほどのように鳥肌が立つことはない。
慌てて来たことが分かるぐらい息が荒れ、心臓の鼓動も早い。
「‥…っ」
名前を呼ぼうとしたけれど涙がこみ上げ、口から嗚咽が漏れるばかりで何も言えなかった。
「もう、大丈夫だよ」
そう言って私を抱きしめるのはこの世界で一番信用できる、安心できる人だった。
ルルーシュ。
彼がなぜここにいるのかは知らない。分からないが、私は助かったんだ。そう思うと足の力が抜け、立つことができなかった。
情けないと思うのに、私は彼に縋ることしかできない。
「後はお願いします」
「はい」
ルルーシュは誰かにそう命じて私を抱き上げた。そして彼の家の紋章が入った馬車に乗る。私の意識はそこで途絶えてしまった。
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