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23.二人だけの檻
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私は今、リエンブールにいる。
故郷であるカールマン王国はエーベルハルトの裏切りにより陥落。
彼はリエンブールではウィシュナー伯爵という身分を得ていた。元々はエーベルハルトと縁もゆかりもない人の身分らしい。どんな理由があるにせよ騎士が国を裏切って情報を流すのはよろしくないし、エーベルハルトの立場も悪くなるからということで用意された身分らしい。
エーベルハルトの身分はカールマンでも伯爵だったから名前が変わるだけだと何でもないことのように言っていた。
彼はあまり自分のことに頓着しない。だから時々、ふと気がついたらいなくなっていそうで怖いと思うことがある。
目を離した隙に死んでいるのではないかという不安がある。
「リズ、戦争の立役者ということで暫く休暇を貰ったんです」
嬉しそうにエーベルハルトは私に寄り添いながら言う。
「ずっと一緒に過ごしましょうね」
カールマンでは見られない幾つもの表情をここでは見ることができる。きっと私を自分の檻に閉じ込めたことにより不安がなくなったからだろう。
私にはもう帰る場所がない。母は私が聖女になったことでカールマンに殺されていた。
誰も私を待っている人間はいない。
「何かしたいことはありますか?ピクニックにでも行きますか?そうだ、別荘を買ったんです。そこに新婚旅行にでも行きますか?」
ここに来てすぐ私とエーベルハルトは婚姻届を提出した。私たちは晴れて夫婦になったのだ。
「エーベルハルト、私は社交界に出たりとかしなくていいの?一応あなたの妻だし、伯爵夫人なら他の人たちと交流を持つのも仕事でしょう」
まさか平民の中でも底辺、スラム出身の私が伯爵夫人になれるとは思わなかった。現実的に無理だからエーベルハルトのことが好きでも諦めていた。エーベルハルトは血筋のしっかりした、利益があって役に立つ人と結婚すると思っていたし、私は愛人にしかなれない。愛人になるつもりはないからエーベルハルトと一緒になることはまずないと思っていた。
人生とは何が起こるか分からないとここ最近特に身に染みている。聖女になってからはそんな人生ばかりだけど、エーベルハルトとの時間はその中でも劇的だ。
「必要ありません」
有無を言わせない圧がエーベルハルトから放たれた。
「勘違いしないでくださいね。これは私の我儘です。あなたを私以外の人間の視界に入れたくないんです。あなたの目に映るのは私だけであって欲しい。あなたの姿を目にするのは私だけであって欲しい。綺麗に着飾ったあなたなど誰にも見せたくはありません。本当は使用人ですら邪魔なのに、そこは我慢しているんです。私が仕事中の時にあなたに不便があっては困るので。その代わり、私がいる間は控えてもらっています」
どうりで姿を見ないと思った。
「ご理解いただけましたか?」
「はい」以外の返事はできないな。
「それで、どうします?別荘の庭にはバラ園もあるんですよ。それから近くに池があるのでボート遊びもできます。リズはずっと聖女として働き続けていたのでたくさん休んで、たくさん楽しいことを経験して欲しいです」
確かに振り返ってみるとずっとはし続けているような人生だった。
周りの風景を見る余裕もなく、まともな休みもなかったな。聖女は人ではない。ましてやスラム出身の聖女なら尚更。そういう認識が当たり前だったから休暇なんて与えられなかったし、欲しいとも言えなかった。
それに休暇なしが当たり前だったからそういうものだとも思っていた。
そうか。これからは聖女として働く必要はないのか。もう私は聖女じゃない。これからは自分の時間が増えるのか。
あまり実感が湧かないな。
「楽しそうね。行ってみたい」
「では、決まりですね。たくさん、楽しみましょう」
エーベルハルトの心からの笑顔を見るととても嬉しく思う。私もエーベルハルトもたくさんあの国で苦しんだ。だからここで二人過ごすのも悪くない。再出発しよう。
「そうね。たくさん楽しんでたくさん幸せになろう、エーベルハルト」
「はい」
故郷であるカールマン王国はエーベルハルトの裏切りにより陥落。
彼はリエンブールではウィシュナー伯爵という身分を得ていた。元々はエーベルハルトと縁もゆかりもない人の身分らしい。どんな理由があるにせよ騎士が国を裏切って情報を流すのはよろしくないし、エーベルハルトの立場も悪くなるからということで用意された身分らしい。
エーベルハルトの身分はカールマンでも伯爵だったから名前が変わるだけだと何でもないことのように言っていた。
彼はあまり自分のことに頓着しない。だから時々、ふと気がついたらいなくなっていそうで怖いと思うことがある。
目を離した隙に死んでいるのではないかという不安がある。
「リズ、戦争の立役者ということで暫く休暇を貰ったんです」
嬉しそうにエーベルハルトは私に寄り添いながら言う。
「ずっと一緒に過ごしましょうね」
カールマンでは見られない幾つもの表情をここでは見ることができる。きっと私を自分の檻に閉じ込めたことにより不安がなくなったからだろう。
私にはもう帰る場所がない。母は私が聖女になったことでカールマンに殺されていた。
誰も私を待っている人間はいない。
「何かしたいことはありますか?ピクニックにでも行きますか?そうだ、別荘を買ったんです。そこに新婚旅行にでも行きますか?」
ここに来てすぐ私とエーベルハルトは婚姻届を提出した。私たちは晴れて夫婦になったのだ。
「エーベルハルト、私は社交界に出たりとかしなくていいの?一応あなたの妻だし、伯爵夫人なら他の人たちと交流を持つのも仕事でしょう」
まさか平民の中でも底辺、スラム出身の私が伯爵夫人になれるとは思わなかった。現実的に無理だからエーベルハルトのことが好きでも諦めていた。エーベルハルトは血筋のしっかりした、利益があって役に立つ人と結婚すると思っていたし、私は愛人にしかなれない。愛人になるつもりはないからエーベルハルトと一緒になることはまずないと思っていた。
人生とは何が起こるか分からないとここ最近特に身に染みている。聖女になってからはそんな人生ばかりだけど、エーベルハルトとの時間はその中でも劇的だ。
「必要ありません」
有無を言わせない圧がエーベルハルトから放たれた。
「勘違いしないでくださいね。これは私の我儘です。あなたを私以外の人間の視界に入れたくないんです。あなたの目に映るのは私だけであって欲しい。あなたの姿を目にするのは私だけであって欲しい。綺麗に着飾ったあなたなど誰にも見せたくはありません。本当は使用人ですら邪魔なのに、そこは我慢しているんです。私が仕事中の時にあなたに不便があっては困るので。その代わり、私がいる間は控えてもらっています」
どうりで姿を見ないと思った。
「ご理解いただけましたか?」
「はい」以外の返事はできないな。
「それで、どうします?別荘の庭にはバラ園もあるんですよ。それから近くに池があるのでボート遊びもできます。リズはずっと聖女として働き続けていたのでたくさん休んで、たくさん楽しいことを経験して欲しいです」
確かに振り返ってみるとずっとはし続けているような人生だった。
周りの風景を見る余裕もなく、まともな休みもなかったな。聖女は人ではない。ましてやスラム出身の聖女なら尚更。そういう認識が当たり前だったから休暇なんて与えられなかったし、欲しいとも言えなかった。
それに休暇なしが当たり前だったからそういうものだとも思っていた。
そうか。これからは聖女として働く必要はないのか。もう私は聖女じゃない。これからは自分の時間が増えるのか。
あまり実感が湧かないな。
「楽しそうね。行ってみたい」
「では、決まりですね。たくさん、楽しみましょう」
エーベルハルトの心からの笑顔を見るととても嬉しく思う。私もエーベルハルトもたくさんあの国で苦しんだ。だからここで二人過ごすのも悪くない。再出発しよう。
「そうね。たくさん楽しんでたくさん幸せになろう、エーベルハルト」
「はい」
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