世界を壊したいほど君を愛してる

音無砂月

文字の大きさ
上 下
23 / 24

22.取り扱い注意

しおりを挟む
「リズ、怪我はありませんか?」
「ええ」
「良かった。あなたに万が一がないようにしていましたが気が気ではありませんでした」
私が森に捨てられたことを知っている。森で魔物に出くわさなかったのはエーベルハルトが手を打っていたから。彼はどこまで知っていて、いつからこの計画を立てていたのだろう。
「さぁ、リズ。帰りましょう」
「どこへ?」
「私とあなたの新しい住居です。そこでは死ぬまで二人きりです。もう誰にも私たちの邪魔はさせません」
微笑むエーベルハルトからは拒否を許さない圧が感じられた。
エーベルハルトは私の手を引いて、痛みに呻く騎士の横を通り過ぎる。
倒れている中には騎士として同じ任務に就いた者や共に過ごした者もいるはずなのに彼は気にも留めない。
彼の世界には自分と私しかいないのだ。
ここまでしてしまう程に彼は狂っている。
「エーベルハルト」
「何ですか、リズ」
「あなたと一緒に行くわ。でも、その前にブルーローズを取りに行かせて欲しいの。取り上げられてしまって」
「ああ、それならこちらで既に確保しているので大丈夫ですよ」
「そう。ありがとう」
「いいえ、当然のことです。でも、あなたと何度も死線を乗り越えた物だから敬意は評しますが私は心の狭い男なのであなたが気にかけ過ぎると嫉妬してしまいそうです」
「・・・・・・無機物よ」
「関係ありません」
彼は笑っていたけど目の奥は笑っていなかった。これ以上は食い下がらない方がいいだろう。
どんな理由があったにせよ、黙って彼の前から消えたのは私。最初に裏切ったのは私なのだから。
でも、一つだけ容認してはいけないことがある。
「エーベルハルト、彼らの治療をさせて」
「なぜ?」
体が強張り、ごくりと生唾を飲む。
一歩でも間違えれば奈落の底に落とされそうな危機感が私の肌を這いずり回る。
「あなたと何の憂いもなく過ごしたいから。私は小心者だから彼らを見逃したことをずっと気にしてしまう。そんなふうにあなたと過ごしたくはない」
大丈夫。私の優先順位はエーベルハルト。それさえ間違えなければ大丈夫のはずだ。
「聖女の力を使うわけじゃない。痛い思いはしたくないから。ただ普通に治療をするだけ」
「あなたが私以外の人間に触れることは許可できません。私はとても小さい人間なので、嫉妬で彼らを殺してしまいます」
そんな爽やかな笑顔で物騒なことを言わないでほしい。
やっぱりこのお願いは聞けないのかな。
「なので医者を手配します」
「いいの?」
思わず聞き返してしまった私にエーベルハルトは苦笑した。
「あなたの全てを雁字搦めにして、飼い殺しにしたいわけじゃない」
思った以上に彼が話の通じる状態だったことにほっと胸を撫で下ろすと「ただあなたが許可してくれるのなら喜んで私以外、考えられなくなるほど雁字搦めにします」と言われてしまった。
あっ、これは対応を間違えるとヤバいやつだと冷や汗をかいたことはエーベルハルトには内緒にしておこう。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

【完結】これでよろしいかしら?

ここ
恋愛
ルイーザはただの平民だった。 大人になったら、幼馴染のライトと結婚し、畑を耕し、子どもを育てる。 そんな未来が当たり前だった。 しかし、ルイーザは普通ではなかった。 あまりの魅力に貴族の養女となり、 領主の花嫁になることに。 しかし、そこで止まらないのが、 ルイーザの運命なのだった。

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

処理中です...