20 / 31
20
しおりを挟む
「俺はオレスト国王太子、ガルム」
ガルムお兄様は会場に高々と言った。
「どういうつもりだ!友好国である我国に土足で入り込むなど、ぐがはっ」
クレバー陛下は最後まで言えなかった。全てを言い終える前にガルムお兄様の拳がクレバー陛下の顔面にめり込んだからだ。
クレバー陛下は五メートル程後ろに飛んだ。床には陛下の物と思われる歯が数本落ちている。
「きゃっあ、クレバー」
「陛下、大丈夫ですか!?」
シャルロッテは悲鳴を上げ、側近達は慌ててクレバー陛下の元へ駆けつけた。
そんな彼らを無視してガルムお兄様は私の元へ歩み寄る。
長い足が歩を進め、私達の間にあった距離があっという間に縮まる。かと、思えば腕を引かれ、私はガルムお兄様の腕の中に居た。
これが長兄の持つ安心感というものだろうか。私はガルムお兄様の暖かを感じるとこの一年、流すことのなかった涙が流れていた。
私は公の場であるにも関わらずガルムお兄様にすがり、ガルムお兄様の胸に顔を埋めて泣いた。
そんな私をガルムお兄様は優しく頭を撫でてくれた。
クレバー陛下のことは何とも思っていない。
政略結婚だから仕方がないと思って来た。そうやって己を保ち続けてきた。
でも悔しかった。どうして私がこんなに疎まれなければならないのか。そんな理不尽さが腹立たしかった。
でも、どうしていいか分からない。王妃は王の臣下。従うしかないのかと諦めていた。
レイチェル達は私が言えば助けてくれるだろう。でも、侍女である彼女達が陛下に逆らえば簡単に首が飛ぶのだ。
「よく、頑張ったな。マリア。後は任せろ」
「・・・・・はい」
ガルムお兄様は私が泣き止んだのを確認し、体をそっと放した。
不安そうに見つめる私を安心させるように笑いかけ、私をリヴィお兄様とアンネお義姉様に預けた。
「何てことをするんですか。友好国である我国に土足で踏み入った揚げ句、その国の王に暴力を振るうなど、許されることではありませんよ!」
床の上で伸びているクレバー陛下に代り、コブラがガルムお兄様に抗議をした。
だが、ガルムお兄様に睨まれ、ひっと息を飲むような悲鳴を上げ直ぐに縮こまってしまった。
「友好国?笑わせるな。貴様らは俺の妹を幽閉塔に閉じ込めた。しかも満足な食事も与えなかったそうだな。確か、俺の妹の食事は一日に一回。パンが一つとコップ一杯の水だったな」
ガルムお兄様の言葉に周囲の貴族達は顔をしかめる。それは王妃の食べるものではない。
貧富の差が激しくない国では平民の方がまともなものを食べている。
「そ、それは」
口ごもる側近達。彼らは知っていたのだ。それを命じたのがクレバー陛下かシャルロッテかは知らないけど。
「友好国など笑わせるな」
「国の為に政略結婚をしたマリアを娼婦扱いもしていたな」
あっさりとトワ様はガルムお兄様に報告した。
「ほぅ」
ガルムお兄様の眉間が更に深くなる。会場にブリザードが吹き荒れ、我関せずと見守っていた貴族達もぶるぶると体を震わせる。
「おかしな話だ。それが事実なら貴族も王族も全員、そうなるよな。そうは思わないか、ガルム」
「ああ、そうだな。俺達は平民よりも贅沢な暮らしができている。それはそれなりのことを果たしているからだ。男も女も関係ない。
好いた人と結婚がしたい?なら、今の地位を捨て平民になれ。クソが」
そう口汚く罵っても当の本人は伸びているので耳には入らない。
「それから、シスタミナ帝国は我国の属国となってもらう」
「なっ!」
「そんなことが許されるわけが」
「誰の許しがいる?神か?言っとくがそこで伸びている木偶の坊の許しなぞ必要ないぞ。なぜオレストが貴様らの言うことなんぞ聞かなならん?いかに大国と言えど、お前達は所詮新参者。大国であり、長き歴史を誇るオレストには足元にも及ばないぞ。
近隣諸国に助けを求めてもいいぞ。特別に許可してやる。そうだな。期日は三日だ。それまでに俺が用いた兵力の倍は用意してみせよ。そうすれば、離縁はさせてもらうが、手は出さん」
この状況は既に放映されているし、このパーティーには各国の王族達も来ている。
つまり、シスタミナ帝国の愚行さは彼らによって知れ渡るだろうし、何よりもこれを観ているよ民が口々に噂をして、それが商人を通して更に知れ渡るだろう。
ガルムお兄様が用意した兵力は三〇〇〇〇。これの倍を三日で用意するなんて不可能だ。
「い、いいだろう。それぐらい用意してやる」
だが、騎士団長のジョセフはあっさりと引き受けた。ガルムお兄様は「ほぅ」と面白がっていたが、近隣諸国は呆れていたり、「三日でどうやって集めるのか見ものだな」と高みの見物をしている者、「シスタミナにそれ程の兵力があるとは聞いていないが?」「平民をかき集めれば何とかいけるのではないか?まぁ、こんなものを放映されているんだ。オレストに滅ぼされる前に民の反乱で滅びそうだがな」などと話していた。
ガルムお兄様は会場に高々と言った。
「どういうつもりだ!友好国である我国に土足で入り込むなど、ぐがはっ」
クレバー陛下は最後まで言えなかった。全てを言い終える前にガルムお兄様の拳がクレバー陛下の顔面にめり込んだからだ。
クレバー陛下は五メートル程後ろに飛んだ。床には陛下の物と思われる歯が数本落ちている。
「きゃっあ、クレバー」
「陛下、大丈夫ですか!?」
シャルロッテは悲鳴を上げ、側近達は慌ててクレバー陛下の元へ駆けつけた。
そんな彼らを無視してガルムお兄様は私の元へ歩み寄る。
長い足が歩を進め、私達の間にあった距離があっという間に縮まる。かと、思えば腕を引かれ、私はガルムお兄様の腕の中に居た。
これが長兄の持つ安心感というものだろうか。私はガルムお兄様の暖かを感じるとこの一年、流すことのなかった涙が流れていた。
私は公の場であるにも関わらずガルムお兄様にすがり、ガルムお兄様の胸に顔を埋めて泣いた。
そんな私をガルムお兄様は優しく頭を撫でてくれた。
クレバー陛下のことは何とも思っていない。
政略結婚だから仕方がないと思って来た。そうやって己を保ち続けてきた。
でも悔しかった。どうして私がこんなに疎まれなければならないのか。そんな理不尽さが腹立たしかった。
でも、どうしていいか分からない。王妃は王の臣下。従うしかないのかと諦めていた。
レイチェル達は私が言えば助けてくれるだろう。でも、侍女である彼女達が陛下に逆らえば簡単に首が飛ぶのだ。
「よく、頑張ったな。マリア。後は任せろ」
「・・・・・はい」
ガルムお兄様は私が泣き止んだのを確認し、体をそっと放した。
不安そうに見つめる私を安心させるように笑いかけ、私をリヴィお兄様とアンネお義姉様に預けた。
「何てことをするんですか。友好国である我国に土足で踏み入った揚げ句、その国の王に暴力を振るうなど、許されることではありませんよ!」
床の上で伸びているクレバー陛下に代り、コブラがガルムお兄様に抗議をした。
だが、ガルムお兄様に睨まれ、ひっと息を飲むような悲鳴を上げ直ぐに縮こまってしまった。
「友好国?笑わせるな。貴様らは俺の妹を幽閉塔に閉じ込めた。しかも満足な食事も与えなかったそうだな。確か、俺の妹の食事は一日に一回。パンが一つとコップ一杯の水だったな」
ガルムお兄様の言葉に周囲の貴族達は顔をしかめる。それは王妃の食べるものではない。
貧富の差が激しくない国では平民の方がまともなものを食べている。
「そ、それは」
口ごもる側近達。彼らは知っていたのだ。それを命じたのがクレバー陛下かシャルロッテかは知らないけど。
「友好国など笑わせるな」
「国の為に政略結婚をしたマリアを娼婦扱いもしていたな」
あっさりとトワ様はガルムお兄様に報告した。
「ほぅ」
ガルムお兄様の眉間が更に深くなる。会場にブリザードが吹き荒れ、我関せずと見守っていた貴族達もぶるぶると体を震わせる。
「おかしな話だ。それが事実なら貴族も王族も全員、そうなるよな。そうは思わないか、ガルム」
「ああ、そうだな。俺達は平民よりも贅沢な暮らしができている。それはそれなりのことを果たしているからだ。男も女も関係ない。
好いた人と結婚がしたい?なら、今の地位を捨て平民になれ。クソが」
そう口汚く罵っても当の本人は伸びているので耳には入らない。
「それから、シスタミナ帝国は我国の属国となってもらう」
「なっ!」
「そんなことが許されるわけが」
「誰の許しがいる?神か?言っとくがそこで伸びている木偶の坊の許しなぞ必要ないぞ。なぜオレストが貴様らの言うことなんぞ聞かなならん?いかに大国と言えど、お前達は所詮新参者。大国であり、長き歴史を誇るオレストには足元にも及ばないぞ。
近隣諸国に助けを求めてもいいぞ。特別に許可してやる。そうだな。期日は三日だ。それまでに俺が用いた兵力の倍は用意してみせよ。そうすれば、離縁はさせてもらうが、手は出さん」
この状況は既に放映されているし、このパーティーには各国の王族達も来ている。
つまり、シスタミナ帝国の愚行さは彼らによって知れ渡るだろうし、何よりもこれを観ているよ民が口々に噂をして、それが商人を通して更に知れ渡るだろう。
ガルムお兄様が用意した兵力は三〇〇〇〇。これの倍を三日で用意するなんて不可能だ。
「い、いいだろう。それぐらい用意してやる」
だが、騎士団長のジョセフはあっさりと引き受けた。ガルムお兄様は「ほぅ」と面白がっていたが、近隣諸国は呆れていたり、「三日でどうやって集めるのか見ものだな」と高みの見物をしている者、「シスタミナにそれ程の兵力があるとは聞いていないが?」「平民をかき集めれば何とかいけるのではないか?まぁ、こんなものを放映されているんだ。オレストに滅ぼされる前に民の反乱で滅びそうだがな」などと話していた。
66
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
愛を騙るな
篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」
「………」
「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」
王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。
「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」
「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」
「い、いや、それはできぬ」
「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」
「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」
途端、王妃の嘲る笑い声が響く。
「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。
コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。
だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。
それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。
ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。
これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。
居候と婚約者が手を組んでいた!
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!
って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!
父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。
アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。
最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる